【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

ときどき山(あまり高くない)に…

 

少し前ですが、17日の土曜日に、大山に登ってきました。

 

昔から、ときどき山に登ります。

 

役人だったころは、何日か午前3時まで仕事したり、金曜の夜から眠れないまま早朝から、山に登りに行っていました。

 

そんなに高い山じゃありません。

…そこそこ高い山もありましたが。

もちろん、冬山なんかには登りません。

 

なぜ無理して時間を作って、山に登っていたのかというと「等身大の自分」を定期的に、きちんと確認したかったのだと思います。

 

「ある仕事」「ある組織」に属していると、自分も、その影響を受けて、「波」ができます。自信を無くす時もありますし、自意識過剰かな?と思うときもあります。

ですので、そういう「仕事」や「組織」と離れたところで過ごす時間は、「仕事」「組織」に振り回されないためには必要だと思っています。

 

山に登ると、日頃どんだけ頑張って仕事をしていようとも、息が切れます(ガテン系の仕事の人は違うかもしれません…。)。そうなると、自分の中に意識過剰になっているところがあっても、「ああ、自分は結局この程度しか体力がないんだな…」「なさけないな…」ということが分かります。

 

他方で、自信を無くしていても、「あ、これだけ登れるのか。」「結構頑張った。」と思えて、自分を持ち直すきっかけになったりもします。

 

しばらく、大した山に登っていなかったので(去年「畔が丸」に登って以来ですかね…。)、大山でもきつく感じましたね…。ケーブルカーは使わなかったのですが。

頂上に咲いていた更紗満天星がきれいでしたね。

 好きな花なので、少し嬉しかったですね。

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改正個人情報保護法と、自治会・町内会

 

1 自治会・町内会も改正個人情報保護法の対象に

 先日タウンニュースの取材に応じる際、いろいろと必要以上に調べてしまったこともあり、こちらのブログに書き残しておこうと思います。

 改正個人情報保護法平成28年5月30日に施行され、このときから町内会や自治会にも個人情報保護法が適用される、という話題が出てきました。

 いえ、それまでも、「町内会や自治会は適用しなくていい」ということになっていたわけではないんです。ただ、【6か月以内に5000件を超えない個人情報しか持っていない場合】には、法律が適用される「個人情報取扱事業者」にあたらないとされていたところ、「5000人も会員がいる町内会・自治会」というのはなかなかなかったので、気にしなくてもよかっただけなのですよね。

 今回の法改正で、そうした事業者も、みんな個人情報取扱事業者になることになりましたので、町内会・自治会も対応をする必要が出てきました。

 でも、慌てる必要はありません。

 改正された個人情報保護法は平成29年5月30日から適用されますが、だからといって、それまでに持っていた個人情報=町内会の名簿などを捨てなければいけなくなるとか、必ず会員の同意を取り直さなければならなわけではありません落ち着きましょう。

 また、個人情報保護法は、あくまで「行政法規」=行政が、あらかじめ困ったことが生じないように事業者などにルールを課す法律、ですので、この法律に違反したからといって、実害が生じていないと評価されれば、損害賠償等が必要になるわけではありませんもともとこの法律は、国の機関への苦情や、国の機関からの勧告等によって、少しずつ個人情報の取り扱いをよくしていくことを目指した法律だと思います。もちろん、だからといって、放置していて実害が生じれば問題になりますので、注意しましょう。

 ただ刑事罰が新設され、「個人情報取扱事業者」である自治会・町内会の会長や役員の方が名簿を売ってしまったりすると、犯罪となり得ますので、注意が必要です。

 そして、横浜市では、平成29年3月10日に、町内会や自治会の上部組織である、「横浜市町内連合会」「個人情報保護法改正に伴う名簿の取り扱いについて」「自治会町内会向け個人情報取扱い手引き」という書面を交付し、各町内会長・自治会長に1部ずつ配布するよう依頼しているはずです。しまってあったら、出してきて読み直しましょう。

 また、国の機関である「個人情報保護委員会」が、「自治会・同窓会向け」に、「会員名簿を作るときの注意事項」という資料も作成しています。こちらも参考にしてもよいかもしれませんね。

2 「個人情報取扱事業者」の【中の人】は誰?

 個人情報保護法は、まず、個人情報を「取得」して、「利用」「保管」し、最後に「廃棄」をすることについて、個人情報取扱事業者に対していろいろな義務を定めています。

 そして、この法律を理解するためにまず必須の前提として押さえておかなければならないことは、【どの範囲の人がその個人情報取扱事業者の内部の人間なのか】です。

 町内会や自治会は、数年ごとに会長や、役員が交代すると思いますが、交代したら、あらたしい会長や役員は、前の会長や役員がもっていた個人情報を引き継げないのでしょうか?。

 また、会長や役員という役割を持っているわけではない、その町内会、自治会の区域内に居住し、自治会や町内会に加入している「会員」には、個人情報を渡してもいいのでしょうか?。

