有期労働者①[平成24年労働法改正]
「有期労働者の雇用管理実務」を読み終わりました。
この本は、平成24年8月3日に成立した「労働契約法の一部を改正する法律」について解説がされたもので、
終身雇用とは異なり、「1年」「2年」など、期間を定めて雇われている「有期労働者」についての労働契約法の改正内容や、その場合の雇い主側がどうすべきかといった事について、
主に書かれている本になります。
「主に」といったのは、労働契約法の改正以外に、平成24年に大きく改正された、高年齢法と、派遣法についても、相当の既述がされているためです。
もうすこし早く読み終わるかと思っていましたが、労働法の基本にかかわる考えさせられる記述が多く、そのたびに突っ込みを入れていたりしたので、読むのに木曜日までかかり、さらにブログは週末になってしまいました。
この本に書かれている主眼の、「有期労働者」についての、今回の改正のポイントは、以下の3つになります。
①無期労働契約への転換(労働契約法18条)
②「雇止め法理」の制定法化(労働契約法19条)
③不道理な労働条件の禁止(労働契約法20条)
こうした改正内容について、正確に理解するためには、「改正前」は有期労働者というのはどういう立場にあったのかということを理解することが必要となります。
ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、だれでも読めるブログにしようと思うので、そうした背景を書いてみたいと思います。
これまで、有期労働者については、主に民法628条によって定められ
・定められた期間が過ぎれば、契約は原則として終了する。
・定められた期間のうちは、「やむを得ない事由」がないと、契約を解除できない。
という特色がありました。
他方で、無期労働者については、民法上は自由に解雇できるような規定だったのですが、
判例で、いわゆる解雇権濫用法理―「客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる」(現行の労働契約法16条)が定着し、会社の業績が悪化したり、社員を雇った後に解雇したいと思ったとしても、
簡単に解雇をすることができない、という状況になりました。
少し話がそれますが、働く人は、何かしら「働くことに前向きになる要素」がないと、モチベーションが上がりません。
かといって、モチベーションが上がらない社員というのは、会社にとって、あまり歓迎すべき存在ではないでしょうし、ときに有害になることも有ります。
最近のJR北海道の事例や、あるいはバイトテロ・ブログの炎上などの事例には、そうした側面が一因としてあるような気もします。
無期雇用となると、解雇が容易ではないため、会社としては常に働く人のモチベーションを上げるシステムを考え、作っていく必要が出てきます。
それが、年功序列というシステムだったのだろうと思います。
これは、社員がいろいろなスキルを身に着けていき、能力を高めていくことと、昇給がセットになっているという点では、ある意味合理性を持っている制度でした。
でも、不況になると、この制度にも疑問が生じてきました。
それは、「昇給で高いお金を払うほどに、長く務めている社員の能力は高くなっているの?」という点でした。
また、「会社が不況で儲かっていないのに、社員を解雇できず給料を払い続けるとなると、つぶれてしまうかもしれない」「儲かっていない場合の解雇(整理解雇)がとても厳しい条件でないと認めてもらえないことからすると、会社としては、新しい事業にお金を投じて起死回生を狙うことも難しくなる」
といった状況もありました
こうしたことに対して、あらわれてきた現象が、無期労働者を本当に優秀な人だけに限り、有期の労働者を増やすということでした。
このこと自体は、違法というわけではありません。
会社は、あくまで自分の売上や、必要な仕事を考えて、自己判断で労働者を雇う立場にあるのであって、「無期の労働者を雇わなければいけない」という義務まではないからです。
上記の解雇権濫用法理のなかにも、「会社が自己判断で雇ったんだから、雇ったからにはきちんと責任を持たないといけないよ」ということも含まれていると思います。
しかしながら、有期の労働者にとっては、昇給や年功序列という以上に、まず「期間満了後、来季も雇ってもらえるか」ということが、最大の関心になってきます。
たとえ、1年の残りの期間、給料が上がったとしても、その後働き続けられないのであれば、あまり意味がないからです。
ですので、昇給等をあまり考えなくても、不満をそれほど生じさることなく、雇うことができる余地があります。
また、法律はこれまで「有期雇用を何回も続けてはいけないよ」ということを定めていたわけではないので、
場合によっては、「長年かけて身に着けなければいけない技能を持った職員」であっても、「有期雇用」を何回も繰り返すことによって、
高い給料を払わずに確保するというケースもでてきました。
それはおかしい、ということで、まず裁判所の判断が示されます。
有期労働契約であっても、期間の満了ごとに当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものと言える場合に、解雇に関する法理を類推すべきとした最高裁昭和49年7月22日
季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用されるものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、上告人との間においても五回にわたり契約が更新されているのであるから、このような労働者を契約期間満了によつて雇止めにするに当たつては、解雇に関する法理が類推されるとした最高裁昭和61年12月4日判決
そして、さらに有機労働者が増えるに至って、今回の法改正(ポイント①)につながることになります。
今回改正された労働契約法18条1項では、
同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約(契約期間の始期の到来前のものを除く。以下この条において同じ。)の契約期間を通算した期間が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の申し込みをしたときは、使用者は当該申し込みを承諾したものとみなす。
という定めがされました
つまり、
①同一の使用者との間で = 原則として同じ会社・事業主をいいます。
②二つ以上の有期労働契約が結ばれ = 1度の労働契約で5年を超えても、これには当たりません。更新されるなど、2度以上の労働契約であることが必要です
③契約期間を通算した期間が5年を超える労働者
は、期間の定めのない契約(無期労働契約)の申し込みをすることができ、
その申し込みがされた場合には、使用者は、承諾したものと扱われてしまう(拒否することができない)ということです。
この条文は、施行日である平成25年4月1日以降に更新された労働契約から適用され、それから5年を超えることが必要なので、現実にこうした請求、裁判が起きることは、まだ先のことになります。
一見、労働者にとってはありがたい法律に見えます。活用したほうが良い法律にも見えます。
しかし、一概にそうとも言えないところもあるかな…と思っています。
一度には書ききれないので、
今回は改正の背景事情の説明にとどめて、そのうち続きを書いてみようと思います。