【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

「学び」で組織は成長する【書評】

もはや、本当に通勤の間くらいしか読書には使えなくなっていますが…。

 先日、この本を読み終わりました。

「学び」で組織は成長する 吉田新一郎 | 光文社新書 | 光文社

 いささか前の本ですが、面白かったですね。

 「一人でできる学び」「二人でできる学び」「チームでできる学び」「組織レベルの学び」の4つについて、それぞれ5~6種類の「学び方」が紹介されている本です。

 それぞれの学び方についての記述は薄いのですが、具体的なイメージは持てますので、比較的簡単な学び方であればこの本を読んだだけでもできるでしょうし、複数の学び方を比較できる点が、とてもいいと思います。

 他方、「組織レベルの学び」については、さすがに新書サイズのこの本の数ページでは書けなかったのだろうと思いますが、具体的な方法論等についてはこの本だけで分かるのは難しいと思います(他書が紹介されています。)新書版である以上、これは仕方がないと思います。

 しかし、この本を読んで一貫してよくわかったのは、【学び】には、【前の準備】と【後の振り返り】が非常に重要なものであり、時間というコストはかかるものだと覚悟を決める必要がある、ということでしょうか…。

 できる方法は、今後自分でも試みてみたいと思います。

 

 この本を読んでみると、先日ブログに書いた「3つの家」のアプローチは、親と子が、それぞれ「お互い」を学んでいく過程を、ソーシャルワーカーファシリテーター)が「学びのリーダー」(この本では、「リーダーは教えるなかれ」と書かれています。209頁)として取り持っていくようなものにも、思えますね。

「三つの家」を活用した子ども虐待のアセスメントとプランニング【書評】

 先週のことになりますが,この本を読み終わりました。

www.kinokuniya.co.jp

 この本は,外国(ニュージーランドとオーストラリア)と日本の,子ども虐待問題に関わるソーシャル・ワーカーの先生方が書かれたもので,親子の間に何らかの「溝」があるものの,それを親や子自身でも認識できなかったり,あるいは相手に上手く伝えられない場合に,ソーシャルワーカーが介在して親子間のコミュニケーションを図る方法を紹介したものです。
 非常に気づきのある面白い本ですが,二点注意がいるかな,と感じたところもあります。
 1つは,はしがきに「ここまでするのかと思うようなしつこさで」と書かれているように,子どもや親,そしてその周囲の人とのコミュニケーションの進め方について,その流れに沿って細かく説明されており,重複する説明部分が複数回出てきます。
 そのため,読み進めることに根気はいりますし,おそらく,親子のコミュニケーションの仲立ちするような作業を実際に行ったことがある読み手でないと,なぜこれほど同じことが重複して書かれているのかがわからず,筆者の意図が伝わらないかもしれない,と思います(その意味では読み手を選ぶでしょうか…)。
 もう1つは,この本で挙げられている「会話例」のなかには,日本の児童相談所が関与する具体的場面によっては,会話例通りのことを発言してしまうことが必ずしも適切とはいえない場面もあるように感じることでしょうか。

 この本は,一つ一つのポイントや言い回しを暗記するのではなく,「なぜそういったコミュニケーションの取り方をしたほうがよいのか」の理由・根拠を理解し,具体的な場面に応じて適切なコミュニケーションを使い分けることで,初めて「活きる」本に思われます。

 とはいえ,以前にも書いたとおり,親子支援の方法については私自身知りたかったことなので,その一端を記したこうした書籍に会えたことはうれしく思いました。

 こうした仕事に関わられる方であれば,おすすめです。

<追伸・近況>

 さて,まだサインズ・オブ・セーフティの本なども2冊ほど購入済みなのですが,このことろはさすがに余裕が無くなってきました。
 ここ何日間は,弁護士会の登録換の手続きや,名古屋での生活拠点を探すために,名古屋にも何度か行ってきました。
 事務所の整理もまだですし,今後研修なども有りますし,申し訳ないながら,弁護士会の委員会などについては,今後は出席を見合わせざるを得ないことが多いかと思います。
 申し訳ありません。

終わりということ(愚痴でしょうか?)

