読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

マイナンバーは危険なのか(その1「なりすまし」の危険)

マイナンバー

 ご無沙汰していました。

 やはり、懸念していた通り、マイナンバーによる詐欺被害なども生じているようです。

マイナンバー制度に便乗した不審な電話等にご注意ください!(注目テーマ)_国民生活センター

 こうした詐欺被害の背景には,マイナンバー制度のわかりにくさ・複雑さもあるものの,他方で,いくつかのメディアを通じて世間で言われているマイナンバーの危険性である,「なりすまし」「情報漏えい」に対する不安について、犯罪者に付け込まれてしまっているところもあるように思います。

 そのため、あちらこちらで書かれていることですが、マイナンバーの「なりすまし」「情報漏えい」の危険について、まずは「なりすまし」について触れてみたいと思います。

1 「なりすまし」とは

 マイナンバーを他人に知られると,「なりすまし」が起きる-これは,【アメリカのSSN】(Social Security Number社会保障番号)や,【韓国の住民登録番号】でそうした「なりすまし」が起きているといわれていることが,根拠のようです。

 たしかに,アメリカの社会保障番号について,企業のコンサルタント部門からの情報ではあるものの、

「米国ではこのようにSSNが幅広く用いられ、またSSNの下4桁を知っていることを本人確認の手段として用いることが広く行われてきたことなどから、SSNを利用した成りすましが大きな問題となった。」

という内容が掲載されています。

みずほ情報総研:日本の番号制度(マイナンバー制度)の概要と国際比較(2/2)

 また、韓国においても以下のような文献によれば、なりすましの被害は生じているようです。

「韓国におけるインターネット取引では本人確認手段として住民登録番号を記入させることが慣例となっている。しかし、“他人へのなりすまし”が頻発しており、現在大問題となっている。」

高山憲之「諸外国における社会保障番号制度と税・社会保険料の徴収管理」15頁

 他方で、番号制度の導入については、いろいろな国が番号制度を導入しているという話がありましたが、そのなかで、「なりすまし」が大きく言われているのは、アメリカと韓国のようであり、これが国民性の差で片づけられるものではないのであれば、「なりすまし」が【生じる制度】と【生じない制度】があるように見えます。

 では、日本のマイナンバー制度では、こうしたアメリカや韓国と同じ「なりすまし」というのは、起こりうるのでしょうか?。 

2 本人確認とは?‐「実印」と「お客様番号」

 上の各引用の、下線を引いているところを見るとわかるのですが、アメリカと韓国の番号制度の共通点は「本人確認の手段として」として個人番号を使ってしまったところにあります。

 これは、いわば実印】などと同じように「個人番号を知っていれば(あるいはインターネットで記入できれば)、本人が取引を行っていると扱ってよい」(識別)ということを意味していると思われます。

 これに対して、日本のマイナンバー制度では、相手が番号を知っていたとしても、別途「写真付きの身分証明書」などによる「本人確認」を要求しています。たとえるなら、同姓同名のお客様が複数いる場合に区別するための、「お客様番号」により近いのかもしれません。

 マイナンバー法16条の定めが、これに当たります。

第十六条 個人番号利用事務等実施者は、第十四条第一項の規定により本人から個人番号の提供を受けるときは、当該提供をする者から個人番号カード若しくは通知カード及び当該通知カードに記載された事項がその者に係るものであることを証するものとして主務省令で定める書類の提示を受けること又はこれらに代わるべきその者が本人であることを確認するための措置として政令で定める措置をとらなければならない。

 アメリカや韓国のような「なりすまし」が被害につながるためには、「個人番号を知っていれば本人が取引を行っていると扱ってよい」ということを裁判所が認めることが必要になります。なぜなら、業者がそのあと裁判等でお金の支払いなどを請求したとしても、結局裁判所がそれを有効と認めなければ、強制執行等ができないためです。

 そして、日本のマイナンバー制度は、①利用目的がそもそも厳格に定められており、現時点では民間事業者(クレジットやサラ金業者等)が本人確認などにこれを使用することは近似されているうえに、②マイナンバー法そのものが上記のとおり、「番号を知っているだけでは不十分で別途本人確認をしなければならない」としていることからすれば、「個人番号を相手が知っていたから、取引相手が本人だと判断した」という業者の言い分に裁判所が耳を傾ける可能性は低いように思われます。

 そのため、私自身としては、現時点でのマイナンバー制度で、アメリカや韓国で生じているのと同じような「なりすまし」が起きる危険は、大きくないのではないかと思っています。

3 日本のマイナンバー制度で起きる「なりすまし」?

