【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

電子書籍・出版の契約実務と著作権【書評】(そしてKindle Unlimited)

www.minjiho.com

 年明けに,ちょっとした課題を頂いたので,【通勤読書】で読んでいた本です。
 いえ,インターネット法研究会の有志で本を執筆したときに,「著作権法」を担当したこともあり,少し関心があったことも否めないのですが。

1 この書籍について

 紙媒体での出版の場合と異なり,電子書籍の場合,【配信事業者】という紙媒体の出版では登場しない「新たな主体」が登場します。Kindleamazonなどがこれに該当しますね。

 この【配信事業者】と出版社との【法律関係】をどのように考えるかは,可能性としてはいくつかあるのでしょう。この本では,もっとも原則と思われる【配信事業者】を【独立の契約主体】と扱う場合を想定し,その【配信事業者】が配信事業を行うためには,あらかじめ出版社は著作権者との間でどのような契約を締結しておく必要があるか,という視点から書かれています。

 出版契約については,日本書籍出版協会のモデル契約を例として解説し,また,配信契約については,日本書籍出版協会の研修会で配布されたものを例として解説がされています。前者は日本書籍協会のホームページで公開されていますが,後者は公開されているものではないようですね。

2 「Kindle Unlimited」

 読んでいて思い起こしたのが,「Kindle Unlimited」のことです。

 たしか昨年,「無制限に読むことが出来る」ということで始まった後,いくつかの書籍が読むことが出来る対象から外されたという報道を眼にしました。

 こちらの記事などでしょうか…。

toyokeizai.net

 講談社のサイトには,抗議文もありますね。

(1)出版権者に課せられる出版義務とは

 法律上,紙媒体の書籍についての「出版権者」は,著作権者等(条文上正確には「複製権等保有者」ですね。)に対して,6か月以内(この期間は契約によって変更できます。)に出版する義務継続して出版する義務を負います(著作権法81条)。

 なぜなら,出版権者は,その著作物の出版を独占する権利を持つことになるので(著作権法80条),設定を受けた出版権者が「出版をしない」となると,著作権者等が自分の著作物を発表することができず,困ってしまうからです。

 …ただ,この義務に違反した場合にも,法律上著作権者等に認められているのは,一定の手続きにより「出版権者の出版権を消滅させる」ことができるにとどまります(著作権法84条)。

 『できあがった出版物を実際に出版するかどうかについては,出版権者が判断する』と解されているようですね。上でリンクを張った日本書籍出版協会のモデル契約の8条では,出版に適さないと判断した場合に出版権者が出版契約を解除できる条項があり,この規定についてこの書籍は「確認的な規定」と説明しています。

 ただ,出版できなかったことが,例えば出版社が用意すべき出版に必要な資金を用意できなかったなど,出版社側の責任とされる場合には,著作権使用料相当額の損害賠償を認めた裁判例もあるようです平成23年10月25日東京地裁判決)。

(2)電子書籍の場合の、配信事業者の「配信義務」?

  それでは,電子出版の場合どうなのかというと,①著作権法で出版義務を負うのは【出版権者】であるため,【配信事業者】がそうした義務を負うかどうかは、出版権者と配信事業者との契約内容によることが一つ、そして、②仮にそうした条項があった場合でも、その解釈は著作権法上の出版義務を参考にされると思われますが、著作権法上出版を継続する義務は「慣行に従い継続して」出版・公衆送信行為を行う義務とされますので、電子書籍の配信の場合の【慣行】というものがどんなものなのかといったことが関係するのでしょうね。

 なお,出版権者が配信義務を負う以上,配信事業者が配信してくれないと困ってしまいますので,通常①の契約上の義務付けなどは,出版社側の意見が通れば契約に盛り込まれているのかもしれません。この書籍で例としてあげられている配信契約にも,配信を義務づけた条項があります。

 上の東洋経済の記事などを見る限り,Kindle Unlimitedのケースでどのような契約が用いられたのかは,守秘事項とされているようで,わかりません。仮に条項があったとしても、【慣行】の立証のリスクをどう判断するかという問題も、多少はあるかもしれません。

