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【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

ドメスティックバイオレンス(DV),児童虐待等の被害者と,「マイナンバー」

相続・離婚等 こども・学校 その他 マイナンバー

1 マイナンバーって?

 

 マイナンバー社会保障・税番号制度一部分の施行期日が、平成27101と、迫ってきました。

 マイナンバーは,社会保障と税の分野などの,行政手続きにおける添付書類(戸籍や住民票など)の削減などに役立つといわれています。

具体的に,どんな場面にこれが必要になるかについて,行政のHPでは以下の通り記載されています。

「国民の皆様には、年金・雇用保険医療保険の手続、生活保護・児童手当その他福祉の給付、確定申告などの税の手続などで、申請書等にマイナンバーの記載を求められることとなります。

また、税や社会保険の手続きにおいては、事業主や証券会社、保険会社などが個人に代わって手続きを行うこととされている場合もあります。このため、勤務先や証券会社、保険会社などの金融機関にもマイナンバーの提出を求められる場合があります。」(20146月回答)

(よくある質問(FAQ)1-4)

このマイナンバーは,市町村長通知カード」により個人番号を通知することになっており(法71項),具体的には,この通知カード平成27年10月の第1月曜日である5日時点で住民票に記載されている住民に指定され、それ以降、市区町村から住民票の住所に簡易書留で郵送され」るようです。

(よくある質問(FAQ)2-1)

2 DVや,児童虐待等で,住所を秘匿している場合は?

このところ、知り合いの弁護士の間で、「マイナンバー法により通知カードが送付されるというが、DVドメスティックバイオレンスの被害者や児童虐待の被害者で、住民票を動かしていない場合、元の夫や親のところに送られてしまうのか」という疑問が提起されました

子どもの権利委員会や高齢者・障害者の権利委員会に所属していると,そうした仕事をされる先生が多く,相談に来られた方などから聞かれたりするようです。

DVや児童虐待等の被害者の場合,住民票上の住所については,【実際に住んでいるところに住民票を移した上で,地方自治体に申請して住民票を加害者に開示しない措置(『支援措置』と言います)をとっている】か,そうでなければ,【住民票を動かさないまま,実際に住んでいるところを変えている】かのいずれかの方法を採っていることが多いのではないかと思います。

 地方自治体における支援措置

 DVや児童虐待等を受けて、配偶者・親から逃げている方などは、自分の住所を相手に知られたくないと望まれることが通常です。

 そのため,住民票の閲覧や謄写を行う地方自治体(市町村)においては,そうした方のために、一定の場合に、加害者等よる閲覧や謄写を断るという、支援措置というものがあります住民基本台帳事務処理要領」というものにより,定められているもののようです。)。

 そして、この支援措置は、平成24年までは,

A 配偶者暴力防止法第1条第2項に規定する被害者であり、かつ、暴力によりその生命または身体に危害を受ける恐れがあるもの(いわゆるDVの被害者)

B ストーカー規制法7条に規定するストーカー行為等の被害者であり、かつ、更に反復して付きまとい等をされる恐れがあるもの(いわゆるストーカーの被害者)

の二つに認められていましたが、

平成24101日から、

C 児童虐待防止法2条に規定する児童虐待を受けた児童である被害者であり、かつ、再び児童虐待を受ける恐れがあるもの又は看護等を受けることに支障が生じる恐れがあるもの(いわゆる児童虐待の被害者)

D その他AからCまでに掲げるものに準ずるもの

も対象になるようになっています。

総務省|住民基本台帳制度におけるドメスティック・バイオレンス、ストーカー行為等の被害者の保護のための措置の一部改正

 こうした支援措置を受けておられる方,すなわち,「住民票はすでに実際に住んでいるところに移し,それを,行政の手によって,加害者等に開示されないようにしている方」は,『住民票は実際に住んでいるところに移されている』わけですので,通知カードは実際にお住まいの所に届くはずです。

4 支援措置を利用していない方は?。

 ただ,DVや児童虐待等の被害者のなかには,そもそも住民票を動かしていない方もいると思われます。なぜなら,

 ①支援措置をとってもらうためには,裁判所の判決等の疎明資料が必要なこともありますし,

 ②支援措置をとると,自分が住民票を入手するときも,代理の人に取ってきてもらう手続きが大変になります。

 ③そして,あくまで支援措置は,【住民票の閲覧・謄写に来た人の本人確認を厳格に行い,一定の場合に申請を断る】ものですので,加害者が絶対知ることがないか不安に思う方もいらっしゃると思います。

 以前話題になった逗子市ストーカー事件の情報漏洩などは、こうした支援措置が取られていたにもかかわらず、住所等が漏れてしまったという問題のようです。

 こうした理由で「支援措置を利用しておらず」住民票が,DVにおける配偶者のところ,児童虐待における親のところに残されている人については,上記1の原則からすると,そちらの住民票上の住所に「通知カード」が届いてしまうことになります。

 そうした場合,どうなってしまうのでしょうか。

5 通知カードだけでは,原則として本人確認に十分ではない。

 通知カードは,あくまでマイナンバーを通知」するためのものに過ぎませんので,マイナンバーにより本人確認を行う際には,通知カードのみならず,「当該通知カードに記載された事項がその者に係るものであることを証するものとして主務省令で定める書類の提示を受けること」,すなわち他に身分を証明する書類も求めなければならないとされています(法16条)。

 このことは,通知カードを持って,「個人番号カード」の交付を受けに行く場合も,同様です(法17条)。

 この【他の書類】としては、施行規則第1項1項1号により、以下のものが原則とされています。

 ・運転免許証

 ・運転経歴証明書(交付年月日が平成24年4月1日以降のものに限る)

