【天秤印】名古屋・横浜弁護士雑記

現在名古屋市に勤めている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

令和3年を迎えて

児童相談所に来て3年たちました。

一つ一つ深く悩み、考えさせられることばかりでしたが、中でもこの1年は、いろいろなことに悩んできました。

前にいた役所が特殊だったこともあり、初めて組織らしい組織に属し、その中で、いろいろと試行錯誤を重ねてきました。

そして、3年目が過ぎようとする今、自分の今後の進退についても、考えができていました。

先日、上司との面接で自分の考えをお伝えしたことで、自分の中でも令和3年を迎える決心がつきました。

 

この一年を大切にしていこうと思います。

 

第55回の日本アルコール・アディクション医学会学術総会

 22日、23日は、第55回日本アルコール・アディクション医学会学術総会に、Webで参加していました。

 今年もいつくかの学会(ほとんどがWeb開催です。また、そういったものを中心に今年は参加しています。)にプライヴェートで申し込んで聞いていますが、やはり、Webでの学会よりも現地開催の学会の方が、「完全に日常と切り離されて、その学会しか聞くものがない」状態になれるので集中できます。Web参加だと、どうしても、内容的にちょっと難しかったり、個人的な関心とずれていたりすると、席を立って他事をやってしまったりすることもあります。

 もっとも、今回のアルコール・アディクション医学会は、基本的に全てライブ配信(後からオンデマンド配信もされますが)でしたので、ある程度は集中して聞けました。オンデマンド配信中心だと、便利なのですが、「今日聞かなくてもいいか」という気になり、つい延ばし伸ばしになってしまいますね…。

 他方で、Web参加の場合、発表の中で関心を持った分野の本を、その場ですぐパソコンで調べることができるのは、ありがたいなと思いました。現地開催型の学会だと、まず、その学会開催のときに購入できる物販の本に集中してしまって、それ以外の本まではなかなか買おうと思えませんので…。

  今年のアルコール・アディクション医学会学術総会では、昨年度扱われていたゲーム障害については、それほど発表はありませんでしたが(それについては、先日開催されていた、日本児童青年精神医学会で聞くことができました。)、それでも児童福祉の分野と比較するといろいろな「気付き」があり、何冊か本を買い足す予定です(昨年度の学会の「物販」で買った本で、また読めていない本もあるのですが…。)。

 やはり、こうした隣接領域の学会を聞くことは、いろいろと比較して考えることができ、面白いなと思います。

【書評】リフレーミングの秘訣(日本評論社)

 う~ん、途中で読むのを投げ出してしまわなくてよかったな、と思う本です。たしか、家族療法の勉強会に参加した時、物販で購入した本だったと思います。

www.nippyo.co.jp

 この本では、はじめに①家族療法に関する古典的な考え方であるシステムアプローチの考え方が紹介され、その後、②P循環療法という筆者の考えが示され、その後③事例の紹介へと移っていきます。

 システムアプローチについて読むだけでも価値があります。「全体は部分に影響を与え、部分は全体に影響を与える」というのは、家族療法の書籍でよく目にした考えなのですが、実際にこの言葉を手帳か何かに書き留めておくだけでも、「家族」を見る時の見立てが非常に広がるのではないか、と思います。

 …実を言うと、次のP循環療法が個人的には少し苦手でした。僕は、色々な問題に自分なりに悩んで自分の答えを見つけ出したいなあ…と思って裁判所に行ってみた人間なので、「これが正しいんだ」という「見方」をいきなり受け入れてしまう、というのは抵抗がありましたし、「そんな簡単な話じゃないんじゃないかな」という思いもありました。

 しかし、その後の事例を読み進めていくと、概念についてなんとなく理解することと、実際の面接でそれを使いこなすことは全く異なることがよくわかりました。通常は、理屈を書いた箇所よりも、事例を書いた箇所の方が簡単で分かりやすいものですが、この本は逆でしたね…。

 事例を読むたびに、「どうしてここで(当然想定される)こうした質問をせずに、この質問を投げかけることができるのか」、「(書籍に書かれている)この質問で本当によいのか、(自分の頭に思い浮かんでいた)こういう質問をしていたらどうなっていただろうか」など、自分があまりにも軽く考えていたことを思い知らされました。 

 ただ、児童相談所、という、ある種の社会的役割を課せられている組織において使う手法としては、この本に書かれている方法は使い辛いところはあるかもしれない…とも思っています。

 とはいえ、家族療法についてももっと勉強してみたいな、と改めて思いました。

どっちにするか…【書評】要説住民訴訟と自治体財務[改訂版](学陽書房)

