【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

社会的養護児童のアセスメント【書評】

 前回から,また時間が空いてしまいました。
 この間,国選事件をやり,労働審判の初動を2件(労働者側1,経営者側1)抱え,弁護士会内の研修会でマイナンバー法個人情報保護法の改正動向を紹介し,マイナンバー法の説明用パンフレットの原稿を考えるなど,色々とありました。
 やっと少し一段落を付いて,日曜日に休みの時間をとれましたので,以前購入していたこの本を読んでみました。

www.akashi.co.jp

 たしか,2年前の「子どもセンターてんぽ」の講演会に参加した際に,出張販売に来ていた書店から購入した書籍です。

 
 なかなか手をつけられませんでしたが,技術的な記載が多い書籍なので,余り時間をかけると全体像が頭に入らないかと思い,日曜日に一気読みをしました。

 期待していた方向性とは少し違いましたが,面白い本です。
 期待していた方向性と違った,というのは,購入当時はSSWの研修会や,児童精神科医の先生主催の勉強会に参加していたために,そうした「社会内で子どもと関わる人」に必要な,「ケースカンファレンスのやり方」や「社会内における適切な支援の方法」が書かれているのではないかと期待していたからです。
 この本は,そうした読み手ではなく,児童養護施設の職員や,里親さんを読み手として想定しています。そのため,日常的に施設の中で子どもと接するなかでどうやって情報を得,それをどう援助に結びつけていくかについて書かれています。
 子どもや親から,家庭や地域についての話を聞き,それを整理していくことは,同様に必要とされることでしょうが,「日常的に子どもと一緒に生活する施設職員」ではない点で,情報収集の手段も,また支援の方法も限られるSSWや児童精神科医向けとしては,そのままでは使えないところもあると思いますが,話を聞く際の注意点や,整理の要点は,参考になると思います。
 弁護士の付添人活動に関して言えば,少年の生育歴まで聞き取る活動をするのであれば,その聞きとりの際に役立つと思います。私などは,関与当初に子どものご両親から母子手帳,「あゆみ」,卒業アルバム等を持ってきて頂いて,詳細な生育歴を聞き取る活動をするので,この書籍に書いてある内容も活かすことができますが,そうした活動をされない先生には向かない書籍かもしれません。

 読んでみて,個人的には二つの点で大きな収穫がありました。
 一つは,「補償要因の把握」ということです。
 補償要因というのは,「良き出会い,体験,思い出」など,その子の健康な育ちを支え,これからの人生をも支える要件となり得るもののことを言います。
 こうしたものが重要であることは知識としては知っていたのですが,いざ「子どもが逮捕された」,という付添人活動の場面では,弁護士も,本人も,親も,「非行に走った原因」を探してしまい,補償要因まで注意が向かず,十分に聞き取れていなかったこともあるかもしれないと,反省をさせられました。
 心を打ち明けられる友人や,尊敬する先生などの話は聞くのですが,さすがに「旅行の思い出」や「七五三やお宮参り」「遊んだ玩具や公園」などについては,意識的に聞くことまではしていなかったかもしれません。生育歴を聞く中で,出てくることはあるのですが,もう少し意識的に聞いてもよいのかもしれないと感じました。
 もう一つは,子どもや親から話を聞く際に,どうやってたら少しでも話しやすいようにできるか,という視点でしょうか。
 【裁判】というゴールが見えていると,なさけないことに,時間に急かされそこまで気が回らないところもあるのですが,もう少し工夫できるかもしれないと思いました。もっとも,少年司法の場面では,本人も,親も,弁護士も,【裁判】という共通のゴールに向けて一緒に走っているようなものなので,ここはほんの少しで良いのかもしれません。気を遣いすぎて,ゴールに間に合わなくなってしまっても,意味が無くなってしまいますから…。

 児童精神科医の先生主催の勉強会が終了してしまってから,こうした視点を活かして考えることもめっきり少なくなってしまいましたが,また,子どもに関わる事件を担当するときには,この本を読んで意識させられたことを,心がけてみたい気もします。