歌手の薬物事件について、「懲役1年6月、うち4月を2年間の保護観察付き執行猶予(求刑・懲役2年)」との判決が言い渡されたという報道が、少し前にありました。
報道を目にされた方の中には、「『うち4月を2年間の保護観察付執行猶予』ってなんだろう?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。また、記事によって「実刑判決を受けた」と報道しているものと、「一部執行猶予」と報道しているものとがあり、わかりにくいかもしれません。
これは、平成28年6月1日から始まっている、「刑の一部執行猶予」という制度によるものです。
こうした薬物事件やそれに依存してしまう方々の問題、そして、刑の一部執行猶予との関係について、少し前のことですが、7月2日には,第10回たかつ心のパワーアップセミナーの,「『気づいてよかった』~人はなぜハマるのか」を聞きにいき、6月25日には「川崎ダルク」のセミナーを聞きにっていました。
これらのセミナーで話をされたのは,薬物やアルコールの依存を経験された方、ダルクの方、保護観察所の方、そして神奈川県立精神医療センターの依存症診療科の小林桜児先生などの方々です。
以下、「1」ではその小林先生の依存症のお話などを、「2」で「刑の一部執行猶予」のことを、「3」で感想めいたものを、書いてみたいと思います。
なお、ダルク(DARC)というのは,「Drug Addiction Rehabilitation Center」(薬物依存症リハビリテーションセンター)の頭文字を取ったもので,依存症の人たちが共同生活をしながら依存症を治していく,というような取り組みをする団体だったと思います(私は詳しくありませんので,関心がおありの方は,各ダルクのHP等をご覧になられてはと思います。)。
1 依存症
ダルクには薬物専門のイメージがありましたので,「依存症」という広いくくりで捉えたことはなかったのですが,いわれてみれば薬物依存症も依存症の一つとして共通するところがありそうです。
小林先生のお話によると、薬物依存症について「治療可能な脳の病気」とする見解も昔はあったものの、臨床の現場で患者に接していると、【病気】とひとくくりにできるものではないのではないと感じられるとのことです。
―薬物を使えば必ず依存症になるわけではなく、依存症になってしまう人と、依存症にならない人がいる。そして、依存症になってしまう人は、子どものころ逆境にさらされるなどして、そもそも「共感的な他者」と出会えていないと本人が思っているところがあり、根強い「人間不信」が根底にある。そうした本人の思いが、依存症を招くと同時に、依存症からの脱却を非常に難しくしているのではないか。―
―薬物を使うことは、「他人に頼ることができない人」の「孤立と無力感のサイン」なのではないか。規制薬物は身体に「害」を及ぼすものではあるものの,少なくとも,その人が使い続けてしまったということは,ある一時期は「ストレス」に対する「薬」のような役割を果たしたことがあったのではないか。そのことが使用をし続け,依存症を招いてしまうことになった方もいるのではないか。-
専門家ではないので、あるいは誤解しているところ、正確でないところがあるかもしれませんが、こういった感じの言葉が印象に残っています。
精神科のお医者様の考え方は、お医者様によってそれぞれ違うところがおありだろうと思いますが、内閣府の行った平成24年度「若年層向け薬物乱用防止プログラム等に関する企画分析報告書」などを見ると、各医療機関において作成されている薬物脱却プログラム等においても、こういった視点が取り入れられているようです。
もっとも,イベントで質疑応答などを伺っていると,依存症は治る病気とはお考えであるものの、本人の人間不信や社会に対する認知の問題が障害としてあるため、小林先生も簡単に治るとは考えておらず,治療には長い時間がかかると思われているように感じました。
2 刑の一部執行猶予
6月25日のダルクのイベントでは,横浜保護観察所の統括保護観察官を招いての,「刑の一部の執行猶予制度」の説明もありました。
この刑の一部の執行猶予制度というのは,平成25年6月13日に成立し,平成28年6月1日から全面施行されているものですが、いわゆる(1)「刑法」に新たに設けられた「一部執行猶予制度」と、(2)「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予に関する法律」という新たな制度の【二つ】からなっています。
(1)刑法における「刑の一部執行猶予」
