【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

「反省させると犯罪者になります」(書評)

1 すすめられない?

  先日書いた「こどもセンターてんぽ」のイベントなどを通じて、自分の付添人活動のやり方を振り返ってみたかったこともあり、この本を読んでみました。

www.shinchosha.co.jp

 「きずな大阪法律事務所」(4弁護士会合同の「子供の福祉にかかわる弁護士の勉強会」で名刺交換させていただいた縁で拝見しました)のブログで紹介されていて、購入してみたのですが…。

 選択を誤った…かもしれません。

 少なくとも、刑事司法や、矯正・保護の分野にかかわって、日が浅い人にはすすめられない本だろうと思います。

 なにせ、刑事司法や矯正に対する強いアンチテーゼが示されているので、この本に書かれていることをそのまま信じてやろうとすると、その人も周りも、混乱してしまう可能性もあると思います。

 他方で、それなりに経験年数があり、この本の言うことをすべて鵜呑みにせずに、それでいて活かせるところを探すことができる方にとっては、【自らの方法を見直し】【引き出しを増やす】役に立つかもしれません。

2 反省をもとめてはいけない?

  この本の主題は、「罪を犯した人の感情的な言い分を受け止めてあげるためには、それなりの時間をかけたケアが必要であり、それがないまま反省を求めても、【うわべだけの反省】になってしまって、かえって本心を語らず上辺だけ反省する犯罪者をつくってしまう」というものです。

 同じような論旨は、矯正にかかわる分野で耳にしたことはあるのですが、ここまで「反省を求めることがかえって犯罪につながる」という論旨を強調した本は、初めてのように思いました。

 反省を求めることが全く意味がないとは言い切れないと思いますし、そうしたことで社会が成り立っているところはありますから…。

 もちろん、この本は、「反省を求めなくていい」といっているわけではなく、その前に本人=被疑者には、【親】に対して、【被害者】に対して、【世間】に対して、本音では犯罪に及んだ動機となるような否定的な感情があるはずだから、それを十分受け止めて解消したうえでないと、本当に反省することにたどり着けない、というにすぎません。

 とはいえ、こう書かれてしまうと、裁判で裁判官が被告人を諭すことも、また、裁判までの間に少しでも被告人の考え方を変えようと弁護士や調査官が努力することも、すべて否定されてしまうところがあります…(裁判で反省を求めることが理解できないという趣旨のことも書かれていますので…)。

3 悲鳴が聞こえるような気も。

 その「強すぎる現状へのアンチテーゼ」を読んでいると、行間から悲鳴が聞こえてくる気もしました。

 著者は、今の矯正の現場では「反省を求める」風潮が強すぎるというような指摘をしており、それはその通りかもしれないと思います。「それではかえって犯人の更生が果たせなくなり、社会が悪くなっていってしまう」という、矯正にかかわる著者の悲鳴に近い思いが、ここまで強いアンチテーゼを書かせているのかもしれない…。

 そんなことを考えさせられる本です。

 そして、この本に書かれていることは、すべてが正しいかはともかく、当たっている面もあるのかもしれないと思います。

 ですので、ある程度の経験のある方が読まれると、ただ「反省を求める」のとは違うアプローチを探るきっかけになると思います。

4 矯正の方だけの問題ではない

  著者は、この本を矯正にかかわる人向けに書かれたようですが…。

 実際のところ、矯正の方だけの問題ではないのですよね。

 矯正の方が罪を犯した人に「反省を強く求めている」のだとすれば、それは「そうしなければならないように思える」つまりそれだけ「世間の強い処罰感情」というプレッシャーを感じるということだと思われますから…。

 本当は、みんなで「法律違反に対してどのような処遇をし、その後どのように社会に受け入れるか」ということは、考えていかなければならないことなのですよね…。

 私自身が裁判官になったのも、「裁判」という結論を出す場に立たなければそうしたことを自分が本気で突き詰められないのではないか、と思ったからでもあります。

 また、先日書いたように、導入当時、裁判員裁判に消極的とはいえ意義を見出していたのも、「そうしたことを一緒に悩み、教えてもらうことができる」「そうしたことを世間の人に一緒に考えてもらう」という意味で、とてもありがたく、また大切なことだと思っていたためでもあります。

 厳しい時代だからこそ、罪を犯して他の真面目に生きている人を害することは許さない、ということは、間違ってはいない考え方です。

 ただ、だから罪を犯した人はもう更生を考えなくてよいか、というと、それを言ってしまったのでは、一度罪を犯した人は何度も罪を犯していくことになり、社会全体でそうした人がどんどん増えてしまう、というのも、間違っているとはいいきれないように思われます。

 「唯一の正しい答え」というものがない問題でもあり、私自身、まだ迷いを覚えながら試行錯誤しているような状態なので、まとめることもできず、情けない話なのですが…。

 

少し疲れました。刑事や少年の問題は重たいですね…。

労働法の書籍に戻りたいですね…。でも、そのまえに研修会をやる関係上、マイナンバー関係の書籍に目を通さないといけません…。

※ 6/2旧稿で「現時点の刑事司法や矯正を否定してしまっている」というように書いてしまいましたが、現時点でも、罪を犯した人の心の傷を受け止めることは、矯正の分野=少年院等にかかわる方々はもちろん、少年事件や刑事司法の分野にかかわる方々においてもが日々努力されているところでもあります。そのため、これは不正確だったと思い、訂正しました。申し訳ありません。