 ここをきちんと理解しないと、混乱してしまいます。

(1)会長や役員は【中の人】=利用目的の範囲内なら利用可  

 結論を言えば、前者=つまり、「会長」や「役員」など、自治会や町内会からその自治会・町内会の事業を行うために役割を任されている人は、個人情報取扱事業者」の内部の構成員(会社で言うなら、社長や社員)ですので、その内で個人情報をやりとりすることについて、改めて同意をもらわないといけないということはありません。

 とはいえ、あらかじめ利用目的を定めておいて、その利用目的の範囲内で個人情報を利用することが原則です。 

第16条 個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定に より特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。

個人情報の保護に関する法律

(2)会員や上部組織は【第三者】=提供には「同意」がいるのが原則

  これに対して、後者=つまり、自治会や町内会の会員は、そうした立場ではないので(「第三者」と言われます。)、自治会や町内会が、会員に個人情報(他の会員の個人情報もですが)を渡すときには、原則として「同意」が必要となります。

第23条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同 意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。

 個人情報の保護に関する法律

3 会員名簿の場合

 上の法律等がどうで起用されるか、会員名簿を例にして、具体的に見てみます。

  なお、ここに書く内容は横浜市「自治会町内会向け個人情報取扱い手引き」を基に、「なんでそういう記載がいるのか」を私なりに説明する程度のものです。混乱しないためには、手引きだけを読んで、以下の記載は読まない方が良いかもしれません。不安になったとき、「知りたい」というときには、読んでみてもよいでしょう。

(1)取得の場合(同意と利用目的の考え方)

 自治会や、町内会は、加入を強制されている団体ではなく、脱退もできる任意団体です(最高裁判所平成17426日判決)。 

 ですので、区域内に転居して、加入する方には、「加入申込書」を書いてもらうことになり,このとき個人情報を取得することになります。

 個人情報を書面で取得することになりますので,「あらかじめ利用目的を明示」して取得する必要があります。

18条2 個人情報取扱事業者は、前項の規定にかかわらず、本人との間で契約を締結することに伴って契約書その他の書面(電磁的記録を含む。以下この項において同じ。)に記載された当該本人の個人情報を取得する場合その他本人から直接書面に記載された当該本人の個人情報を取得する場合は、あらかじめ、本人に対し、その利用目的を明示しなければならない。

個人情報の保護に関する法律

 同時に,書いてもらった個人情報を,【第三者】に提供するのであれば,それについての同意も頂いておく必要があります。

 同意のもらい方については,個人情報保護委員会」の「会員名簿を作るときの注意事項」の3頁目,「個人情報を第三者に提供するときのルール」において,「名簿に掲載される会員に対して配布するため」と伝えた上で任意に書面を提出してもらえば,同意を得たことになるとされているので,この方法で良いと思います(同じ個人情報保護委員会の,「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」24頁などを見ると,本来はもっと明示の同意を得なければならないようですが,おそらくは非営利の事業者であることや、その用途等から,こうした形の同意でよいとされているのだと思います。)

 ただ,自治会・町内会では,会員に配布するだけではなく,上部団体である連合会や,近隣の自治会に名簿を提供することもあるかと思われますので,その場合には,それらについても記載する必要があります。

 具体的には,横浜市「自治会町内会向け個人情報取扱い手引き」にもある「自治会(町内会)加入申込書記載例」を参考にされればよいと思います。もちろん,自治体によって,ここに書かれている以外の【第三者】にも名簿を提供する場合には,それも記載しておくこととなります。

 提供先については,必ずしも名称を明示する必要はありませんが,提供する範囲や属性は示す必要があるとされています(上の「名簿に掲載される会員に対して」というのは,「名称」を明示しているわけではありませんが,範囲がわかるのでOKです。)。

Q5-9 第三者提供の同意を得るに当たり、提供先の氏名又は名称を本人に明示する必要はありますか。
A5-9 提供先を個別に明示することまでが求められるわけではありません。もっとも、想定される提供先の範囲や属性を示すことは望ましいと考えられます。

「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」及び「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」に関するQ&A 

 そのほかの利用目的についても,おおむね横浜市「自治会町内会向け個人情報取扱い手引き」にもある「自治会(町内会)加入申込書記載例」を参考にし,もし自治体や町内会独自の取り組みで他にも個人情報を利用しているものがあれば,それを記載しておくことになるでしょう。具体的な記載である必要があるため,「町内会の事務に利用します」では望ましくないのではないかとも思われます。

 なお,横浜市では,自治会・町内会に現況届を提出してもらう際に,「役員名簿」も提出してもらっているようですが,これは提出時に改めて「役員」の同意をとればよいので,その同意まで「全会員の」加入申込書でもらう必要はありません。

(2)第三者に提供する場合の「記録」

 取得の際に,上記のように第三者提供の同意を頂いたとして,その後,実際に第三者提供した場合(会員への名簿の配布,上部団体への提出等)は,何かしておくことがあるでしょうか?。
 今回の改正法では,ベネッセで起きた情報漏えい事件を受けて,「名簿」のようなものが本人の知らないところで流通したりしないように個人情報取扱事業者に対して,名簿等を提供した場合,名簿等を提供してもらった場合には,【記録に残すこと】を義務づけています。
第25条 個人情報取扱事業者は、個人データを第三者(第2条第5項各号に掲げる者を除く。以下この条及び次条において同じ。)に提供したときは、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、当該個人データを提供した年月日、当該第三者の氏名又は名称その他の個人情報保護委員会規則で定める事項に関する記録を作成しなければならない。ただし、当該個人データの提供が第23条第1項各号又は第5項各号のいずれか(前条の規定による個人データの提供にあっては、第23条第1項各号のいずれか)に該当する場合は、この限りでない。

