【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

ソーシャルワーカーのジレンマ【書評】

 ソーシャルワーカーについては,以前「社会とのつながりが弱くなってしまった人を、うまく社会と結びつける仕事をされている」のではないか,と書いてみたことがありますが,具体的にどういった場面でどういった仕事をしているのかは,なかなかイメージしがたいところがありました。

 他方で,ソーシャルワーカーの行うような,「社会とのつながりが弱くなってしまった人を、うまく社会と結びつける」ことは,他の専門職や,一般の方でも,「社会の一員」である以上,そうした場面に直面することがあります。そのため,その方法論等を学んでみたいとは思っていました。
 そして,先日読み終わったのがこの本です。

www.kinokuniya.co.jp

 どうやら,発行元は昨年に倒産してしまったようなのですが,さて,どこで買ったのか…。今年に入ってから,共生社会を作る愛の基金のシンポジウムを聴きに行ったとき,出張販売で買ったのかもしれません。
 ソーシャルワーカー「社会とのつながりが弱くなってしまった人を、うまく社会と結びつける」仕事をしているのではないか…といいましたが,この場合の「社会」というのは,社会で実際に活動・生活している「人」や「組織」のことになります。
 「気付いていなかった・知らなかった人」と「気付いていなかった・知らなかった人・組織」を結びつける,という【だけ】であれば,それほど苦労があるわけではないのかもしれません。
 しかし,それぞれの「人」や「組織」も,それぞれ,自分の生活や自社の事業活動等があって,初めて存在できているものですので,「本人」の考える方向とこうした「人」「組織」の考える方向が異なってくることもあります。本人と親族の考えが違ったり,国や自治体,施設の制約が違ったり…。
 そればかりか,「本人」についても,それまで「人」「組織」とつながっていなかった背景に,単に知らなかっただけではなく,「つながらない理由」があることもあります。
 本人がつながらないことを望むならそれでいい,という考え方もありますが,それが本人の真意なのか,また,ソーシャルワーカーは自治体等に関わる活動をしている場面もあるため,そう単純に割り切ってよいかという場面もあるようです。
 そうした場合に,ソーシャルワーカーは「ジレンマ」に直面してしまう。完全な「解法」があるわけではないが,それにどう向き合っていったらいいのか…。
 そんなことを書いた本です。

 この本は,実際ソーシャルワーカーとして各分野で活動している方々が,自分の言葉で経験談として,直面したジレンマとそれに対するご自身の考えを語られた上で,最後に「ソーシャルワーカーのジレンマ再考」として「まとめ」が書かれているところが特徴でしょうか。
 経験談だけで終わってしまっていれば,「ああ,いい話を聞いた」だけで終わってしまうところもあったかもしれません。読んでいるときは「いわれてみれば当たり前」と思って,頭に残らないこともありえます。
 他方で,「まとめ」-理論だけを示されても,具体的な想像ができず,現実に「ジレンマの対応法」などを活用することはなかなか難しいこともありえます。
 「まとめ」である「ソーシャルワーカーのジレンマ再考」で,ジレンマに対する最初の対応として書かれている,「ジレンマのあることを知る」こと自体,こうした具体的な体験談がなければ,悩んでジレンマの中に埋没してしまい,気がつかなくなることもあると思いますので…。
 バランスのとれた,いい本です。ソーシャルワーカーについて知りたいという方には,いいかもしれません。また何か「ジレンマ」に遭遇したな,ともったときに読み返すと,いいことが書いてありそうな気がします。
 弁護士でも,例えば,子どもに関する事件で子ども本人と家族の「想い」が同じ方向を向いていないことはありますし,成年後見の一類型である「保佐」「補助」でもそうした問題に出会うことはありますから…。
 とはいえ,資格の取得に役立ったりするものではないのでしょうし(多分),読み手はソーシャルワークに関心がある人に限られることにはなってしまうのだろうと思いますが…。

 もし関心がおありであれば,出張販売等で見かけたときに,少し中を見てみてもよいかもしれません。