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【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

平成27年度「こころの支援セミナー」(神奈川県精神保健福祉協会)

こども・学校

マイナンバーは?」と思われていた方がいらっしゃいましたらすみません。

本日、神奈川県精神保健福祉協会の主催する、上記セミナーに参加してきましたので、その雑感などを。

1 こころの支援セミナーって?。

 学校関係者や、子どもに隣接する職種を対象に、児童精神科医の先生などが行ってくださる研修です。昨年度も、受講後に感想をこのブログに書いてみましたが。
 去年までは、横浜市立大学附属病院の竹内先生が中心となってやっておられましたが、竹内先生が定年退職されたことに伴い、今後は同じ市大病院の藤田純一先生が中心となられるようです。
 久しぶりに竹内先生にお会いできるかな?、という期待も少しだけありましたが、お見えになってはおられませんでした。

 当日のお話は、
横浜南部地域療育センター井上祐紀所長の「発達障害のある子の学校現場での対応」
田園調布学園大学院人間学研究科一瀬早百合先生の「障害のある子の親の支援」

そして

③藤田先生の「発達障害のある子の青年期に向けての支援」の3本立てでした。

2 「発達障害のある子の学校現場での対応」

 井上先生のお話では、最初に、発達障害のある子について、「悩み(懸念)」をもっている場合、その上に「問題行動」がある場合と、更にその上に「ADHD(症状)」がある場合があるという整理が示されました。

 そして、問題行動や症状が出ている子については、ついついそこに目がいってしまうものの,その背後には依然としてその子の抱える「悩み(懸念)」が有ることが多く,この「悩み(懸念)」にきちんと対処することが「問題行動」にも良い影響を及ぼすのではないかという推察が話されました。

 この、悩み(懸念)を解消するにはその子の「強み探し」をすることがよく、そのためには、①「共感ステップ」②「問題提起ステップ」③「提案ステップ」の3つのステップを経て行っていくことがよいのであって、【正しい行動を教えることを急がない】ことが重要ではないかというアプローチ方法の紹介がありました。
 まず,①「共感ステップ」では,否定的な評価を伝えることなく,とにかく本人にボールを投げてもらうようにして信頼関係を作るとともに話を聞き出し,「本人の行動が良くない行動だと否定的なニュアンスを伝える代わりに,本人の願いが叶っていないことに気付かせる」ことをすべきであること。

 それができて,次の②「問題提起ステップ」「問題行動が大人や支援者から見てどうなのか」という周りの大人の視点を伝えること,ここで,大人に解決法を与えられると子どもは反発しがちであるため,子どもに自分で考える余地を与えることが大切であること。

 これらの過程を経た上で,最後の③「提案ステップ」で,子どもと一緒に解決法を探っていく,というものでした。

 非常に興味深い内容でしたが,他方で,1対1で子どもと相対することのできる心理臨床、カウンセリングの場面であればともかく,はたして,数十人の生徒を指導し,日々生じる生徒間の問題も取り扱う学校の場面においても,同じ方法がそのまま利用できるのかについては,わからないところもあるように感じました。

3 「障害のある子どもをもつ親への支援」

 次の,「障害のある子どもをもつ親への支援」では,従来の親支援の方法は,①親と共同して障害を直していく共同治療者としての活動と,②親に一時休む時間を与えるレスパイトの活動の二つが中心であったこと,そして、これまでの調査では障害の中でも情緒や行動に困難を持つ,知的障害のある子どもに対して虐待が生じてしまうリスクが高いことが示され,そうしたことを防ぐためには,親が、子どもの障害を理解し,受け止めてもらうことー【障害受容】が重要ではないかという提起が示されました。

 この【障害受容】の方法として,「段階モデル」「慢性的悲哀説」「螺旋系モデル」等の見解が示されると共に,この【障害受容】という考え方に対する反対説も紹介されました。
 以前,家族療法のことをブログに書いたように,親は子に,子は親に,大なり小なり何らかの影響を受けています。そうである以上,親が倒れてしまわないよう,伴走者として一緒に走り続ける人というのは,とても大切なのだろうと思います。
 とはいえ、「子ども」本人ではなく「親」が対象ということで,子ども本人以上に継続的に関与することや関与の糸口を見つけることは難しいでしょうし,【障害受容】のためにも長い時間がかかる、大変な活動であるため、現実にどこまでそうしたことができるのかは、わからない気がします。

 とはいえ、この【障害受容】という考え方に批判があることを踏まえたとしても,現に困難に直面している親に目を向け,その親の心理を理解しうる【仮説の一つ】としては優れているように感じますし,仮説を絶対に正しいと決めつけるのではなく,自分の引き出しの一つとするのであれば,有益なのではないかと思いました。

4 「発達障害のある子の青年期に向けての支援」

 最後に,藤田先生のお話では,横浜市における状況や,その特徴,そして具体的に児童精神科医の元に相談に来る子がどういった悩み事・問題を抱えているのかを紹介して頂き,その後子どもに関わる支援者が心がけるべきポイントをまとめて頂きました。

 私のような児童精神医学の素人にも,「児童精神科医がどういった子どもと,どういった形で接しているか」を具体的にイメージすることができ、わかりやすいお話でした。
 さらに,その後会場から出された質問にも,藤田先生は筋の通った見事な受け答えをされており,感銘を受けました。

 申し訳ないながら,依頼者との相談時間が迫っていたため,やむを得ず一足先に中座させて頂きましたが,可能であればご挨拶など差し上げたかったところでした。

5 児童精神科医,法律家,そして教師や隣接職種について

 児童精神科医の先生方の魅力は,1対1で子どもと向き合うことのできることと,時間をかけて子どもに働きかけを続けていくことができることだろうと思います。
 もちろん,児童精神科医の先生方が接することができる子どもは,時間的な面でも,費用的な面でも,治療に対する適正という意味でも、限られた人数になってしまうことはあるかもしれません。ただ,それでも,あきらめずに子どもと接して下さる先生がいて,そうして子どもと接した成果の一部を他の人に話して頂けることは,有益なことであり、ありがたいことではないかと思います。
 以前も書いたように思いますが,児童精神科医に比べると,数十人の生徒を束ね,生徒間で日々起きる問題に対処する教師はやはり立場が違うところもあるかもしれず,児童精神科医の手法をそのまま用いることができるのかは分からないところを残します。

 また,法律家は,教師とは違って1対1で子どもと向き合うことはできるのですが,時間的な制約がある中で「裁判」という重大な問題に向き合わなければならない場面で登場するため,児童精神科医のような手法を採ることは難しいとも感じています。
 もっと,こうした職種が互いに話し合えば,互いに活かすべき所や,面白い可能性が生まれるのか,それとも,やはりそこには限界があるのか…。
 それにしても疲れました。
 精神医学は,答えがあって無いような中で模索を重ねるものですから,それを3時間ほども聞いていると,興味をかき立てられる内容であっても,徒労感が少しづつ蓄積してしまう気もしますね…。
 でも,竹内先生にはお会いすることができませんでしたが,こうした活動が続いていくのは,ありがたいなと思います。

 なお、私自身は児童精神医学に詳しいものではないので、記載の中にはお話の内容を正確にとらえられていないところもあるかもしれません。関心のある方は、実際に文献等に当たられて調べられた方がよいと思います。