これは、冒頭にあげた「懲役1年6月、うち4月を2年間の執行猶予」であれば、①まず刑務所で懲役刑を少なくとも1年と2月(1年6月―4月。ただし仮釈放がある場合はもう少し早くなります。)受け、②その後は釈放されますが、③【1年と2月】のあと2年以内に執行猶予が取り消されるようなことがあれば、残りの【4月】の懲役(執行猶予取消となった原因が犯罪行為であればその刑も)も受けてもらいます、という制度になります。保護観察所の保護観察は、必ず付くわけではなく、裁判官の「裁量」によって決まります。
この制度は、これまでの普通の執行猶予の制度と、大きく変わるというものではないのだろうと思います。もちろん、判決宣告を受けた後に、本人に「一部執行猶予」を説明する必要はあると思いますが、いずれにせよ懲役・禁錮刑の一部は執行されることになりますので、【仮釈放が早めに行われる実刑】に近い気がします。
なお、上で書いた通り、「2年間の執行猶予」の起算点は、実刑部分の処遇が終わった後となります(刑法27条の2第2項)。
こうした制度が導入された背景には、以下のような衆議院法務委員会での趣旨説明も見ると、「刑務所から出所後に、保護観察所が更生に関われる期間が短い」といった問題もあったようです(第183回国会衆議院法務委員会議事録より)。
第一は、刑の一部の執行猶予制度の導入であります。現行の刑法のもとでは、懲役刑または禁錮刑に処する場合、刑期全部の実刑を科すか、刑期全部の執行を猶予するかの選択肢しかありません。しかし、まず刑のうち一定期間を執行して施設内処遇を行った上、残りの期間については執行を猶予し、相応の期間、執行猶予の取り消しによる心理的強制のもとで社会内において更生を促す社会内処遇を実施することが、その者の再犯防止、改善更生のためにより有用である場合があると考えられます。
他方、施設内処遇と社会内処遇とを連携させる現行の制度としては、仮釈放の制度がありますが、その社会内処遇の期間は服役した残りの期間に限られ、全体の刑期が短い場合には保護観察に付することのできる期間が限定されますことから、社会内処遇の実を十分に上げることができない場合があるのではないかという指摘がなされているところでございます。
そこで、刑法を改正して、いわゆる初入者、すなわち、刑務所に服役したことがない者、あるいは刑務所に服役したことがあっても出所後五年以上経過した者が三年以下の懲役または禁錮の言い渡しを受ける場合、判決において、その刑の一部の執行を猶予することができることとし、その猶予の期間中、必要に応じて保護観察に付することを可能とすることにより、その者の再犯防止及び改善更生を図ろうとするものであります。
本来、仮釈放は、法律上は有期刑についてはその刑期の三分の一を、無期刑については十年を経過した後に行うことができるとされていますが(刑法28条)、保護統計の、2014年「14-00-28 3号観察終了者の終了事由・終了時状況別 経過期間」を見ると、6箇月以内に仮釈放期間満了により終了しているケースが多いようですので、運用してみると、なかなか更生に十分な期間とすることが難しいということなのだろうと思います。
(2)薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予
以上と、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予に関する法律」に基づく刑の一部執行猶予は、随分と違う制度のようです。冒頭にあげた報道事案も、こちらの制度となります。
同法律は、刑の一部執行猶予の要件等について、次のように定めています。
第三条 薬物使用等の罪を犯した者であって、刑法第二十七条の二第一項各号に掲げる者以外のものに対する同項の規定の適用については、同項中「次に掲げる者が」とあるのは「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(平成二十五年法律第号)第二条第二項に規定する薬物使用等の罪を犯した者が、その罪又はその罪及び他の罪について」と、「考慮して」とあるのは「考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において同条第一項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが」とする。
(強調・アンダーラインは、私の方で加えたものになります。)
