【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

高齢者とマイナンバー(試論:後見人とマイナンバー追記)

 「後見人とマイナンバー」「【続】後見人とマイナンバー」などに少し重なるのですが。委員会業務の関係で振られた話題ですので少し。

 先日、新聞記者の方から、「身寄りのない高齢者などは、どうやってマイナンバーを使うのか。マイナンバー制は身寄りのない高齢者に優しくない制度ではないのか」などと聞かれました。

 一般探索的・抽象的な質問を、事前に調査時間も与えられずにされても、なかなか回答することは難しいですし、「代理人に行使してもらうことになると思いますが…」という答えだけで沈黙されてしまうと、いささかこちらも困るのですが…。 

 ただ、この機会に高齢者にかかわる場面を、ある程度整理しようかと思いました。 

1 高齢の方についてのマイナンバー利用

 基本的にマイナンバー法は、本人がマイナンバーを使った手続きができないときに備え、本人の代理人がマイナンバーを使った申請等を行うことができることを想定しています。

 まず,法19条は,

第十九条 何人も、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報の提供をしてはならない。

 とした上で,

一 個人番号利用事務実施者が個人番号利用事務を処理するために必要な限度で本人若しくはその代理人又は個人番号関係事務実施者に対し特定個人情報を提供するとき。

として,行政機関等が本人に制度上の必要があって特定個人情報(個人番号を含む個人情報)を渡す際,本人の代理人に渡しても良いとしているほか,

三 本人又はその代理人が個人番号利用事務等実施者に対し、当該本人の個人番号を含む特定個人情報を提供するとき。

として,本人が個人番号の記載を要する行政手続等を行う場合に,代理人が行っても良いとしています。

 ですので、高齢の方においては、法律で許された場合であれば

 ① 本人が使用できるのであれば、本人が通知カード等を保管して使用してもよい(個人番号カードを取得する場面を除けば、申請等の場面では郵送での手続きも可)ですし、

 ② 同一世帯に属する方がいらっしゃるのであれば、その方を(任意)代理人にして手続きを行ってもらってもよいですし、

 ③ 同一世帯に属する方がいらっしゃらないのであっても、他に信頼できる方がいらっしゃるのであれば、その方を(任意)代理人にして手続きを行ってもらってもよいですし、

 ④ 成年後見人等、法定代理人がいるのであれば、法定代理人の方に手続きを行ってもらってもよい、

 ということになります。

  もちろん、②の場合で同一世帯の方に協力していただけない、あるいは、③の場合で他に信頼できる適当な方がいらっしゃらないなどの場合はあるのかもしれません。ただ、それはマイナンバー固有の問題ではなく、自ら手続きを行えず、かつ代理を頼むにも適当な方がいらっしゃらない高齢の方が、行政手続きをどのように行うかという問題になりますので、マイナンバー特有の問題ではないことになります。 

2 通知カード・個人番号カードの日常的な保管

 では、「申請」等を行う場面であればともかく、日常的な保管はどうしたらよいのでしょうか。

 もちろん、ご本人が保管できる場合には、それで良いと思います。同一世帯に属する方がいらっしゃり、その方が保管してくださる場合も、法20条で「個人番号の収集・保管」が許されますので、それでもよいと思います。

 では、それ以外の場合はどうでしょうか?

 マイナンバー法は、通知カード・個人番号カードを、日常どうやって保管したらよいのかについては、特に規定していません。20条において「個人番号の収集・保管」について定めているだけです。そのため、20条により個人番号の収集・保管が認められ、マイナンバー法の個人番号についての規制を満たした状態であれば、通知カード・個人番号カードそのものを本人から預かることは、本人の私物を預かることと同様に可能だと思います。

 また、マイナンバー法についてこれまでのガイドライン等で示された考え方を敷衍すると、「個人番号が見えない状態であれば、個人番号の提供・取得・保管に当たらない」と考えているとみてよいように思われます。

 たとえば、「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」及び「(別冊)金融業務における特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」に関するQ&Aでは、

Q6-1個人番号が記載された書類等を受け取る担当者が、その特定個人情報を見ることができないようにする措置は必要ですか。

A6-1個人番号が記載された書類等を受け取る担当者に、個人番号の確認作業を行わせるかは事業者の判断によりますが、個人番号の確認作業をその担当者に行わせる場合は、特定個人情報を見ることができないようにする措置は必要ありません。個人番号の確認作業をその担当者に行わせない場合、特定個人情報を見ることができないようにすることは、安全管理上有効な措置と考えられます。

 とあり、これからすれば、「個人番号を見ることができないよう、封緘したり入れ物に入れたりすれば、担当者が受け取ることができる」ことを前提にしていると解することができます。