 「提供した時」に記録に残しておく事項としては、①本人の同意を得ていること、②提供(代表者)の氏名・名称、③「誰の個人情報が書かれていたか」その本人の氏名等、④名簿に書かれている内容の項目などです(個人情報の保護に関する法律施行規則13条1項2号)。  

 各会員に配布したことについては、その「会員名簿」に、③、④が書かれ、「加入申込書」に①、②がかかれていますので、これを「配布時から3年間」(個人情報の保護に関する法律施行規則14条)捨てずに保管しておけば大丈夫です。だから「個人情報保護委員会」の「会員名簿を作るときの注意事項」3頁で、「名簿そのものを一定期間保管する必要があります。」とだけ書いてある(別の記録の作成までは不要)のですよね。

 ただ、隣接自治体・町内会や上部組織については、実際に提供したかどうか「加入申込書」の記載だけでは明確ではないかもしれませんので、保管している名簿に、「○○自治会(代表者✖✖)に提供」「○○連合会(代表者△△)に提供」等とメモをしておいてもよいかもしれませんね。もっとも、上部団体が隣接団体の役員名簿ももらうことはあると思うので、そこに書いてあればそれを保存しておけばよいのでしょうが。

(3)第三者に提供してもらった場合の記録 

 上記の通り、今回の法改正では、「名簿をもらったとき」も「個人情報取扱事業者」は、記録を残さないといけなくなりました。

 第26条 個人情報取扱事業者は、第三者から個人データの提供を受けるに際しては、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、次に掲げる事項の確認を行わなければならない。ただし、当該個人データの提供が第23条第1項各号又は第5項各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない。

 個人情報の保護に関する法律

 「提供を受けたとき」に記録に残しておく事項としては、①本人の同意を得ていること、②提供(代表者)の氏名・名称、③提供がその個人データを入手した経緯、④「誰の個人情報が書かれていたか」その本人の氏名等、⑤名簿に書かれている内容の項目などです(個人情報の保護に関する法律施行規則171項2号)。  

 いただいた名簿で、④⑤は書いてあります。③も、「会員名簿」である以上、町内会・自治会に「加入」したことでその会員の個人情報を入手したことがわかりますので、特に確認せずとも明らかと言ってよいと思います。②提供元の代表者については(2)と同じです。①は少し問題でしょうか。加入申込書の書式を見せてもらい、そこに、「こちらの自治会・町内会に提供することもあります」ということを確認できれば、その写しをもらっておいて、もらった名簿と一緒に3年間保存すると確実でしょうか。

 (2)のとおり、これらの項目は、提供元の自治会・町内会も残していますので、提供をうけた自治会・町内会は、提供元の自治会・町内会に記録義務の作成の代行をお願いする形を、相互にとる(自治体・町内会相互間では、常に提供元が提供先の分も代行して記録義務を履行する)といいような気もしますね。

 上部組織等で、そうした話し合いや取り決めまでできるものなのかどうか、そこはわからないのですが…。

4-1-3 代行により記録を作成する方法  
提供者・受領者のいずれも記録の作成方法・保存期間は同一であることに鑑みて、提供者(又は受領者)は受領者(又は提供者)の記録義務の全部又は一部を代替して行うことができる(提供者と受領者の記録事項の相違については留意する必要がある。)。なお、この場合であっても、提供者及び受領者は自己の義務が免責されるわけではないことから、実質的に自らが記録作成義務を果たしているものと同等の体制を構築しなければならない。 

個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(第三者提供時の確認・記録義務編)19頁

4 災害時要援護者名簿の場合 

 1でリンクを張った、横浜市の「個人情報保護法改正に伴う名簿の取扱いについて」には、会員名簿以外に「災害時要援護者名簿」というものについて記載があります。

 この「災害時要援護者名簿」というものは、災害対策基本法に基づく「避難行動要支援者名簿」のことを差します。 

第四十九条の十 市町村長は、当該市町村に居住する要配慮者のうち、災害が発生し、又は災害が発生するおそれがある場合に自ら避難することが困難な者であつて、その円滑かつ迅速な避難の確保を図るため特に支援を要するもの(以下「避難行動要支援者」という。)の把握に努めるとともに、地域防災計画の定めるところにより、避難行動要支援者について避難の支援、安否の確認その他の避難行動要支援者の生命又は身体を災害から保護するために必要な措置(以下「避難支援等」という。)を実施するための基礎とする名簿(以下この条及び次条第一項において「避難行動要支援者名簿」という。)を作成しておかなければならない。  

 平成25年以前、災害対策基本法にはこうした名簿についての規定はなかったものの、平成18年3月に国が「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」を作成し地方自治体が「災害時要援護者名簿」を作成し、本人の同意のもと、民生委員や自治会に提供することを提案しました。