 そして、それ以上に出版社に比べ配信事業者の数は限られているのが実情であり、配信事業者との関係が悪化してしまうと、重要な販売ルートに制約を受けることになりますので,どこまで争うべきかは、非常に悩ましい問題だろうと思います。もちろん、配信事業者側も、大手出版社の協力が得られなければ、デメリットは大きいので、どこで妥協するかの問題なのかもしれませんが…。

3 まとめ

  そうした意味では,この書籍で得られる知識が,そのまま実際の現場で使えるかというと、様々な制約がある場面もあるのかもしれませんね。

 とはいえ,電子出版についてのおおまかな全体像を把握することが出来,また,配信契約についてのリスクを勘案した上で検討するためには,良い本ではないかと思います。

 もっとも,私自身が今回調べているのは,オープンアクセスにかかる問題なので,少し方向性は違ったのですが…。

 他の論稿を読む基礎的な知識・全体像を,得ることが出来たと思います。  

「虐待の疑いのある乳幼児頭部外傷についての法的考察」(平成28年度専門実務研究:予定ですが;)

 神奈川県弁護士会が毎年出している【専門実務研究】について、頒布を希望するかどうかを尋ねる問い合わせが、会員である我々弁護士に来ました。 

 専門実務研究は、神奈川県弁護士会に所属する弁護士が、研究会や委員会、個人等で研究・調査した論文などを投稿して、神奈川県弁護士会から年に1回発行されるものですが、会員である神奈川県の弁護士は、希望すれば貰うことができます。 

 私自身は毎年、1つか、場合によっては2つ書いて投稿しています。共著がほとんどどなのですが。

 

 今年、私が原稿を書いたのは,情報問題対策委員会の有志で担当した共著の「情報公開の差し止め―逆FOIAの実情―」ともう一つ,このブログのタイトルに書いた「虐待の疑いのある乳幼児頭部外傷についての法的考察」になります。

 こちらは、1人で書いたものになりますね。

 「虐待の疑いのある乳幼児頭部外傷」(Abusive Head Trauma:AHT)とは,まだ脳も、頭の骨も、首も強いわけではなく,身体に比べて頭が大きい赤ちゃんには、ゆさぶることでも脳に傷ができてしまったり、手荒く扱われた場合に頭に傷を負ってしまうことが成人よりも多いことから,「虐待の疑い」がある場合に通報等を行うために、こどもに関わるお医者さん達の間で形成されてきた呼び名です。

 代表的なものとしては,母子手帳にも書かれている「揺さぶられ症候群」(Shaken Baby Syndrome:SBS)がありますが,それ以外の頭部外傷も赤ちゃんの命に関わったり,一生続く障害の原因になってしまうことがあるようです。

 

 こうした乳幼児の頭部外傷については,神奈川県立こども医療センターの田上幸治医師から,平成28年の6月頃,「かながわこども虐待勉強会」にてお話を頂きました。

 児童相談所が介入する場合には、児童福祉法28条による措置などが問題になることもありますし、ニュースで報道されるように刑事事件となることもあり得ます。他方で、被害者の赤ちゃん自身は、自分に起きたことを言葉で訴えることが難しいため、そうした裁判での証拠・証明も、普通の事件と違うように思われました。田上医師の話を聞きながら、「自分がこうした場面に弁護士として関わるとしたらどうするだろう。」「こうした問題に取り組むお医者さんや,児童相談所の活動は,法律でどう裏付けられているのだろうか。」等と関心を持ち,調べ始めてみたものです(もう一つのブログのこの辺りと、この辺りに書いてありますね。取りかかったのはもう少し以前だったと思いますが…)。

 実は、「かながわこども虐待勉強会」は、関連する団体が持ち回りで発表することを想定されていましたので、弁護士会側からの発表にできないかと思って密かに用意していたものになります。

 時期的に間に合いませんでしたし、私自身がもう「子どもの権利に関する委員会」をやめることにしましたので、別の題材を考えてもらうほかないでしょうが…(こちらのブログで、「置き土産になってしまうか」といっていましたが、「置き土産」になってしまいました。)。

