先に書いてから数日して、いろいろと考え直したところもあったので、それも書いておこうと思います。
結局、裁判は、「ある利益とある利益とのぶつかり合い」の側面を持つことが多いので、
この問題も、
労働法マターでは「静脈を記録される従業員のプライバシー」と、「制度導入の必要性」の対立・衡量であり、、
行政法マターでは「公金を投入されてしまう市民の利益」と、「制度導入の必要性」の対立・衡量になると思います。
いずれにおいても、奈良市側が注意しなければならないのは、「制度導入の必要性」で、これが十分でなければ、いざ裁判等になった場合に、行政側の主張が認められないこともありうるように思われます。
必要性としては、
①「市民の信頼を損ねる等、CSRの観点」と、
②「従業員が実際は労働していないことによる経済的不利益」の二つが考えられますが、
そのどちらの場合であっても、かかわってくるのは、記事を見る限り制度導入が「環境部の職員」に限られる点だろうと思います。
ほかの職員についてはそうした制度導入の必要はなく、「環境部の職員」のみそうした制度を導入することの必要性は、やはり問題になるように思われますね。
会社が従業員の管理を考える場合は、これまで
①時間外労働を避けるためのもの(タイムカードや、業務日報、コンピューターへの始業終業時刻の打ち込み等)
と、
②営業秘密を守るためのもの(指紋や光彩、静脈認証等)
が多かったのですが、奈良市のケースはまた新しい問題となりそうです。
ただ、類似の裁判例としては、会社のメールアドレスを用いて、社員がセクハラ行為等について家族に相談等の私的なメールをおこなっていたところ、その内容を上司が監視したことについて、私的メール使用の程度が限度を超えること等から、「社会通念上相当な範囲を逸脱したとは言えない」として、請求を認めなかったF社Z事業部事件(東京地裁平成13年12月3日)や、他の従業員に宛てて送られた誹謗中傷メールが、送信されたパソコンを管理していた従業員について、そのパソコンのメールフィルタ等を調べた行為が「社会的に許容しうる限界を超えて原告の精神的自由を侵害した違法は行為とは言えない」とされた日経クイック情報事件(東京地裁平成14年2月26日判決)などがあります。
また、最近の判例ですが、会社が社員の携帯電話をナビ機能に接続させて、時間を問わず居場所を確認したことについて、「炉魚津提供義務のない時間帯等における」居場所確認を違法とした例などがあります。