 これに基づき、横浜市は「要援護者の避難支援に関する作業部会」での検討を経て、平成19年2月に「災害時要援護者の避難支援システム策定の手引き」を作成して、この取り組みを進めてきたようです。

 そうしたところ、平成23年3月11日に東日本大震災が起き、その中で、本人の同意を得ないままに、地方自治体が持っている情報を被災者支援に使用してよいのかが悩ましい問題として出てきました(こうした経緯については、岡本正弁護士の、「災害対策と個人情報利活用の課題‐災害対策基本法と消費者安全法が示唆する政策展開‐」(社会情報学第3巻3号)に記載されています。)。

 その教訓から、平成25年に災害対策基本法が改正され、「避難行動要支援者名簿」についての規定ができましたが、これについては、それまでに災害時要援護者名簿を作成しており、それが法律の要件を満たしていれば、「避難行動要支援者名簿として活用することができる」とされています。

 避難行動要支援者名簿(災対法第49条の10~第49条の13)関係の質疑応答の16

  そのため、横浜市の「災害時要援護者名簿」は、法に基づいて、地方自治体が作成した名簿であり、法律上同意に基づいて関係機関に自治体が提供できることになっています。 

49条の11第2項  市町村長は、災害の発生に備え、避難支援等の実施に必要な限度で、地域防災計画の定めるところにより、消防機関、都道府県警察、民生委員法 (昭和二十三年法律第百九十八号)に定める民生委員、社会福祉法 (昭和二十六年法律第四十五号)第百九条第一項 に規定する市町村社会福祉協議会自主防災組織その他の避難支援等の実施に携わる関係者(次項において「避難支援等関係者」という。)に対し、名簿情報を提供するものとする。ただし、当該市町村の条例に特別の定めがある場合を除き、名簿情報を提供することについて本人(当該名簿情報によつて識別される特定の個人をいう。次項において同じ。)の同意が得られない場合は、この限りでない。 

災害対策基本法

 ですので、横浜市と協定を結んで、この「災害時要援護者名簿」の提供を受けている自治会・町内会では、自治会や町内会で公表している利用目的に関わらず、法律に書かれている目的の範囲内で使用する限り、「法令に基づく」ものとしてこれを利用することができます。 

第16条 個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。(中略)

3 前二項の規定は、次に掲げる場合については、適用しない。

一 法令に基づく場合 (以下略)

第23条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。

一 法令に基づく場合(以下略) 

 地方公共団体から提供を受けたものですので、記録化も必要ありません。 

第25条 個人情報取扱事業者は、個人データを第三者(第2条第5項各号にげる 者を除く。以下この条及び次条において同じ。)に提供したときは、人情報保護委員会規則で定めるところにより、当該個人データを提供した年月日、当該第三者の氏名又は名称その他の個人情報保護委員会規則で定める事項に関する記録を作成しなければならない。(以下略)

2条5 この法律において「個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者をいう。ただし、次に掲げる者を除く。

一 国の機関

地方公共団体

(以下略) 

 個人情報の保護に関する法律

 ただ、こうした名簿を基に、各自治会等で情報を書き加えるなどして作成した名簿や、個別支援計画等については、災害対策基本法に明示的な定めがないように見え、「本人の同意」に根拠を持っていると思いますので、その情報を提供・共有する範囲も含めて、きちんと同意をとって取得し、同意を得た範囲の中で運用する必要があるでしょう(災害時要支援者名簿・避難行動要支援者名簿に記載されている情報は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に該当するものも多いと思われますので、本人の同意をきちんととることは必要です。)。 

 NPOなどに渡すことも、本人の同意がない限りは、基本は避けた方がよいでしょう。

 ただし、本当に災害が起きてしまった場合、本人の生命が危ない場合には、個人情報保護法の以下の規定に従って、第三者提供等も行うことができるでしょう。悩ましい場合には、市役所・区役所の健康福祉局福祉保健課等に伺ってみてもよいでしょう。 

第23条 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。

一 法令に基づく場合
二 人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。(以下略) 

 個人情報の保護に関する法律

5 それ以外の個人情報?

 それ以外に、各自治会や町内会が、どんな個人情報等を持っているかについては、残念ながら、それぞれ違うと思いますので、何とも言えません。

 総務省「コミュニティ団体運営の手引き」などを見る限りでは、101頁の「会費集金補助簿」のようなものは、個人情報の名簿(個人情報データベース)にあたるでしょうから、利用目的以外に使ったり、同意のないままこれを第三者に提供してはいけないでしょう。

 横浜市では、「地域の見守りネットワーク構築支援事業」なども行われていたようですので、そういったところでやりとりされた、保管された個人情報もあるかと思われます。ただ、これも多くは「本人の同意」があるはずですし、「利用目的」の範囲内で運用するのであれば、問題ないことが多いのではないかと思われます。

6 刑事罰

  タウンニュースの取材のときにも聞かれたのが、この刑事罰の話です。

 改正された個人情報保護法には、以下の規定があります。 

第83条 個人情報取扱事業者(その者が法人(法人でない団体で代表者又は管理人 の定めのあるものを含む。第87条第1項において同じ。)である場合にあっては、 その役員、代表者又は管理人)若しくはその従業者又はこれらであった者が、その業務に関して取り扱った個人情報データベース等(その全部又は一部を複製し、又は加工したものを含む。)を自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したときは、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。 