 

 このテーマについて調べ始めたころは,まだ,児童相談所に配属する弁護士を常勤・非常勤化するという話は出ておらず,いずれ自分にも児童相談所の嘱託弁護士になる機会が頂けるのではないかと思っていましたね…。だからこそ,取り組めたところもあるのでしょうね。

 もっとも,なかなか考えがまとまらず,最後は事務所に泊まり込みをしたりして、なんとか第1稿を仕上げることが出来ました。ちょっと情けないですかね…。

 

 お陰様で,私が三年間,児童虐待に関わる部会で活動してきたことについて,ささやかとはいえ,一つ形になるものを残しておくことが出来たことは,うれしく思います。

 …まあ、昨年の合同福祉勉強会で作成し発表した,児童相談所の措置を巡る行政法上の問題(一時保護と施設入所を中心に、行政訴訟対応と予防法務のために)」のほうが,時間も費用もかかりましたし,多くの弁護士や児童相談所の方が関心をお持ちになるかもしれませんが、あちらは公開したものではありませんので…。

 書き終わってみると、刑事弁護を専門にやられている方の考えや、被害者弁護士であったらどうかかわるか、また、警察や検察の立場の意見なども、伺うことができれば、また別の発見もあったかもしれないな…とも思いますね…。

 また、こちらのブログには、その後厚生労働省の研究発表を聞いて、「今後行政としてはこんなことに取り組めるといいのかな」、と思ったことを少し書いたりもしています。

 考えていってしまうと、きりがないのですけれどね…。

 

 私自身は,弁護士会の「子どもの福祉部会」の正副部会長等から(※)児童相談所の非常勤弁護士に選んで頂くことは出来ず,また,今後もまず見込みがないことが分かったことで,「子どもの権利に関する委員会」を退会させて頂くことにしましたので(参照),今後こうした「児童相談所の対応」の問題について今後関わることはありませんし、「子どもの権利に関する委員会」等からの問い合わせにも対応するつもりにもなれないでしょうね。

 それは,過去に嘱託弁護士として勤められたり、これから非常勤弁護士・嘱託弁護士として関わられる方々が担っていくべき課題だろうと思います。

  とはいえ,ひっそりとではあっても一つの形として残しておくことで,この問題に直面された方-児童相談所の職員,医師,児童相談所に関わる弁護士や,刑事弁護人,警察や検察の方々等-の何かの時に役立てば。

 そう思っています。

 

 最後に,

 この論文を仕上げるに当たっては,研修委員会の先生に何度も目を通して頂くことで,私自身が論文を見直すことが出来たことで,とても助かりました。

 こうした論文を「後進」や「関係する方々」に残していく「場」を設けて頂いた神奈川県弁護士会の研修委員会の先生方。どうも有り難うございました。

 来年も、また「知りたい」と思える問題・テーマに巡り合えるといいな、と思っています。

 

※ 今年度の【専門実務研究】の発行自体は、もう少しかかると思います。発行された専門実務研究はあちこちの関係機関にはお送りしていると伺っています。具体的にどこに送られているのかは、詳しくは知らないのですが…。

 この個所の記載について、誤解された方がいらっしゃいました。すみません。

児童相談所、あるいは自治体が私を選んでくれなかった」という話ではありません(謝られて、びっくりしてしまいました。難しいですね。)。神奈川県内の児童相談所は【公募】はしておりませんでしたので。

 (参照)としてリンクを張ったブログに書きました通り、弁護士会の「子どもの福祉部会」の正副部会長が、今回ほかの弁護士を非常勤・嘱託にすると決められたということ、また、今後の募集人数の推移の見込み、正副部会長の人事についての意思表明、私の年齢等からして、今後私を児童相談所の非常勤・嘱託に回すつもりはないようだと判断できた、ということです。

 ほとんどの自治体は、私が非常勤を希望していることすら知らなかったでしょうし、ある児童相談所では、私を非常勤にできないかと頑張っていただいた「気配」も感じました(あくまで「気配」なので、私の思い違い、自意識過剰ということもあり得るのでしょうね。)。

