読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

事業主と労働者の間-すき家の調査報告書に目を通して-

労働事件・人事労務関係

1 「すき家」の労働環境改善に関する第三者委員会 調査報告書

「すき家」労働環境改善のための調査報告書受領について | ゼンショー ZENSHO

 この土日に,知人の方から聞いて,目を通してみました。

 もともと裁判官時代は、一番関わっていた労働の問題なので、ついつい読みふけり、その後も色々と考えてしまいます。

   やはり,労働時間の重さが目を引きますね。

   調査報告書の11頁,12頁に書かれている,社員とクルーの各時間外労働時間と,

   厚生労働省から公開された平成25年度の精神疾患の労災状況(平成25年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」の23頁表2-6)の時間外労働時間を見比べると,労災・精神疾患等が生じるリスクは極めて高いように見えます。

   だからこそ,第三者委員会も,この調査報告書を提出する前に緊急の「勧告書」をゼンショーに出すなどしたのだろうと思います(調査報告書33頁)。

 2 経済的に理にかなうのか。

   しかし,仮に経済的観点から見ても,何故このような時間外労働が生じているのか?,ということは,少し気になりました。

   なぜなら,上記の「時間外労働」は,デイリー勤怠報告書(調査報告書19頁)に記載された,会社が「残業」として認めた時間であり,そうである以上会社は労働基準法37条で定める割増賃金を払っているからです。ですので、時間外労働になってしまう人にそのまま働いてもらうより、他の人に代わってもらった方が、法律上は事業主にとっても支出する人件費は少なくて済むはずなのですが…。

 ただ、これはあくまで法律を作る時に考えられた仮説・フィクションにすぎません。「他の人に代える」ためには、新人クルーの採用・教育等が不可欠になりますし、適切なシフトをうまく組むことにも労力を要します。そうしたことに要する時間や費用を考えると、人を増やさないほうが経済的な利潤が多いのも知れず、そこは、私にはわからなかったですね…。 

3 どうして長時間労働が。

 経済的な話をひとまず置いたとして、なぜ長時間労働がこれだけ蔓延しているのでしょうね。

 もちろん、調査報告書に書かれている、新規開店にもかかわらず従業員が増えなかったこと(調査報告書32頁)が、残りの従業員に負担となってかかってきたことは、よく分かります。

 しかし、問題は「なぜ新規開店をしても、従業員が増えていないのか」なのだろうと思うのですよね。調査報告書9ないし10頁に、各年度の在籍社員数と退職者数が書かれており、退職者が多く離職率が高いという指摘はある(調査報告書10頁)のですが、そうであるなら、退職者数が一定程度出ることを見越して店舗増加に応じた募集・採用をすることはできるように思われます。ですので、退職者数がことさらに増えているわけではないのに、店舗数のみが増えて従業員数が増えていないことがなぜなのか、今一つわかりません。

 また、調査報告書にはクルーの人数増減は書かれていなかったのですが、新規開店の際クルーは新たに雇用されると思うので、クルーの残業時間がここまで多くなっている(調査報告書12頁)のは、新規開店云々とは異なる原因のように思われます。

 結局、シフト(ヘルプを含む)を誰がどういう基準で組み、新人クルーの採用を誰が決め、その配置を誰が責任を持っていたのかが、よく分からないので、細かな原因までは見えないところが残りますね。まあ、組織規程・職務分掌規程が存在しなかった(調査報告書6、34頁)ところからすると、そこがあいまいなままだったのかもしれませんが、そうした点は改善が必須でしょうね。

 他に考えられる要因として、「労時売上」(調査報告書19頁:本部が予測する一定期間の売上高を、本部が定める一定金額で割ることにより、当該期間において投入可能な労働時間が決定され、これに伴い、各時間帯の投入可能な従業員数が決定される。)が強力な指標として機能していたことがあったのかもしれません。

 この「労時売上」は、時間外労働を増やすことには必ずしも直結していません。「ある時間、店舗の人員を1人で」ということが指標として出たとしても、その1人をシフト上交代で務めることは可能ですので。ただ、この「労時売上」によって、各店舗において投入される人員数が実際に月単位で変動することが仮にあったとすれば、特定の時間だけ働いてくれるクルーを確保することにブレーキになったかもしれません。ある月にはシフトに入れたのに、次の月になったらシフトに入れなくなったでは、そうしたクルーも働き続けたいと思わないでしょうし、店長やAMが労時売上による人員減のプレッシャーを恐れてクルーの増員に消極的になったりすることもあったかもしれません。

 なお、調査報告書には、なぜ労時売上が重視されたのかについては書かれていませんでした。給与体系上インセンティブが出るようになっていたのか、それとも、昇進の際に考慮される慣行があったのか…、まあ、何かしらの事情がないと、労時売上が重視されないだろうとは思うのですが。

4 果たして改善は。

 調査報告書を見る限り,ゼンショーとしては分社化をとりあえず進めることを考えているようですし(調査報告書1頁),第三者委員会一定時間以上の長時間労働を絶対的に禁止するルールの策定(調査報告書42頁)などを検討しているようですが,そもそも長時間労働を招いた背景には,「労時売上」に合わせて(デイリー勤怠報告書に記入しない)サービス残業を行ったという事実も指摘されていますので(調査報告書13頁、19頁)、絶対的に禁止するルールを作ったとしても、サービス残業をなくする方策を考えなければ効果がないことも考えられます。