疲れました。

 名古屋に移るにあたって、いろいろと終わらせなければならないことも、今後は手伝えなくなることなどもあるのですが…。

  疲れますね。

 いつも、何らかの組織から離れるときは、できれば「よい関係」で離れたいと思っているのですが、なかなかそうはいかないものです。

 もちろん、「能ある鷹は爪を隠す」で、組織の中で手を抜いて活動をしていればそういうこともないのでしょうが、【そんな活動をするくらいなら組織に所属する意味がない】と思ってしまうので、割といつも全力です…。

 ただ、時には、自分の考えと違う書面を書く「期待」がかかることもあり、そうした作業はさすがにストレスが溜まります。

 好んで期待に反したいわけではないものの、法律家としての自分は変えられるわけでもありませんので…。

 とはいっても、周囲の期待に真っ向から対立する書面を書くとなると、プレッシャーもさることながら、そうしたプレッシャーに耐えうるものでなければ返せないので、どうしても作業量もかさむのですよね…。

「地方自治法概説」【書評】

1 あけまして

 あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 この間,他職種との泊まり込みでの勉強会に出たり,事務所の整理,事件の整理,行政委員や弁護士会委員の最後のお返し等を行っていて,なかなか読み進みませんでしたが…。
 やっと,この本を読み終わりました。本当は先週の金曜日までに読み終わりたかったのですが…。

www.yuhikaku.co.jp

 児童相談所の仕事に従事するからと言って,地方自治法の知識が必要になるわけではありません。ただ,この法律は,いわば地方自治体」の「外枠」を決めている法律ですので,自治体の政策を理解したり,自治体にできることの限界を知るためには,必要になると思っています。
 児童福祉の分野でも,補助金の話や指定管理者の話,広域連携の話などは,地方自治法にかかわっていますし,自治体の財務などもその枠組みは地方自治法に規定があります。
 自治体の行政委員を複数勤めていると,自治体の権限,働きを正確に理解しないと,判断が難しいものもあります。また,弁護士会の委員をしていても,そうしたことに造詣の深い先生の話を伺うと,自分の力がそこまでに至っていないことに少し恥ずかしさを感じたこともあります(通常の裁判では、あまり使う法律ではありませんので…)。
 行政委員の職を行うに当たり,必要な知識はその都度学んできたつもりですし、九州にいるときには九州行政判例研究会にも出席していたのですが,やはり,体系的な本を1冊読んでおきたいと思い(そして,今後はどうしても児童福祉分野の本が中心になるだろうとも思い),この機会に読んでおきました。

2 この本の特徴

 「第7版はしがき」を見ると,この本は,「2017年2月」時点での情報で書かれていますので,平成29年5月11日に成立した改正法についての記載は含まれていません。
 ただ,この改正については,まだ今後細かなところが決まっていくこともあるでしょうし,現時点では内容が固まっていない所もあると思いますので,最新版が出るのを待って読む機会を失うよりは,この版を読んで,改正法については必要があれば補えば良いかと思っています(「新版逐条解説地方自治法」は,最新の改正にも対応していたのですが,さすがに,そこまで地方自治法を参照することはない気がしますので…)。
 この本の特色としては,①文中に実際にあった過去の実例が豊富に引かれており,その実例も判例の引用にとどまらず,むしろ事案の経緯が詳しく書かれ,なぜ問題が生じたのかが理解しやすいということと,②特に「第9章 普通地方公共団体に対する国または都道府県の関与等」という,地方自治体への介入や紛争処理について,行政手続法,行政不服審査法と比較した記載がされていてわかりやすいこと、そして③改正前の経緯等も小さめの文字で書いてあるため、自然に現行法の趣旨を理解できることなどが,個人的には印象に残っています。

 通常の文字で現行法の解説が書かれ、小さな文字で改正経緯や実際の紛争例など主に「参考」のための記載が書かれていると思えますので、メリハリをつけて読むこともできます。

 逆に、小さな文字で書かれている箇所もそれなりにありますので、気になる方は本屋で手に取って確認をされてもよいかもしれません。
 本当は,この本を読んだ後に,「地方自治判例百選」等の事例に即した書籍を読むと,「縦」と「横」から問題を俯瞰することができて理解が深まると思いますが(そして買ってはあるのですが…),さすがに他にやらなければならないこともありますので,ちょっと地方自治法は一休みしようと思います(多分,読む前に,新しい版が出てしまいそうな気がしますね…)。

3 ぼやき?

