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【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

「良いウェブサービスを支える『利用規約』の作り方」【書評】

気になる、おすすめの書籍

 

さて。
先日,後輩の弁護士(いえ,弁護士経験としてはあまり変わらないのでしょうが^^;)からの質問で,「参考にしてみては?」と薦めた書籍があったので,それを一つ。

良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方:書籍案内|技術評論社

法律関係の書籍を扱っている書店でも,あまり見ない本です(東京弁護士会館地下の書店では置いていました。さすがですね。)。
私自身も,実は法律書を扱う書店ではなく,ヨドバシカメラ(!)のパソコン書籍売り場で目を付けて,購入した本です。
執筆者には,弁護士が1人加わっているものの,あとは企業法務の経験者2人との共著です。さらには,出版元もパソコン技術者用の書籍を出版している会社です。

そういった意味では,あまり法律家が普段眼にしない本かもしれません。

パソコンを利用する,ということは,多くの場合,いろいろなソフトウェアを利用する,ということを意味します。
そして,ソフトウェアをダウンロードすると,多くの場合,利用規約に同意して下さい」という文字と共にかなり長々とした利用規約が表示され,ボタンを押さないと先に進めない,ということになっていることが多いと思います。

この利用規約
読んでみると,かなり一方的なことが書いてあることが多く,法律家としては「日本の裁判所では有効性が認められるかな?」と思う箇所も,ままあります。
とはいえ,こうした利用規約は,「契約書」などと同じく,事業者と利用者との関係を決める」ものの一つなので,軽視することはできません。

従来,こうしたソフトウェアやWebサービスの「利用規約」について,法律家が関与して書かれた本は,あまりありませんでした。
これは,利用規約を定めておくソフトウェアというのは,多くの人にそのソフトウェアが利用されることを想定しているため(オンリーワンの銀行のシステムを開発するのであれば,わざわざ利用規約を用いず,契約書で細かな合意を結びますよね。),利用料の単価が安く(または無料),仮に何かのトラブルが生じたとしても,利用者が弁護士等を雇って裁判までするということはまずなかったからではないかと思います。

こうした重要性の違いは,たとえば交通事故等の治療費や休業補償の支払を左右する自動車保険の約款や,高額な家土地の購入における契約書・重要事項説明書,そして多数の社員の生活に関わってくる就業規則などと比べると,よく分かるのではないかと思います。

とはいえ,この本を読んでみると,ソフトウェアやWebサービスの利用規約には,また違った重要性があるのかなと思いました。
それは,これからインターネットやソフトウェアの世界でシェアを伸ばしていこうとする事業者にとっては,裁判を起こされるかどうかも重要であるものの,それに加えて利用者・世間から支持を受けられる態様でサービスを提供していることも劣らず重要であり,そのためには,「きちんと法律に従った,さらには利用者のことも考えたルールを決め,宣言していたかどうか」ということが,大切なのかな,ということです。

書籍の記載内容は,かならずしも私自身の見解と一致しているわけではなく,法的なリスクの観点では「甘い」と感じる箇所も,ないわけではありませんでした。
しかし,「類書」があまりないので,こうした問題に悩む当事者や,相談を受けた弁護士には,参考にしても良い本かもしれませんね。

ただ,この本には限界があります。
リスクの判断については,個々の法律家で見解が分かれるところはあるでしょう(いくつかの問題については,私自身はもう少し厳しい意見を持っています。)。
さらには,インターネットで提供される等のサービスの内容や,どういった顧客を相手にするかは,千差万別であり,原則としてはそうしたサービス,顧客に応じて規約の内容は当然変えなければなりませんが,この本は,そうしたところまで対応しているわけではありません。
また,規約の条項によっては,内容をきちんと遵守するためにそれなりの人的なパフォーマンスや開発力を要求されるものも,あると思います。

とはいえ,あまりこうした書籍のなかった世界に,こうした書籍が出たということは,法律家にとっても,事業者にとっても,「考えるきっかけ」「いろいろと議論するきっかけ」「試行錯誤するきっかけ」になるのではないかと,思っています。

…そういえば,うちは「労働法家事事件を得意としてるはず」なんですけど,なんで後輩からこんな相談を受けたんでしょうね…(汗)。
まあ,インターネット法研究会には,一応入っているのですが…。