 正副部会長がどういったお考えで人事を決めたかについては、いろいろと風聞を耳にするところもありますが、確たる話ではない以上、基本的には、こうした場に書いたり、私の口から他の方にお話ししたりすることは、考えていませんね。

 いずれにせよ、人事を決めるのは正副部会長であると思っていますので、それに異を唱えるつもりはありません(逆に、その人事を受けてその後も委員会に所属し続けるかを決断するのは、個々の会員だと思っています。)。今回選ばれた先生方には、私としても期待している先生が多く含まれていらっしゃいますので、頑張っていただければと思っています。

※ 2018/1/5 加筆

 ありがたいことに、平成29年に、名古屋市児童相談所の常勤の弁護士を公募しており、それに応募した結果、今一度この問題に取り組む機会を与えていただけました。

 なお、このブログで挙げたこの論文については、神奈川県弁護士会でPDFで読むことができます。リンクを張っておきます。

 論文へのリンク

 個々の論文に相対URLがあるのは助かるのですが…。中の「文字」がインターネットで認識できる書体ではないようで、タイトルで検索しても検索にはなかなか引っかからないようですね。

 

 

 

公益通報って、難しいですよね…。

 この本を読み終わりました。

 田口和幸他著「公益通報者保護法と企業法務」(民事法研究会 平成18年)

 昔の本なので、民事法研究会のサイトにも載っていませんね。

 

 この本は、新しく買う本としてお勧めする本ではありません。

 公益通報者保護法が本格施行される前に書かれた本なので、法律施行後の事例・判例等は扱われていませんし、今、公益通報者保護法は改正に向けて、報告書へのパブリックコメントの募集などがされていますので、この本を買ってしまうと、ちょっともったいないです。

 

 もともとは、弁護士になった時に購入した本です。

 日弁連の情報問題対策委員会で、今年のイベントにおいて、「公益通報」と「公文書管理」を手伝わせていただくことにしたので、手元にあったこの本をとりあえず読んでみました。

 裁判所にいた時、「公益通報者保護法」という法律ができていたことは知っていたものの、この法律を根拠とした裁判がほとんどなく、そうした裁判を担当することがなかったため、身に着ける必要を感じてはいませんでした。

 しかしながら、弁護士になって、他の弁護士のホームページなどを見ていると、取扱業務として「公益通報窓口」というような記載をしている事務所があり、「企業からお金をもらうのに、公益通報の窓口をして、うまくできるものなのかな…?」と疑問を感じて、購入した本です。弁護士である以上、相談者から制度について聞かれることもあるかもしれないとも思っていたので…。 

 読んでみた感じでは、やはり公益通報制度の持つ「難しさ」が立ちはだかってくる気がしますね…。

 もともと、企業の不祥事等は、「その企業にとってはなにがしかの必要性がある」からこそ行われることが多いのだろうと思います。

 そのため、そうした不祥事を対外的に明らかにすることは、その企業の他の従業員等の生活を脅かす危険がありますので、不況等で身分が不安定な世の中になればなるほど、上司も同僚も「保身を優先したい」、という気持ちが働いてしまうように思われます。

 そうすると、いかに法律があったとしても、組織の中で孤立してしまったり、他の組織からも敬遠されてしまう可能性は否定できないのですよね…。

 「法律は人を変えることまではできない」

ところがありますので…。

 相談に来られた方に、なかなか勧め難いところがある制度です。

 

 他方で、こうした制度が「なくていい」とも言い難いことが、難しいところですね…。

  消費者目線に立った場合にはもちろんですが、結局、こうした制度がうまく機能しないことが、ある意味「バイトテロ」と呼ばれるような匿名での書き込みに繋がっている側面もある気もしますので、企業側としても、本当はきちんとできればそれに越したことはないのだろうと思います。

 公益通報関係では、もう一冊、東京弁護士会の公益通報者保護特別委員会編の「事業者の内部通報トラブル」(法律情報出版)も買ってはあるのですが、ちょっとそちらまで読む時間がありませんでした。