 また、以下のとおり

Q3-14-2特定個人情報の受渡しに関して、配送業者、通信事業者等の外部事業者による配送・通信手段を利用する場合、番号法上の委託に該当しますか。

A3-14-2特定個人情報の受渡しに関して、配送業者による配送手段を利用する場合、当該配送業者は、通常、依頼された特定個人情報の中身の詳細については関知しないことから、事業者と配送業者との間で特に特定個人情報の取扱いについての合意があった場合を除き、個人番号関係事務又は個人番号利用事務の委託には該当しないものと解されます。

また、通信事業者による通信手段を利用する場合も、当該通信事業者は、通常、特定個人情報を取り扱っているのではなく、通信手段を提供しているにすぎないことから、個人番号関係事務又は個人番号利用事務の委託には該当しないものと解されます。

なお、事業者には、安全管理措置(番号法第12条等)を講ずる義務が課せられていますので、個人番号及び特定個人情報が漏えいしないよう、適切な外部事業者の選択、安全な配送方法の指定等の措置を講ずる必要があります。(平成27年4月追加)

 とされていることからすれば、封筒に入った状態であれば、番号法上の委託に当たらなくとも取り扱える=「保管」に当たらないことを前提としていると取ることができます(そうでないと、法20条に書かれていない「郵送」ができないことになりかねません。)。

 そうすると、

 ・個人番号の収集・保管を認められているものは、「通知カード」「個人番号カード」をそのまま保管してよい。

 ・個人番号の収集・保管を認められていないものは、【個人番号が見えない状態】の通知カード、個人番号カード(封筒に入れてもらったり、巾着袋やファスナー付きのポーチに入れてもらう)を、本人から預かって保管して良い(ただし,外部から分かるよう,「通知カード」「番号カード」と書いたり,付箋を貼っておいた方が良いかもしれません。知らずに第三者に交付してしまったりすると、問題になりえますので。)。

 といってもよいのではないかと思います。

 後者は、いわば本人がコインロッカーにカードを預けるような感覚と同じになるでしょうか?。

3 では代理人は日常的に保管できるか。

 では、(同一世帯に属していない)代理人・法定代理人(後見人)は、日常的にこのマイナンバーを保管するとき、上記2つのどちらで行うべきでしょうかできるのでしょうか?。

 実は、マイナンバー法は、代理人についてあまり明確に規定していません。

 まず,法19条では上記のような定めがあり、また法20条では

第二十条 何人も、前条各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報(他人の個人番号を含むものに限る。)を収集し、又は保管してはならない。

としていますので,代理人も,本人から授権された「個人番号利用事務実施者からの特定個人情報の提供」個人番号利用事務等実施者に対する特定個人情報の提供」の場面では【個人番号を収集または保管】できることになります(そうでないと、困ってしまいます。)。

 では、それ以外に【保管】ができないのか = 使用しないときは本人に返還したり、見えないように封緘等しなければならないか、というと、そうではないだろうと思います。

 「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」には、以下のような記載があります。

雇用契約等の継続的な契約関係にある場合には、従業員等から提供を受けた個人番号を給与の源泉徴収事務、健康保険・厚生年金保険届出事務等のために翌年度以降も継続的に利用する必要が認められることから、特定個人情報を継続的に保管できると解される。

 

土地の賃貸借契約等の継続的な契約関係にある場合も同様に、支払調書の作成事務のために継続的に個人番号を利用する必要が認められることから、特定個人情報を継続的に保管できると解される。

 これからすると、法定代理人でありかつ継続的に利用する必要が認められる場合や、施設において継続的に介護保険申請の代行等を行う契約を締結している場合にも、特に封緘等されていないカードを管理したり、パソコンに入力して特定個人情報ファイルを作成するといった、継続的な保管は可能ではないかと思われます。

 ただ、事業者や専門職が【保管】する場合、上記ガイドラインに別添として示された、「(別添)特定個人情報に関する安全管理措置)」に従う必要はでてくるように思われます。もちろん、上記ガイドラインは、基本的には「個人番号利用事務等実施者」に当たる民間事業者を想定したものですので、本人からの代理人を想定したものではありません。とはいえ、親族であればともかく事業主や専門職が、本人から代理で預かるときに、それよりも安全管理措置が緩やかでよいとは言い難い気がします。ですので、基本的には、保管しないほうが安全ですし、保管する場合も封緘するなどして鍵のかかるところに保管した方がよい気はします。

 なお、継続的な申請代行等の委任(任意代理)は、口頭でもできないわけではないでしょうが、書面を作成しておいたほうが良い気はします。

4 施設の対応と、番号法上の問題以外の問題

 おそらく、高齢者の入居施設等であれば、介護保険の保険者証等を入居者に持参していただいていることが多いのではないかと思います。その後、そうした証明書類を、本人の保管に任せているか、それとも、施設側で保管しているかは、施設によるのかもしれません。本人の保管にまかせているときはマイナンバー関係の書類本人に任せる同様に扱うことは、一つの考え方でしょう(もちろん、本人の保管が困難な場合にもかませてしまうことは、それはそれで責任問題となりますので、上記2・3のような点に注意して預からざるを得ないでしょう。)

