複雑にしてシンプル、シンプルだけれども複雑。
読後感を表すと、そんな印象を受けるでしょうか。
複雑かな、と思うと、書いてある内容は意外にシンプルにも思えるところがありますが、簡単に実践できるかというと、とても難しい―。
この本は、子どもや家族支援に関わる専門家が、それぞれ【異なる立場】あるいは【異なるスタンス・視点】から、子供や家族に関わってきた経験をもとに、子どもや家族との面接について書いた本です。
ある一つの考え方に貫かれた本、ではなく、さまざまな考えが示された本ですので、混乱するところもあるかもしれませんし、初学者向きのところもあれば、初学者に向かないところもあるように思います。初学者向きのところもあるのではないかと思ったのは、さまざまな立場・スタンスからの面接への取り組み方が書かれているため、自分の見方・考え方に近い取り組みや、逆に思いついていなかった取り組みを見つけることができ、そこから学びを広げていけるのではないかと思ったためです。
他方で、この本に書かれている、各執筆者の「想い」や「苦労・工夫」は、実際に同じ立場で呻吟した方ではないと、十分に受け止めることが難しいのだろうな、と思います。
それぞれに違う立場やスタンスで書かれているといっても、底流にあるものは同じところがあり、
①常に二つの視点をもつこと(安定と変化、強みと弱み等)
②相談者の「枠」や、関わるにあたっての想い、人間性
というものをきちんと持ったうえで、
・それぞれの場面での自分の立場、相手の立場に応じた、相手とコミュニケーションをとっていくための工夫
・子どもや保護者・家族をどのように見て、捉えていくか
というものが大切なのだろうと思います。
これだけ書いてしまうと、ある意味当たり前のことでもあり、こうした事柄を念頭に置きながら、実践で工夫したその部分にこそ本質があるようにも思われますので、同じ立場で呻吟し、苦しんだ人でないと、本当の工夫は受け取れないのかもしれないと思いました。
その意味では、自分の場合、一度読んだだけではまた【受け取れるものを受け取れていない】のだろうと思っています。
それでも、この数か月の経験を見直し、児童福祉司という仕事について、いくつかとても大切な「気づき」を得ることができました。
いい本だな、と思います。
たぶん、これからの仕事において、悩みに直面して読み返すごとに、新しいことに気づかせてくれそうに思えますので…。