【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

「手をつなぐ~子どものためにさらなる連携を~(第9回日本子ども虐待医学会学術集会)」に参加して

1 どちらに参加しよう?

 昨日(8月5日)と、今日(8月6日)は、日本子ども虐待医学会学術集会「手をつなぐ~子どものためにさらなる連携を~」に参加してきました。 

 私自身は、弁護士会の子どもの権利に関する委員会を4月で辞め、今現在そうした関係の仕事はしていませんが、他方で、まだ参加を続けている勉強会の関係でこのイベントのチラシを頂いてもいましたし、演題の中には去年専門実務研究に書いた論文「虐待の疑いのある乳幼児頭部外傷についての法的考察」と関連するものもありましたので、個人的な興味もあり、参加してみました。

 いえ、直前まで迷っていました。

 同じ勉強会の関係から案内を頂いていた神奈川県立こども医療センターの『子どもの心へのさまざまなアプローチ』が、同じ8月5日(土)に開催され、そちらは無料でしたから(日本子ども虐待医学会学術集会は、一般参加の参加費として6000円かかります。) 

 とはいえ、比較検討した結果、こちらに参加することにしました。

 一度、書いた論文と関わりがある方が関心があったことと、一度「医学会」「医師の学術集会」というものを見てみたかったことが、決め手でしょうか。 

2 「医学会」「学術集会」への関心

 裁判官であったときは、どうしても「判決の結論を導くことに必要な」「法律関係の書籍・文献」に関心が向いていました。

 裁判官が自分で「どちらかの当事者に有利に働く」証拠を集めてしまうと「公平」にならないので、証拠は、当事者が自分で集めることが裁判の原則です。そのため、基礎的知識(「顕著な事実」にあたるような知識ですね…。民事訴訟法179条)については書籍を購入したり読んだりすることはあっても、結論を決めるような(法律学以外の)専門的知見について、自ら調べて判決に活かすことはしてはいけないことが原則です。

 しかし、弁護士になってからは、①そうした「限定」がなくなったことと、②平日の10時から17時の間でも、仕事さえ入れていなければ調査に時間を回すことができるため、飛躍的に調査対象とする文献の範囲が広がりました。

 横浜市大の医学情報センターなどは、初めて足を踏み入れたときは「わくわく」しました。「自分の知らなかった知識が、こんなにあるのか」と思って。

 しかし、いざ医学情報センターで集めた文献を読むと、「わくわく」が半分になってしまいました。

 集めた文献の中には、いろいろな医学会の学術集会等のものがあったのですが、非常にあっさりした記載が多かったためです。

 面白そうに感じたものほど、「抄録」ということで10行程度の記載のものも多く、「おかしいな」と思っていました。

 実際に、医師の学会・学術集会に参加すれば、そうした疑問が解けるかもしれない…。

 そう思っていました。 

3 参加してみて

 参加してみると、配布資料に「抄録」しか書かれていないものも、当日の発表は非常に充実しており、とても面白かったです。

 …いや、「抄録」に書かれている内容が読み上げられるだけだったら、8月5日の午前中で席を立って、こども医療センターのイベントのほうに足を運んでいたかもしれません。

 児童虐待の問題は、児童の身体に与えられた「傷害」が問題になることも多いので、当たり前ですが医師の研究が一番進んでいます。そして、行われた発表に対して、会場の医師からも率直な疑問が出され、立場にこだわらずにやり取りが行われているところを見ると、本当に「いいなあ」と思います(いや、私が知らないだけで、本当はいろいろ気が遣われているのかもしれませんが;)。

 もっとも、もともと民事裁判官として「高次脳機能障害」等の理解に関連して脳のことや受傷機序を学び、刑事裁判官として「創傷」等の法医学的な知識を学び、さらにその上で、昨年AHTについての論文を書いていたから、理解できたこともあったのでしょうが、とにかく充実していました(ちょっと時間が長くて、色々疲れましたけど^^;)。 

4 診療や、学術研究目的での、医学データの利用

 ただ、発表の中で、症例数が限られていると、やはり「もっと多くの事例があっても同じなのかどうか」がとても気になりました。

 そうした視点からは、以前「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」のブログを書いたときに、ちょっと勉強したような、「レセプト情報・特定健診等情報データベース」や「がん登録」と同じような、「子どもの死因」や「脳外傷」についてもデータベースを作って、他の症例と比較ができるようになるといいのにな…と思っています。 

 もちろん、医療情報を共有することは危険もありますので、いろいろなことを考え、配慮して作る必要はあるのでしょうが…。