 実は、直近で読んだ本は別の本(下の方に書いた本)なので、どちらの本をタイトルに上げるか考えたのですが、良かったのはこちらの本なので、こちらを。

www.gakuyo.co.jp

  初任地だった、広島地方裁判所刑事部から異動するときに、民事部の裁判官に読んでおくべき本がないか聞いて、購入した本です。

 あ、今は品切れになっていますね。買っておいてよかった。

 …もっとも、10年間裁判所にいても、住民訴訟は一度も担当したことがなかったので、今年になるまで開くことのなかった本なのですが…。

 平成14年に発行された改訂版ですので、ずいぶんと前も出版された本です。しかし、今でも住民訴訟の論文などを見ると、かならず脚注に出てくる本です。

 非常に良いのは、Ⅶ章で、「各種財務会計行為の違法事由」として、「寄付または補助」「交際費・接待費・食糧費」「給与・報酬、旅費・費用弁償」「契約」「財産の管理処分・公金の賦課徴収」など、各財務行為の類型ごとに、裁判例がまとめて紹介され、裁判所の考え方について分析が書かれていることです。公務員の方にとっては、日常の職務に照らし合わせることができ、興味深いのではないかと思います。

 とはいえ、住民訴訟について、この本だけではイメージすることは、なかなか限界はあるのですが…。

 ずいぶん前の出版…といっても、住民訴訟の中で最も件数が多い、地方自治法242条の2第1項第4号について、大きな改正がされた直後に改訂版が出ているので、それほど違和感はありません。ただ、総論部分では、いろいろな考え方に触れられている箇所もあり、少し読みにくく感じるところもあるかもしれません。

  そこで、上の本を通読した後、最新の裁判例や法改正まで知っておきたいな…と思って、インターネットであたりをつけて購入し、読んだのが、この本です。

shop.gyosei.jp

 大きめの活字で、体系的に整理された記載がされ、読みやすい本でした。公務員の方が共同執筆者になっているだけあって、地方自治体の職員向けを意識した書かれていることがわかります。

 ただ、上の本のように、具体的な財務行為ごとの分析などはない…一冊全て総論のような本なので、地方自治体において日常問題となりうる財務行為について、裁判所がどう判断しているのかを知るには、あまり向いていません。そこが面白いところでもあるので、今回タイトルであげる本は、上の方の本にしました。

 

 上のような本が、より体系的に整理され、かつ、最新の法改正と裁判例にアップデートされると、一番うれしいのですが…。

 もう一冊、申立人側から書かれた本を買おうかとも思いましたが、そこまで住民訴訟に「まみれる」必要があるわけではないので、とりあえず住民訴訟はこの辺りにして、次の本に移ろうかと思っています。

※ すみません。このブログでは、自分が積んでる本を少しでも読み進むように、通読した本だけを紹介するようにしていますので、あげる本に偏りがあるかと思います(注釈書などは、さすがに通読しないので…)。

【書評】国籍の得喪と戸籍実務の手引き(日本加除出版株式会社)

 これは、ブログを休んでいた時に読んだ本ですね。おすすめかというと、少し微妙なのですが、他になかなかないジャンルを扱っていたので触れておこうかと。

 児童相談所に関わるお子さんの中には、「国籍」や「戸籍」の問題を抱えているお子さんもいらっしゃいます。

 とはいえ、実際のところ、国籍についてどのような判断が行われているのかは、わからないところも多く、相談に対して見通しを伝えることも、なかなか難しいところがあります。特に、最近、研修で弁護士から聞いた、国籍法2条3号にかかわる事件の話に関し、その条文が実際にどのように運用されているのかを知りたいという思いもありました。

 そう考えていたところ、本屋でたまたま目にして買ったのが、この本です。 

国籍の得喪と戸籍実務の手引き | 日本加除出版

 結果として、国籍法2条3号については、あまりこの本には書かれていませんでした。

 しかし、出生届により国籍を取得する場合の手続きと、あとから認知されたことにより届出を行うことで国籍を取得する場合の手続きの違いや、国外で日本国籍の子が出生した場合の手続き、国籍取得と戸籍記載の関係など、それまできちんと把握していなかった知識について書かれていました。

 

 出入国管理法関係以上に、国籍法関係の本はあまりない気もするので、場合によっては必要な知識が載っていないか、見てみてもよい本だと思います。

【書評】自治体が原告となる訴訟の手引き福祉教育債権編(日本加除出版)

 …興味深く、面白い本でした。

www.kajo.co.jp

 福祉サービスだからといって、無償のものばかりではありません。学校の給食には給食費がかかります。また、例えば不正にサービスを利用した場合などには、金員を返還しなければならないと書いた法律の条文もあります。