 …予定(脳内妄想ともいうでしょうか…)では、この本の後、金曜日までに,『「三つの家」を活用した子ども虐待のアセスメントとプランニング』を読む予定でしたが,さすがに難しいでしょうね…(土日はまた泊まり込みで勉強会のようなものに行きますので…。今日の通勤読書で、20~30頁ほどは読みましたが、どこまで読めるでしょうね…)。また,関東弁護士連合会の関係での「電子公文書」のアンケートとレジュメ作りを先にしないといけないでしょうし…。
 以前の勉強会で話題になった「面会交流」についても,こうした事情から文献を集めての自分なりの勉強ができていません…。

 いろいろと、やりたいと思っていたことを、いざやってみると,思ったより時間がないものですね…。
 とはいえ,仕事以外のことについては,焦ってその場での答えを出すより時間をかけて納得のいく答えを考えたい,という立場ですので,面会交流については,また時間ができたときに調べて見ようと思っています。

 こうした法分野の体系書を通読することは、社会システムへの新しい理解をもたらしてくれますので、しんどいところもあるのですが、それでも楽しいですね。

※ 書籍へのリンクを張る場合には,極力出版社のホームページにリンクが張るようにしているのですが,今日,明石書店のホームページが何故か開けませんでしたので,紀伊国屋書店のホームページにリンクをしています。

名古屋市の児童相談所に(ご報告)

 平成30年4月1日から、名古屋市児童相談所に勤めることになりました。

名古屋市:名古屋市任期付職員(弁護士)公募の選考合格者について(市政情報)

 名古屋市が弁護士の公募を行ってくださっていたため、それに応募させていただいたものです。

 

 子どもに関わる問題は、おそらく「正解」というもののない世界での仕事になるのだろうと思っています。 

 「子ども」に関する政策といっても、我々大人が支払う税金の範囲内でのことしかできないところはあります。優秀な多くの方が努力をされても、なかなか良い方向への歩みが難しい分野でもあり、安易な解決策というものが存在しにくい分野だとも思っています。

 ですので、自分もまた、その中に入ってどうすればよいのかを考え続けてみたい、と願っていました。

 

 人事尽くして天命を待つ

 

 天命が降りる=人としての一生を終える前にこうした、【やりたいことに直接関われる機会】がいただけたということは、生涯においてまだ私にも「やるべき人事」か、あるいは「やることのできる人事」があるということとも思いますので、

 素直にうれしく思います。

 

 もちろん、私が行うことは、まずは法律面でのサポートが中心と思われますので、自分に何ができるのか、どのようなことに手を付けられるのか、それはわかりませんが…。

 

 一所懸命

 

 そこにいる人たち、そこにいる子どもたちと一緒に、考え、探すところから始めたいと思っています。

 「学びたい」「悩みたい」「自分なりの正解を考えたい」。

 それが私の原動力である以上、それを止めることまではできませんから…。

※ 1/9追記

 横浜の事務所は、閉めたうえで名古屋に行くことになります。

 横浜で繋がることのできた方々、私を頼ってくださった方々、期待してくださった方々、指導してくださった方々には、申し訳なく思うところもあります。すみません(ただ、私に場を与えてくれた、「縁」があったのが名古屋市であったため、やむを得ないと思っています。)。

 なお、「人事尽くして天命を待つ」ということわざの本来の意味は違います。

 ただ、天命を寿命と置き換えた上、逆に考えると、「いまだ天から与えられた寿命が尽きていない以上、私にはまだやること(できること、やるべきこと)がある」という考え方ができますので、私自身はそうした考え方をしています。その方が心に沿うものですから(勝手な私見です。)。

病院内こども虐待対応組織 構築・機能評価・連携ガイド・運営マニュアル【書(?)評】

 これも少し前に読み終わったものですが,少しだけ書いておこうかと思います。
 巻末の記載によると,厚生労働科学研究費による報告書を,再編成した物のようですね。
 多分,ワークショップシンポジウム「防げる死から子どもを守るために」に参加したときに,「ご希望の方はどうぞ」,と言われて,もらってきたのだろうと思うのですが…。
 「ただの弁護士」が貰ってしまうとは思われていなかったと思うので(おそらくは,お医者様や自治体関係者向けだったのだと思います。),申し訳なかったかもしれません。でも,とても勉強になりました。

 内容は公表されているものです。上記の研究の報告書そのものも公表されていますし,このダイジェスト版も,前半は,「医療機関ならびに行政機関のための病院内子ども虐待対応組織構築・機能評価・連携ガイド」として厚生労働省で,
後半は,「子ども虐待対応院内組織運営マニュアル」として日本子ども虐待防止医学会で,
それぞれ公表されています。

 前半は,医療圏・ネットワークも念頭に置いたCPT構築についての記載があったほか,各病院が行っている実践例についての「TIPS」のなかに,単なる理屈にとどまらない,いろいろな悩みや,工夫があり,非常に勉強になりました。
 また,後半については,【子ども虐待対応の手引き】と比べても,簡潔にポイントがまとまっていて,医療現場での使いやすさを考えると,こちらの方がわかりやすいかもしれないと思いました。
 今ひとつ医学的な知識について,インターネットだけでは補足できない箇所もあったので,またいつか医学文献を調べに行ってみたい気もしますね。