 ・旅券

 ・身体障害者手帳

 ・精神障害者保健福祉手帳

 ・療育手帳

 ・在留カード

 ・特別永住者証明書

 ざっと見てみたところでは、これらはいずれも写真付きの証明書だろうと思います。そして、「個人番号カード」の交付を受けるときには、原則としてこれらの書類であることが必要です(施行規則第1条2項)。なお、「個人番号カード」の交付の場面ではなく、個人番号利用事務等実施者が行うその他の「本人確認」の場合には、上記の書類の提示を受けることが困難である場合には、国民健康保険、健康保険、後期高齢者医療等の証明書のうちの、2つ以上の書類で本人確認と扱ってよいようです。

6 行政の対応

 とはいえ,住民票を移していない者についても,DVの場合の配偶者や,児童虐待の場合の親の元に「通知カード」が届いてしまうこと自体,望ましいわけではありません。

 そのため「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律の規程による通知カード及び個人番号カード並びに情報提供ネットワークシステムによる特定個人情報の提供等に関する省令案に対する意見募集の結果」,いわゆるパブリックコメントへの,行政側の回答の51番において,「ドメスティック・バイオレンス(DV)の被害等により住民票を移さずに避難している者への通知カードの送付方法については,事前に住民票とは別の送付先を登録して送付することとする運用を検討中です」とされています。

 また,特定個人情報保護評価書(全項目評価)においても,52頁の「Ⅵ 評価実施手続」「4.特定個人情報保護委員会の承認【行政機関等のみ】」において,

「通知カードの送付については,評価書の記載内容については問題は認められないが,ドメスティックバイオレンスの被害者を始め送付先を誤ると深刻な事態を招きかねない場合が存在するため,通知カードの誤送付や万が一誤送付が生じた場合についての十分な対策・対応を講じる必要がある」とされており,行政の側でも一定の危機意識は持って下さっているようです。

7 最後に

 とはいえ,具体的にどのような対応を取るのかについては,現時点で公開されている「特定個人情報の適正な取扱に関するガイドライン(行政機関等・地方公共団体等編)」には記載されていません。

 また,内閣官房のHPにおける地方自治体向けのFAQにも,それらしい記載はありませんでした。

 また,住民票上の住所に通知カードが送られてしまった場合,DVや児童虐待の被害者は,「個人番号を変えてほしい」と思うかもしれません。

 しかし,法律上個人番号を変更することについては,「当該市町村が備える住民基本台帳に記録されている者の個人情報が漏えいして不正に用いられる恐れがあると認めるときは」個人番号を変更できるとされ(法72項),これについて内閣官房の,地方公共団体向けFAQのQ1-6には,「番号法第7条第2項の「個人番号が漏えいして不正に用いられるおそれがあると認められるとき」とは、例えば、本人から個人番号の提供を受けた者が第三者の利益のために不正に利用する目的で漏えいした場合、個人番号カードが盗まれて不正に利用される危険性がある場合、詐欺や暴力などで個人番号を他人に知られて不正な目的で使用される場合などが想定されます。」と書かれていますが,上記のDVや児童虐待のような場合に変更を認めて貰えるのかどうかは明確ではなく,国レベルの通達等がないと,個々の市町村では判断に迷うように思われます(そのため、国からの通達等がない状態であれば、地方自治体では変更を認めないと思います。)。その後、総務省HPの「よくある質問」において、番号の変更を認めていただけることが明記されました。

 さらには、「通知カード」が郵便で住民票上の住所に届いたものの、本人は受けとっていないという場合に、本人が通知カードを別途受け取りたいと申し出ると、それは省令11条の「再交付」にあたるのか(あたる、ということになると思われますが)、あたるとした場合、「紛失」で扱えるのかということなども、少し悩ましい問題のように思われます(おそらくは警察に紛失届さえ提出すれば、紛失扱いになりそうに思われますが…)。

 もともとは,住所が届け出られていない=国が把握が十分ではない方たちに関することですので,限界はあるでしょうし,大変だろうと思いますが,少しでも,そうした方々の被害を防ぐ方策を採って頂けると,ありがたいと思います。

 「通知カード」の郵送にかかわった人が、不正の目的をもって情報を漏らしたりすることを刑罰で禁止するなどしているのですから(法68条)、通知カード自体が本人の手元に届き、他の人の手元に届かないよう、きちんと配慮することは大切だと思います。

 パブリックコメント等で書かれた方法も一つですし、ほかにもたとえば、通知カード郵送までに一定の猶予期間を一律に定め、その間に「郵送を望まない人は証明書類持参の上、個別に窓口に取りに来ることができる」など、ぜひ検討していただきたい気がしますね(もっとも、パブリックコメントを見ると、現状でも行政窓口の対応が困難ではないかとの指摘もあるようであり、そのあたり、段階的な実施を含め、混乱が生じないようにしていただけるとよいのですが…)。

 当職自身,マイナンバー関係についても,DVについても,詳しいわけではありませんので,あるいは記載内容に誤りがあるところもあるかもしれません。その場合には申し訳ありません。

※ 5月6日、緑字部分を追記しました。普段から、いろいろと色を付けてしまっているので、見辛くなってしまったかもしれません。申し訳ありません。

※ 5月7日、緑字部分を少し訂正しました。施行規則13条照会の場合も写真付きの証明書類などは要求されるため、危険性が高いとも言い切れないかとも思い、ひとまず記載を削除したことと、罰則についての記載を訂正しました。

 ※ 7月1日、他の先生から伺った政府の対応について、7月1日付のブログに記載しました。

※ 8月4日、総務省の方から、総務省HPに説明が記載されたことをうけて、8月4日付のブログに記載しました。