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【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

成年後見に係る法改正(その2)-成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について

介護・後見等

 実のところ、前のブログに書いた内容以上のことについては推測できる資料が少なすぎたので、書く気が無かったのですが、他の弁護士の先生と少し話していて、関心ができたこともありましたので、それについて、少しだけ追記します(もう少し続くかも?。☞ひとまず4/26に、「2」以下を追記しました。)。

1 法に基づく死後事務として、専門職後見人が処分行為等を行った場合、【法定単純承認】となるか。

 前のブログの一番最後で、【相続人兼成年後見人となる親族後見人】について

 厳密には「相続人」と「成年後見人」の立場は異なるとはいえ、【相続放棄】をする場合などは、注意がいるかもしれません。支払い等の死後事務が「法定承認」とみられてしまう可能性などもあるかもしれませんし、そうではなくても、一部の債権者だけに返済するような形となれば、紛争化する可能性も全くないとは言えない気もしますね。 

という記載をしたのですが、その後、知り合いの先生の間で【専門職後見人が支払い等した場合に、法定単純承認になりうるか】という話題が少し出てきました。

 これは、【ならない】と思います。まあ、それ(専門職後見人の場合は問題とならない)を前提として、「相続人兼成年後見人となる親族後見人」についての問題として、前のブログで書いたところではあるのですが…。 

(1)基本の確認:「法定単純承認」とは

 成年被後見人がお亡くなりになられた場合、成年後見人の管理していた成年被後見人の財産=【遺産】については,【相続】が開始することになります(民法882条)。

 この相続というのは,原則としては被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」というものになります。

 ここで問題なのが、「権利」だけではなく、「義務」も承継される、ということです。成年被後見人が常に【お金】や【貯金】といった【プラスの財産】(権利)を持っているとは限りません。【借金】のような【マイナスの財産】(義務)を持っていることもあり得ます。

 そのため、お亡くなりになられた方の相続人は、原則として3か月の期間内に、相続を【放棄】するか【承認】(承認には単純承認と限定承認があります)するかを選ぶことができます。

 ただ、【承認】や【放棄】を行う前に、第三者から見て相続人が【相続したのでなければ本来はできないはずの行為】を行った場合等は、それをもって【承認】したものと扱われることになります。これが【法定単純承認】です。

(法定単純承認)

第九百二十一条  次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一  相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

二  相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

三  相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。 

(2)成年後見人は、「法定単純承認」ができるか。

 では、いわゆる成年後見人が「法定単純承認」ができるのか、というと、一般的には「できます。」が、成年被後見人の死後、(専門職の)成年後見人が死後事務として行った処分行為は【法定単純承認】にはならないと思います。

 まず、前半部分について。

 裁判例では、成年後見人と同じ「法定代理人」の一つである、「不在者財産管理人」が法定単純承認にあたる処分行為(家庭裁判所の許可を得て不動産を売却)した場合について、これが【法定単純承認】となるため、その後失踪していた相続人が「相続の開始を知ってから3か月以内」にした相続放棄を【無効】としたものがあります(平成26年9月18日名古屋高裁判決)。

 法定代理人は、本人しか行使しえない権利(一身専属権)は行使できないとされていますが、相続の放棄・承認は一身専属権には当たらないと考えられていますし、こうした場合に承認はもちろん、放棄もできないとなると、不在者財産管理人の意味が失われてしまうからだろうと思います。

 次に、後半部分についてですが、上記の理屈は、【(専門職の)成年後見人が死後事務を行う場合】にそのまま妥当することはありません。

 なぜなら、不在者財産管理人の場合には、裁判所から選任された時点で【誰の】法定代理人になるかが明確になっているのに対し、成年後見人の場合には、成年被後見人がお亡くなりになった以上、【誰の】法定代理人であるかは、各相続人が承認・放棄をするまで分からないからです(なお、この死後事務について、委任・代理とする考え方と、事務管理とする考え方がありうるようです。後者だと、金融機関等の払い戻しに難が生じるでしょうし、報酬請求権にも結び付かないかもしれませんね。)。

