【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

終身雇用・年功序列制を想う(人事労務)

あまり関係ないことで更新するのもどうかと思い筆を止めていましたが、あまり更新しないことも問題なので、先ごろ読んだ本に触れてみることにしました。 「プロフェッショナルコンサルティング」(波頭亮・冨山和彦著 東洋経済新報社) こういう、弁護士同様、お客様からの相談を受ける立場の方の書かれた本は、結構読みますね。カウンセリング関係の本も結構目を通しましたし。 弁護士の場合、法律的知識についてはたくさんの本が出ているのですが、それがほとんどを占めてしまい、「依頼者との関係づくりをどうするか」についてはあまり触れられた本がないような気がします。強いて言えば、「リーガルカウンセリングの技法」(中村芳彦・和田仁考著 法律文化社)くらいでしょうか。 冒頭の本に話を戻すと… 面白い本だと思います。 いや、あまり依頼者との関係づくりについては触れていなかったのですが、現在の日本の「会社」「経営者」の立場についてはさまざまなことが書かれていました。 人事労務の一端に触れてきたものとしては、興味深い記載が随所にありましたね。 例えば、外資が日本に入ってきてもなかなか成功しないことについて、冨山和彦氏は、「結局、日本の商慣習は、繰り返し、継続を前提に考えるんですよね、売る側も買う側もそうなんだけど、この瞬間「安い」「高い」といって決めない。確かに高く買ってくれる。でも、よく考えたら、外資なんて、いついなくなっちゃうかわかんない。でも、トヨタならずっといる。」「ビジネスをやっている人たちの背負っている時間軸の違いですよね。日本の場合、終身雇用で20年、30年、ずっとその会社にみんないるという前提でお互いにやっているから。」(188頁)と言われています。これまでの仕事(裁判所)においては、法律に漬かってしまっていたためか、日本の終身雇用がビジネスの商慣習にまで影響を及ぼしている、というのはあまり考えた事がなく、感慨を新たにしました。 日本の商慣習が「終身雇用」だけから生まれたかというと、それ以前からの日本人の文化的な気質や商慣習も多分にあるようには思いますが。 この終身雇用との関係では、「雇用の流動化」について、政府の有識者会議等で上がっているというニュースを、最近よく目にします。 この記事だけを見ると、あたかも安倍政権になってから雇用の流動性の問題が政府で出ているように見えますが、そうではなく、野田政権のころからこうした声はでていましたし、その前からもあったと思います。 本来であれば雇用制度をどうするかは、少なくとも会社の経営者の側から、その時々の情勢に応じて柔軟に変えられたほうがよいのでしょう。 しかしながら、雇用制度がどうなるかで、社会全体の構造というか、お金のまわり方が一変してしまうので、現実にはそういうわけにもいかないのでしょうし、これまではそうもいかなかったのだと思います。 平成24年8月10日に、「労働契約法の一部を改正する法律」(平成24年法律第56号)が成立しました。 この改正では、有期労働契約についてさまざまな制度が盛り込まれています。そのような改正の背景事情としては、ものの本によると、厚生労働省の調査において雇用者に占める有期契約労働者の割合が22.5パーセントに上った等、社会全体の「働く人」の中に占める有期労働契約者の数が増えたことがあげられています。 次第に、日本の社会においても、「働く人」といえば「正社員」という概念が崩れてきており、それとともに、就職したから当然に終身雇用という点も、次第に崩れつつあるのかもしれませんね。 そして、冒頭の本では、富山和彦氏が「多くの大企業の場合、年功序列を実質的に解体するだけで、大半の問題は解決すると考えています。」(242頁)と言われ、波頭亮氏も「職務給ベースで仕事と組織が更生されている米国と日本を比べると違いが明確です。米国では、年齢と賃金が正相関しているのって、30歳ぐらいまでです。」(244頁)と言われています。 上にあげた野田政権時代の、国家戦略フロンティア会議において出ていた、40歳定年の議論と、似ているところを含んでいるように思われます。終身雇用かどうかという点を抜きにしても、年功序列という点についても、変化の要請が生じつつあるといえそうです。 これからは、少しずつ、非正規社員と正規社員の違いが少なくなっていき、もっと多様な「働く人」が出てくるようになっていくと思いますし、司法の判断の中でも、多少の影響が出てくる可能性はあるのかなと思っています。 これを機に、『雇用』が変わっていくのかどうか。 政府の対応、そして裁判所の判断を見ていきたいと思います。