【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

Q&A家事事件と保険実務【書評】

【通勤読書】で,この本を読み終わりました。

www.kajo.co.jp

 この本は,家事事件の各場面(成年後見,高齢者,相続,遺言,未成年等)で,保険契約について生じる問題について書かれた本です。

 弁護士業務において,必須の知識かというと,そこまでではないかもしれません。

 しかし,①家事事件という法律家にとって関心のある分野において知識を増や素事につながるとともに,②保険における【法律】【約款】等の具体的な適用の片鱗を理解する意味で,悪くない本だと思います。

 役人時代,保険法は,あまり勉強の必要を感じず,また,勉強が少々難しい分野でした。
 裁判官として接することの多い保険は,「責任保険」としての交通事故における任意保険であったため,結局は「損害賠償請求権の有無」の問題となり,保険法独自の問題に直面することはあまりありませんでした。しいていえば,【生命保険における高度障害の問題】や,【人身賠償保険の問題】,【保険代位と弁済代位の違い】などを,裁判の判決を書く上で必要が生じたときに,調べる程度のものでした。
 そして,保険法について横断的に書かれている書籍(山下友信「保険法」)はあったのですが,この本は保険法ができる前に書かれた本であり,保険法ができる前の商法で定められた保険の種類と比べて,現実に流通している保険の種類はより多様で,問題となっている保険がどの条文の問題になるのかも探しにくく,また,保険には大抵非常に多い【約款】があるものの,かならずしも約款が各社同一とは限らないなど,横断的な保険法の書籍のどこに問題の解決の糸口があるのかを探すことが,なかなか難しいと感じていました。

 そうした事情もあって,当時は,「法律」に準拠した横断的な書籍よりも,現実に流通している保険毎に項目を分けて書かれた書籍新裁判実務体系19「保険関係訴訟法」や,専門訴訟講座3「保険関係訴訟」-などを購入し,必要に応じて該当箇所を参照していました。

 しかし,今回読んだこの本は,家事事件という法律家が関心を持たざるを得ない分野について,保険法の条文,判例を挙げて説明が加えられており,興味をかき立てられて読み進むうちに,各種の保険の特徴や,保険の【法律】と【約款】が,【どんな場面】で【どんな働きをしているのか】についても,片鱗に触れることができます。
 横断的な書籍としても,保険法解説 | 有斐閣といった保険法に対応した書籍も出ているようですし,今なら通読しても,楽しみながら読み進むこともできる気がしますね(すでに買ってある他の本を先に読まなければならないので,読むわけではありませんが…。)。

 また,このブログでも参考文献としてあげたQ&A家事事件と銀行実務と2冊読むと,思っている以上に,【銀行】と【保険】で考えなければならないこと,気をつけなければならないことが違うことが分かり,それも面白いと思います。