 個人情報の保護に関する法律

 ですので、こういうことをやってはいけません。今後は、警察が特殊詐欺の拠点などを検挙した後、使われていた名簿がどこから流れてきたのかを調べて、場合によっては立件できるかどうかを検討することも、絶対にないとは言えません。

 これは、あくまで「提供した人」が犯罪に問われますが、そうした人を雇っていたり、そうした人が役員を務めていた個人情報取扱事業者についても、「両罰規定」というものが設けられています。 

第87条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、そ の法人又は人の業務に関して、第83条から第85条までの違反行為をしたときは、 行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。  ­
法人でない団体について前項の規定の適用がある場合には、その代表者又は管理人が、その訴訟行為につき法人でない団体を代表するほか、法人を被告人又は 被疑者とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。  

 個人情報の保護に関する法律

 ただ、この両罰規定というものは、その個人情報取扱事業者がきちんと安全管理措置を行っていた場合にまで処罰するというものではありません。

参議院法制局

 その点からも、日ごろの安全管理措置をきちんと心がけることは、大切だろうと思います。 

※ 6/13 誤字や、誤解を招くおそれもあるいくつかの個所を微修正しました。

「改正個人情報保護法Q&Aと誰でもつくれる規程集」【書評】

 5月30日まで行っていた,改正個人情報保護法にかかる仕事との関係で,個人情報保護委員会から公表されているガイドライン(「通則編」及び「第三者提供時の確認・記録義務編」),のほか,「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」,「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」「Q&A」などには一通り検討し,また作業に必要な範囲で,法律,施行令,施行規則,そして宇賀克也先生の書かれた逐条解説などに目を通していましたが,それ以前に購入していたこの本をまだ目を通していなかったので,この機会に通勤読書で目を通しておきました。

www.daiichihoki.co.jp

 正直,私自身既にガイドライン等に目を通しているので,もっと早く目を通せると思っていましたが,EUデータ保護指令等と関わる立法経緯や,私がガイドラインを読んでいなかった匿名加工情報,外国第三者への提供に係る部分の記載は手強く,ちょっと時間を取ってしまいました。
 「規程」等は巻末に付録として付いているのですが,それぞれの条項等に細かな解説があるというほどではありませんので,規程等を作るためにこの本1冊で足りるかは,何とも言えません。もちろん,ガイドライン等と併用して,規程を考える際の「たたき台」としては,悪くはないと思います。なお,巻末の規程はそれなりの規模の会社向けと思われ,小規模事業者等には,少し詳しすぎるだろうと思います。

 弁護士が,改正個人情報保護法に係る業務を請け負ったときに,この本で何か対応できるかというと,それは難しいと思います。ガイドラインの内容も,それほど詳しく引用されているわけではありません。弁護士が業務として請け負った場合は,上記の各ガイドライン等と,宇賀克也先生の逐条解説の方が,優先順位が高いと思います。
 ただ,ガイドラインや,宇賀先生の逐条解説は,何分,取り扱っている事項が広範かつ詳細であるため,全体像を把握するには不向きなところもあります。
 そうした意味では,いずれ個人情報に関わる相談などがされたときに「どんなところに問題があるのか」「どういった資料を見ればよいのか」の【気づき】を持てるようにしておく,そのための書籍としては,悪くないと思いました。

 書式集も付いているという点では,第2東京弁護士会の書籍も,同じだったと思いますが,そちらはまだ目を通せていませんね…。書式集の書きぶりを比べてみると、いろいろと面白いかもしれないと思っていますが,改正個人情報保護法だけに時間を割くわけにもいきませんので,そちらの本はまだ先になると思います。

 ほかに,改正個人情報保護法の関係では,水町先生の本や,一問一答なども目に付きますが,申し訳ないながら,そうした書籍までは購入していませんね…。

 所属する委員会や研究会で報告・調査を頼まれている事項もありますし,インターネット法研究会との関係では,匿名加工情報と外国第三者への提供についてのガイドラインも関わってくるので,またそれらにも目を通すつもりです。
 でも,まだ少し先になってしまうでしょうか…。

 

ハートネットTV「発達障害者の再出発②司法から福祉へつなぐ」

 高齢者・障害者の権利に関する委員会の先生が,MLで勧めておられたので,今日は早めに帰宅してこの番組を見ていました。
 昨日までは,改正個人情報保護法の施行との関係で,対応しなければならない仕事があって余裕がありませんでしたが,今日は幸いにもそうした事情はありませんでしたので…。

 「録画」はあまり利用しないことにしています。録画すると,「いつでも見ることが出来る」という安心感で,1年くらい放置してしまうか,そのまま忘れてしまうと思いますので(そのため,録画するくらいなら,該当分野の書籍を購入して読むことの方が多いですね。)。

 この番組は,罪を犯してしまった障害のある方の,出所後の生活の立て直しについて,関与される地域生活定着支援センターや,福祉施設の取り組み等を紹介した番組です。
 福祉関係の方のおっしゃられていた言葉が,印象に残っています。
 「こちらの気持ちや目的を押しつけても,それでは効果はありません」

