Q&A宗教トラブル110番(書評)
1 とばし読みは…
結局,とばし読みはできませんでしたね。
今年に入ってから,「身近な方が宗教団体に入ってしまった」という相談をいくつか受けましたので,読むことにした本です。
著者のお一人である滝本太郎先生は,私と同じ横浜弁護士会に所属されている先生で,以前研修でお話を伺ったことがありますが,話しぶりからも後輩に対する面倒見の良さがにじみ出ている方であり,話される内容も一本筋が通った考え方で,感銘を受けた方です。
2 宗教加入についての相談と弁護士
「知り合い・家族が宗教団体に入ってしまった」という相談は,弁護士にとってなかなか難しい相談です。
なぜなら,「お金の被害が生じていない」段階だったり,あるいは暴力や監禁行為等が行われたわけでもない段階だとすると,「裁判」で何かをすることが難しいからです。弁護士というのは,「裁判」手続きを行えることに最大の特色があり,その裁判は「具体的な権利侵害」があったときに可能になることが原則とされているので,宗教に入っただけの段階では,アドバイスできる事柄も限られてしまうからです。
他方で,知り合いや家族が宗教団体に入ってしまったことで,不安を覚える方がいらっしゃるのはよく分かりますし,それを軽視して良いこととは思いません。
3 この本は誰に宛てたものなのか
この本は,3つの章で構成されています。
第1章では,過去に宗教団体に勧誘された方,入信した方等と,その宗教団体との間で起きた事件や,裁判について書かれています。網羅性があるかは分かりませんので,法律家が事件等の処理で参照する際には,他の裁判例がないかの裏取りはした方が良いかもしれません。それでも,類書がない中で,宗教団体と,一般の方々との間の紛争としてどんなものがあるかを知るために,相談が来たとき,事件が来たときに,一読して問題のポイント等を確認するのに良いと思います。
また,第3章では,我が国における宗教法人法の内容や,宗教法人・団体に対する課税制度など,宗教法人に対する行政からの統制について書かれています。
とはいえ,白眉は第2章です。
ここでは,①入信した人に害を及ぼすような宗教,入信した人を変えてしまうような宗教がどのような手法を行っているかについて触れ,②そうした方法に触れた本人の内心の変遷などを考察し,③それに対する家族の接し方について丁寧にアドバイスをしています。
およそ法律家が専門とする内容とは乖離していますが,こうしたことをあえて,専門家ではない法律家が書くことで,偏りがなく客観的な記載をすることができていると感じました。たとえば,脱会を勧めるカウンセラーが,かえって別のカルト的な団体である危険性などについても,注意が書かれています。
この本はあきらかに,今戸惑いを覚えている家族や,脱会したいと思っている本人という,「当事者」に読んでもらうことを想定して書いてある本です。
また,法律家にとっても,こういった相談に来た方が,どういった気持ちでいるのかを知り,また,なにがしかのアドバイスをして今後の指針を持ち帰ってもらうためには,目を通しておく価値は十分にあると思います。
こうしたことで悩まれている方の手元にこの本が届くと,少しでも悩みを軽減してくれる役に立つのではないかと願っています。