【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

人事労務「監視・指紋認証」

・・・・奈良市が,一部職員の出退勤に静脈認証システムの導入を検討している・・・・

そんな趣旨の記事が,MSNの産経ニュースWESTに掲載されていました。(記事へのリンク

難しい問題ですね。

労働法の分野で正面から争えるかは,疑問が残ります。争えるとすれば,どちらかといえば行政法の分野なのでしょう。

労働法の分野では,「会社が社員を監視するような行動は適法か」という問題は,過去にいくつか裁判であらそわれています。

例えば,社員が私用で会社の社用メールを利用しているのではないかという事件や,あるいは会社のパソコンでどんなサイトを閲覧しているかを監視する事件など。

今現在所属いている横浜弁護士会のインターネット法研究会で作成中の本でも,そういった話題を一つ検討しています。

とはいえ,基本的には働く公務員がきちんと出頭していれば静脈認証は行うことが出来るので,労働法の分野ではそこが弱みにはなります。公務員側の侵害の程度が大きすぎないかは,おろらく検討の対象になるでしょう。ただ,最近の地方自治体で職員の不祥事があり,そのことが公務員以外の,利用者の方々の行政に対する信頼を損ねている部分もあるために,難しい問題です。

ここは,裁判になってから双方の主張や証拠を見てみない限り,ハッキリとは分からないところかもしれませんね。ただ,労働者側から提起された裁判のなかで「不要」と裁判官が書くには,「こんな方法でも十分市民の信頼は失わないじゃないか」ということを説明できなければならず,それが可能かどうかが焦点のように思われます。

他方で,当の市民から行政訴訟が起こされた場合はまた,異なった判断になる可能性もあるのでしょうが,これはどうなるか直ぐには思いつきませんね。

こうした社員の監視,特に高額な費用が掛かる静脈や指紋の認証は,一般の私企業においては,機密情報に触れる可能性のある社員に対して行われてきた部分もありますが,行政の場合だと,一般の私企業と比べCSRが別の形で問題となるので,難しいですね。行政訴訟という特有の問題があることも見逃せません。

これからの推移を見ていきたい問題だと思います。