 そして,時間はかかったとしても一つ一つの課題を改善していけるよう,手の届くところから目標設定をして,より沿っておられました。

 自分では出来ていないことに,取り組まれている方の言葉には,頭が下がるものがあります…。

 

 こうした「寄り添い」で立ち直っていける方は,決して多いわけではないのかもしれません。
 重い障害をお持ちの方だと,なかなか難しい面もあるのかもしれません。
 障害があるからといって,他の人に害を加えて良いということには…それはならないのだろうとも思っています。

 それでも,こうした取り組みを利用されて,社会に居場所を見つけられる方が,1人でも多くなればいいな,と思いますね。

 刑事裁判官をしていたとき。
 被告人に質問できるのは,本当に短い,表面的なことだけでした。
 それでも,「何も言わないより,何か言うことで,1人でも,1パーセントでも立ち直ってくれる人が増えるのではないか」
 そう思うと,何も言わずにいることは出来ず,たとえ表面的な言葉になってしまったとしても,質問や説示をせずにはいられませんでした。

 少年審判官をしていたとき。
 少年と話せる時間は,1時間ほどに増えました(始めに2時間を超えて話してしまい,付添人の先生に迷惑をお掛けしてしまいした。)。
 それでも,やはり表面的なやりとりになってしまうことが多く,「もっと時間があればきちんと本音を聞くことが出来るのでは」「審判の場でなければ違うのでは」という気持ちが残りました。

 弁護人になってみて。
 被告人や少年と話せる時間は2か月近くに増えました。シェルター関係の仕事をしたときも,そのくらいでした。
 それでも,子どもがその気になってくれないと表面的なやりとり以上の言葉は引き出せず,2か月近くの時間があっても,何が出来るわけでもない自分の無力感にいらだつこともありました。

 福祉の方々のような時間の使い方は,さすがに自分には経済的にも出来ないところがあります。私は出来ないことはできないときっぱり言うほうですので,そこまでは出来ません。

 それでも…。

 本当は,そのように時間をかけて,一つ一つ取り組まないと,なかなか物事を良くしていくことは出来ないのだろうとも思います。

 自分は,無力かもしれない。

 そう思いつつも,やっぱりこれからも,限られた時間の中で言葉を重ねることを続けるのだろうな…と思っています。

※ 長らく更新を休んでいましたが,このブログ自体,「無理なことはしない」ということを大原則に書き始めたものですので,今後もそうしたことはあると思います。すみません。

「…それでも生に『しかり』と言う」(ヴィクトール・フランクル「夜と霧」【書評】)

 ゲルトルート・シュヴィングの「精神病者の魂への道」を読んで,心理学についての古典が,「人間の生き方」というものと密接に関わっているように思えて,また読んでみたいと思ったものですから,少し前から気になっていたこの本を【通勤読書】で開いてみました。 

www.msz.co.jp

1 この本を知った経緯

 もともとは,10年と少し前,私が司法修習生だった頃に,東京で一緒に修習を受けていた同期の方が読まれていたことで,その存在を知った本です。

 その本は?,と尋ねた私に,同期の方は,「アウシュビッツに収容されていた方が書いた本」と教えてくれました。私も,特にその時,それ以上のことを尋ねなかったため,当時は著者のフランクルが心理学者とは知りませんでした。

 しかし,最近,「アドラー心理学入門」を読んだ際に,アドラーがアメリカに渡る前に交流していた心理学者として,フランクルの名前が登場し,初めてこの「夜と霧」が心理学者が書いた本であることを知り,「読んでみたいな」と思うようになりました。

2 人は生きているだけで価値がある

 …という言葉を,耳にすることがあります。
 でも,「なぜ」と問い返されたとき,どれだけの人がそれを説明することが出来るのか,また,どれだけの人がその言葉を口にする資格があると,聞き手に認められるのか…。
 以前別のブログでも書いたように,言葉は聞く耳を持たない人にとっては,力を持ち得ないものでもあります。この言葉を伝えなければならないと思うような相手に,この言葉を口にして,受け入れさせることが出来る人というのは,どれだけいるのだろう…
 そう思うことがあります。

 どうやら,この言葉。ヴィクトール・フランクルが言った言葉のようです。いえ,正確に調べたわけではないので,違うかもしれませんが…。

 この本にはこんなことが書かれています。
 「最後の瞬間までだれも奪うことのできない人間の精神的自由は,彼が最後の息をひきとるまで,その生を意義深いものにした。なぜなら,仕事に真価を発揮できる行動的な生や,安逸な生や,美や芸術や自然をたっぷり味わう機会に恵まれた生だけに意味があるのではないからだ。そうではなく,強制収容所での生のような,仕事に真価を発揮する機会も,体験に値すべきことを体験する機会も皆無の生にも,意味はあるのだ。

(「夜と霧」【新版】112頁)