 とりあえず、宇賀克也著「情報公開と公文書管理」(有斐閣)に移らないと…。「通勤読書」で読むには少し難しめの本(多分)ですが、「公文書管理」関係では、逐条解説以外に持っているのは、この本だけですので…。

 

 正月は、結局、相談があった事件について建築系の書籍を3冊と複数の論稿を読んだほかは、目を通すことが出来たのはこの書籍ぐらいで終わってしまいました。

 子どもの権利に関する委員会を辞めたことに伴い、事務所にあった関連書籍や資料を整理したり、持ち帰ったりしたことにも時間を取られてしまいましたね…。

 もう少し、いろいろと読めると思っていたのですが…。

 情けない限りです。

 

※ 公益通報については、昨年12月21日に日弁連で行われたシンポジウム「公益通報(内部告発)を社会に活かすために~公益通報者保護法改正に向けて~」も聞いてきたのですが、なかなか、「どうすればいいのか」が難しいですね…。

 今年、自分の委員会関係のシンポジウムに関与する中で、もう少し勉強できたらとは思っているのですが…。

「子どもの権利に関する委員会」

 先日は,「子どもの福祉部会」の上位組織である,「子どもの権利に関する委員会」に出席して,部会退会の希望などを伝えてきたのですが…。

 これまで,「子どもの権利に関する委員会」を続けるかどうかは,ゆっくり考えてもいいと思っていたのですが,出てみた感じでは,こちらも避けておいた方がいい気がします。

 マイナスの感情を持たないようにしようとしてしまうんでしょう。委員会での話を聞くことを避けようとしてしまうようです。もちろん,意識すれば話を頭に入れることが出来ますし,そうしたものに影響されずに判断を下し意見を言うことも出来ますが,やめておいた方がいい気はしますね。

 まあ,考えてみれば当たり前かもしれません。

 もう1つのブログに書いたとおり,本気でやってみたかったことではあったので,如何に感情の整理を済ませたとはいえ,それが叶わなかったことへの感情を無くしてしまえるというわけではないのでしょう。

 委員会の所属を変えられるかどうかはわかりませんが,もし可能であれば,変えておいた方がいいかな,と思います。

 もちろん,少年事件等を全くやらなくなるわけではないでしょうが…。

 

 う~ん。重要判例も重要法案もたくさん出ているのに,そうしたことを書けずに,ブログにこんな私事を書いている当たり。

 情けないな…と思います。

 中身のあるブログは,年末に期待ですかね…。

※ 前々から、自分が児童相談所に関わる機会を失うであろうことも、「子どもの福祉部会」を辞めることも、【決断】したうえで、「自分よりこの若手3人を優先してほしい」などの意見を出していましたし、部会でも本委員会でも、そうした「組織人としての意見」を優先でき、後に感情が乱れることも特になかったので、感情は統制できていると思っていたのですが…。

 いざ、「子どもの福祉部会を辞める」ということを表明した後、委員会に出てみたところ、【会話が衝立の向こうでされているような感じ】でほとんど頭に入ってこず(意識して聞こうとすれば、内容をとらえられるのですが)、「部会を辞めるだけで、これまであれだけ関心があり、自然に頭が回っていた会話に、これほどついていけなくなるのか…」と、自分でもびっくりしてしまったところがあります。

 考えてみれば、【本気でやりたかったこと】であるのは間違いないので、その機会を失ったことについての感情が、「整理済み」であったとしても、「全く無くなった」わけではないのでしょう。

 仕事のように、「やる理由」があるものであれば、そうした感情も統制していくことに問題はないでしょうが、無償・任意であり、現時点で「やること」(=所属部会)がない委員会でこの状態を続けることは、自分の判断や活動、感情にゆがみを出す可能性もあり、かえって周囲に迷惑をかける可能性もあると判断しました。

 子どもの権利に関する委員会には、私自身、尊敬する先生も多いので、躊躇する気持ちもあります。それが「委員会を辞めるかどうかはゆっくり考えよう」と思っていた理由なのですが…。自分の心の動きはわからないものです…。