 ただ、そのことは「なりすまし」が決して起こらないということまでは意味していません。

 一方的に郵送されてくる【通知カード】では無理ですが、【申請】した場合に交付される「個人番号カード」は、写真がついており【身分証明書】として使用できますので、この個人番号カードを【偽造】等されてしまえば「なりすまし」が起きることもないとは言えません。とはいえ、そのこと自体は、「運転免許証」や「住民基本台帳カード」でも起きた危険と同じであり、マイナンバー制度によって危険が大きくなったという話とは違うと感じています(まさか、行政手続きのたびにDNA鑑定や網膜認証をしてもらうことはできないと思いますから…)。 

 また、個人番号カードには「ICチップ」がついていますので、このICチップの中にどのような機能を盛り込むかによっては、「なりすまし」の危険なども出てくるのかもしれないと思います。

 韓国・アメリカの番号カードには、ICチップなどはついていませんでしたので、こちらの危険は、また別の防止が求められるだろうと感じています。

 いま「個人番号カード・公的個人認証サービス等の利活用推進の在り方に関する懇談会」においてこのICチップにどのようなサービスを盛り込むかが議論されているようですが、慎重に議論してほしいな、と思いますね。 

 なお、個人番号カードを落とすなどした場合、【個人番号そのものの変更】は「情報が漏えいし」「不正に用いられる恐れ」が必要ですが、【個人番号カードの公的個人認証の利用停止】であれば、以下とおり「個人番号カードコールセンター」に電話すれば可能のようです(身分証明書として使用された場合などのために、後から「紛失していたということを証明することとの関係」までコールセンターでできるかはわかりませんね。そこまでコールセンターが対応できない場合には、別途警察への届出等もしておいたほうがいいのかもしれません。私自身、コールセンターの取り組みや、警察側の対応がどうなっているかまでは把握していませんので、はっきりしたことを書けないですね…。)。

Q3-7-3 個人番号カードを紛失した場合にはどうすればいいですか?

 A3-7-3 平成28年1月から24時間365日、個人番号カードの一時利用停止を受け付けるコールセンターを開設します。仮に紛失した場合、速やかにコールセンターに連絡いただければ、第三者による成り済まし利用を防止します。(2015年12月回答)

総務省ホームページマイナンバー社会保障・税番号制度FAQより

以下が「個人番号カードコールセンター」の連絡先になります。

 

www.kojinbango-card.go.jp

4 現状の中で、他に選びうる手段はあったのか。

 制度導入から、混乱が続いており、マイナンバーに対する批判の声も聞かれますし、私自身マイナンバー制度に「積極的賛成派」とまでは言えないところを残しています。

 他方で、この高齢化社会・不況社会の中では、税収入が減るのに対し、社会保障費が増大してしまうことは避けられないように思っていますので、その増大につながる不正受給を防止する効果も期待でき、また、増税社会保障費の減額のときにも「より公正に行うためにはどうしたらよいか」を考えていく材料になりうるマイナンバーに対して「反対すればいいわけでもないかな…」という思いを残しています(増税社会保障費の減額を、積極的に歓迎はしていませんので…^^;。)。

 他方で、個人番号カードがより普及するためには、使い勝手を良くしないといけない(その利便性を高めなければならない)のですが、「利益」とつながってしまうとそれが不正に利用されることにつながっていく可能性も否定できず、少しの懸念は持った状態です。

 たとえば、日本の戸籍制度は、諸外国と比べても非常に優れた制度ですが、他方で、それが成り立っていた背景には、「戸籍」があまり「利益」と大きな結びつきがなかった(あるとないとでは大違いですが、不正利用するには魅力が足りないのかもしれません。)、という背景もないわけではないだろうと思っており、そうしたところがどうなってしまうのかについて、少しの心配は持っている状態でしょうか…。