【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

「武器としての決断思考」【書評】

 シュヴィングを読んだ後,宇賀先生の御本(持ち歩きっぱなしですが…)に戻るのがちょっとしんどく感じて,寄り道をしていまいました。

ji-sedai.jp

 一時期,大学の教授が学生向けに行っている人気授業の本として書店で宣伝されていた,「僕は君たちに武器を配りたい」という書籍と同じ著者の方が書かれた本です。目に付いたために購入しておきました。

 星海社親書の本は,初めて読んだかもしれません(ビジネス系は,日経文庫が多いですね…)。

 「決断思考」と書かれていますが,詰まるところ【ディベート】についての本です。
 いえ,今回読んでみるまでは,むしろ「リスクアセスメント」か,「シナリオ・プランニング」についての本かな?,と思っていました。
 (リスクアセスメント系の書籍は,情報セキュリティについて学んだときなどにいくつか手を出しましたが,まだ自分の中で体系化するほどには消化できていないかな,と思っています。シナリオ・プランニングは,ファシリテーターについての本を読んだときに著者が職歴を通じて学んだこととして紹介されており,一時期書籍を買おうか迷いましたが,あまりにも弁護士業から離れて行ってしまうようにも感じ,自重しました。)
 ディベートについては,広義から狭義まで定義があるようですが,この本で取り上げているのは,一定のルールに従って議論を行い,第三者が勝敗を判断する,狭義のディベートです。

 たしかに,こうした手法を身につけると,組織での会議などでは役に立つかもしれないと思います。また,裁判での尋問においても活かせるところはあると感じました。
 ただ,基本的にはコンサルタントの技法であり,真実妥当な意思決定を探すためにも使えるかもしれませんが,一歩間違えれば,顧客に「これが妥当」と説得するためだけに用いられてしまう可能性も無いとは言えない技法だと思います。
 また,この本でも,ディベートは【準備が勝敗を決める】,とされており,このことは裁判でも全く同様と思われますが,準備の部分はこの本だけで身につくものでもないため,ディベートを身につければ裁判が有利になるというわけではないのだと思います。
 そして,個人としての意思決定については…,この本でも,結局最後は【本人の主観が決める】とされているように,最後の所は自分との対話なり,自分というものの理解が重要になってくるように思われ,ディベートがどこまで役に立つのかについては,個人的には一概に言えないようにも感じました。

 ただ,コンサルタントや,営業職の方が使う一見もっともらしい論理運びの弱点を知り,世間で言われている論説に振り回されない,惑わされない力を身につけるには,良いと思います。
 そういった意味では,自分を自由にする=リベラル・アーツとして,身につけておいて損はないと思いました。