 とはいえ、若手にこうした思いをさせてしまうよりは良かったと思っています。

 この3年間、子どもの権利に関する委員会で見聞きできたこと、その関心が、私を支えてくれたこともありました。ありがとうございました。

 先に、戦線を離れてしまうようで、申し訳ありません(いえ、少年事件等は、普通にやれる、と思うので、特にそうした事件をやらなくなるわけではないのですが…)。

児童虐待対策分野から、離れることについて。

 これまで、このブログでも「子どもの権利」関係の活動や書評を書いたこともありましたが、本日、神奈川県弁護士会で、児童相談所の来年度以降の嘱託・非常勤が一応決まったことを持って、私自身は、来年4月からは児童虐待対策を取り扱う、「子どもの福祉部会」を退会させていただこうと思っている旨、申し上げてきました。

 実は、以前からこちらのブログで自分が今後どうするのかを考え、その【進退】について書きつづってきたところでもあり、あらかじめ、幾人かの先生には説明はしていたのですが。

www.freeml.com

 理由としては、私自身、これまで「児童相談所の非常勤や嘱託」になったことがなく「児童相談所の現場」を知らない上に、今後、私が「非常勤や嘱託」という「児童相談所の現場」を知ることが出来るポジションにつくことは、期的にも、年齢的にも、きわめて難しいと判断したためです。

  現場を知っている先生と、現場を知らないままに議論したのでは、ついて行けないところはどうしてもたくさん出てきてしまいます。かといって、「知らない」ままにその組織(部会)にいることは、存在意義が感じられず苦しいものです。

 現場を知っている人達の中で、「現場を知らない」ままでいることは、正直苦しいのですよね…。

 

 そうしたことについては、弁護士会の委員会側に非があるわけではないと思っています。

 「突然ぽっと出」で弁護士会、そして子どもの権利委員会(福祉部会)に入ってきてしまった私がイレギュラーなわけで、部会としては【新人を育てなければならない】、【経験者を重視しなければならない】という都合がおありのことは、労働問題を本来取り扱っている私の立場では、よくわかってはいますので。

 おそらく、私が部会長や正副の立場であっても、今回の人選については同じ判断をしただろうとは思っています。

  

 もし、私が「児童相談所に関わるのではないか」…そう期待して付き合ってくださっていた隣接職種の方がいらっしゃいましたら、申し訳ないな、と思い、このブログにも書き留めておくこととしました。

 

 残念ですが、こうしたものには「巡り合わせ」「縁」もあるかと思いますので、仕方がないのでしょうね…。

※ 今、上にリンクを貼ったもう一つのブログを見返すと、3か月前から、こうしたことになることを想定し、進退を決断してきたことになりますので、いまさら驚くところはありませんね…。

 やりたかったことではあるので、非常に心残りですが、こればかりは仕方がないことのように思われますので…。

※ 少し,想定していなかった事態が生じるかもしれないようです。

 個々の会員が「部会を辞めるかどうか」で左右されては人事は進みませんので,一応人事が決まるまで部会の皆さんに正式に告げることは控えていたのですが,告げた後に弁護士・弁護士会側の事情以外で変化が起こる可能性までは想定していませんでした。

 とはいえ,結果として変更等が起こらない可能性もあると思っています。

 いずれにせよ,「機会があれば全力を尽くすし,機会が今後もないと思われれば新たな分野を目指す」という,私自身の決めた進退に従うことにはなるでしょうが,すこし,結論が出る時間が後になってしまったのかもしれませんね。 

※ 12/14 やはり,特に変更はないようです。

 本日,「子どもの福祉部会」を本当に辞めるかどうかの確認があり,来年4月で辞めさせて頂く旨回答しました。また,横須賀の児童福祉審議会については,継続であろうと,後任者に変更する形であろうと,お任せする旨申し上げてあります。

 これまで関わりがあった隣接職種については,おつきあい頂けるものについてはかわらず参加させて頂きたく思いますし,難があるようであれば遠慮させて頂く所存です。

定年後再雇用と労働契約法20条(控訴審)

