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【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

アディクションと加害者臨床【書評】

気になる、おすすめの書籍

 さきのブログで書いたように、小林桜児先生の話を聞いて、すこし【依存症】というものについて知りたく思い、通勤電車の中でこの本を読んでいました。

 藤岡淳子編著「アディクションと加害者臨床」(金剛出版2016)

 金剛出版さんの本は,家族療法リソースブック(ちょっとこの本は期待と違ったのですが。)や,新児童精神医学入門など,なにかしら司法と精神医学が交錯する場面で知りたいことがあると,買ってしまっています。

 アディクション(addiction)というのは、嗜癖,つまりある特定の物質や行動、人間関係を特に好む性向をいうようです。

 この本の編著者は,臨床心理士の資格を持ち,府中刑務所分類審議室の首席矯正処遇官,宇都宮少年鑑別所の鑑別部門首席専門官,多摩少年院教育調査官などを得て,いま大阪大学大学院の教授をつとめながら,「島根あさひ社会復帰促進センター」「もふもふネット」といった活動にも関わられている方のようです。

 大阪大学のホームページの「研究者総覧」に掲載されている論文の一覧などを見ると,ちょっと圧倒されてしまいますね。

1 本の概要

 この本では,まず編著者の藤岡先生が,アディクションがなぜ生じるかということについて,仮説(おそらく)を挙げ,それに対して,アルコホリクス・アノニマス(AA)のような「治療共同体グループ」が何故効果を生じうるのかについて書かれています。

本書におけるアディクション理解の前提として、アディクションは次のような機制で生じると考えている。早期成育歴のなかで、生きていれば必ず体験する欲求の不充足によって生じる否定的な感情を、燻沈静化してくれる親密な関係性を体験できなかった人が、その後も否定的な感情体験を話したり慰めてもらう対人関係を持つすべを知らないために、そうして、それを完遂しきれずに物質や行動によって「快感」を得ることに頼るようになる。

といったような記載などは,小林桜児先生のお話とも,共通しているところがあるように,素人目には感じられました。

 その上で,第1部「成人のアディクションと加害」において,様々なアディクションに携わられた支援者の方々の論稿を,第2部「子ども時代に見えてくる関係性のつまずき」で,子ども時代のトラウマへの支援に携わられた方々の論稿をそれぞれ掲載し,最後の第三部「アディクションと犯罪からの回復」において,アディクションになってしまったり,犯罪を犯してしまった経験を持ち,回復の途上にある人たちの座談会を掲載し,その後その言葉の中から「回復のために必要なこと」が何かを考察しているようです。

 情けないことに,この本を読むまで,矯正の現場でこうした治療共同体を用いての先進的な試みが行われていることを知りませんでした。

2 感想

 以前,「反省させると犯罪者になります」という本についてブログで触れましたが,あの本も確か【矯正】の現場に携わられた方が書かれていたように思います。

 前のブログでふれた刑の一部執行猶予といい,まだ依存症等の分野に限定されているとはいえ,矯正の現場では個々の【人】に応じた社会復帰の方法が模索されつつあるように思えます。

 他方で,【司法】の現場では,少年事件における家庭裁判所調査官制度などが先駆的な試みだったように思うのですが,少年法の年齢引き下げ問題や,裁判員裁判への対応等を検討する中で,ケースワーク的な側面が徐々に失われていかないか,すこし怖いと感じるところもあります。

 折角矯正の現場でこうした試みが行われているので,司法の,家庭裁判所調査官の現場で培われた知見なども,連携していくことでもっと活かすことができないのか…。

 そんなことも,少し考えてしまいますね…。

 また,小林先生の話も,この本も,アディクションや犯罪を犯してしまう人の心の中に,子どもの頃のトラウマが影響している可能性について,着目していたように思われます。

 そうした意味では,少年事件や児童相談所等の活動などに力を注ぐことが,少しでもこうした問題を減らすことにつながるのではないかとも思いますね(もちろん,こうした活動も限界はあるのですが…)。

 その関係では,重大事件・凶悪事件に限らず全ての少年に適用されてしまう少年法の改正問題については,慎重に検討して頂きたい気持ちは残るでしょうか。

 そんなことも,考えてしまいますね。