【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

「まず大人が幸せになって下さい。そうすれば子どもも幸せです。」:埼玉の事件報道に接して思うこと

 埼玉で,痛ましい事件が起きてしまいました。

headlines.yahoo.co.jp

 つい先頃,川崎市でも痛ましい事件でこどもの命が失われ,教師や福祉関係者,そして弁護士も「何故この事件を防げなかったのか」「どうしたらこうした事件を防げるのか」を議論していた,それから間もないことでした。

川崎市中1男子生徒殺害事件 - Wikipedia

 弁護士会でも昨年,「子どものSOSを受け止める」というイベントを行ったりして,なぜ被害者の子どもが周りに助けを求められなかったのか,ということを話したりもしていました。

www.kanaben.or.jp

 以前,書籍を紹介する形で触れた,大津のいじめ自殺事件なども,あるいは共通した問題点があったのかもしれません。
 
 こうした事件に触れるとき,事情を知らないものの勝手な推測にはなってしまうものの,「不況が長引く中,大人も日々の生活に手一杯になり,家庭(大人)も余裕をもてなくなってしまう」「それに気兼ねした子どもが家庭(大人)に助けを求めにくくなっていく」中で,そうした家庭に助けを求めにくい子ども達が集まった【こども社会】の中で,相対的に力が弱い子どもが,結果としてどこにも助けを求めることができなくなって,事件になってしまうのかな…。

 そんな思いが,胸をよぎります。
 では,どうすればいいのか…。それが難しいのですよね…。

 それぞれの家庭の方々,大人の方々も一生懸命であることも多いと思いますし,さまざまなプレッシャーにもさらされているのでしょうから…。

 職業柄、児童虐待や遺棄といったケースを目にすることもあるために、子どもを育ててくることができただけでも、非常に努力が必要だったことも、あると思いますので…。
 こうした事件が起こると,上記,弁護士会のイベント紹介された,「ある話」を思い出します。

1 「まず大人が幸せになって下さい」

 それは,川崎市において「川崎市子どもの権利に関する条例」という条例が作成されたときの話だったと思います。

 この条例が制定されたときには,「子ども委員」という子どもの代表も関わったと聞いていますが,その【子ども委員】から,こんなメッセージが出されたという話でした。

 「まず,大人が幸せになって下さい。大人が幸せなら,子どもも幸せです。」

 …また聞きなので,細かなところは違う言葉だったのかもしれません。

 こちらのサイトなどには,制定のいきさつと一緒に,少し書かれていますね。

「川崎市子どもの権利に関する条例」制定の取り組み

2 大人の幸せと,子どもの幸せ

 「離婚と子ども」という本があります。

 随分昔の本ですが,アメリカの制度…非行を犯した子どもに対する社会奉仕命令の話や,DV加害者にカウンセリングの受講を命じることができる制度など…を紹介した本です。

 当時,役所にいた私(「ケース研究」という雑誌の書籍紹介で知った本でした。たしか。)は,この本を読んで感銘を受け,他国の制度を学ぶことの意義を感じると共に,若かったこともあるのかもしれませんが,正直に言うと,こうした制度を導入したほうがよいかどうかについては,懐疑的な思いも持っていました。

 カウンセリングに従事する民間のボランティアの人数等,この制度に費やされる人的,経済的なものを考えてみたときに,「その力を,経済面に集中して,結果として貧困を少なくすることができるなら,その方が抜本的な解決にならないのかな」と思ってしまったからです。

 たしかに,ヨーロッパやアメリカの制度は,【紛争の処理】方法として優れた面はあるのですが,裁判に日本と比較にならないくらい時間がかかってしまったり,契約書の作成(のための弁護士報酬)に非常な費用が掛かったり,多くのコストが掛かっています。

 その背景には,他民族が生活する中で,必然的に国内において不満が生じやすい環境にある以上は,そうした「不満」「紛争」に対応したシステムが必要だったという事情があるのではないか…,逆に言うと,日本にこれらの制度を導入した方がいいのかどうかは,わからないところもあるのかな,と(素人考えですが)考えていた時期もありました。

 ですので,川崎市の子ども委員のメッセージをはじめて聞いたとき,「そうなんだよな…」と思ったところが,強くあります。

3 大人の幸せはどうしたら

 ですので,個人的には,福祉的な施策も重要だけれど,大前提として経済施策の必要性は大きいかな…と思っているところがあります。

 他方で,日本は,「食べ物」を他国から輸入している国なので,何かしらを他国に売らないと,生活が成り立たない国です(すみません,経済については決して詳しくないので,あまり適当な説明ではないかもしれませんが)。

 そうなると,他国との関係がどうなるかで,「不況」「経済」がどうなるかも,自然に影響を受けますし,日本だけが何か(経済政策)を行えば,「不況」「経済」が変わるかというと,当然にそうとは言えないのかもしれません。外国との関係は,当然に「法律」で何か決まっているわけでもありませんので…(もちろん,条約という取り決めはあるのですが…。)。

 アベノミクス等の経済政策についていろいろと報道に接することもあるのですが,私自身が,その政策の問題点を見つけたり,何か代わる政策を思いついているわけではないので,なんともいえません。

 今,政府で,あるいはそれぞれの企業で一生懸命努力されている方々はいらっしゃると思いますので,ただ願うことしかできませんね…。

 あるいは,経済学を専攻したり,そうした道に進んでいたら,もっと違うことを思うのかもしれませんが…。

4 子どもの不幸せを少しでも軽くしていけないか

 経済政策でなかなか状況が変わっていかない可能性もあるのだとすれば。

 「大人」を「幸せ」にする簡単な方法があるわけではなく,あるいはそうした方法も他国との関係で決まるのだとすれば。

 やはり,今の子どもが,「不幸せ」と感じる状況を少しでも軽くし,家庭や地域で感じている圧力や人間関係があるのであれば,それを少しでも和らげたり,他の人とつないだりして,少しでもそれらの子どもが芽を出していくことができるように…。

 そうした方策も考えなければいけないのかな,と思っています。児童相談所や,SSW,SCなども,そういったためのものなのかもしれません。

 「まず,大人が幸せになって下さい」

 そのメッセージには,応えられていないところもあり,心苦しいのですが…。

 今の自分には,そこまでしかなかなか思いつかないのですよね…。

※ 8/28 書いてから一日が経ち、その間つらつら考えたり、また、こちらのような報道にも目を通すと、少し暗然としてきます…。

www.jiji.com

 こちらの記事を読むと、「今は地元にいない」などと被害者の少年が言っていたことが嘘だとばれたことに対し、暴行を加えられたということなのですが…。

 そうして「避けよう」としても、こうした事件になるとすると、もはや【ストーカー事件】に近いというか…、「地域とつながっていれば」避けられたというものでもない気がしてきます…。

 学校外の出来事となると、SCやSSWが関わることができるとも言い難いのかもしれませんし、児童相談所は親からの虐待等を防ぐものですし…。

 捜査が進み、裁判が行われるなど、この事件が進んでいくなかでいろいろな事情が解明され、また対策についても様々な方が考えてくださるとは思うのですが…。

 こうした事件が多いようであれば、なにか、抜本的に対応を変えざるを得ない事態になっていくのではないか。そんな気も、少ししますね…。