【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

どっちにするか…【書評】要説住民訴訟と自治体財務[改訂版](学陽書房)

 実は、直近で読んだ本は別の本(下の方に書いた本)なので、どちらの本をタイトルに上げるか考えたのですが、良かったのはこちらの本なので、こちらを。

www.gakuyo.co.jp

  初任地だった、広島地方裁判所刑事部から異動するときに、民事部の裁判官に読んでおくべき本がないか聞いて、購入した本です。

 あ、今は品切れになっていますね。買っておいてよかった。

 …もっとも、10年間裁判所にいても、住民訴訟は一度も担当したことがなかったので、今年になるまで開くことのなかった本なのですが…。

 平成14年に発行された改訂版ですので、ずいぶんと前も出版された本です。しかし、今でも住民訴訟の論文などを見ると、かならず脚注に出てくる本です。

 非常に良いのは、Ⅶ章で、「各種財務会計行為の違法事由」として、「寄付または補助」「交際費・接待費・食糧費」「給与・報酬、旅費・費用弁償」「契約」「財産の管理処分・公金の賦課徴収」など、各財務行為の類型ごとに、裁判例がまとめて紹介され、裁判所の考え方について分析が書かれていることです。公務員の方にとっては、日常の職務に照らし合わせることができ、興味深いのではないかと思います。

 とはいえ、住民訴訟について、この本だけではイメージすることは、なかなか限界はあるのですが…。

 ずいぶん前の出版…といっても、住民訴訟の中で最も件数が多い、地方自治法242条の2第1項第4号について、大きな改正がされた直後に改訂版が出ているので、それほど違和感はありません。ただ、総論部分では、いろいろな考え方に触れられている箇所もあり、少し読みにくく感じるところもあるかもしれません。

  そこで、上の本を通読した後、最新の裁判例や法改正まで知っておきたいな…と思って、インターネットであたりをつけて購入し、読んだのが、この本です。

shop.gyosei.jp

 大きめの活字で、体系的に整理された記載がされ、読みやすい本でした。公務員の方が共同執筆者になっているだけあって、地方自治体の職員向けを意識した書かれていることがわかります。

 ただ、上の本のように、具体的な財務行為ごとの分析などはない…一冊全て総論のような本なので、地方自治体において日常問題となりうる財務行為について、裁判所がどう判断しているのかを知るには、あまり向いていません。そこが面白いところでもあるので、今回タイトルであげる本は、上の方の本にしました。

 

 上のような本が、より体系的に整理され、かつ、最新の法改正と裁判例にアップデートされると、一番うれしいのですが…。

 もう一冊、申立人側から書かれた本を買おうかとも思いましたが、そこまで住民訴訟に「まみれる」必要があるわけではないので、とりあえず住民訴訟はこの辺りにして、次の本に移ろうかと思っています。

※ すみません。このブログでは、自分が積んでる本を少しでも読み進むように、通読した本だけを紹介するようにしていますので、あげる本に偏りがあるかと思います(注釈書などは、さすがに通読しないので…)。