1 大津事件の市側との和解
以前、このブログでも触れていた大津事件に関して、裁判において、ご遺族と市側との間の和解が成立されたようです。
こうした事件は、当事者にとって、和解などの形で「区切り」をつけることも非情な苦しみを伴いますが、他方で、終わらないまま争いが続くこともそれを上回る苦しみを伴うものではないかと思います。
報道内容を見ると、市側が和解に応じる姿勢を見せ、また、市側の責任を認めての和解であったということが、やはり和解が成立した重要な要素であったように思われます。
その背景として、調査委員会が非常に詳細な調査を行い、その報告を公開したことは、大きかったのではないかと感じています。
これを機に、関係された方々が、この事件を風化させることなく、得られた教訓を活かして、前に進む道を見つけていってくださることを、ただお祈りするばかりです。
報道によるとまだ同級生の生徒との訴訟は続いているようです。
2 調査・報告の重要性
以前のブログでもふれたことなのですが、こうした事件について、民事裁判を行ったからといって、当然に新しい事実が明らかとなったり、新しい証拠が出てくるというものではありません。
そうした意味では、調査委員会による調査が今後重要になっていくと思います。
とはいえ、調査委員会の調査を、いつ、どの程度、どうやって行うかということや、その調査の程度や公表は、どうなるのか。
そんなことに関心があって、今年の専門実務研究第9号には、大津のいじめ事件の情報開示訴訟(東京地裁平成26年1月14日)に関する論稿として、「いじめによる自殺事件における調査報告及び個人情報開示事例」を寄稿してみました。
大津の裁判例を一つの契機として、いじめによる自殺や指導死などの場面において、調査・報告が訴訟で争われたケースをまとめてみたものです。
本当は、もっと内容面に踏み込めないかとも思いましたし、成人の場合との違いも考えて見たかったのですが、前者については個々的な事案の違い等から難しいものがあり、後者の面は、今回は力及ばなかった面が残りました。
なお、論稿にも書きましたが、調査委員会が調査を行えばいい、というものではなく、その調査が不十分であるとして、結局学校側の調査義務違反が認められた事例もありますので、そこは行政・学校の側には注意していただきたいところです。
3 成人と少年の違い:調査の場面で
成人においても、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントの場面、また、海上自衛隊でも問題となったいじめの場面で、同様に調査の問題が生じます。
こちらの本(中町誠・中井智子著「裁判例にみる企業のセクハラ・パワハラ対応の手引き」(新日本法規))などには、そうしたことが問題になった成人の裁判例について記載があります。
労働事件を過去担当していたものとしては、そうした成人の場面と子どもの場面との違いというものは、気になっていた所でした。
この論稿でもひとつ触れたのは、子どもは、学校と労働契約を結んでいる状態にあるわけではない、という点でしょうか。
会社に勤めている方であれば、その会社に、自らの希望で入社していますので、社内秩序維持に一定の協力をする義務があります。そのため、注意すべき点はあるものの、こうした問題が起きた時に調査を行うこと自体は相当の場合が多いと感じています。
これに対し、子どもと学校との関係でも、校則などに示されるように、その学校内では学校の秩序に従う義務が子どもにはあります。
しかし、「営利」を目的とする結びつきである会社と異なり、「子どもの教育」を目的にする学校では、調査を行う際にも、要求される配慮に違いが出てくると思います。
無実の人・子どもに疑いをかけることになってしまう恐れなども、無視できませんし、そうした調査を苦にした「指導死」という問題も起きています。
このように、最近の事件に関連して、インターネットの書き込みで加害者と関係があるのではないかと疑われた方の記事なども目にします。
加害者ではないかと思われる子どもについても、あるいは同じクラスの他の子どもについても、調査を行うときには、配慮しながら行うことが必要なのだろうと思っています。
4 いじめ防止対策推進法ができて
いじめ防止対策推進法ができるなどし、重大な事案については調査委員会等がかかわることも予想されますので(28条等)、学校や現場の先生は、こうした調査にかかわらないとお考えになるかもしれません。
しかしながら、具体的な調査の実施については、教育委員会が主導するのか、調査委員会が主導するのか等で、まだ明確でないところもあったように聞いています。
また、仮に重大事案については調査委員会等が調査するとしても、そこまでではないケースへの対応の問題や、あるいは、調査委員会が調査している間、現場の先生はどのように生徒に接するかという点なども併せ考えると、学校が調査義務を負う主体であることをきちんと認識しておく必要があると思います。調査委員会が調査を行っても、それが不十分だったため、学校に調査義務違反が認められた裁判例があることは、上で触れたとおりです。
現場の先生にとっては、こうした問題は非常に難しいのだろうと思います。
でも、目をそらせていても、それでは、「学校」という一つの「社会」が成立しなくなっていってしまうように、感じられるのですよね…。
※1 この専門実務研究の論稿は、あくまで、いじめによって生徒・児童が自殺してしまったケースに限定して書いたものにとどまります。
※2 横浜弁護士会の子どもの権利委員会では、昨年から、「いじめ予防授業」というものを試行的に行ってもいますが、まだまだ始めたばかりの試みであり、現場の先生の意見も取り入れながら、変えていかなければいけないものなのだろうと感じています。興味をお持ちの方は横浜弁護士会に問い合わせをされてみてもよいかもしれません。なお、申し訳ないながら、当職自身は学校問題の部会に所属していないので、その予防授業に直接関与はしてはおりません。