 一応、マイナンバー法制定の前提となった議論である、「社会保障・税番号大綱」(30頁)では、介護保険については以下の通り、被保険者証の番号を用いることに代えることを想定しているようですので、別途個人番号を保管していなくとも対応可能なことも多いかもしれません。

3.介護保険分野
介護保険法(平成9年法律第123 号)による被保険者資格に係る届出、保険給付の受給、保険料に関する手続その他番号法の授権に基づく政省令で定める利用

具体的には、国民は、被保険者証の番号を用いる手続において、当該番号に代えて「番号」を用いることができることとするとともに、国、都道府県、市町村、広域連合、国民健康保険団体連合会若しくは国民健康保険中央会又は介護サービス事業者等は、上記手続に係る事務において、「番号」を用いることができることとする。

 ここは、また介護保険関係の改正が進んでいないかと思いますので、正確なことは分かりませんが…(もし、私の確認不十分で、改正済みだったら申し訳ありません)。

 なお、仮に施設がこうした「通知カード」「番号カード」書類を管理している場合に、こうした書類を法定代理人等から求められたときに提供してしまってよいのかどうかは、一見悩ましいかもしれません。たしかに素直に条文だけを見ると、法19条で提供してよい場合に書いていないように見えますが、この場合は

三 本人又はその代理人が個人番号利用事務等実施者に対し、当該本人の個人番号を含む特定個人情報を提供するとき。

、「本人」が「代理人」に渡すとき(このことは、上記の条文で当然に許容されていると解されます。)の、【使者】に(施設が)当たると考えられますので、本人の意思に基づくと解される範囲では可能でしょう。

 その場合に、本人の意思を厳密に確認するかどうかは、個々の本人や施設の状況にもよるかもしれません。また、代理人への交付は、「法律で定められた手続き」である「個人番号利用事務等実施者に対して提供するとき」のみ可能で、それ以外は本人の同意があっても交付できないことが原則であることからすれば、「何に使用するのか」については書面等で申請をもらってもよいのかもしれません(そうした問題意識に触れたものとして、第一法規「自治体職員のための番号法解説[実例編]p13~)。

 また、カードそのものを渡してしまった場合に、施設や本人自身が行う手続き等で必支障をきたすというのであれば、カードの写しを渡すにとどめることも、考えらえると思います(カードの写しであっても、法定代理人が行政機関に対し郵送で手続きを行うことは可能です。)

5 その他

 こうした方について、通知カードにとどまらず個人番号カードを取得したほうが良いかどうかは、何とも言えません。落としたり、紛失するリスクもありますし、個人番号カードを持つことのメリットがまだよくわかりませんので。

 軽減税率などについての議論いかんによっては、メリットはあるのでしょうが、高齢者の代わりにカードで買い物をして報酬を貰う人が出てきてもおかしくないように思われ(上記2の通り、番号が見えない状態であれば預けてもよいのだとすると、ですが)、プライバシー侵害、なりすましの危険も増しそうな気がしています。

 マイナポータルについては、内閣官房ホームページのFAQに以下のように書かれているとおり、まだ詳細がわからないので何とも言えない状態でしょうかね…。

Q6-3 高齢者・障がい者の方々や家にパソコンが無い人はマイナポータルをどのように利用すればいいですか?

A6-3 マイナポータルの画面設計等に関しては、高齢者や障がい者の方の使いやすさにも配慮していきたいと考えています。
 また、パソコンがない方等にもマイナポータルを使っていただけるよう、公的機関への端末設置を予定しています。その際、利用しやすい場所に設置すると同時に覗き見防止などのプライバシー保護にも配慮したいと考えています。(2015年4月回答)

 ここで書いた内容は、タイトルの通り、私自身の「試論」にすぎません。これをもとに、いろいろな施設なり、弁護士の間で、どうしたらよいかという議論が進んでいくと、私の理解不足の点も出てくるかもしれないと思っています。

 そのときは、申し訳ありません。

※ 9/28 他の先生から、少し誤解を招くのではないかと言われたので、赤字部分及び取り消し線部分を修正しました。ただ、「どこが誤解を招くのか」までは教えていただけなかったため、ほかにも誤解を招く部分があるのかもしれません。力不足で申し訳ありません。

※ 10/6 遅まきながら、企業向けの研修用資料を作成中に、9/29付で介護保険も含む厚生労働省令が定められ、介護保険分野でも、保険者証の番号と言うわけではなく、別途個人番号が各申請の際に必要とされていることが分かりました。取り急ぎブログを直すとともに、ここに注意書きを加えてリンクを張っておきます。

http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000099440.pdf