【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

【書評】自治体が原告となる訴訟の手引き福祉教育債権編(日本加除出版)

 …興味深く、面白い本でした。

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 福祉サービスだからといって、無償のものばかりではありません。学校の給食には給食費がかかります。また、例えば不正にサービスを利用した場合などには、金員を返還しなければならないと書いた法律の条文もあります。

 …たしかに、そうした条文があることは知識としては知っていました。ただ、僕自身裁判所に勤めていた間に、自分でそうした「裁判」を見たことはありませんでした。

 これは、そういった、福祉分野で自治体が取得する債権について、裁判を行う場合に、どう申立書を書いたらいいか、検討しておかなければいけない問題についてどう考えるのか、そういったことの基礎について書かれた本です。

  自治体法務の勉強会で、債権の種類が重要だと言われましたが、その意味がやっと分かりました。公債権かどうか、強制徴収権があるかどうか、それによって、裁判ができるかどうか、公正証書を作成できるかどうか、簡易裁判所を利用できるかどうか、時効期間の長さがどうなるのか、時効の援用が必要かどうか、遅延損害金の請求ができるかどうか…、そうした多様な事柄に影響があるということを初めて知りました。

 ただ、正直、この本を頼っていいのか、少し不安になるところ、自分で調べて考えてみたいと思っているところも、少しあります。

 それは、この本で取り扱っている分野について、きちんと書かれた本が、あまりないからかな、と思います。

  たとえば、なぜある債権が公債権で、なぜ他の債権が違うのかといったところは、この本を読んだからと言って、十分納得できるわけではありません(いくつか裁判例を調べると、さらに理解が深まりそうにも思うのですが…)。この本が厚生労働省の解釈と違う立場をとっている箇所もあるため、この本の考え方がどのくらい一般的なのか、どれだけ裁判所に受け入れられるかは…やっぱり自分が事件を引き受ける立場だったら、調べないと不安かな…という気がします。

 でも、他にはない知識を扱っているだけに、得難い本だと思います。こうした事件を取り扱うのであれば、一読しておいて損はないのではないでしょうか。

  自治体の法務というのは、奥が深いな…と思いますね。

 この本は東京弁護士会自治体等法務研究部の方々が書かれていますが、ほとんど文献がないと思われるのに、こうした本を書かれるということは、すごいとしか言いようがないな、と思います。

※ この土日は、日本児童青年精神医学会総会のWeb配信を見ていました。いや面白いですね。しかし、一つ見るのに、思った以上に時間がかかります…。今感想を書くのがいいのか、もうちょっときちんと数を見て書いた方がいいのか…。