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【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

研修会「相続税法の基礎知識」

 

 少し前になりますが、1月8日に、横浜弁護士会の遺言相続お悩みダイヤル相談担当者向けの研修である、「相続税法の基礎知識」を受けてみました。税理士の馬淵輝之先生が講師になって下さったものです。今ホームページを拝見すると、企業の税務もやられている先生のようですね。

1 相続税について、弁護士として

 相続税は、以前書かせて頂いた年1回(「ヨイイゴンノヒ」で4月15日です…)の「遺言相続110番などでも聞かれることの多い話ですし、横浜弁護士会の「みまもりダイヤル」や行政の法律相談に行ってもそういう質問を受けることもあります。

 いかんせん税理士ではないため、非常に概括的なことしかお話しできず、税理士の先生なり、あるいは国税局の税務相談に聞かれてみてはとしか、申し上げられないことが多いことになってはしまいます。

 昨年の遺言相続110番の前に、「Q&A相続税 誰もが知っておきたいポイント」(宮原弘之著、一般財団法人大蔵財務協会)を一度通読し、「Q&A相続実務全書[4訂版]」(OAG税理士法人資産税部編、ぎょうせい)を途中まで目を通して、ある程度の概要は知っていたつもりでしたが、やはり、税理士の先生から具体的な経験を踏まえて話を聞けるとイメージが広がりますね。面白かったです。

 それに、平成27年1月1日から施行される、相続税法改訂のポイント最も大きい改訂事項は、相続税控除額の減額になります。)を伺えたことも、よかったですね。

2 教育資金一括贈与(相続における信託)

 印象に残り、また、後に書くような疑問を思いついたのは、「教育資金一括贈与」の話です(関心のある方は、こちらのサイトも参考にされてはと思います。)。

 これは、平成25年4月1日から平成27年12月31日までの間に、本人(30歳未満であることが必要です。)に対して、その教育資金に充てるために、信託銀行等との間の一定の契約に基づき、祖父母など(直系尊属)から、信託受益権を授与されるなどした場合、その価格の内1500万円までの金額に相当する価格について、贈与税を非課税とするものです(少しでも分かり易いように適宜省略して書いています。正確な制度については、上記リンクを参照してください)。相続税法ではなく、租税特別措置法70条の2の2に定められた制度です。

 馬淵先生の話では、結構うまくいっていると評価されている様子で、私としても、最近問題となっている子供の貧困に対して幾分はそれを和らげる方法になり得るのではないかと思ったり、先日書いた「後見制度支援信託」と同様今後「信託を利用しての金銭管理を、公的な制度の中で利用する」という場面は増えていくのかもしれないと感じたりもしました。 

3 法的に考えると?(教育資金一括贈与と特別受益

 ただ、馬淵先生が、節税という観点からは手元に現金を残さない方がよいためこうした方法を説明することもあるけれど、他方で、何人か子どもがいる場合に、孫を持っている世帯と孫を持っていない世帯で不均衡が生じかねず、そこで紛争が生じてしまうのではないか、それは弁護士に解決してもらわないといけなくなるかもしれない、ということを話され、好奇心が刺激されました。

 仮定で考えると、こんな場面でしょうか?(お祖母さんは先に亡くなられているものとします。)。

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 さて、こうした場合、お祖父さんが3人の孫に、そぞれこの「教育資金一括贈与」を行った場合に、お祖父さんの「相続」ではどうなるのか、というのは、弁護士などに相談される法律問題になりそうです。

4 第2世代の皆さんがご存命の場合

 第2世代の、「長男」「二男」「長女」「三男」の皆さんがいずれもご存命であれば、この4人が「相続人」になります。

 そうすると、特に遺言がないまま(遺産分割協議)であれば、

 お祖父さん(被相続人)名義の相続財産に、特別受益にあたるものを持ち戻して加えることが原則になります。

 この「特別受益」というのは、簡単に省略していうと、被相続人(お祖父さん)が、生前、【相続人に対して】財産を贈与するなどしている場合には、「その相続人は生前、これだけのものをもう貰っているから、それは相続したものとみなして扱いましょう」というような制度となります。

 例えば、お祖父さんが、長男にだけ、生前に農地を譲渡したり、お金を贈与したりしていれば特別受益に当たりますし、長男だけ大学に行かせた(学資を出した)ような場合であれば、当たることもあるようです(裁判例が分かれているようです。なお、高校の教育費程度は含まれないとすることが一般のようです。)。

  では、長男や次男ではなく、「教育資金一括贈与」「孫」が貰っている場合はどうなのでしょうか。

 この場合、「孫」は、「相続人」となっていないので、孫が贈与を受けた部分は特別受益には当たらないことが原則です(もちろん、その相続における諸般の事情を考慮して、裁判官が異なる判断をすることはありえます。)。

 5 「次男」あるいは「三男」がお亡くなりになられていた場合

 では、もし、お祖父さんがお亡くなりになる前に、すでに「二男」あるいは「三男」の方がお亡くになりになられていたらどうでしょうか?。

 その場合、民法では代襲相続といって、二男のお子さん、三男のお子さん(つまりお孫さん)が「二男」「三男」に「代」わって【相続人】になります。

 そうなると、お孫さんが受けた「教育資金一括贈与」も特別受益に当たる可能性は出てくることになります。

 とはいえ、上述の通り、高校までの通常の教育費は、普通は特別受益として評価しないことの方が多いかと思われますので、実際に特別受益と判断されるかは裁判官が判断するまでわかりませんね。

6 こうしてみると…

 こうしてみると、結局、

 「教育資金一括贈与」を行った上で、「遺言」等を何も残さない状態であると、その「教育資金一括贈与」を、「特別受益」として見ていいのか、見てはいけないのかが、裁判官の判断を経ないとはっきりしない状態となることになります。

 そうすると、折角子のため、孫のために残したお金が、かえって「争い」を引き起こしてしまうことになってしまいます。こうした場合には、遺言を残しておいた方がよいのかもしれませんね。

 もちろん、以前書いた通り、他の方の遺留分を害しないようにしなければらないので、慎重に検討しないといけないでしょうが…。

 また、この「教育資金一括贈与」は、「教育資金」に当たると認められる要件が厳格で、かつ、領収書等をきちんと保管して信託銀行に提出するなどその後の手続きもそれなりに煩雑ですので、軽々に行うのではなく、実際にその資金を取り扱う方(前の図で言えば、二男さんや三男さんの奥さんなど)とよく相談して行われた方がよいのでしょうね。

 教育資金一括贈与を受けたはいいものの、領収書等をその都度取得するなどの事務が煩わしく、また、ご両親も仕事が忙しくてきないまま、結局最後に贈与税がかかる、ということになると「素直に相続したほうがよかった」ということもあり得るのかもしれません。

 なかなか、悩ましい制度ですね。

  最後に、

 弁護士としての視点から、遺産分割について詳しく書かれた本としては、一冊挙げるとすればこの本がおすすめでしょうか。

 東京弁護士会法友全期会相続実務研究会「改訂 遺産分割実務マニュアル」ぎょうせい

 まだ、非嫡出子違憲判決が出る前の本ですので、その点は反映されておらず、注意は必要だろうと思います。

 とはいえ、相続の具体的な場面に従って、弁護士としての手続きの注意点等が書いてあり、参考になると思っています(もちろん、これだけでは足りませんが…)。