 …たしかに、そうした条文があることは知識としては知っていました。ただ、僕自身裁判所に勤めていた間に、自分でそうした「裁判」を見たことはありませんでした。

 これは、そういった、福祉分野で自治体が取得する債権について、裁判を行う場合に、どう申立書を書いたらいいか、検討しておかなければいけない問題についてどう考えるのか、そういったことの基礎について書かれた本です。

  自治体法務の勉強会で、債権の種類が重要だと言われましたが、その意味がやっと分かりました。公債権かどうか、強制徴収権があるかどうか、それによって、裁判ができるかどうか、公正証書を作成できるかどうか、簡易裁判所を利用できるかどうか、時効期間の長さがどうなるのか、時効の援用が必要かどうか、遅延損害金の請求ができるかどうか…、そうした多様な事柄に影響があるということを初めて知りました。

 ただ、正直、この本を頼っていいのか、少し不安になるところ、自分で調べて考えてみたいと思っているところも、少しあります。

 それは、この本で取り扱っている分野について、きちんと書かれた本が、あまりないからかな、と思います。

  たとえば、なぜある債権が公債権で、なぜ他の債権が違うのかといったところは、この本を読んだからと言って、十分納得できるわけではありません(いくつか裁判例を調べると、さらに理解が深まりそうにも思うのですが…)。この本が厚生労働省の解釈と違う立場をとっている箇所もあるため、この本の考え方がどのくらい一般的なのか、どれだけ裁判所に受け入れられるかは…やっぱり自分が事件を引き受ける立場だったら、調べないと不安かな…という気がします。

 でも、他にはない知識を扱っているだけに、得難い本だと思います。こうした事件を取り扱うのであれば、一読しておいて損はないのではないでしょうか。

  自治体の法務というのは、奥が深いな…と思いますね。

 この本は東京弁護士会自治体等法務研究部の方々が書かれていますが、ほとんど文献がないと思われるのに、こうした本を書かれるということは、すごいとしか言いようがないな、と思います。

※ この土日は、日本児童青年精神医学会総会のWeb配信を見ていました。いや面白いですね。しかし、一つ見るのに、思った以上に時間がかかります…。今感想を書くのがいいのか、もうちょっときちんと数を見て書いた方がいいのか…。

書評:自治体訴訟事件事例ハンドブック【改訂版】(第一法規)

 ブログが中断していた間に読んでいた本について書こうと思っていましたが、一度読んで時間が経った本のことを、再度思い出して書くのは、なかなか大変です。とりあえず、最近読んだ本を一つ。 

www.daiichihoki.co.jp

 児童相談所の常勤弁護士は、どんな業務をやることになるのか。採用は決まったものの、それがまだわからなかったころに、「自治体が関わる訴訟」について広く学ぶ、という意味で購入しておいた一冊です。

 残念ながら、「児童相談所」の常勤弁護士の業務とは、関連性が薄かったため、最近まで読んでいなかったのですが…。

  東京都の、特別区人事:厚生事務組合法務部が編者となっている本です。

 判例集判例評釈と比べると、1つ1つの事件についての法律的な評釈や関連判例の言及は控えめで、また、対象となった判例も年月日等が書かれているわけではなく(そもそも公刊されていないものがほとんどだと思います。)、「法的知識の習得」に向いた本というわけではありません。

 ただ、この本の特質は、地方自治体の関わる訴訟・法的紛争が、いかに多彩か」「日常の自治体の業務の中に、訴訟になりうるものがどれだけあるのか」といったことを知ることに非常に良いことでしょう。そして、地方自治体の法務部がどんなことをしているのかを知ることにも、最適の本だと思います。

 また、おもしろかったのは、「証拠」による「立証」についての工夫や努力が、いたるところに書かれていることです。

 判例を読んでいると、ときどき、「この事実は、一体どういう証拠で認定したのだろう?」と不思議に思うことがままあります。判決文では、甲〇号証、などと書かれてあっても、具体的にそれがどんな証拠なのかは、判決文からは分かりません。そのため、判決文を基に書かれた評釈でも、そうしたことはあまり書かれてはいません。

 この本は、具体的にそうした点での工夫がいろいろと書かれており、そこは非常に面白く感じました。

 地方自治体にお勤めの方にとって、「裁判」というものの性質、「法務」とはどういうものなのか、を理解するためには、良い本ではないかと思います。

 それにしても、東京はすごいと思います。次に読もうかと思っているこの本を見る限り、これだけの法務部があるのに、さらに、東京弁護士会自治体等法務研究部があるようなので…。

自治体が原告となる訴訟の手引き 福祉教育債権編 | 日本加除出版