【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

電子書籍に関する法改正(平成26年度著作権法改正)

1 電子書籍についての法改正

著作権法が改正されましたね。平成26年4月25日に成立し、平成27年1月1日から施行されるそうです(改正法、新旧対象条文等はこちら著作権法の一部を改正する法律案:文部科学省)。

経過規定となる附則第3条では、「改正法の施行前に設定された出版権で、改正の施行の際現に存するものについては、なお従前の例による」とあるので、改正法が施行されたからといって、従来締結していた出版権の内容が変わることはありません。

ただ、平成27年1月1日以降、この改正法を活用しようと思う出版社は、出版契約のひな形の改訂や、出版契約の結び直しなどをしていくことになるのかな、と思います。

 2 今回の改正を一言でいうと

今回の改正は、一言でいうと、「インターネット上の海賊版を差し止めたりすることを、著作者等ではなく、出版権を設定された出版社が行えるようにする」ことを目的としたものです。従来の著作権法における「出版権」は、紙媒体を対象としている、つまりインターネットの電子書籍を出版する権利までは含んでいないと解されており、結果として、そうした従前の「出版権」者は、インターネット上の海賊版の差し止めや損害賠償等を行うことはできず、海賊版を排除するために個人である著作者等が負担のかかる訴訟行為を自ら行わなければならなかったことが、背景にあります。

以前このブログで触れた自炊業者に対する判決も、著作者等が提起したものでしたが、平成27年1月1日以後は、こうした裁判を電子書籍について「出版権」を設定された「出版権」者が行えるようになります。

 3 出版権というのは、これまで利用されてきた?

ただ、これまで、著作者等と出版社が出版に関して約束をする場合に、「出版権」の設定をすることは、かなわずしも一般的ではなかったようです。一般社団法人「日本書籍出版協会」においても、出版契約書とともに著作物利用許諾契約書がHPに掲載されています。

その背景にあるのは、「出版権」が、①文書または図画として複製する権利(CD-ROM等による出版を含む)、あるいは②インターネット送信による電子書籍を行う権利の、全部または一部を「専有」することを内容としている、つまり、独占的な権利を与えるものだからではないかと思います。

例えば、私などが新人の弁護士や司法修習生になどに良いと思う書籍を進めた際にも、その書籍が「絶版」「再版未定」となっていることは、ままあります。そうした場合、著作者等としては、「その出版社がもう書籍を出版してくれないなら、他の出版社から出版してほしい」と思うかもしれませんよね。でも、従前の法律では、一度出版社に出版権を与えた以上、その存続期間内については容易ではありませんでした。

こうした強力な権限が出版権にはあるからこそ、「従前の出版権に当然にインターネットの電子書籍も含まれるか」という点については、解釈上否定されたのではないかとも思われます。

 4 「出版権」者と著作者等との権利調整 

そうしたことの調整のため、今回の法改正では、「出版権」者側にも、

①原稿の引渡しを受けてから6か月以内に出版又は公衆送信を行うこと、

慣行に従い継続して出版又は公衆送信を行うこと

を義務として定め(改正著作権法81条)

そうした義務を「出版権」者が守らない場合には、著作者等が出版権を消滅させることができる(改正著作権法84条)としています。

 

とはいえ、この規定の仕方自体、「慣行に従い継続して」とは具体的にどういうことなのか、など万が一紛争になった場合にはその解決指針がかならずしも明確ではないところもあります。

さらに、この「出版権」者の義務は、設定時の契約で異なる合意をすることができるとされているため(改正著作権法81条)、出版社側でも、こうした義務を排除するような規定を置くようなひな形を作ることは、ありうる気はします。「出版権」の存続期間をどうするかも、悩ましい問題でしょう。

 あまりに一方的な契約をしてしまうと、著作者等の側に不満を持たれて紛争の引き金になったり、裁判等で争われた場合に効力が問題になるかもしれません。

難しいですよね。

大手の会社ほど、一貫した対応をするために「ひな形」などを作る動きになるのではないか、逆に言うと個別事情への対応はその分困難になっていくのではないか、という気もしますが、ふたを開けてみないとわかりませんね。

これからは、著作者等の側も、契約の際に電子書籍の出版も視野に入れるか等をきちんと考えたうえで、契約の言葉に注意しておくことが望ましいのだろうなと思います。

 

なお、文中の言葉は、法律の文言をそのまま用いたわけではありません。分かりやすく言い換えている箇所等もありますので、正確性は欠いていることをあらかじめお断りしておきます。たとえば、法律上は出版権を設定できる主体は「複製権等保有者」と定義されていますが、分かり難いので「著作者等」に言い換えています。