 多くの看守は残酷であったり保身を優先し,そうではない看守も嗜虐行為を見慣れ鈍感になってしまった中,同じ被収容者がガス室に送られたり,過酷な労働で命を落としていき,被収容者達も自己の生命を繋ぐこと意外に関心を持たなくなり,生存競争の中で良心を失い,暴力や仲間からの盗みも平気になっていく。

 そのような環境で,さらに,どれほど長く収容所に入っていなければならないかがわからない状態が続く…。
 そのうえ,3年ほどの収容を経て開放された後,会いたいと願っていた家族は別の収容所で無くなったらしく,会うことはもはや出来なくなっていた…。

 これほど過酷な体験をした人から,「どのような生にも意味がある」と言われれば,それはうなずくしかないと思います。
 タイトルに書いた「…それでも生に『しかり』と言う」というのは,翻訳される前の「夜と霧」が収録された書籍の表題です(「訳者あとがき」によります)。

3 「生に意味がある」とは,「義務を負う」こと

 「どのような生にも意味がある」という言葉が,優しい言葉か,というと,一概に言えないように感じます。

 フランクルは,人間は,人生にどういった意味があるのかを問いかける立場にあるのではなく,むしろ,人生から「おまえはどうする?」と問いかけられる立場にあり,それに答える責任がある,といっているようです。
 それは,逆に言うと,自分をあきらめるということをしない,あきらめない責任がある,といっているように思われますので,それはそれで大変なことかもしれません。
 もちろん,自分をあきらめるような選択を過去にしたからといって,それを「許さない」といっているのではないのでしょう。ただ,その後も,ことある毎,何かの態度を示す機会が訪れる度に,人生から「おまえはどうする?」と問いかけられ,そのとき,人間はそれに対してどういう態度を示すか決める義務がある,といっているのだろうと思います。

 「人は生きているだけで価値がある」と言われて納得できない部分を残された方や,どうしてそう言えるのかが知りたい方は,その言葉を言われた方が自ら記された,この本を読むと,自分で考える切っ掛けとなるのではないか,と思います。

※ 「人は生きているだけで価値がある」という言葉自体は、宗教などでも使われそうな気がしていますので、フランクルが初めに言った言葉なのか、他の人が別の意味で言っているのかは、知りません。

 でも、フランクルの言っている意味で使うとすると、この言葉は【口にする人の資格を問う】だろうと思います。いわれた側からすれば、「では、あなたは人生への義務を果たしているのか?」ということを思うでしょうし、口にした人間がそれに見合う行動をとっていなければ、相手をより失望させるだけになると思いますから…。

 フランクルだからこそ、言えた言葉かもしれません。

 もしかしたら、フランクルは、自分がこの言葉を言うことが、自分が果たすべき人生への義務だと思ったのかもしれない。そんなことを、ちらと考えました…。

「武器としての決断思考」【書評】

 シュヴィングを読んだ後,宇賀先生の御本(持ち歩きっぱなしですが…)に戻るのがちょっとしんどく感じて,寄り道をしていまいました。

ji-sedai.jp

 一時期,大学の教授が学生向けに行っている人気授業の本として書店で宣伝されていた,「僕は君たちに武器を配りたい」という書籍と同じ著者の方が書かれた本です。目に付いたために購入しておきました。

 星海社親書の本は,初めて読んだかもしれません(ビジネス系は,日経文庫が多いですね…)。

 「決断思考」と書かれていますが,詰まるところ【ディベート】についての本です。
 いえ,今回読んでみるまでは,むしろ「リスクアセスメント」か,「シナリオ・プランニング」についての本かな?,と思っていました。
 (リスクアセスメント系の書籍は,情報セキュリティについて学んだときなどにいくつか手を出しましたが,まだ自分の中で体系化するほどには消化できていないかな,と思っています。シナリオ・プランニングは,ファシリテーターについての本を読んだときに著者が職歴を通じて学んだこととして紹介されており,一時期書籍を買おうか迷いましたが,あまりにも弁護士業から離れて行ってしまうようにも感じ,自重しました。)
 ディベートについては,広義から狭義まで定義があるようですが,この本で取り上げているのは,一定のルールに従って議論を行い,第三者が勝敗を判断する,狭義のディベートです。

 たしかに,こうした手法を身につけると,組織での会議などでは役に立つかもしれないと思います。また,裁判での尋問においても活かせるところはあると感じました。
 ただ,基本的にはコンサルタントの技法であり,真実妥当な意思決定を探すためにも使えるかもしれませんが,一歩間違えれば,顧客に「これが妥当」と説得するためだけに用いられてしまう可能性も無いとは言えない技法だと思います。
 また,この本でも,ディベートは【準備が勝敗を決める】,とされており,このことは裁判でも全く同様と思われますが,準備の部分はこの本だけで身につくものでもないため,ディベートを身につければ裁判が有利になるというわけではないのだと思います。
 そして,個人としての意思決定については…,この本でも,結局最後は【本人の主観が決める】とされているように,最後の所は自分との対話なり,自分というものの理解が重要になってくるように思われ,ディベートがどこまで役に立つのかについては,個人的には一概に言えないようにも感じました。

 ただ,コンサルタントや,営業職の方が使う一見もっともらしい論理運びの弱点を知り,世間で言われている論説に振り回されない,惑わされない力を身につけるには,良いと思います。
 そういった意味では,自分を自由にする=リベラル・アーツとして,身につけておいて損はないと思いました。