 これは、不在者財産管理人と同じ法定代理人である、相続財産管理人の場合を考えればわかることです。相続財産管理人の代理権は、【相続人が相続の承認をしたときに】消滅するとされており(民法956条)、その前に処分行為を行っていたからといって、相続人が承認したことになってしまう(法定単純承認)わけではありません。

 このことは、民法918条2項の「相続の承認または放棄前の相続財産の管理者」について、「相続の承認放棄は、相続人自身が決すべき問題であって、管理者が家庭裁判所の許可を得てなすことはできない」(片岡武/金井繁昌/草部康司/川畑晃一「家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務第2版」(日本加除出版)p257)とされることとも整合性があるのではないかと思います。

 (なお、不在者財産管理人の代理権が、相続の承認と同時に消滅すると規定されていることとの関係からすると、【そうした規定のない=つまり、相続人が相続を承認してもその後も行使しうる】成年後見の死後事務の権限は、【事務管理】ととらえることに親和します。他方で、これまで後見人に認められてきた応急処分義務は、解釈上事務管理ではなく【委任】と解されていることとの統一性も、問題になるかもしれません。)。 

(3)成年後見人の死後事務における考慮要素

 逆にいうと、成年後見人が死後事務を行う場合には、その債務・管理費用を相続する相続人が出てくるかもしれないし、出てこずに相続財産の範囲で対処しなければならない(法律上は相続財産法人が成立することになります)可能性もあることになります。

 そのため、債務超過の場合はもちろん、債務超過に至らなくても処分の難しい資産を除いた流動資産が負債や費用を超えるような場合には、相続財産管理人や破産管財人に求められるような「どの債務を優先的に支払うか」「これ以上負債を負うことはできないか」等の配慮が求められてくる可能性があるでしょう(相続人が全員放棄することが確定したのであれば、相続財産管理人を選任すればよく、さすがにそこまで成年後見人がやらなくてもよいのではないかと思いますが、この辺り、裁判所がどういった運用を望むかはわかりませんね…。)。

 とはいえ,破産管財人や相続財産管理人は,財産の【清算】を念頭に置いていますが,成年後見人の死後事務の場合には,相続人が財産を相続することも当然ある(その方が多い)わけですから,【民事再生】の場合と同じような,【継続】を念頭に置いた考慮も必要になってくることが全くないかは分かりません(事業の再生でもない限り,それほどないと思うのですが。)

(4)相続人兼成年後見人の場合

 しかしながら、専門職後見人ではない、親族後見人の場合には、その成年後見人自身が被後見人の相続人に当たること(立場を【併有】すること)もあるかと思われます。そうした場合に、処分行為をやってしまうと、【法定単純承認】とみなされると思われます(「あくまで後見人としてやったにすぎず、相続人としてやったのではない」と主張することは難しいと思います。)。

 相続の放棄・承認の制度や、法定単純承認の制度は、【相続債権者=お亡くなりになられた成年被後見人に対して債権を持っていたもの】の取引の安全を保護するものでもありますので、上のような主張を認めてしまっては取引の安全が図られないことになりますし、相続債務の中で特定の債務のみの恣意的な返済を認めることに繋がる可能性もあるからです。

 そのため、こうした方の場合には、今回の法律ができる前と同様に、相続放棄を行うかどうかを検討し、相続放棄を行う場合には、それであっても可能な行為(法定単純承認に当たらない行為)の範囲で、死後事務等を行っていただくことになるのだろうと思っています。

2 「死後の事務委任契約」との違い

 なお、いわゆる「死後の事務委任契約」(契約によって委任者が受任者に、自らの死後の事務を委託したもの)について、民事法研究会「実践成年後見」58号44ページでは、「相続人が委任者の地位を承継するのであり、受任者の行為により法定単純承認となってしまう可能性も完全には否定できない」との記載があります。

