数日前から手を出していた,中勘助の「銀の匙」を読み終わりました。
事務所開設の際,いろいろと相談に乗って頂いた先生が,好きな本だと言われていたので,手に取ってみたのです。
こういう本があることは,高校生の頃,岩波文庫の目録を見て知っており,「何となく興味を引く題名だ」と感じはしたのですが,あいにく私の友人達の中でこの本を読んだ話はでず,また,現代文等の授業等でも特に耳にした記憶がなかったので,これまで手に取る機会を逸していたものです。
読み始めは,古い言葉遣いに戸惑い,さりとて文章が短いので不快を覚えるほどではなく,少しずつ,少しずつ,通勤の合間に栞を進めていきます。
すると,気がついたときには,和紙と畳と木が香る子供時代の空気に包まれる感触を覚え,ついつい本に手が伸びる様になっていきます。
小さな女友達に対するあこがれを,美化しすぎることなく,ありのままに近い感じで綴っている箇所などは,読んでいるこちらまで気恥ずかしくなり,ついつい,手を休めつつ,またしばらくすると手に取ってしまいます。
お兄さんから叱られて,お兄さんというものを自分と違う人間として捉えていくところや,大事にしていた蚕を家族に捨てられてしまい,理不尽に胸をふるわせているところなどは,
「ああ,たしかに子どもの頃はそんな風に思ったこともあるな」という気持ちを揺り動かし,呼び覚ましてくれます。
寒さの去らない今の季節。
この本を手に,子どもの頃の様々な思い出のかけらを振り返っていると,つい寒さを忘れてしまうかもしれません。
いかがでしょうか?。