【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

養子縁組と相続のお話

 法律相談を受けていると、ときどき、養子縁組と相続について聞かれることがあります。

 今回は、それについて書いてみたいと思います。

 1 養子縁組とは?

 養子縁組というのは、分かり易く言うと、実際には親子関係がない二人(「養親」と「養子」)の間で、人為的に親子関係と同一の効果を生じさせる関係を成立させることをいいます。親になる当事者を「養親」、子になる当事者を「養子」といいます。

 養子には、「普通養子」(民法792条~)と「特別養子」(民法792条~及び817条の2~)がありますが、いずれも、「養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する」(民法809条)ことは同じです。

なお、以前「コウノトリのゆりかご」のところで触れた、いわゆる「里親」は、都道府県知事が認定する、保護者のない子供や、保護者に監護させることが適当ではない子供を養育してくださる方のことであり(児童福祉法27条1項3号)、養子縁組とは直接の関係はありません(特別養子縁組とは、少し関係します。)。 

 「普通養子」縁組と「特別養子」縁組の違いは、「養子」となった子どもとその「実の親」との間の親族関係が、法律上消滅したことになるか、ならないかにあります。特別養子縁組は、実親子関係を消滅させる効果を持つので(民法817条の9)、それだけ要件も厳しく、しかも、裁判所の裁判(審判)が必要になるなど例外的な場合にのみ認められる制度です。

 以下、ここでは「普通養子」を前提に書いていきます。 

2 養子についての「法律」上の要件

①すべての養子に最低限必要な原則

 まず、原則として、「養親」が20歳に達していることが必要です(民法792条「成年に達した者は、養子をすることができる。」)。これは、成人に達していて初めて、「養」う「子供を持つ」ことができると考えられたためです。

 そして、養親と養子との間には法律上の親子関係も生じることになりますので、養子が養親より年上等ということでは、いろいろと不自然です。

 そのため、「養子」は、「養親」より年上であってはならず、かつ、養親の尊属(親、祖父母等)であってはならないとされています(民法793条「尊属又は年長者は、これを養子とすることができない。」)。 

②養親が結婚している場合

 また、「養親」が結婚をしている場合には、さらに要件が加わります。

 結婚しているのに、突然その一方が他方の了解も得ないままに「養子」縁組をしてしまうと、様々混乱してしまいます。

 そのため、「養親」が結婚をしている場合には、原則として少なくとも配偶者が同意していなければならないとされていますし(民法796条「配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意を得なければならない。ただし、配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。」)、さらに、「養子」とする子が未成年であるのならば、原則として夫婦そろって養子縁組するのでなければならないとしています(民法795条「配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければならない。ただし、配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。」)。

 子どもの側からすれば、夫婦のうち片方は親だけれど片方は親ではないという状態は混乱を招いてしまうということで、子どものためにならないからでしょう。 

③養子が未成年の場合

 また、未成年者を養子とする場合には、自分や配偶者の「子」や「孫」を養子とする場合以外は、原則として家庭裁判所の許可が必要になります(民法798条「未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。ただし、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は、この限りでない。」)。これを通じて、その養子縁組が子どものためになるのかどうかを裁判所が可能な範囲でチェックしています。 

④養子が15歳未満の場合

  養子縁組は、普通は、「養親」となるものと「養子」となるものが合意して縁組をするのですが、養子となるものが15歳未満である場合には、その法定代理人が代わって縁組の承諾をすることとされています民法797条「養子となる者が十五歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができる。」)。15歳未満ですと、自分が養子になることについてまだ判断が下せないため、法定代理人が代わりに判断することとされたものです。

 ここで「法定代理人」というのは、「親権者」又は「後見人」のことを言います。親権者がいれば、その親権者の同意があればよいことが原則ですが、親権者以外に裁判所が「監護権者」を定めているような場合(民法776条)には、親権者の意思表示だけではなく、監護権者の同意も必要になります。また、親権者が親権を停止・喪失して(民法834条、834条の2)未成年後見人が選任されている場合(民法838条2号)であっても、その実親の同意が必要です(同条2項「法定代理人が前項の承諾をするには、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが他にあるときは、その同意を得なければならない。養子となる者の父母で親権を停止されているものがあるときも、同様とする。」)。

 以上②③④を表にすると、こんな感じになります(①の共通で要求される要件や、④のその他の要件等を、とりあえず省いて②③④だけをまとめたものです。)

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 他にも、養親となろうとするものと、養子となろうとするものの間に、すでに「後見」の関係がある場合には、養子縁組をするのに裁判所の許可がなければならないなどの制限もあります(民法794条)。

 3 「養子」側から聞かれること

 さて。

 養子側から法律相談をされたときに、割と注意するのが、①「養親の方の意思は大丈夫ですか?。本人確認されますよ」ということと、②「相続については、養子縁組ですべてが決まるものではありませんよ」、ということになります。

①本人の意思確認

 以前は、養子縁組については署名・捺印のある届出があれば受け付けていましたが、虚偽の養子縁組届などが多く見つけられたことから、平成19年の戸籍法の改正により、養子縁組等の届け出が市役所又は町村役場に提出された場合には、出頭したものに対して本人確認を求めることとされ、また、出頭したものが本人でなかった場合には、本人に届け出があった旨の通知を送る(戸籍法第27条の2)こととされました。

 そのほか、幾度も養子縁組を繰り返している人などの事情がある人については、調査を行なったり、養子縁組を受理しないこともあるようです(平成22年12月27日付け民一第3200号民事局長通達)。

