【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

再婚禁止期間の短縮(6箇月から100日へ)

1 はじめに

民法の一部を改正する法律」が本日成立したようです。

●民法の一部を改正する法律案

 具体的に、従来の民法の定めと何が変わったかと言うと、以下のようです(削除等されたところは取消線、追加等されたところは赤色で書いてみました。)。 

 (再婚禁止期間)

第七百三十三条  女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月起算して百日を経過した後でなければ、再婚をすることができない。

2  女が前婚の解消又は取消しの前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。

 一 女が前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合

 二 女が前婚の解消又は取消の後に出産した場合

(再婚禁止期間内にした婚姻の取消し)

第七百四十六条  第七百三十三条の規定に違反した婚姻は、前婚の解消若しくは取消しの日から六箇月起算して百日を経過し、又は女が再婚後に懐胎した出産したときは、その取消しを請求することができない。 

  なぜ、こうした点が改正されたのか、また、そもそもなぜ女性にだけ一定期間再婚が禁止されるのか。

 それは、そもそも法律で、子どもの「お父さん」と「お母さん」が決まる仕組みによるものになります。 

2 民法でお父さんとお母さんが決まる仕組み

 法律上の親子関係と言っても,実際にお母さんから生まれれば(少し硬い言葉ですが法律では「分娩」といいます。),そのお母さんの子どもであることは当然です

 これに対して,お父さんの方は少し複です。お父さんの体の中から子どもが出てきてくれるわけではないので、お母さんの場合のように、お医者さんが目で確認することができません。日本の法律も,外国の法律も,できたころにはDNA鑑定などがあったわけではないですし、いちいちDNA鑑定をするのは費用もかかり、乗り気ではない方もいらっしゃる可能性があります。

 そうはいっても,「お父さんが誰か」が分からないままでは,子どもも困ってしまいますし,法律上その子を保護する「お父さん」が誰かが分からず,役所も困ってしまいます。

 そこで、日本の法律では,「男性」と「女性」が、「結婚してから」「離婚等するまで」に、お母さんである女性の身体に宿った(これも硬い言葉ですが、法律では「懐胎」といいます。)子は、基本的には,お母さんと結婚している【男性】の子と推定することにして、こうした子どもを【嫡出子】と呼んでいます。

民法第772条1項 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

 でも、赤ちゃんがお母さんの身体にいつ宿ったのかは、正確にはわかりません。

 そこで、法律では、赤ちゃんがお母さんの体に宿ってから,生まれてくるまでには少し時間がかかることを前提として、お父さんとお母さんが結婚した後200日より後、そしてお父さんとお母さんが離婚してから300日以内に【生まれた】子どもが、上で言う【「結婚してから」「離婚等するまで」に、お母さんである女性の身体に宿った子】と推定することにしています(やはり硬い言葉ですが、法律では「推定が及ぶ子」といいます。)。

民法第772条2項  婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。 

図で示すと、こんな感じでしょうか。

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 なお、嫡出子以外の子ども(嫡出でない子)については、お父さんに当たる男性が「自分がお父さんです」と役所に届け出た場合(戸籍法60条ないし61条に定める方式での届出です。これを法律上は「任意認知」と言います。)に,原則としてその男性が父親になることになります。 

3 再婚禁止期間がなかったら(離婚後すぐ再婚ができたら)

 女性が離婚と同時に再婚することが、もしできてしまうとすると…。

 離婚から300日以内に子どもが生まれると、その子は、離婚した男性が父親だと推定されることになります。他方で、結婚してから200日より後に子どもが生まれると、その子は、結婚した男性が父親だと推定されます。

 すると?。

 離婚=再婚してから【200日より後300日以内の、100日間】に生まれた子どもは、離婚した男性が父親なのか、再婚した男性が父親なのかがわからなくなってしまいます(これを「父性の推定の重複」といいます。)。

 図で表すと、こんな感じでしょうか。

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4 再婚禁止期間

 こうしたことが起こってしまうと、困ってしまいますので、これまで民法では、上の「再婚禁止期間」の条文で見た通り、前の婚姻が解消・取消しの日から【6箇月】の間は、女性は再婚できないとされていました。

 なぜ、「100日」より多い「6箇月」とされていたかというと、民法ができた

 当時は,専門家でも懐胎後6箇月程度経たないと懐胎の有無を確定することが困難であり,父子関係を確定するための医療や科学技術も未発達であった状況の下において,再婚後に前夫の子が生まれる可能性をできるだけ少なくして家庭の不和を避けるという観点や,再婚後に生まれる子の父子関係が争われる事態を減らすことによって,父性の判定を誤り血統に混乱が生ずることを避けるという観点から,再婚禁止期間を厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間に限定せず,一定の期間の幅を設けようとしたものであったことがうかがわれる。

ということのようです(最高裁判所平成27年12月16日判決より引用)。

 しかしながら、この最高裁判所の判決において、今はもう、100日を超えて再婚を禁止することは違憲とされましたので、それに合わせて今回法律を改正し、【再婚禁止期間を100日とした】ものになります。

 なお、前の婚姻の解消または取消しから100日を経過していない場合でも、女性が①前婚の解消又は取消しの時に懐胎していなかった場合にはそのあと生まれたお子さんが前結婚されていた男性との間のお子さんであるとの推定は働きませんし、前婚の解消又は取消の後に出産した場合には、そのお子さんは前結婚されていた男性との間のお子さんであるとの推定が働きますが、その後に生まれてくるお子さんについては、そうした推定が働かなくなりますので、こうしたことについて【お医者様の証明書】(ここは、報道による情報ですが。)があれば、婚姻届けを受け付けてくれるようです。

 まだ通達等が明らかにされていませんが、おそらくこちらの「懐胎時期に関する証明書」と同じような様式が、そのうち公開されるものと思われます。関心のある方は法務省・法務局などに問い合わせればわかるかもしれませんね。

※ 6/16 遅まきながら、6/3付で法務省HPにおいて医師の証明書の書式が公開されたことに気が付きましたので、以下にリンクを貼っておきます。

法務省:民法の一部を改正する法律(再婚禁止期間の短縮等)の施行に伴う戸籍事務の取扱いについて