 以前、幾度かブログで触れていた定年後再雇用と労働契約法20条の問題で、

yokohamabalance.hatenablog.com

 控訴審が出たようですね…。

東京新聞:定年後賃下げに「合理性」 労働者側が逆転敗訴 東京高裁:社会(TOKYO Web)

 これまでの記事で原審に疑問に感じたことなどを記載してきたので、流れとしてはありうるかもしれないと思っていましたが、他方で、一つの判決が出るとそれによって【行き過ぎ】の対応をされる会社もありますので、そこはやはり心配ですね…。

 当該ケースの結論がどうであれ、異なるケース、あまりひどいケースには、裁判所も対応せざるを得ないと思いますので…。

 詳しい内容は判決文を見ないとわかりませんが、上記の記事でも、「原告の賃金の減額幅は他社の平均を下回り、会社の赤字なども考慮すると、賃下げは違法ではない」という言い方もされていますので、このケースは違法ではないとしても、他のケースでどうかは違法とする余地を残した判決でしょう。

 企業側の対応としては、慎重な配慮は必要でしょうし、業務にしても定年前と何らかの変化をつけるかどうかも含め、検討せざるを得ない状況は残るのだろうと思います。

Q&A家事事件と保険実務【書評】

【通勤読書】で,この本を読み終わりました。

www.kajo.co.jp

 この本は,家事事件の各場面(成年後見,高齢者,相続,遺言,未成年等)で,保険契約について生じる問題について書かれた本です。

 弁護士業務において,必須の知識かというと,そこまでではないかもしれません。

 しかし,①家事事件という法律家にとって関心のある分野において知識を増や素事につながるとともに,②保険における【法律】【約款】等の具体的な適用の片鱗を理解する意味で,悪くない本だと思います。

 役人時代,保険法は,あまり勉強の必要を感じず,また,勉強が少々難しい分野でした。
 裁判官として接することの多い保険は,「責任保険」としての交通事故における任意保険であったため,結局は「損害賠償請求権の有無」の問題となり,保険法独自の問題に直面することはあまりありませんでした。しいていえば,【生命保険における高度障害の問題】や,【人身賠償保険の問題】,【保険代位と弁済代位の違い】などを,裁判の判決を書く上で必要が生じたときに,調べる程度のものでした。
 そして,保険法について横断的に書かれている書籍(山下友信「保険法」)はあったのですが,この本は保険法ができる前に書かれた本であり,保険法ができる前の商法で定められた保険の種類と比べて,現実に流通している保険の種類はより多様で,問題となっている保険がどの条文の問題になるのかも探しにくく,また,保険には大抵非常に多い【約款】があるものの,かならずしも約款が各社同一とは限らないなど,横断的な保険法の書籍のどこに問題の解決の糸口があるのかを探すことが,なかなか難しいと感じていました。

 そうした事情もあって,当時は,「法律」に準拠した横断的な書籍よりも,現実に流通している保険毎に項目を分けて書かれた書籍新裁判実務体系19「保険関係訴訟法」や,専門訴訟講座3「保険関係訴訟」-などを購入し,必要に応じて該当箇所を参照していました。

 しかし,今回読んだこの本は,家事事件という法律家が関心を持たざるを得ない分野について,保険法の条文,判例を挙げて説明が加えられており,興味をかき立てられて読み進むうちに,各種の保険の特徴や,保険の【法律】と【約款】が,【どんな場面】で【どんな働きをしているのか】についても,片鱗に触れることができます。
 横断的な書籍としても,保険法解説 | 有斐閣といった保険法に対応した書籍も出ているようですし,今なら通読しても,楽しみながら読み進むこともできる気がしますね(すでに買ってある他の本を先に読まなければならないので,読むわけではありませんが…。)。

 また,このブログでも参考文献としてあげたQ&A家事事件と銀行実務と2冊読むと,思っている以上に,【銀行】と【保険】で考えなければならないこと,気をつけなければならないことが違うことが分かり,それも面白いと思います。