これだけ見ると、分かり辛いのですが、つまるところ、「薬物使用の罪を犯した者」(この定義は、同法律の2条2項にあります。)「刑法27条の2第1項各号」に当たらない人については、刑法27条の2第1項を【読みかえて】適用するということを言っていますので、条文通りに刑法27条の2第1項を書き変えてみると、以下のようになります(赤字が書き換えた箇所になります)。
第二十七条の二 薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律(平成二十五年法律第号)第二条第二項に規定する薬物使用等の罪を犯した者が、その罪又はその罪及び他の罪について次に掲げる者が三年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、刑事施設における処遇に引き続き社会内において同条第一項に規定する規制薬物等に対する依存の改善に資する処遇を実施することが再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
三 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
つまり、上の表の①ないし③の要件を満たさない人についても、この条文に当たれば(薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予に関する法律2条2項に定める薬物使用の罪で、言い渡される刑の長さが3年以下、情状など)、刑の一部執行猶予にすることができる、ということになります。
そうすると、まるで【薬物使用等の罪を犯した者】だけ特別(有利かどうか、はひとまず置くとしても)に取り扱っているようにも見えますが、どういうことなのでしょうか。
これは、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予に関する法律」の、上で引用した3条に続く【4条1項】にその意味があります。
第四条 前条に規定する者に刑の一部の執行猶予の言渡しをするときは、刑法第二十七条の三第一項の規定にかかわらず、猶予の期間中保護観察に付する。
(強調は、私の方で加えたものになります。)
つまり、(1)の執行猶予と異なり、上の表の①ないし③の要件を満たさないとして、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予に関する法律」によって刑の一部施行猶予となった人は、【必ず】保護観察に付されることになり、またその内容は下記(3)のようなものとなるようです。
(3)保護観察についての規定
保護観察は、 犯罪をした人(または非行のある少年)が,社会の中で更生するように、一般遵守事項(更生保護法50条)及び特別遵守事項(更生保護法51条)を定めるとともに、適宜指導監督(更生保護法57条、65条の3第1項)、補導援護(更生保護法58条)を行う方法により行われます(更生保護法49条)。
そして、「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予に関する法律」によって執行猶予となったものの保護観察について、更生保護法においては以下の規定を含め、特別に設けられた規定があります。
第五十一条の二 薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律第四条第一項 の規定により保護観察に付する旨の言渡しを受けた者については、次条第四項の定めるところにより、規制薬物等(同法第二条第一項 に規定する規制薬物等をいう。以下同じ。)の使用を反復する犯罪的傾向を改善するための前条第二項第四号に規定する処遇を受けることを猶予期間中の保護観察における特別遵守事項として定めなければならない。ただし、これに違反した場合に刑法第二十七条の五 に規定する処分がされることがあることを踏まえ、その改善更生のために特に必要とは認められないときは、この限りでない。
また、「第一節の二」として「規制薬物等に対する依存がある保護観察対象者に関する特則」が定められており、その中ではこの規定が目を引きます。
(指導監督の方法)
第六十五条の三 規制薬物等に対する依存がある保護観察対象者に対する保護観察における指導監督は、第五十七条第一項に掲げるもののほか、次に掲げる方法によって行うことができる。
一 規制薬物等に対する依存の改善に資する医療を受けるよう、必要な指示その他の措置をとること。
二 公共の衛生福祉に関する機関その他の適当な者が行う規制薬物等に対する依存を改善するための専門的な援助であって法務大臣が定める基準に適合するものを受けるよう、必要な指示その他の措置をとること。
