【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

「スクールソーシャルワーカーの職業倫理-アメリカのスタンダードに学ぶ―」(研修会)

少し前になりますが、平成26年10月5日、スクールソーシャルワーカー実践研究会が主催した研修会「スクールソーシャルワーカーの職業倫理-アメリカのスタンダードに学ぶ―」(講師:東京学芸大学准教授馬場幸子先生)に参加してきました。

スクールソーシャルワーカー(略してSSW)については、どういう制度なのか、私自身がまだよく分かっていないので、昨年に続いてSSWの団体が主催している研修会に飛び込んでみました。

1 スクールソーシャルワーカーって?

スクールソーシャルワーカー

この言葉を耳にされたことがおありでしょうか?。

ソーシャルワーカーの学校版,ということは分かるのでしょうが,この元となるソーシャルワーカー自体,かならずしもどういう仕事か,明確に知られていないところもあるように思われます。

 

文部科学省の「生徒指導提要」第5章p128では、スクールソーシャルワーカーについて、このように記載されています。

社会福祉の専門的な知識、技術を活用し、問題を抱えた児童生徒を取り巻く環境に働きかけ、家庭、学校、地域の関係機関をつなぎ、児童生徒の悩みや抱えている問題の解決に向けて支援する専門家」

そして、具体的にどういった活動をするのかというと…

・問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働きかけ

・関係機関とのネットワークの構築・連携・調整

・学校内におけるチーム体制の構築・支援

・保護者、教職員に対する支援・相談・情報提供

・教職員への研修活動

とされています。

今年の夏頃に,学校教員統計調査の中間報告を元に,精神疾患で退職される先生の数を取り上げた記事が見られましたし,公立学校教育職員の人事行政調査から精神疾患で休職された教員の数が取り上げられたこともありました。

他方で,8月12日にブログでも触れたいじめ事件の問題や,同じく文部科学省が行っている学校基本調査の理由別長期欠席者数に現れている不登校の問題等,子ども・教育を取り巻く状況は非常に難しくなっていますので,こうした、学校の問題をサポートできる専門家が配置され,増えていくことは、基本的にはいいことのように思われます。

 

しかし、正直、スクールカウンセラーと、どこが、どう違うのだろう」「学校の先生とは、どこが、どう違うのだろう」というのが、やはりなかなか分かりづらいところがありました。

 

同じ、生徒指導要録には、スクールカウンセラーの活動について、このようなものが挙げられています。

・児童生徒へのアセスメント活動

・児童生徒や保護者へのカウンセリング活動

・学校内におけるチーム体制の支援

・保護者、教職員に対する支援・相談・情報提供

・関係機関等の紹介

・教職員などへの研修活動 など

 

結構重なっています(汗)。

また、生徒指導要録の中には,他にも学校の教師の教育相談なども書かれていますが,こうしたものも,SSWの活動と重なるところはあるように見えます。

文部科学省のホームページには、実際の活動事例集も掲載されているのですが、逆にこれを読むと、まるで何でもできてしまうようにも見えてしまいます。

やはり、学校側から見たときどういったことをお願いすればいいのか、また、SSW側からは「どういったことができますよ」とアピールすればいいのか、なかなか明確にし難い気もしますね。

2 研修会の内容-アメリカ職能団体のスタンダード」を題材に

昨年度の研修は、そうした「スクールソーシャルワーカーとはどういうものか」を中心にしたものでしたが、今年の研修は、そのスクールソーシャルワーカーの職業倫理について、アメリカのソーシャルワーカー職業団体であるNASW(National Association of Americaが作成した「スタンダード」(NASW Standards for School Social Work Servicesをもとにして考えてみる、という内容でした。

 

「スタンダード」

いかにもアメリカの職能団体の「スタンダード」という感じでした

ちょうどそのころ、通勤時間に「マッキンゼー式世界最強の仕事術」「マッキンゼー式世界最強の問題解決テクニック」などを読んでいた所でしたので、

構造的なアプローチ」「8対2の原則」など、上記の書籍でなじみのあったことが研修でも登場し、同じような考え方がベースになっているのだな、と思いました。

 

その研修会の中では、参加者SSWの人も,私のようにSSWではない人もいます。)が「スタンダード」の各条項について重要度を評価しみる、というグループワークがあったのですが…。

参加者の票が、私自身の想定と違った集まり方をしたのが、「仕事量の管理」う項目でした。

 

これは、意外に感じましたね。

昨年の研修では、むしろ、「学校に対して何ができるかのアピール」などをして、利用してもらう機会を増やすことを重要視していたと感じたところもありましたので、仕事量の管理というより、まず、何が仕事になるのかを模索し,学校関係者との間で共通認識を育む段階かと思っていました。