 また、分社化はそのこと自体で直ちに何か効果があるわけではなく、まさに分社化した各会社にどういった機能を盛り込むのかにもよるので、適切な対応策になるのかは、よく分かりません(調査報告書40、41頁)。

 いずれにせよ、ここまでの労働状況があるにもかかわらず、①社員用アンケートの回収率は23パーセントにとどまり、回答があったものも特に記載がないものが大半であること(調査報告書3頁)や、②6割の社員がサービス残業をたまに又は頻繁にするという回答をしていること(調査報告書19頁)、③労働組合からも長時間労働解消に関する具体的な申し入れがされた形跡がないこと(調査報告書28頁)からすると、「労務売上」を重視して残業等を行う傾向がすでに幹部を含めた従業員にも当然とされてしまっている可能性があり、改善が図ることはなかなか難しいのかもしれませんね。

 なお、本日、すき家から改善策として、①ワンオペ(調査報告書21頁)を廃止して深夜の時間帯も2人を配置するようにし、②それが困難な店舗は当面24時間の営業を中止するという提案がされたようであり、トップダウンの指示で外部にも明確に違いが判るものなので一定の意味はあるでしょうが、これが上記の長時間労働を軽減する要因になるかは、まだ分からないところを残しますね。 

すき家「ワンオペ」9月末で解消へーー約500店舗が「深夜閉店」の可能性も (弁護士ドットコム) - Yahoo!ニュース

5 類似業種・同業種を考えてみると。

 今回の第三者委員会の調査報告書は、平成26年2月から3月にかけてのすき家店舗の一日休業や時間帯休業をきっかけに行われたとのことであり、その経緯については、組織変更、クルー減少等の事情や新商品投入といった事情に加え、「毎年2月~3月頃に、多くの学生クルーが就職等を理由に退職する」という事情や、「2回の大雪が降った」というような事情も挙げられていました(調査報告書14、15頁)。しかし、後の2つの事情については、類似の業種である「松屋」や「吉野家」「マクドナルド」でも同じだったと思うのですよね。

 それでもなお、すき家においてこうした状況が出てしまったというのは、①シフトの組み方のノウハウや新人の採用の仕方、人員の配置の仕方において、改善の余地があるということなのか、②そもそも一店舗当たりの従業員数が他社に比べて圧倒的に少ないということなのか、③それともクルーが確保できない場合に開店時間の変更や閉店等を決断するような権限が与えられていないせいなのか(他の会社でどうか、正確には知りませんが、マクドナルドは店舗によって営業時間も異なり、時々変わっているような気はします。)、何らかの原因はあるのでしょうが、そこはよく分かりませんね。

 

 もちろん、マクドナルドにおいても、過去に「店長は時間外労働の割増賃金を払わなくてよい管理監督者労働基準法41条2項)に当たる」として裁判で争われた事例(東京地方裁判所平成20年1月28日判決)があるくらいですから、店長等に大きな負担がかかり労働時間が増える傾向というのはあるのでしょうし、他社の行っていることを取り入れるだけでは、問題の改善にも限界があるのかもしれませんね。 

6 法律家の限界

 こうして考えてくると、法律家の出来ることには限界があるな、と思います。

 「こうしたことは法律に違反する」「こうしたことをすると法律違反になるリスクがある」

 そうした指摘は、我々法律家にはできるのでしょうし、必要なことでしょう(もちろん、どれだけ正確な情報をもらえるかによります。調査報告書1ないし4頁)。

 ただ、

「こうすれば、法律に違反せず、かつ従業員皆で食べていけます

「こうすれば、法律に違反せず、かつ利益も上がります

ということまでは、法律家は言えないのですよね…。

(そこまで言えるのであれば、牛丼屋さんの経営を始めているかもしれません。)

 

 とはいえ、これだけの労働時間ということになると、精神の疾患にかかる方などもいらっしゃるでしょうし、実際調査報告書においても過去にそうした方がいらっしゃったとの記載があります(調査報告書17頁)。

 そうなると、企業の社会的責任(CSR)としても改善すべき問題だと思います。

 ひとたび、精神疾患にり患してしまうと、完全に回復するのに相当の時間がかかりますので、そうした方が増えてしまわれることは、社会全体にとって無視しえない損失となります。最近、政府がメンタルヘルスに力を入れているのも、そうしたところにつながってくるのかもしれません。

 

 いずれにせよ、今も働いている社員の方もいらっしゃるので、なんとか、そうした社員の方がよりよい環境で働くことができるようになれと願わずにはいられません。

 今回の調査報告書の契機となった臨時閉店が、今の店舗数・今の人員で24時間お客さんに牛丼を提供することに無理が出てきたことを示すのだとすれば、例えば、24時間営業の店舗を数店舗に絞って、それらの店舗で残業の生じない24時間雇用のシフトの作成、そのために必要な従業員の採用のノウハウを積み重ねたうえで、それが可能になり次第、他の店舗でも暫時1店舗ずつ24時間営業の再開をし始めるとか、ほとんどすべての店舗の営業時間をひとまず限定し、それによって確保された時間のうち1時間程度を社員の方々に割いてもらい、改善の方途について率直な意見を出してもらう機会を持ってみるとか…。

 もちろん、サービス残業の「サービス」とは、事業者に対するサービスなので、事業者の姿勢そのものが変わらなければ、いくら仕組みを変えても限界はあると思います。

 経営等については素人なので、どうすればよりよい方向に行くのかということまではわかりませんね。

 でも、少しでも良い方向に向かっていただくことを願ってしまいますね。