【天秤印】名古屋・横浜弁護士雑記

現在名古屋市に勤めている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

臨床心理士・カウンセラーの技法と弁護

 他にも書き留めておきたいイベント等は降り積もっているのですが(そして時間が経ってしまって書くことをあきらめてしまうのですが),昨日弁護士会で聞いたお話について少し。

1 治療的司法

 昨日は,弁護士会「治療的司法」についてのお話がありました。
 「治療的司法」というのは,いわゆる「修復的司法」とは違うもののようです。
 正確な定義は知らないのですが,「修復的司法」というのは,犯罪=社会の規範から外れることを行ってしまった人について,被害を受けた人に償いをして関係を修復することで,再び社会の中に受け入れてもらうようにする,そんなイメージを持っています(必ずしも正確ではないかもしれません。すみません。)。
 これに対して,「治療的司法」というのは,薬物依存や窃盗症といった「依存症」という病気の方々について,そのままでは社会で一緒に生活していくことに問題が生じてしまうこともあるため,まず「治療」をしましょう,そんなイメージに聞こえました(違っているかもしれません。すみません。)。
 以前,ブログに書いてみた,「刑の一部執行猶予」も,この治療的司法を活かそうとする試みの一つのようですし,矯正の場面でのこころみについてブログで触れたこともありました。
 
 高齢者・障害者の権利に関する委員会に所属していますので,障害をお持ちの方が事件を起こしてしまった場合に,その方が社会復帰する際の支障について,社会福祉士の先生に更生計画を作ってもらう等のことをして,福祉サービスとの間をつなげる弁護活動等があることは知っており,それと似ていると思います。ただ,治療的司法は,「治る病気」に対して「治療」を行うという点が,また違うように感じました。

 調べて見ると,今年の春に成城大学「治療的司法研究センター」ができたようで,そちらに所属する弁護士の先生方が,今回講師として来て下さったものです。
 そのうちのお一人,カウンセラーの資格も持つ,奈良弁護士会の菅原先生のお話が,とても興味深かったです。

2 カウンセリング・臨床心理の技法と弁護

 私自身,弁護士になったときにまず読んでみたのは,カウンセリングの書籍でした。
 それまで役人だったころも,民事裁判については,「当事者の本当のこだわりがなんなのか」を推測することが和解等に役立つと思い,リーガル・カウンセリングの書籍などを読んでいたのですが,弁護士ともなれば,それ以上に当事者の話を聞くことは多くなると思ったからです(仕事にかまけていて,書評で書くことができたのはこの本くらいでしょうか。)。
 主に刑事関係の事件などで,当事者の話を聞いた後,自分の発問と当事者の話を,記憶の範囲内で再現し,「スーパーバイズ」のようなことを行って,より相手を理解できないものか,あるいは,違う聞き方があるのではないか等,模索したこともりました。
 しかしながら,ある意味,当事者が「治療を受けることを望んで来る」ことを前提に,その「本人の意思」のもとで成立するカウンセリング・臨床心理の技法は,罪を犯して強制的に裁判手続きに付されることが決まってしまった刑事弁護の場面では,活かし難いのではないかとも感じていました。
 私自身が,刑事事件を私選ではお受けせず,国選事件のみに限っていたことも,そうした技法が活かし難かったことの要因の一つだったとは思うのですが…。

 しかし,菅原先生は,カウンセラーの資格も持ち,接見の際にも,「ラポール」「アイスブレイク」といった技法や,ご自身で考えられたノートを差し入れることで,被疑者との会話の端緒を掴むなどといった工夫を,相手に心を開いて話をして頂くことの一助としているようでした。

 これには,「限界」を勝手に考え,工夫を怠っていた自分が恥ずかしくなりました。
 やはり,刑事弁護で接見に行くときには,どうしても早く事件の概要を知りたいと思い,弁護に必要な事柄を聞くことに囚われてしまっていたようです。

 以前,ブログにも書いた社会福祉士会での成年後見の勉強会でも,臨床心理士の資格をお持ちの方が,「絵などのコミュニケーションツールを使えば,言葉でのやりとりができなくとも,被後見人ご本人の望まれていることを把握することもできるのではないか」という趣旨の発言をされ,はっとさせられたことがありました。
 これなどは,素人がやってしまうのはいろいろと問題があると思いますので,他職の専門家との協働が問題となると思いますが,「そうしたことができるかもしれない」という「気づき」ができることは,大切かもしれないな…と思うことがあります(もちろん,具体的事例でそうしたことが活かせる場面は決して多いわけではないと思うのですが。)

 調べて見ると,『司法臨床』とか『加害者臨床』という研究が,そういったことを扱っているのかもしれません。
 ううん…,勉強が追いついていない。
 情けないですね…。
 (刑事は,あまり中心的に取り組んでいる分野ではないため(私選をお受けしていないくらいですので…),限界はあるのですが…。)