 このあたりのことは、いま法務省で検討されている、「戸籍制度に関する研究会」の第5回会議の資料5などに詳しく載っています。

 そして、本人がすでに意思表示等が出来ないような状態であることが病院のカルテ等から証明されるなどの事情があれば、後にその効力が争われ、裁判等で養子縁組無効の判決が下されることもあります名古屋家裁平成22年9月3日判決、東京地裁平成26年11月16日判決等)。

 少なくとも、養親・養子ともに、本当に養子縁組を望んでいる状況でないと、あとでこうした点で躓いたり、トラブルになったりということがあり得ます。

②養子で相続が決まるものではない。

 養子は「嫡出子の身分」を取得するので、養親の外の子供と同じ法定相続分を持つことになります。

 しかしながら、法定相続分は、あくまで「遺言」等がない場合に、裁判所等で遺産分割を行う場合に適用される話であって、「遺言」等があればそちらが優先されることが原則です(遺留分の問題や、遺言の有効性の問題は別途残ります。)。

 そのため、養子になったからといって、当然に相続の結論が決まる、というわけではありません。

4 「養親」側から聞かれること

① 養子になってもらうことと、家を継ぐことは違う

 養親の方が、養子をとりたいと言う場合には、「家を継がせたい」「お墓を継いてほしい」ということをおっしゃることが多いように感じます。

 たしかに、養子になれば、「嫡出子としての身分」を取得しますし、相続人の一人になることになりますが、上の3②でも書いた通り、「養子」は、「養親」の他の子供達と同じ「子供の一人」という立場を取得するにすぎません。

 もし、それ以上に、例えば「家」や「田畑」といった得税の財産を受け継がせたいと思うのであれば、遺言書等を作成しておく必要があります。

 そして、その場合には、他のお子さんの遺留分などにも注意しないと、あとあと紛争の火種になってしまうこともあります。

  また、「お墓等を継いてほしい」という場合には、「祭祀財産の承継」(民法897条)として相続財産の話とは別に扱われる可能性もありますので、そのことを遺言書に別途書いておくことも一つでしょう。

② 相続税

 (養子も含めた)親子関係は、相続税を払う場面では、大まかにみると①相続税基礎控除、と、②各相続人に課せられる税金の額、の二つにおいて影響をするようです(私自身は、専門家ではないので詳しいところまではわかりません。詳しく知りたい方は税理士さんに聞かれてはどうかと思われます。)。

 平成27年1月1日以後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得する財産に係る相続税についての基礎控除額は、原則として「3000万円+(600万円×法定相続人の数)」とされます。 

 そのため、この計算をそのまま使うと、子どもが多ければ子どもが多いほど基礎控除額も大きくなります。

 昔の人もそう考えたのでしょう、養子縁組などで相続税を減らそうとする人がたくさん出てしまいましたので、昭和63年の相続税法の改正で、養子は「実子がいれば1人」「実子がいなければ2人まで」しか計算に入れられないこととなりました(相続税法15条2項)

 また、相続税は、その総額を、法定相続人全員が法定相続分通りに取得したと仮定した所得財産に税率を適用して相続税の総額を計算しますので(相続税法16条)、法定相続人が多ければ、一人が取得する法定相続分の財産も少額となり、それに応じて課税率が低くなることも起こりえます。

 あるいは、相続の相談に来られる方の中には、こうしたことをお考えの方もいらっしゃるのかもしれません。

 しかしながら、相続税については将来のことでもあり、本当にそうした形の相続になるかは一概に言えないこともあります(代襲などが生じ2重資格になると、違ってきておかしくない気がします。)。そのほか複雑な通達があることもありますので、中途半端な知識で節税を試みることは、あまりお勧めできません。

 また、相続税を考えて、「自然ではない」養子縁組等をしてしまうと、そのこと自体が相続人間の紛争の火種になる可能性は高いといえます。※後記

 財産を、どういった方に残したいか、それは最後の意思表示として、いろいろと希望があることと思われます。しかしながら、あまりにも不自然な内容であったり、あるいは、実態が伴わないのに形式だけを取り繕う形でそれを行なおうとすれば、それは、結局のところ紛争を招き、かえって大きな不利益に結びつくこともあるかもしれません。

 税金のことは、税理士さんに聞いていただくべきことですが、法律的なことも、もし本当に希望する「相続」の形があるのであれば…、

 それがかえって争いをよんでしまわないかどうかを含め、一度弁護士に法律相談に行かれても良いのかもしれませんね…。

※ 2017,12,26加筆

 平成29年1月31日に,最高裁判所で,専ら節税目的で養子縁組したとしても無効ではないとの判決が下されていますが,そのことは,ここに書いたような「紛争の火種」にならないということではありません。

 むしろ,大なり小なり節税目的があったとしても,本来の【親子】としての効果を期待していないにもかかわらず行う【養子縁組】は,「節税が主目的で,法律上親子としての効果を生じることは期待していなかった場合でも,親子としての法律上の効果は生じてしまう」ために,関係者の予期していない結果を招き,紛争となる可能性が高いということです。

 法律相談を受けていると,「節税目的のために親がやったことで,真意ではなかった」ということを相談されることもあるのですが,そうした場合にも,当の親御さんが既にお亡くなりになられていたり,意思確認ができない状態であると,「節税目的のためで,真意ではなかった」ことを証明する証拠が無く,裁判等で勝つことは難しくなります。

 たとえば,「これは節税目的のための養子縁組だから,この養子に遺産は継がせない」という話であっても,親御さんが亡くなられた後で養子の方がそうした主張をしないとは限りませんし,養子の方に相続分を与えない遺言等を作っていても,遺留分の問題があったり,親御さんが新しく遺言をしてしまうことなども起こりえますから…。