事務職として働いていた男性が、定年後の再雇用で、清掃業務を提示されたこと等について、違法性を認めた高裁判決が出た、という報道があります。
再雇用巡りトヨタ敗訴、127万円支払い命令 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)
定年後の再雇用「事務→清掃は違法」 トヨタに賠償命令:朝日新聞デジタル
再雇用で別業務は違法 名古屋高裁、トヨタに賠償命令 :日本経済新聞
日経の記事を見ると、
定年後にどんな労働条件を提示するかは企業に一定の裁量があるとした上で「適格性を欠くなどの事情がない限り、別の業務の提示は高年齢者雇用安定法に反する」と指摘した。
とあって、これをそのまま読むとあたかも【別の業務を提示してはいけない】ように見えますが、これは【同一の業務でなければならない】わけではなく、まったく違う、嫌がらせのような業務であってはいけない、という事なんじゃないかという気はしますね。
実際、読売の記事では、
「再雇用の業務内容がそれまでと全く違い、社会通念上、労働者にとって到底受け入れがたいものだ」と指摘
したと書かれています。
また、朝日の記事では
1年契約の清掃業務で1日4時間、時給1千円のパート勤務を提示
という記載があり、それが事実であるなら、JILPTの調査等と比較しても、条件が悪すぎるように感じられますので、こうした経済面の事情も大きく影響した判決なのではないかという気もします。
新聞報道によると、原告は、再雇用されることなく定年退職となったとのことですので、【具体的にどういった労働条件であるべきだったか】について判断が下されたのではないと思うのですが、それにしては認容額が127万円と具体的ですので、どういった根拠なのか…判決文が公開されたら、是非読んでみたいですね。
各新聞の報道内容が、微妙に食い違っているため、事案を把握しづらいところがありますし、判決文が公開されるまで、詳細はわからないですね…。報道によると、名古屋地方裁判所岡崎支部が第1審だったとのことですので、ウエストロー・ジャパンでそれらしい裁判例を探してみましたが、見当たりませんでした。
いずれにせよ、そういった劣悪(給与も含めた)な労働条件についての、限定的な判断だろうと思いますので、他の事案に及ぼす影響は限られてくるかとは思います。ごく普通の再雇用の場合に影響を及ぼすことは、あまりないのではないでしょうか。
他方で、正社員を、正社員のまま60歳以降も雇い続ける場合の、不利益変更禁止の法理とのバランス等を考えても、定年後再雇用の労働条件について、一定程度の羈束はある、という方向が出てくることはありうると思います。
同一の業務だからダメ(長澤事件)と言われ、別の業務もダメ(本件)といわれた、ととらえてしまうと、混乱してしまいそうですが、上記の通りそういった趣旨ではないのではないかと思います。
ハマキョウレックス事件について、考えをまとめたいな…と思って、「手当」についていろいろ見ていたところであり、また、後見円滑化法についても何か書こうか考えていたところでしたが、早く書いていかないと時代に取り残されてしまいますね…。