電子書籍・出版の契約実務と著作権【書評】(そしてKindle Unlimited)

www.minjiho.com

 年明けに,ちょっとした課題を頂いたので,【通勤読書】で読んでいた本です。
 いえ,インターネット法研究会の有志で本を執筆したときに,「著作権法」を担当したこともあり,少し関心があったことも否めないのですが。

1 この書籍について

 紙媒体での出版の場合と異なり,電子書籍の場合,【配信事業者】という紙媒体の出版では登場しない「新たな主体」が登場します。Kindleamazonなどがこれに該当しますね。

 この【配信事業者】と出版社との【法律関係】をどのように考えるかは,可能性としてはいくつかあるのでしょう。この本では,もっとも原則と思われる【配信事業者】を【独立の契約主体】と扱う場合を想定し,その【配信事業者】が配信事業を行うためには,あらかじめ出版社は著作権者との間でどのような契約を締結しておく必要があるか,という視点から書かれています。

 出版契約については,日本書籍出版協会のモデル契約を例として解説し,また,配信契約については,日本書籍出版協会の研修会で配布されたものを例として解説がされています。前者は日本書籍協会のホームページで公開されていますが,後者は公開されているものではないようですね。

2 「Kindle Unlimited」

 読んでいて思い起こしたのが,「Kindle Unlimited」のことです。

 たしか昨年,「無制限に読むことが出来る」ということで始まった後,いくつかの書籍が読むことが出来る対象から外されたという報道を眼にしました。

 こちらの記事などでしょうか…。

toyokeizai.net

 講談社のサイトには,抗議文もありますね。

(1)出版権者に課せられる出版義務とは

 法律上,紙媒体の書籍についての「出版権者」は,著作権者等(条文上正確には「複製権等保有者」ですね。)に対して,6か月以内(この期間は契約によって変更できます。)に出版する義務継続して出版する義務を負います(著作権法81条)。

 なぜなら,出版権者は,その著作物の出版を独占する権利を持つことになるので(著作権法80条),設定を受けた出版権者が「出版をしない」となると,著作権者等が自分の著作物を発表することができず,困ってしまうからです。

 …ただ,この義務に違反した場合にも,法律上著作権者等に認められているのは,一定の手続きにより「出版権者の出版権を消滅させる」ことができるにとどまります(著作権法84条)。

 『できあがった出版物を実際に出版するかどうかについては,出版権者が判断する』と解されているようですね。上でリンクを張った日本書籍出版協会のモデル契約の8条では,出版に適さないと判断した場合に出版権者が出版契約を解除できる条項があり,この規定についてこの書籍は「確認的な規定」と説明しています。

 ただ,出版できなかったことが,例えば出版社が用意すべき出版に必要な資金を用意できなかったなど,出版社側の責任とされる場合には,著作権使用料相当額の損害賠償を認めた裁判例もあるようです平成23年10月25日東京地裁判決)。

(2)電子書籍の場合の、配信事業者の「配信義務」?

  それでは,電子出版の場合どうなのかというと,①著作権法で出版義務を負うのは【出版権者】であるため,【配信事業者】がそうした義務を負うかどうかは、出版権者と配信事業者との契約内容によることが一つ、そして、②仮にそうした条項があった場合でも、その解釈は著作権法上の出版義務を参考にされると思われますが、著作権法上出版を継続する義務は「慣行に従い継続して」出版・公衆送信行為を行う義務とされますので、電子書籍の配信の場合の【慣行】というものがどんなものなのかといったことが関係するのでしょうね。

 なお,出版権者が配信義務を負う以上,配信事業者が配信してくれないと困ってしまいますので,通常①の契約上の義務付けなどは,出版社側の意見が通れば契約に盛り込まれているのかもしれません。この書籍で例としてあげられている配信契約にも,配信を義務づけた条項があります。

 上の東洋経済の記事などを見る限り,Kindle Unlimitedのケースでどのような契約が用いられたのかは,守秘事項とされているようで,わかりません。仮に条項があったとしても、【慣行】の立証のリスクをどう判断するかという問題も、多少はあるかもしれません。

 そして、それ以上に出版社に比べ配信事業者の数は限られているのが実情であり、配信事業者との関係が悪化してしまうと、重要な販売ルートに制約を受けることになりますので,どこまで争うべきかは、非常に悩ましい問題だろうと思います。もちろん、配信事業者側も、大手出版社の協力が得られなければ、デメリットは大きいので、どこで妥協するかの問題なのかもしれませんが…。

3 まとめ

  そうした意味では,この書籍で得られる知識が,そのまま実際の現場で使えるかというと、様々な制約がある場面もあるのかもしれませんね。

 とはいえ,電子出版についてのおおまかな全体像を把握することが出来,また,配信契約についてのリスクを勘案した上で検討するためには,良い本ではないかと思います。

 もっとも,私自身が今回調べているのは,オープンアクセスにかかる問題なので,少し方向性は違ったのですが…。

 他の論稿を読む基礎的な知識・全体像を,得ることが出来たと思います。