 こうしたことを勉強する必要があるのか?,といわれると困ってしまいますが,私自身いろいろな社会のしくみ・成り立ちを「知りたい」から法律家を志した所もありますし。
 また,実際に交渉やファシリテーションなどにおいても,「相手の事情を知る」ことが物事を円滑に進めることになることもあります。
 それに,事情を知っていた方が,判決などを書く場合にも,裁判で主張を行う場合にも,説得力がありますので…。

 しかしなあ…入手した文献は読まないと積まれるままで場所を取ってしまうし読んでしまうと理解・活用するために読むべきさらなる文献が出てくるあたりが…。なかなか際限がないですね…;。

ソーシャルワーカーのジレンマ【書評】

 ソーシャルワーカーについては,以前「社会とのつながりが弱くなってしまった人を、うまく社会と結びつける仕事をされている」のではないか,と書いてみたことがありますが,具体的にどういった場面でどういった仕事をしているのかは,なかなかイメージしがたいところがありました。

 他方で,ソーシャルワーカーの行うような,「社会とのつながりが弱くなってしまった人を、うまく社会と結びつける」ことは,他の専門職や,一般の方でも,「社会の一員」である以上,そうした場面に直面することがあります。そのため,その方法論等を学んでみたいとは思っていました。
 そして,先日読み終わったのがこの本です。

www.kinokuniya.co.jp

 どうやら,発行元は昨年に倒産してしまったようなのですが,さて,どこで買ったのか…。今年に入ってから,共生社会を作る愛の基金のシンポジウムを聴きに行ったとき,出張販売で買ったのかもしれません。
 ソーシャルワーカー「社会とのつながりが弱くなってしまった人を、うまく社会と結びつける」仕事をしているのではないか…といいましたが,この場合の「社会」というのは,社会で実際に活動・生活している「人」や「組織」のことになります。
 「気付いていなかった・知らなかった人」と「気付いていなかった・知らなかった人・組織」を結びつける,という【だけ】であれば,それほど苦労があるわけではないのかもしれません。
 しかし,それぞれの「人」や「組織」も,それぞれ,自分の生活や自社の事業活動等があって,初めて存在できているものですので,「本人」の考える方向とこうした「人」「組織」の考える方向が異なってくることもあります。本人と親族の考えが違ったり,国や自治体,施設の制約が違ったり…。
 そればかりか,「本人」についても,それまで「人」「組織」とつながっていなかった背景に,単に知らなかっただけではなく,「つながらない理由」があることもあります。
 本人がつながらないことを望むならそれでいい,という考え方もありますが,それが本人の真意なのか,また,ソーシャルワーカーは自治体等に関わる活動をしている場面もあるため,そう単純に割り切ってよいかという場面もあるようです。
 そうした場合に,ソーシャルワーカーは「ジレンマ」に直面してしまう。完全な「解法」があるわけではないが,それにどう向き合っていったらいいのか…。
 そんなことを書いた本です。

 この本は,実際ソーシャルワーカーとして各分野で活動している方々が,自分の言葉で経験談として,直面したジレンマとそれに対するご自身の考えを語られた上で,最後に「ソーシャルワーカーのジレンマ再考」として「まとめ」が書かれているところが特徴でしょうか。
 経験談だけで終わってしまっていれば,「ああ,いい話を聞いた」だけで終わってしまうところもあったかもしれません。読んでいるときは「いわれてみれば当たり前」と思って,頭に残らないこともありえます。
 他方で,「まとめ」-理論だけを示されても,具体的な想像ができず,現実に「ジレンマの対応法」などを活用することはなかなか難しいこともありえます。
 「まとめ」である「ソーシャルワーカーのジレンマ再考」で,ジレンマに対する最初の対応として書かれている,「ジレンマのあることを知る」こと自体,こうした具体的な体験談がなければ,悩んでジレンマの中に埋没してしまい,気がつかなくなることもあると思いますので…。
 バランスのとれた,いい本です。ソーシャルワーカーについて知りたいという方には,いいかもしれません。また何か「ジレンマ」に遭遇したな,ともったときに読み返すと,いいことが書いてありそうな気がします。
 弁護士でも,例えば,子どもに関する事件で子ども本人と家族の「想い」が同じ方向を向いていないことはありますし,成年後見の一類型である「保佐」「補助」でもそうした問題に出会うことはありますから…。
 とはいえ,資格の取得に役立ったりするものではないのでしょうし(多分),読み手はソーシャルワークに関心がある人に限られることにはなってしまうのだろうと思いますが…。

 もし関心がおありであれば,出張販売等で見かけたときに,少し中を見てみてもよいかもしれません。