2 保護観察所の長は、前項に規定する措置をとろうとするときは、あらかじめ、同項に規定する医療又は援助を受けることが保護観察対象者の意思に反しないことを確認するとともに、当該医療又は援助を提供することについて、これを行う者に協議しなければならない。
3 保護観察所の長は、第一項に規定する措置をとったときは、同項に規定する医療又は援助の状況を把握するとともに、当該医療又は援助を行う者と必要な協議を行うものとする。
4 規制薬物等の使用を反復する犯罪的傾向を改善するための第五十一条第二項第四号に規定する処遇を受けることを特別遵守事項として定められた保護観察対象者について、第一項第二号に規定する措置をとったときは、当該処遇は、当該保護観察対象者が受けた同号に規定する援助の内容に応じ、その処遇の一部を受け終わったものとして実施することができる。
(4)保護観察の運用(想像です。すみません。)
こうした制度が実際にどのように運用されていくかというと、以下のリンクの「(3)ガイドラインを踏まえた支援の流れ」を見ていただくことがイメージしやすいかと思われます。
法務省:「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイドライン」について
一部執行猶予者については、実刑の執行中に、帰住先の調整を含む支援方針の検討が行われ、①親元等に居住するか、②更生保護施設入所とするか、③回復支援施設(自立準備ホームとして登録したダルク等ではないかと思います。)の入所とするかを決めるようです。なお、民間の回復支援施設等(自立準備ホーム)への入所については、「本人の意向を確認するとともに、必要に応じ、入所又は通所について施設等と事前に協議した上で」行うこととされています(上記ガイドライン第3の1(2)ウ)。
そして保護観察所は、認知行動療法に基づく5回(2週間に一回)の【コアプログラム】、そしてそれ以後は(1か月に一回)【ステップアッププログラム】を定期的に続けるとともに、これらの際に本人の自発的な意思に基づく【簡易薬物検査】を実施するという形を中心に関わりを続けるようですが(法務省保護局観察課「刑の一部執行猶予制度と薬物事犯者に対する処遇について」更生保護65-10、19頁~を参照しました)、これらのプログラムについては、上で引用した更生保護法第六十五条の三などにあるように、保護観察所の認める民間のプログラムなどを受けた時には、代替を認めるものもあるようです(詳細はわかりませんでした)。
もし、ダルク等を利用した場合や、費用等については、「更生緊急保護」(更生保護法85条)として一定額(おそらく、この更生保護委託費支弁基準によるのだろうと思いますが。)を支出できるものあるようですが、保護観察所からそうした費用が支出できる期間は原則として6か月にとどまるようです(同上4項)。
そのため、6か月後も医療やダルク等を利用するためには、生活保護等への円滑な移行が必要と考えられているようです。
生活困窮者自立支援制度と関係制度等との連携について |厚生労働省の、「別添8 矯正施設出所者の生活困窮者自立支援法に基づく事業の利用等について(通知)」なども、同様の必要性に基づくものだろうと思います。
3 感想
(1)簡単に「軽い」と言い切れない
この刑の一部執行猶予は、「実刑部分もある」ため、刑を言い渡された人にとっては、【実刑】ととらえられるものです。そして、従前の実刑と比べると、「早く社会に戻る機会が訪れるが、その後社会内で保護観察所の拘束下に置かれる期間は長い」という制度になります。
川崎ダルクのセミナーでは、「一部執行猶予になって、保護観察所やダルクの下で頑張れば今度こそ薬を辞められるかもしれない。でも、全部実刑になってしまえば、もっと早く【弁当】(保護観察所に観察に服する負担だろうと思います)もなく社会で自由になれる。」と迷われる方もいらっしゃるとの話もありました。
一部執行猶予にするかどうかは、裁判官が決めるものであるため、本人や弁護人が迷っても限界はあるのですが…。
保護観察付執行猶予は、その期間内に執行猶予の取消事由に当たることがあれば取り消されてしまいます(もし仮釈放期間が満了していなければ、仮釈放も取り消されてしまいます。)。その場合、取消事由となった行為が「犯罪行為」であれば、それについても別途刑罰が言い渡されることになります。
そうしたことをも考えると、もし被疑者・被告人がこれを弁護士に希望してきた場合にも、相当の負担があることをあらかじめ説明しておく必要はあるのかな、と思っています。
(2)法律的には「軽い」
