【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

後見人とマイナンバー

 突然ですが、前回のブログでもふれた総務省のホームページ

総務省|マイナンバー制度と個人番号カード|東日本大震災による被災者、 DV・ストーカー行為等・児童虐待等の被害者、 一人暮らしで長期間医療機関・施設に入院・入所されている方へ

に関連して、弁護士同士の会話の中で「後見人」とマイナンバーについての問題点の指摘がありましたので、それについて。

 具体的には、「被後見人の住民票上の住所に誰も住んでおらず、かつ住民票上の住所を何らかの理由で移動されられない場合等に、後見人はマイナンバーを知ることができないのでは?。」となります(もちろん、後見人は転出届等を提出することもできますので、被後見人本人が実際に住んでいるところに住民票を移せるなら問題にはならないと思われます。)。

1 後見業務で使用するマイナンバー

 後見業務で個人番号を使用する場合としては、以下のようなものが考えられるかな、と思っています。

① 確定申告

 被後見人に収入があり確定申告を行わなければならない場合、後見人が確定申告を行う必要があります。そして、確定申告書には個人番号を書かなければなりません(なお、老齢年金や退職年金など課税年金の受給者は、その年の公的年金等の収入金額の合計が400万円以下で、かつ、公的年金等以外の所得金額が20万円以下である場合は、確定申告は不要とされています。該当するか疑問があるときには、国税庁の一般相談に問い合わせて確認するとよいと思います。)。

② 法定調書作成(株式・投資信託等)

 また、被後見人が投資信託や株券等を保有している場合には、税金との関係(「配当、剰余金の分配及び基金利息の支払調書」や「特定口座年間取引報告書」等で、個人番号を申告しなければならなくなる予定です。こちらは、以下の通り3年の猶予期間があるので、まだすぐ個人番号を要求されるかはわかりません(この投資信託や株券との関係では、不正な問い合わせに気を付けて軽々しく電話等で番号を回答することは控えた方がよいでしょうし、平成28年1月1日以降でも相手方の会社や金融機関の安全管理措置等の準備が整わないこともあり得ますので、具体的に請求される前に催促等はすべきではないだろうと個人的には思っています。)。 

国税分野におけるFAQ|お知らせ|国税庁

Q2‐6 法定調書の対象となる金銭の支払を受ける者等からの個人番号・法人番号の提供を受けることについては、猶予期間があると聞いていますが、全ての法定調書に個人番号・法人番号を記載する必要はないのでしょうか。

(答)配当、剰余金の分配及び基金利息の支払調書」や「特定口座年間取引報告書」等の税法に告知義務が規定されている一部の調書のうち、所得税法施行令第336条第2項に規定するいわゆる「みなし告知」の適用がある場合(「税法上告知したものとみなされる取引」)など、金融商品取引業者等において継続的な取引が行われているものについては、個人番号・法人番号の告知について3年間の猶予規定が設けられており、その間告知を受けるまでは、当該個人番号・法人番号について記載をする必要はありません(別紙「番号の猶予規定が設けられている法定調書一覧表」参照)。ただし、「給与所得の源泉徴収票」や「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」等、猶予規定が設けられていない法定調書については、平成28年1月以後の金銭等の支払等に係る法定調書の提出までに個人番号・法人番号の提供を受け、記載していただく必要があります。

※ この点については,最近,以下の記事でもう少し詳しく書きました(h28/4/25)。

yokohamabalance.hatenablog.com

2 本人に通知カードが届かなかった場合、どうなる?

 以前ブログで書いたことですが、通知カードは平成27年10月5日の住民票上の住所に、世帯単位で、世帯主宛に、「簡易書留」で郵送される予定です。

 そして、自治体のHP等を見ると、この簡易書留は「転送不可」で、郵便局に「転送届」などを提出していても転送先で受け取ることはできないようです。

 とはいえ、DV・児童虐待の被害者もそうですが、住民票の住所と実際の住所が異なっている人というのは相当数いると思われていますし、本人の手元に通知カードが届かない場合は思いのほか多いのではないかと懸念される弁護士の先生も、日弁連の情報問題対策委員会にはいらっしゃいます。 

 通知カードが届かずに受取人不在で戻ってきてしまった場合、その後どうなるのかについては、決まっていないのか、まだよくわからない状態のようです。

 そうした場合、これまでの説明では、「通知カードが届かなくても【特別の請求】を行って【個人番号が記載されている住民票】を取得すれば、それが通知カードの代わりとなるから大丈夫」とされていました。

 3 個人番号が記載された住民票の「特別の請求」

  これについて、住民基本台帳法12条に以下のような規定があります。

(本人等の請求による住民票の写し等の交付)

第十二条  住民基本台帳に記録されている者は、その者が記録されている住民基本台帳を備える市町村の市町村長に対し、自己又は自己と同一の世帯に属する者に係る住民票の写し(第六条第三項の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製している市町村にあつては、当該住民票に記録されている事項を記載した書類。以下同じ。)又は住民票に記載をした事項に関する証明書(以下「住民票記載事項証明書」という。)の交付を請求することができる。

(中略)

