【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

【続】後見人とマイナンバー

 後見人とマイナンバーについては、以下の通り以前書いたのですが、その【続き】【周辺】で起きる問題について少し書いてみます。

yokohamabalance.hatenablog.com

 いや、当初【続】を書くことになるとは思っていなかったのですが、弁護士同士の間でいろいろと疑問が飛び交っていましたので、私見を書いてみることにしました。

なお、あくまで私見ですので、ご注意ください。

1 専門職後見人が、居所情報登録制度の届出を行うことはできるか

 どうやら、「法律行為ではないのでは」という疑問のようですが、これは「できる」と思います。

 そもそも、郵便局の転居届も、専門職後見人の事務所宛への転居届は扱っていただけないことがありますが、被後見人の入院先への転居届であれば、出すことができるはずです(赤沼康弘「成年後見人の権限と限界」判例タイムズNo14061p5、成年後見センター・リーガルサポート「成年後見教室」実務実践編3訂版29頁)。

  実際、居所情報登録制度に掲載されている「よくある質問」でも、代理人がこの手続きを行うことができることが明示されています。

総務省|マイナンバー制度と個人番号カード|東日本大震災による被災者、 DV・ストーカー行為等・児童虐待等の被害者、 一人暮らしで長期間医療機関・施設に入院・入所されている方へ

(事務手続全般)

問1 居所情報の登録を行いたいがどのように行えばよいか。

答 居所情報の登録を行う場合は、居所情報登録申請書を市区町村の窓口や総務省ホームページなどから入手し、必要事項を記入の上、本人確認書類(免許証など)、居所に居住していることの証明書(賃貸借契約書、公共料金の領収証など)を住民票のある市区町村の「通知カード担当課」あてに提出すること。

なお、代理人が本人に代わって申請する場合には、さらに代理権を証する書類(委任状など)と代理人の本人確認書類を提出すること。

 また、前回のブログで引用した、「よくある質問」のうちの成年後見人の事務所に送ることはできないとする以下の記載も、「本人が成年後見人の住所等に居住」していれば成年後見人が登録申請できる、としているわけですから、この居所情報登録制度の登録申請自体を成年後見人が行うことはできる(ただし、成年後見人自身の住所や事務所あてにはできない。)ことを想定しているといえます。

問16 単身世帯の成年被後見人へ直接通知カードが送付されないように、成年後見人が自らの住所等を当該成年被後見人の居所とする居所情報の登録申請を行うことができるか。

答 成年被後見人成年後見人の住所等に居住している場合を除き成年後見人の住所等を当該成年被後見人の居所として居所情報の登録申請を行うことはできない。

2 通知カードが入った封筒を、成年後見人は開封できるか

 念のため、「被成年後見人の前で、被成年後見人の了解を得て開封する形」が良いと思っています。

 郵便物の開封については、本人宛の親書を開封する権限はないとしている文献成年後見センター・リーガルサポート「成年後見教室」実務実践編3訂版31頁)や、「財産に関しない信書については開封の権限はない」(=財産に関する信書については開封の権限はある?)とする文献(赤沼康弘「成年後見人の権限と限界」判例タイムズNo14061p5)などがあり、必ずしも明確ではありません。

 後説を前提とした場合、「税」「社会保障」はいずれも成年後見人が対処しうる分野なので、成年後見人が開封できると考えることは可能かもしれません。

 とはいえ、後説が通説といってよいのか明らかではないところもありますし、後見人に郵便物管理の権限があることを明定する予定の「民法及び家事事件手続法改正法案」がまだ成立していない(というか、今国会に提出されていない?)ことからすると、避けたほうがよいように思われます。 

※ 以下のブログで触れたとおり,この法律案も成立しましたので,施行に伴い,この問題も解消されます(h28/4/25)。

yokohamabalance.hatenablog.com

 なお、下記「3」の手続きが実際に可能で、かつ、自治体の窓口で「信書に入っていない通知カード」を渡してもらえるのであれば、「3」の手続きを取ることも一つの方法だと思われます。

3 直接受け取りに行くという手段も?

 先ほども挙げた「よくある質問」には、こんな記載があります。

問25 登録対象者である成年被後見人の通知カードについて、当該者の成年後見人が交付を受ける方法はあるか。

答 成年被後見人に係る居所情報の登録申請が行われた場合、当該者の通知カードの送付先を住民票のある市区町村の所在地とした上で、当該者の成年後見人に来庁させ、本人確認の上、当該通知カードを交付して差し支えないとしているところであり、住民票のある市区町村に相談されたい。 

 正確にはわからないのですが…。

 これは、居所情報登録制度で登録する居所を、「被成年後見人の住民票がある市町村役場そのもの」とすることが可能であり、その場合には、成年後見人が窓口に行って、必要な本人確認書類、代理権証明書類等を提出すれば、通知カードを受け取ることができる」と書かれているように読めます。

 総務省のHPに掲載されていますので、その「よくある質問」の「25」にこうした記載があることを告げて、地方自治体の窓口と話せば、利用可能かどうかについて教示いただけるのではないかと思います。

※ あくまで私見ですので、不正確なところがありましたらすみません。

※ 9月8日 補足が遅れましたが、居所情報登録制度で市町村役場に通知カードを送ってもらい、その役場の窓口に後見人が取りに行く方法は、愛知のほうでやってみたところ、できたと聞いています。

 その方は、役場窓口の指示に従い、被後見人の居所を書いて疎明資料も提出したそうですが、同時に役場窓口への送付を希望する旨を注記してもらったことで、後日カードが届いた際に電話連絡等があり、取りに行くことができるとのことでした。

 具体的な運用については、各自治体で異なる可能性がありますので、問い合わせることをお勧めしますが、少なくとも上記のような運用で対応してくれる自治体もあることをお伝えしておきます。