【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

赤ちゃんにとって一番幸せな道を探して:「こうのとりのゆりかご」の講演を聞いて

あいもかわらず、ブログの更新が遅れています。 年末が近づいてきたので、事務所の仕事も、弁護士会の仕事も、いろいろと大詰めになってきています。 なんとか、11月中に、本業以外のところはめどをつけておいて、あとは来年に向けての「棚卸」にしたいんですが、はてさてどうでしょう…。 さて、昨日11月17日(日曜日)は、社会福祉法人杜の会 児童養護施設杜の郷が主催する、「熊本 慈恵病院『こうのとりのゆりかご』6年の取組から」を聞いてきました。 「こうのとりのゆりかご」というのは、熊本県の慈恵病院に設置された、赤ちゃんを預け入れるための保育器のことを言います。 平成19年5月10日から慈恵病院が取り組みを始めたもので、ドイツの「ベビー・クラッペ」という制度を参考にした、育てられない子供を死なせてしまうことを何とか防ごうという試みです。 運用開始当初、この制度について耳にしたおぼろげな記憶はありますが、「え?、なんで?」と思考が停止してしまった記憶があります。 たしかに、「コインロッカーベビー」などの言葉を新聞で耳にしたことも有ったので、そうした制度が作られれば悲惨な事例が少しでも減るのではないかと思う反面、「ゆりかご」においていかれる赤ちゃんのことを考えると、喜んでいいものなのかどうか、取り組んだほうがいいことなのかどうか、よくわからなかったというのが本当のところです。 その後長らく失念していましたが、今回、子どもの権利委員会の先輩弁護士が勧めてくださったことを契機に、この講演を聞くことができました。 現在、「こうのとりのゆりかご」では、「ゆりかご」に赤ちゃんを預けようとするお母さんに対して、扉の前に「預ける前に、ブザーを押して相談してください。」「秘密は守ります。」というお願いを掲げているとのことでした。 これは、その子が今後育っていく中で、お母さんからうかがえる情報を少しでも得ることができれば結果としてその子の為にもなるということと、また、「ゆりかご」を頼ってしまうお母さんも、周囲に相談することが出来ないままに、思い詰めて足を運んでしまわれる方も多いので、そのお母さんの家族に知られないように配慮するなど「秘密を守る」ことを前提に、とにかく赤ちゃん手を放す前に赤ちゃんの最善のために相談してほしいという想いから、掲げられたものであるとのことでした。 こうした「ゆりかご」の「カタチ」は、発足後6年間にわたり、携わってきた沢山の方々が、いろいろと知恵を出し合い、考え、改善して作り上げていった物のようです。 そして、この6年間で「こどものゆりかご」は、81人の赤ちゃんを預かることができたとのことでした。 こうして預けられたお子さんは、日本の法律の下では児童相談所に届けなければならないため、乳児院や養護施設で育てられていくか、あるいは、良い里親さんが見つかった場合には、里親さんに引き取られていったりするということでした。 そして、慈恵病院では、「ゆりかご」と同時に24時間体制での相談をはじめて、全国の悩んでいるお父さん、お母さん達からの相談を受け付けており、その件数はこの6年間で3767件にも上るとのことでした。 また、できるだけ家庭に近い環境でお子さんがすごしていくことができるよう、養子縁組や特別養子縁組等についても、取り組まれているとのことでした。 他方で、「ゆりかご」にもまだまだ課題はあるようでした。 発足当初から、「捨て子を助長してしまわないだろうか」ということは心配されていたようですが、さらに現在は、引き取った後のお子さんのサポートなどが、課題として挙がっているようです。 養子になった後に、お子さんに障害があることが分かった場合に、養親の方がショックを受けることがあることも、課題の一つであるそうです、そうしたことを防ぐために、養親となる方と、長時間にわたって面談を行うなどの努力をしておられるそうです。 ほかにも、実の親御さんから後から何か言われたときにどうするか、また、お子さんに対して、事実を告げることはどうやっていったらよいのか…。 どれもこれも、難しい問題で、「人」にかかわる問題である以上、これという「答え」というものがあるわけではなく、答えを探して努力を続けていくしかないことなのかもしれない、 そう痛感させられました。 …難しい問題ですよね。 今回の講演を聞いて、「ゆりかご」の取組と努力にとても感銘を受けたことは事実です。 でも、やはり、もっと他に方法はないのか、これが子どものために最善なのかという迷いもまた、心の中にかけらとして残ることは否めません。もちろん、現にそうした現場で苦労されている方からしてみれば、「迷っている暇があったら足を動かせ」といわれてしまいそうですが…。 「ゆりかご」を検証した熊本県の最終報告書の中に書かれていた言葉では、こうしたものがありました。 「ゆりかごは、今の社会に生きる私たちが、ゆりかご利用の現実を受け止め、すべてを飲み込んでいく覚悟があるのかを、我が事として真剣に考えることを求めている。」 重いな、と思います。 でも、振り返って社会を見ると、児童相談所が扱う子どもの数は増え、その割に、児童相談所の職員はそれほど増やすことができない状況になっているようにも思われます。 (参考 平成25年度全国児童福祉主管課長・児童相談所長会議資料(平成25年7月25日開催)の、「行政説明」「1.児童虐待防止対策について」) これから、里親や養子縁組ということにもっと取り組まないと、あるいは赤ちゃんの命を守れなくなっていく時代も来てしまうのかもしれません…。 まだ、どう考えていけばいい問題なのかはわかりませんが、考え続けていけば、いつか自分なりの考えにたどり着けるのではないか。 そう思っています。 このブログを書く際に、少し調べていたら、来週から、「ゆりかご」をテーマにしたドラマが始まるみたいですね。 私は仕事時間中なので、見ることはできませんけれど。 ※ 一度掲載した後、趣旨が伝わりにくいと感じた個所がありましたので、修正を加えました。