他方で、控訴における不利益変更等との関係では、おそらく、言い渡された宣告刑の長さが同じならば、【すべて実刑】よりも【一部執行猶予】の方が軽いという扱いになると思います。
法案が審議された、第183回国会の衆議院法務委員会では、以下のようなやり取りがされています(この回答部分に対する質問では、本来裁判時点では判断できない「仮釈放にされる」ことを前提としていましたので、法律家からは違和感の残る回答なのですが。)。
今御指摘のありました、二年で、うち一年六カ月を服役し、六カ月間が仮釈放なのか一部猶予なのかによってどちらが重いのか軽いのかということでございますが、多分、これにつきましては、二年の実刑を言い渡された場合につきましては、いずれにしても、仮釈放が認められるか否かにかかわらず、いわゆるこの二年は全部実刑でございます。仮釈放が認められても、刑期が二年であったということは縮減されることはありません。その意味においては、一部執行猶予の場合は、仮に、六カ月間の執行猶予部分につきまして、その後の執行猶予期間中に再犯に及ぶことなく刑が終了いたしますと、刑期自体は一年六月に軽くなるわけでございます。したがいまして、一年六カ月の刑を終わったということになりますので、そういう意味では、非常に教科書事例的に申し上げれば、二年の実刑のうち一年六カ月服役、六カ月仮釈放の方が、二年の刑のうち六カ月を一部執行猶予にされたものよりは重いというふうに言えるんだろうと思います。
第183回国会 法務委員会 第17号(平成25年6月11日(火曜日))
これは、改正された刑法に、以下の条文があることによる解釈ですね。
(刑の一部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
裁判所の判断は示されていないので、実際どうなるかはわかりませんが。
(3)どうやって前向きに運用していくか
もし、被告人にこうした刑が言い渡された場合、それを活かすことができれば、更生に向けての大きな力になるのかもしれません。
他方で、執行猶予や仮釈放の取消のリスク、定期的なプログラムの受講や回復支援施設への入所・通所、簡易薬物検査など、本人にとって相当なプレッシャーがかかるのではないかと思われ、「1」の小林先生のお話に合ったように、他人を頼ることが難しく、「ストレス」に対して「薬」を使ってしまう依存症の方が、こうしたプレッシャーを乗り越えられるかが、非常に大きいと思います。
川崎ダルクのセミナーで、それを質問してみたところ、「受刑中できるだけ早いうちから、出所後の帰住先と人間的なつながりを作ることが大切ではないか」という話がありました。
基本的に私は私選での刑事事件をお受けしていませんのでこうした事例に関わることはあまりないのと思います。
とはいえ、少しでもこうした制度で立ち直ってくださる方がいらっしゃるとよいと思います。
(4)その他
一部執行猶予制度について書かれた、今福章二「保護観察の実情と対象者増の検討-刑の一部執行猶予制度施行を目前に控えて-」(判例時報2282号8頁~)の中では、
保護観察に付する旨の判決において、保護観察の前提となる社会復帰後の帰住先や処遇を実施する上で必要不可欠な事項(例えば、薬物依存者であるため保護観察所が実施する専門的処遇プログラムを受けること、引受人の事業所で就労することを法廷で誓約しており、同事業所で就労を継続するための指導を受けるべきであることなど)など、被告人の改善構成に資すると判断される処遇の在り方等が、判決書の量刑の理由の中でできる限り具体的に明記される運用
がなされると、感銘力や円滑な移行の点でよい、とされていますが、上記(3)にも書いたように、この制度がなかなか覚悟が必要なものであることからすると、弁護人が被告人と話しても、被告人としても積極的に一部執行猶予を求めるかは、なかなか決断できないケースが出てきそうにも思われます。
もっとも、これらの事項は、こうした薬物事犯で弁護人が行う情状弁護の事項と相当程度重なるので、結果として裁判所が判断に困るわけではないのかもしれません。
同じ著者が更生保護学研究33号に書かれた論稿(今福章二「更生保護と刑の一部執行猶予」)では、
検察官は、適正な科刑の実現のために必要と考えらえる場合には、刑の一部執行猶予の言渡しの要件を踏まえ、事案に応じた適正な量刑を求める観点から、論告求刑において、刑の一部執行猶予の適用についても意見を述べることがありうると考えられる。
との記載もありますので、そうした検察側の運用がどうなるのかも、少し気になりますね。
もちろん、刑事弁護委員会に所属されるなど詳しい先生であれば、そうしたことについてもご存じなのかもしれませんね。