 こうしたことが今回の民法改正に基づく【成年後見人の死後事務】についても、「たとえ専門職がやった場合でも『法定単純承認』とみなされないか」という懸念の背後にあるのかもしれません。

 しかし、私としては、今回の民法改正に基づく【成年後見人の死後事務】については、いわゆる「死後の事務委任契約」の場合と異なり、(相続人の地位を併有する方がやったような場合でなければ)法定単純承認となってしまう可能性は『ない』のではないかと思っています。

 なぜなら、「死後の事務委任契約」においては、「遺言」ではない「契約」によって、なぜ依頼者の死後に効力を発生させることができるのか、という問題がありました。そのため、「死後の事務委任契約」において書かれた具体的な【事務】が【法定単純承認】にあたるようなものであれば、お亡くなりになられた方の意思として、「相続人に確認の上で行ってほしい」「相続人の代理として行ってほしい」という趣旨と解釈される可能性もありましたし、【事務】の相手方から見た場合にも、「(特定の)相続人に了解を得て行っているのだろう」「(特定の)相続人の代理人として行っているのだろう」と解される可能性がありました。

 つまり、「契約」では、「受任者」と「委任者が亡くなられた後の相続財産あるいは相続人」との関係について説明ができないという問題が残っており、それが【特定の相続人の代理人】という法解釈を入れる余地を残していたのではないかと思います。

 これに対し、今回の成年後見人の死後事務では、たとえ身寄りがなく相続人がいない状態であっても、法律上成年後見人が死後事務を行えることが明確(というか、そうした時こそ最も必要)になっていますので、この死後事務が【特定の相続人の代理人】としての権限を規定したものでないことは明らかです。

 つまり、今回の法改正による成年後見人の死後事務は、未確定な【相続財産あるいは(特定されていない)相続人】との関係での「法定代理」あるいは「法定(?)事務管理」ととらえるしかなく、そのように民法上規定されている以上、成年後見人の死後事務が法定単純承認になることはないと思っています。

 わかりにくい説明かもしれませんし、今後、他の先生の見解もお聞きしてみたいところではありますが…。

 あくまで、法施行前の暫定的な見解として、見ていただけると幸いですね。

 なお、今回の法律は、あくまで任意後見人を含まない「成年後見人」についてのものですし、契約(死後の事務委任契約)がある場合を想定したものではありませんので、「死後の事務委任契約」の場合に、受任者の行為が法定単純承認にあたりうるか、という問題点は残るのだろうと思いますので、その点には注意が必要だと思っています。 

3 「成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き」

 また、死後事務を行う成年後見人は成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き」死後事務を行える、とありますので…。

 「念のために相続人に意思を確認したりした場合、その相続人の代理人として行為したことになり、法定単純承認とならないか」と気にされる方もいらっしゃるかもしれません。

 これも、

専門職の後見人が成年後見人の死後事務として行っている」ことを明確にしている限り、法定単純承認にあたることはないのではないかと個人的には思います(相続人の立場を併有している場合は、上に書いたように法定単純承認とみられてしまうと思います。)

 いかに相続人の意思を確認したとしても、この「成年後見人の死後事務」を行う場合には、あくまで「お亡くなりになった成年被後見人の、成年後見人」という立場・名義で契約を結んだり、行為を行うのではないか、と思います。

 そうすると…。今回の法改正で民法上それが成年後見人には「できる」と書かれているわけですから、契約の相手方や行為の相手方からしても「特定の相続人の代理人として行っている」とみられることはないと思うのですよね。

 もちろん、今後この法改正に従って、「成年後見人」の「死後事務」として行為をするときに、その【名義】は気を付けないといけないと思っています。

 この辺りも、今後議論していっていただけたらな、と思いますね…。

※ 上にも書きましたが、「2」以下は、4/26に追記しました。

※ 5/2 書き足した「2」以下について、「専門職」(相続人ではない)後見人の話であることが分かり辛い記載になっていましたので、多少の修正を行いました。

※ 5/5 民法918条2項の「相続の承認または放棄前の相続財産の管理者」との整合性に気が付き、書き足しました。