独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)から、「高年齢者の雇用に関する調査」が発表されました。
調査シリーズNo.156「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」|労働政策研究・研修機構(JILPT)
平成27年7月17日から7月31日にかけて行われた調査で、東京商工リサーチが保有する企業データベースを母集団として、常用労働者50人以上を雇用している民間企業2万社を無作為抽出して行ったアンケート調査の結果のようです。
その概要については、上記のリンクを見ていただいた方がよいかと思われますが(上の方にプレスリリース・概要があり、下の方に本文が置いてあります)、個人的に気になった項目を見てみました。
というのは、平成28年5月13日の東京地裁判決では、平成25年7月から8月にかけて調査された同じような調査結果について、両当事者ともその主張の中で引用するなどし、判決もそれについて触れていましたので、「それらの項目が」「直近の調査でそうなったのか」を知りたいと思ったためです。
なお、平成25年に行われた調査というのは、こちらになりますね。
調査シリーズ No.121 改正高年齢者雇用安定法の施行に企業はどう対応したか ―「高年齢社員や有期契約社員の法改正後の活用状況に関する調査」結果―|労働政策研究・研修機構(JILPT)
そうしてみてみると…。
1 定年制はいまだ60歳定年が多い
定年制の有無を尋ねたところ、「定年あり」が97.5パーセントを占めたとのことで、、また、その定年年齢についても、「60歳」としているところが81.2パーセントのようです(10,11頁)。
2 責任が変わるかを一先ず置くと、定年前後での仕事の変化はないことが多い
60代前半の継続雇用者の仕事内容については、「定年前(60歳頃)とまったく同じ仕事」が39.5パーセントであり、「定年前(60歳頃)と同じ仕事であるが、責任の重さが変わる」が40.5パーセントです(22頁)。
責任の重さに着目せず、仕事内容だけを見れば、変えていない会社の方が多いようですし、責任の重さも変わらない会社も4割近くあることになります。
3 継続雇用者の配置で配慮しているのは、「慣れている仕事」
そして、その配置に当たって行われている配慮は「慣れている仕事に継続して配置すること」が71.7パーセントと、高い割合を占めているようです(23頁)。
4 高年齢者雇用継続給付については、59.3パーセントの会社で利用
以前のブログでも触れた、「高年齢者雇用継続給付」については、59.3パーセントの企業で、60歳代前半の社員の年収の一部分を占めているようです(28頁)。
5 フルタイム勤務の継続雇用者の61歳時点の賃金水準は、60歳直前の水準を100とした場合に、73.5(平均値)
そしてて、61歳時点の賃金水準について、60歳直前の水準を100とした場合に、いくつになるかという問いに、回答の得られた4488社の回答を平均すると、平均値は「73.5」だったとのことです(28、29頁)
6 感想
こうした結果を見てみると…。
私たちの思っている以上に、60歳定年後も仕事の変わらないにもかかわらず、賃金が下がっている会社というのはあるのではないか、また、そうであっても、働いている等の本人からすれば、慣れている仕事に配置された方がよい側面があるのではないか…。
それが、平成28年5月13日判決を見たあと、不安になった理由の一つでしょうか…。
この調査結果は、裁判に間に合わなかったようで、裁判で主張されたのは上にも挙げた平成25年の調査結果ですが、それについて判決は、
しかしながら,上記アンケートの「同じ仕事内容」については,必ずしも労働契約法20条にいう職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度。上記①)が同じことまで意味しているものとは読み取れないというべきであるし,上記アンケートの結果によっても,定年の前後で職務の内容及び配置の変更の範囲(上記②)に違いがあるのか否かは明らかでない。したがって,上記アンケートをもって,定年の前後で職務の内容(上記①)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記②)が全く変わらないまま賃金だけを引き下げることが,企業一般において広く行われているとまでは認められない。
としています。
それは、その通りなのですが、他方で。
「企業一般に置いて広く行われている」かはともかく、我々の思う以上にそうした企業が多いのではないか、また、事実上、適用な配置先として定年前の仕事と同じ仕事しかない企業も相当数存在するのではないか…。
そうだとすれば、東京地裁の判決で、混乱を招いてしまう会社と労働者は、思ったよりも多いのかもしれない。それが怖いと思っています。