【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

女子高生の裏社会(書評)

1 参加しなかった研修会

  6月末に,かながわ子ども・若者総合相談センターが行う「関係性の貧困~居場所を求める子どもたち」という表題の相談員研修がありました。
 当日,少し風邪気味だったのですが,子どもを取り巻く問題について話を伺うことで元気を分けて貰えることもあるため,委員会でチラシをもらっていたこの研修会に行ってみたのですが…。
    席に着いてみると,レジュメには「すべての少女に衣食住と関係性を。困っている少女から搾取しない社会へ」と書かれており,講師の仁藤夢乃さんの肩書には「女子高生サポートセンター」とあり,周りの参加者も20~30名ほどの女性の方が中心で(男性も2~3人はいました),プログラムには「この問題をどうするかについて,グループディスカッションを行います」との記載がありました。
    さすがに,ちょっとつらく感じて,受付の方にお詫びをして,参加をせずに帰って風邪を治すことに専念してしまいました。
   
    ただ,やはり講師の方に申し訳なかったかな,という思いと,聞いておけばきっといい話だったのではないか,という悔いが少し残っていました。
    子どもの権利委員会の先生から,講師の仁藤夢乃さんが書いている書籍として教えて頂いたのが【この本】でしたので,罪滅ぼしをかねて,まずこの本を読んでみることにし,購入しました。

 女子高生の裏社会 仁藤夢乃 | 光文社新書 | 光文社

2 この本で紹介されている女の子を取り巻く状況

  この本では,著者が何人かの女子高生-JKお散歩や,JKリフレなどに所属している女の子-にインタヴューを行い,【なぜ女の子がそうした所に足を踏み入れることになってしまったのか】,そして,【今現在そうした「お店」のことをどう思っているのか】,などの話を聞いたり,【そうした「お店」の危険性を伝えようとすることを通じて,そうした「お店」がどうやって女の子を虜にしていってしまうのか】を解き明かしていきます。
 女の子達は,「関係性の貧困」(普段気にしてくれる人があまりいないことなのだろうと思われますが,この本にははっきりした説明までは書かれていませんでした)と,そして「衣食住」を得るためにそうした仕事を行ってしまい,なかなか抜け出せないことが書かれています。

 著者にそうした仕事の危険性を言われても、それを否定するある女の子の発言は、昨日ブログで取り上げた書籍に書かれている【宗教に取り込まれてしまった方の状態】にも、少し似ているように感じられました。
    そして、こうした「お店」に所属する女の子が,ごく普通の問題のない家庭にまで広がってきていることに,著者は警鐘を鳴らしています。

 3 どうしたら変えていくことができるのか

  この本の著者は,こういった実体を改善するために,①こうした行為にお金を払う側の男性に公表や罰則等の制裁を科してはどうか,②女の子が居場所をあげられるような,児童相談所などより敷居の低い,よりソフトな援助が必要だということなど(著者はご自身を「表社会のスカウトマン」と表現しています。)を提案しています。
    ただ,それだけで変わっていくのかどうかでしょうか…。

 ①については,著者自身が「お店側を処罰しようとしても,次々に新しい形態のお店ができてしまう」と書いていることも考えると,お金を払う客側も制裁についても大なり小なり同じ事態になることはありうるように思いますし、法律的に実現できるかという問題はある気もします。そして,②のセーフティーネットについては,いま著者がまさに挑戦しているように、それらの費用を,どのように工面し,どのように採算に乗せるかが,問題になっていくように思われます。
   
    こうした本をはじめとする子どもの問題を考えると,いつも,以前棚瀬一代さんの「離婚と子ども」を読んだときのことを思い出します。

www.kinokuniya.co.jp

(出版元に見当たりませんでしたので、紀伊国屋のリンクになっています。)

   この「離婚と子ども」という本では,アメリカでの離婚調停・面接交渉におけるカウンセリングやセラピー等の様々な試みについて紹介されています。今となっては,さすがに日本でも同種の試みは多数行われていますし,他の研修会で聞く限りではアメリカの状況も変わってきているところがあると思われます。でも,この本を読んだときには,アメリカの進み具合に感銘を受け,「こうした事が学べるのであれば,英語を勉強して留学することだってもっと真剣に考えるんだったなあ…」と思ったものです。  
    ただ,他方で,それがいいのかどうかの疑問も感じました。
    離婚家庭の子どもできちんと育っていくことができるために,面接交渉のシステムを整え,親に対してカウンセリングや研修を受けてもらう,そしてそうしたカウンセリングを行う民間の専門家を養成する,それは大切なことだと思います。
    他方で,そうした子供が増えてしまった原因は,経済的な問題が背景に相当程度あるように思われました。
    そうしたときに,
    「この,離婚のカウンセラーに就職する人たちの【熱意】や【努力】を,経済の面に向けたら,経済的な不況を脱却できないものなのだろうか?」「もしできるのであれば,それを行うことが本質的な問題点の改善ではないだろうか?」
    そんなことをつい思ってしまいました。

    そして,現在,こうした問題に先進的に取り組んできたアメリカもまた,【唯一の回答】を見出せたわけではなく、依然貧富の差の苦しみを抱えたままであるようにも見えます。
    もちろん,経済の話は、外国との問題があったりしますので、政府が思うとおりに進むものではないと思います。また、経済だけに力を注ぎ、そのほかに目を向けないことは誤りでしょう。

 とはいえ、この本に出てくるような子供たちにとっても、安定した家庭=居場所があることが何より第一であって、それをどうにかする方法はないのかな、と思ってしまうのですよね…。

 少子化を防ぐために「子供を育てやすい社会」をアピールする。経済的な問題から夫婦共働き・女性の社会進出を進める。その結果、家で十分に親と接する時間を持てなかった、ある意味「関係性の貧困」な子が増えてしまう。そして、そうしたある意味未成熟な子が増えることで、結局「学校」という社会が保てなくなり、いじめがとめられなくなってしまう。さらには問題を起こす子に少年法を適用しないことで、「表社会」に戻ってこられるかもしれない子供に道を閉ざしてしまい、犯罪傾向の進んだ人が社会に増えていってしまう…。

 一つ一つは、対処療法として決して間違ってはいなくとも、全体としてみたときに、もっといい方法があるのではないか、それともやっぱりないのか…。

 そんなことを、考えてしまいますね…。

 そんなことを言っていては何もできないから、とりあえず自分のできることをするのが正しいのかもしれないのですけれど…。

4 次の機会には

  こうして本を読んでみると、やっぱりお話を伺わなかったことがもったいなかったと思います。次の機会があれば、是非お話を伺いたいと思います。

 また、少しでも多くの方がこの本を読んで、こうした問題を考えてくださればよいな、とも思います。