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【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

最新裁判例に見る「職場復帰・復職トラブル予防のポイント」(書籍)

労働事件・人事労務関係 その他 気になる、おすすめの書籍

最新裁判例に見る「職場復帰・復職トラブル予防のポイント」(新日本法規 浅井隆編著)を読み終わりました。
中心となる「私傷病休職からの職場復帰・復職」については,先週にすでに読み終わっていたのですが,本職の仕事等もあり,それ以降が読み進めていませんでした。
なんだか,メンタルヘルス系のセミナーや書籍を良くブログで取り上げている気もしますが,裁判官時代に,一番答えを出すのに悩んだ分野でもあるので,どうしても「知りたい」という気持ちが先に立ってしまうのですよね。

この本が取り扱っている「職場復帰・復職」の場面は,労働基準法や労働契約法といった法律で詳しい定めがあるわけではなく,また,最高裁判所の判決も片山組事件(平成10年4月9日)くらいである上,この判例については最高裁判所判例解説がないことなどから,裁判官として執務していたときも,どう判断して良いか随分と悩んだ問題でした。
また,「職場復帰・復職」を巡って裁判になるほどの事例となると,事例ごとに極めて多様な事情があり,それに応じた評価が必要になることが,裁判官として結論を出すことをより一層難しくしていました。
最近,商事法務より出版された「労働関係訴訟の実務」(白石哲編著)の第12講において,精神疾患による休職・復職の問題について裁判官の整理された論考が掲載されたため,基本的な要件事実については整理が進んだ感があり,最近の事例(東京地方裁判所平成25年1月31日判決【伊藤忠事件】)にもそれは反映されていると思います。少なくとも,「どういった事実を」「どちらが立証すべきか」を明確に当事者に指示できると,裁判の進め方は相当楽になりますから。


逆に,弁護士としては,それぞれそうしたことも念頭に置いて,依頼者から情報を聞き取り準備することが求められるようになるのでしょう。

とはいえ,そうした論考があったにせよ,個々の事情いかんで判断が大きく異なるので,結局,下級審で示された多くの裁判例に当たり,それを自分なりに分析・把握して,個別の事案に当たらないと,説得的な主張や結論が難しいように思います。
この本「職場復帰・復職トラブル予防のポイント」は,そうした多くの「下級審」の事例を整理した上で拾い上げ,そのポイントを示した本として,他の本にはない特徴があると思います。


もちろん,事例の書き方は,実際の判決文に比べれば簡略化されているので,法律家が執務する上で十分かは何とも言えません。また,その位置づけなどについても,経営法曹である編著者なりのとらえ方であり,実際に個別の問題について答えを出すためには関連すると思われる判決書に当たって検討する必要がある気がします。
ただ,職場復帰・復職に関する大まかな傾向や問題点を知るためには,非常に有益ですし,その問題点ごとに次にどういったことを調べればよいかを知る上でも,有用だと思います(とはいえ,中には相矛盾するかのような裁判例等もあるので,企業の法務担当者がこれを読んで上手く活用することは,なかなか難しいかもしれませんね。)。

もちろん,この本を読んだとしても,まだまだ出ていない答えはたくさんあります。
主治医と産業医の意見が違ったらどうするのか,復職する職務を就業規則等であらかじめ定めていた場合意味があるのか,産業医の受診命令に従わなかったらどうなるのか,リハビリ勤務をどう活かすのかなどなど…
ことに,平成26年6月25日に,労働安全衛生法が改正・公布され,メンタルヘルスについてのストレスチェック制度や,労働者からの申出があるときには産業医等の面接指導を受けられる制度等ができましたので,従来とは違った新しい悩み,新しい問題が生じることがあるかもしれません。

個人的には,①こうしたメンタルヘルスチェックの内容が労災認定や裁判の資料となし得るのか,また,②メンタルヘルスチェックの結果は労働者の同意がなければ使用者に知らせないとされているものの,その同意の取り方はチェック実施の前にオプトアウト方式で取得することでも良いのか否か,さらには,③復職の際使用者が産業医に意見を聞く事が多いが,その場合には産業医としては例えストレスチェックの結果について労働者の同意がなくても,過去のストレスチェックの結果も考慮に入れて使用者に意見を返さざるをえないのではないかなど,いろいろと考えてしまうことがあります(もっとも,ストレスチェックの内容いかんでは,それほど問題にならないことかもしれませんが。)。
長時間労働について産業医のチェックを受けることとした,平成17年の改正の際に,そうした問題についても議論がされ,対応が取られているのではないかと思うのですが…。
いずれにせよ,労働安全衛生法メンタルヘルスの箇所についての施行は,まだ1年半後のようですし,これから規則や指針等ができてくると思います。
いろいろと資料をダウンロードしてしまったので,また次に余裕ができたときに読み進めたいとは思っているのですが…。

裁判官時代よりは,時間があるはずなのですけれどね。
なかなか文献の読み込みが進まず,未読文献がたまっていってしまいます。
う~ん,なさけない。
まあ,一歩ずつ,できることを積み重ねていこうと思っています。