3 仕事量の管理が求められる背景大和市の事件

ただ、研修会の挨拶などで,今回の題材に関連し,大和市の出来事」という言葉が2,3度出てきましたので,後に事務所で調べてみて(恥ずかしながら,研修会参加時には知りませんでした。)、なぜSSWの皆さんが「仕事量の管理」に興味を持たのかが、分かりました。

パワハラ助長の大和市前教育長 自身にも疑惑 | カナロコ

【社説】大和市教育長辞職 まず説明責任を果たせ | カナロコ

こちらの記事の下となった事件が原因で、参加者の方々は「SSWの職業倫理」、ことに「仕事量の管理」について、関心をもたれたようでした

 

これらの記事を見ると、残業代を上司がポケットマネーで払っていたということのようです払わせていたのか等を含む詳細な事実関係は,当事者の方々で必ずしも明確になっていないようにも見えますので,あまり触れないこととします。

会社・雇用主であれば、残業代を支払う義務がありますが、別に上司が払う義務はありません。いろいろと事情はあったのかもしれませんが,上司が出していることを知りながらお金を受け取っていたことは、いずれにせよ良くないと思えます

 

ただ、この記事を見ていて気になったのは,

残業が生じるほどの業務として何を行っていたのか」「仕事の内容を誰が決めていたのか」

という点です

4 問題解決にかかわる仕事の,「仕事量の管理」

たとえば、上でアメリカの職業団体の「スタンダード」と、マッキンゼーについての書籍に書かれた内容の類似性について触れましたが、SSWコンサルタントは同じく「問題解決」を仕事の内容の中心に据えていますので、似た内容になるのは当然といえば当然です。そして,弁護士も、「専門分野」こそ違うものの、「問題解決」を仕事にするという点では、同じと言えば同じでしょう。

問題解決を仕事とする場合,問題によって,仕事量が大きく変わりますので,仕事量を管理したり,それに応じた報酬を得るようにすることが難しい側面があるように感じます。

 

マッキンゼーなどでは,タイムチャージ,つまり、解決までに要した時間で報酬を計算しているようなので,時間がかかる問題の解決を行い,それだけの時間がかかれば,その分報酬も多くなります。

弁護士は,多くの事務所では(タイムチャージを導入しているところは少ないと思います)法律相談の際に簡単なアセスメントを行い,どのくらいの仕事量になるか見当を付けて,それに見合った「定額」の報酬を請求したり,あるいは,裁判で相当額の金員を取得できる見込みがある場合には「成果報酬」を中心としたで契約することで,ある程度,問題に応じた仕事量に見合った報酬を得ることができます。

5 SSWの仕事量の管理

では、SSWは?、というと、ここ難しいところがあるようには思います。

昨年の研修でも、若手のSSWの方々から「きちんと問題に対応するには時間が足りない」という声は聞かれていましたし、大和市の事件にも、かなり遠いにせよ、こうした事情が影響していた可能性はあるのかもしれません。

SSWは,基本的には,その仕事=抱えた「問題解決」の性質にかかわらず「一定の勤務時間」の「定額給与」で働かれていると思います。また、「問題解決」自体,学校から明確な形で与えられるというわけではなく,まず「何か問題があるかどうか」を探すところから始めなければならない場面もあるように聞いています。そして,SSWに指示を下すべき上司自身も,おそらくSSWの仕事内容自体を、必ずしも十分に理解できていないこともあるのではないでしょうか。

そうすると、誰が、どうやってSSWの仕事量を管理すればいいのか、というのは、思いの外悩ましいと思うのですよね。

もちろん、地方自治体の予算は決まっており、SSWへの給料も同様の側面はあるのでしょうが、「超過勤務はするな、ただし問題は解決しろ」では、SSWも困ってしまうかもしれませんし、そうしたところをどうして調整していくかは、課題なのかもしれませんね。

 

今後,事例が集積していけば,SSWの役割も,他の専門職との責任分界も,少しずつ明らかになっていくのではないかと思います。

また,おそらくすでに導入されているとは思いますが,他のSSWが時間のある範囲で大変な問題の生じてしまったところに応援に入れるようにして行く方法を拡充することも,意味があるかもしれませんね。マッキンゼーなどだと問題の大きさによってチーム編成を変えるようですし,システムエンジニアなどでも同様でしょう。弁護士ですら難しい裁判員裁判などは,刑事弁護委員会のベテランの先生の助力をお願いして,チームで対応することができます。)

 

いじめの問題,不登校の増加の問題,先生方のメンタルヘルスの問題

そうした背景のもと,導入されたSSWの制度ですので,何とか,他の仕事と上手くかみ合って,少しづつ利用されていくと,良いと思っています。

 

まだまだ私のSSWの理解が十分ではないので,あるいは記載内容に誤解している箇所や,間違っているところもあるかもしれません。

そうした点がありましたら,申し訳ありません。