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【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

「毒になる親 一生苦しむ子供」【書評】

『毒になる親 一生苦しむ子供』(フォワード,S., 玉置悟):講談社+α文庫|講談社BOOK倶楽部

 随分前に目を通した本ですが,マイナンバーにかこつけて書く暇がなかったので,このあたりで紹介を。
 「児童虐待」を受けた経験があり,その「児童虐待」を受けたことによる「自分の価値観のゆがみ」や「こだわり」等を直したいと望む人向けに,書かれた本です。

 書かれてからいささかの時間が経過しているようですが(日本において毎日新聞社から翻訳が出されたのが1999年です。),いまなおその価値を失っていないと感じる本です。

 この本に書かれていることが「多くの人に妥当することか」という点では,何とも言えない印象を持ちます。ただし,少年の支援者が,当該少年について「こうしたこともあるのかもしれない」という仮説を念頭に置いて行動する際,その仮説を増やし,考えを深めるためには,意義があるかもしれないと思います。

1 どのような人に勧められるか

 この本を,当事者-実際に児童虐待を受けた経験のある人-に勧めることは,専門家でない限り控えた方が良いのではないか,個人的にはそう感じるところもあります。児童虐待を受けた経験のある人の心を,その影響から解き放つために,この本には【かなり強い言葉や説明】も使われています。そのため,読み手が「自分がこうなったのは親のせいだ」と思い込み,その人が自分の人生の正面から向き合うのをかえって妨げる恐れも,無いとは言えないように思われます。 

 とはいえ,少年非行や,児童福祉に関わる人、特に幾ばくかの経験を積まれ、上記のような危険も認識されている方であれば、目を通しておくとよいのではないかと思わされます。

2 内容について

 内容については,セラピーを通じて児童虐待の経験のある方を見てきた著者が,そうした人が身につけていた「ものの考え方」「反応の仕方」について,それにどのように「親からの影響」が現れているかを見つけ,そうした影響を取り除いた「ものの考え方」「反応の仕方」を身につけ直すためにはどうしたらよいか,といったことを書いています。
 読み手をセラピーを希望する人と仮定し,そうした人に【親からの影響】を納得させるためにでしょうが,この本では,「親ではなく自分が悪い」と思っている人に対して「そうではない」という強いメッセージをちりばめてあります。
 ただし,人間はいろいろな人や社会の影響を受けるものですので,この本に書いてあるような内容がそのまま全て当てはまる人,というのは決して多くはないと思います。
 セラピーの中で,支援者が対象者をよく観察して向くかどうかを見極め,また,対象者が間違った考えをしてしまいそうな場合にはまた別の方向から働きかけを行う-そうしたことが可能な状況であればよいのかもしれませんが,そうした状況の無いまま,この本だけを読むと,冒頭に触れたように、強すぎる言葉に影響を受けて自分の不遇な原因を他人のせいにするようになってしまう,という危険性もあり得る気がします。

3 支援者に勧める理由

 そうはいっても,この本の中で書かれている事柄は非常に具体的なもので,「なるほど,子供がこんな考え方や反応を身につけたのは,そうした理由があったかもしれない」という【可能性・仮説への気づき】を得るためには有用ではないかと思います。
 もちろん,それは【可能性・仮説】に過ぎません。それを「こういうことじゃないのか?」と子供にそのまま質問したりすることは,「あるいは誤解であるかもしれない仮説を,子供に正しいことと思い込ませる」危険があるため,厳に避けなければならないと思います。
 しかし,そうした【可能性・仮説】を念頭に置くことができれば、その【可能性・仮説】が正しいかを見極めるために必要な質問事項がわかることもありますし,かえって子供にとって害があるかもしれない選択を避けることができるかもしれない。
 そう思います。