4  前項の場合において、現に請求の任に当たつている者が、請求をする者の代理人であるときその他請求をする者と異なる者であるときは、当該請求の任に当たつている者は、市町村長に対し、総務省令で定める方法により、請求をする者の依頼により又は法令の規定により当該請求の任に当たるものであることを明らかにする書類を提示し、又は提出しなければならない。

5  市町村長は、特別の請求がない限り、第一項に規定する住民票の写しの交付の請求があつたときは、第七条第四号、第五号及び第九号から第十四号までに掲げる事項の全部又は一部の記載を省略した写しを交付することができる。

(以下省略)

 この5項に書かれているように、普通の住民票の請求では個人番号等の記載は省略されていますが、「特別の請求」がある場合には個人番号が住民票の写しに記載されることになります。

 そして、12条の請求は、代理人もできますので(2項2号、4項)、

①あくまで【本人】が個人番号の記載のある住民票の写しを【特別に請求】し、

②それを代理人が窓口に持っていく(要疎明資料)

という形であれば受け付けてもらえるはずです。

 とはいえ、この場合に【どういう形で個人番号が書かれた住民票が交付されるか】まで調べてはいませんでした。

 他の先生が役所に問い合わせたところ、「住所宛に郵送」されるとのことですので、それが事実であれば通知カードを受け取れなかった以上、同じ問題で住民票も受け取れない可能性があることになります。

 そして、これは「住民票コード」が記載された住民票の写しの現在の扱いからすると、どうやらその通りのようです。

 この扱いについては、「住民基本台帳事務処理要領」という自治体での住民票の取り扱いについて定めたものに、以下の記載があるようです。

自己又は自己と同一の世帯に属する者に係る住民票コードを記載した住民票の写し等の交付請求については、住民票コードには、法第30条の42及び第30条の43において、告知要求の制限、利用制限等に係る規定が設けられ、秘密保持義務によって保護されていること等から、住民票コードを記載した住民票の写し等の交付に当たっては、慎重に取り扱うことが適当であり、本人又は本人と同一の世帯に属する者の請求により、これらの者に対してのみ交付することが適当である。ただし、同一の世帯に属する者以外の代理人(法定代理人任意代理人の別を問わない)であっても、ウにより、代理権限を有することが確認できる書類を付して請求を行うことができる。この場合、住民票コードの性格にかんがみ、代理人に対して直接交付することは行わず、請求者本人の住所あてに郵便等(郵便又は民間事業者による信書の送達に関する法律(平成14年法律第99号)第2条第6項に規定する一般信書便事業者若しくは同条第9項に規定する特定信書便事業者による同条第2項に規定する信書便)により送付する方法が適当である。

 つまり、【住民票コードの記載された住民票】は「代理人も請求はできるけど、代理人にも見せない方がいいから、本人の住所に送ります。」ということです。

 マイナンバー法の規定からすれば、【個人番号が記載された住民票】についても、同じ扱いになると思われ、そうなると、【個人番号が記載された住民票】を請求しても、結局「住所」に郵送されますので、通知カードと同じ問題で入手できない可能性がでてきます。

4 「居所登録制度」

 つまるところ、こうした場合にも先日紹介し、冒頭でもふれた「居所登録制度」を利用したほうがよいのでは?、ということになります。

 総務省のホームページには、以下の記載があります。

長期間にわたって医療機関・施設等に入院・入所することが見込まれ、かつ、入院・入所期間中は住所地に誰も居住していない方などについては、住民票の住所地では通知カードを受け取ることができないこと(中略)

 

 住民票の住所地と異なる場所(居所)にお住まいの方は、居所に生活の本拠がある場合にはそこに住民票を異動していただくことが基本(※)ですが、上記のような方については、現在お住まいの場所(居所)をご登録いただければ、そこに通知カードを送付することも可能ですので、該当する方は居所情報の登録申請をお願いします。

 なお、「居所登録」できるのは、あくまで【本人の居所】であり、後見人の住所は登録できないようです。総務省ホームページに掲載されている「よくある質問」には以下の記載があります。

問16 単身世帯の成年被後見人へ直接通知カードが送付されないように、成年後見人が自らの住所等を当該成年被後見人の居所とする居所情報の登録申請を行うことができるか。

答 成年被後見人成年後見人の住所等に居住している場合を除き、成年後見人の住所等を当該成年被後見人の居所として居所情報の登録申請を行うことはできない。

 後見人としては、念のために10月5日以前に一度本人の住民票上の住所を確認するとともに、その住所では通知カードを受け取れず、かつ、現在の居所に住民票を動かすことが困難な事情がある場合には、この「居所連絡制度」を利用して本人が入院している病院や施設に通知カードを送ってもらった方がよいのではないかと思われます。

※ ひとまず、分かる範囲について記載をしましたが、不正確なところもあるかもしれません。申し訳ありません。

※ 8月25日、弁護士同士の会話でさらに出てきた疑問点について、同日付のブログに記載しました。また、そこにも書きましたが、居所情報登録制度を利用して地方自治体の窓口で成年後見人が通知カードを受け取ることも可能であるようにみえます。関心のある方はどうぞ。

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