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【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

電子書籍・出版の契約実務と著作権【書評】(そしてKindle Unlimited)

www.minjiho.com

 年明けに,ちょっとした課題を頂いたので,【通勤読書】で読んでいた本です。
 いえ,インターネット法研究会の有志で本を執筆したときに,「著作権法」を担当したこともあり,少し関心があったことも否めないのですが。

1 この書籍について

 紙媒体での出版の場合と異なり,電子書籍の場合,【配信事業者】という紙媒体の出版では登場しない「新たな主体」が登場します。Kindleamazonなどがこれに該当しますね。

 この【配信事業者】と出版社との【法律関係】をどのように考えるかは,可能性としてはいくつかあるのでしょう。この本では,もっとも原則と思われる【配信事業者】を【独立の契約主体】と扱う場合を想定し,その【配信事業者】が配信事業を行うためには,あらかじめ出版社は著作権者との間でどのような契約を締結しておく必要があるか,という視点から書かれています。

 出版契約については,日本書籍出版協会のモデル契約を例として解説し,また,配信契約については,日本書籍出版協会の研修会で配布されたものを例として解説がされています。前者は日本書籍協会のホームページで公開されていますが,後者は公開されているものではないようですね。

2 「Kindle Unlimited」

 読んでいて思い起こしたのが,「Kindle Unlimited」のことです。

 たしか昨年,「無制限に読むことが出来る」ということで始まった後,いくつかの書籍が読むことが出来る対象から外されたという報道を眼にしました。

 こちらの記事などでしょうか…。

toyokeizai.net

 講談社のサイトには,抗議文もありますね。

(1)出版権者に課せられる出版義務とは

 法律上,紙媒体の書籍についての「出版権者」は,著作権者等(条文上正確には「複製権等保有者」ですね。)に対して,6か月以内(この期間は契約によって変更できます。)に出版する義務継続して出版する義務を負います(著作権法81条)。

 なぜなら,出版権者は,その著作物の出版を独占する権利を持つことになるので(著作権法80条),設定を受けた出版権者が「出版をしない」となると,著作権者等が自分の著作物を発表することができず,困ってしまうからです。

 …ただ,この義務に違反した場合にも,法律上著作権者等に認められているのは,一定の手続きにより「出版権者の出版権を消滅させる」ことができるにとどまります(著作権法84条)。

 『できあがった出版物を実際に出版するかどうかについては,出版権者が判断する』と解されているようですね。上でリンクを張った日本書籍出版協会のモデル契約の8条では,出版に適さないと判断した場合に出版権者が出版契約を解除できる条項があり,この規定についてこの書籍は「確認的な規定」と説明しています。

 ただ,出版できなかったことが,例えば出版社が用意すべき出版に必要な資金を用意できなかったなど,出版社側の責任とされる場合には,著作権使用料相当額の損害賠償を認めた裁判例もあるようです平成23年10月25日東京地裁判決)。

(2)電子書籍の場合の、配信事業者の「配信義務」?

  それでは,電子出版の場合どうなのかというと,①著作権法で出版義務を負うのは【出版権者】であるため,【配信事業者】がそうした義務を負うかどうかは、出版権者と配信事業者との契約内容によることが一つ、そして、②仮にそうした条項があった場合でも、その解釈は著作権法上の出版義務を参考にされると思われますが、著作権法上出版を継続する義務は「慣行に従い継続して」出版・公衆送信行為を行う義務とされますので、電子書籍の配信の場合の【慣行】というものがどんなものなのかといったことが関係するのでしょうね。

 なお,出版権者が配信義務を負う以上,配信事業者が配信してくれないと困ってしまいますので,通常①の契約上の義務付けなどは,出版社側の意見が通れば契約に盛り込まれているのかもしれません。この書籍で例としてあげられている配信契約にも,配信を義務づけた条項があります。

 上の東洋経済の記事などを見る限り,Kindle Unlimitedのケースでどのような契約が用いられたのかは,守秘事項とされているようで,わかりません。仮に条項があったとしても、【慣行】の立証のリスクをどう判断するかという問題も、多少はあるかもしれません。

 そして、それ以上に出版社に比べ配信事業者の数は限られているのが実情であり、配信事業者との関係が悪化してしまうと、重要な販売ルートに制約を受けることになりますので,どこまで争うべきかは、非常に悩ましい問題だろうと思います。もちろん、配信事業者側も、大手出版社の協力が得られなければ、デメリットは大きいので、どこで妥協するかの問題なのかもしれませんが…。

3 まとめ

  そうした意味では,この書籍で得られる知識が,そのまま実際の現場で使えるかというと、様々な制約がある場面もあるのかもしれませんね。

 とはいえ,電子出版についてのおおまかな全体像を把握することが出来,また,配信契約についてのリスクを勘案した上で検討するためには,良い本ではないかと思います。

 もっとも,私自身が今回調べているのは,オープンアクセスにかかる問題なので,少し方向性は違ったのですが…。

 他の論稿を読む基礎的な知識・全体像を,得ることが出来たと思います。