【天秤印】横浜弁護士雑記

横浜で弁護士をしている元裁判官が、日々感じたことなどを書いています。

【士業連携】を考える-【暮らしと事業の何でも相談会】

 最近,新しい法律や,判例について書いてきたこともあって,日常的なイベントもの等は書きづらくなっていたところもあるのですが…。

 10月1日に藤沢商工会議所の「暮らしと事業の何でも相談会」に参加してきました。

1 藤沢商工会議所の取り組み

 藤沢商工会議所の6階には,300名から400名を収容可能な多目的ホールがあるのですが,それを使っておよそ18の相談ブースを作り,その中で,司法書士土地家屋調査士社会福祉士,税理士,弁護士,行政書士社会保険労務士が,来場した相談者からの相談にお答えするという企画です。

 毎年行われている企画で,実に今年で19回目ということでした。
 神奈川県弁護士会からは,私を含めて3名の弁護士が参加しました。

 とはいえ,折角会場にお越し頂いたのに,多くの方は1つか2つの「士業」のブースで相談して帰っていかれていましたので,「もっと,【複数の士業に一度に相談したい】という人や,【複数の士業に相談をしてみた方がいいアドバイスが聞ける】という人も,いるんじゃないかな?」という気もしましたね…。

2 士業の「使い分け」と「コラボレーション」

(1)士業の得意分野は違うんです

 実は,「士業」といっても,それぞれ「できること」「知っていること」と,「できないこと」「知らないこと」があります。
 弁護士は【法律】のことは詳しくても,【税金】のことは詳しくありません。他方で,税理士は税金のことは詳しくても,「相続」の【法律】となると,専門外になるかもしれません。登記や土地のことであれば,法律に関わることは弁護士の専門とは言え,相談内容によっては,司法書士土地家屋調査士の方でなければわからないこともあるかもしれません。

 しかし,なかなか一般の人には分かりづらいらしく,ときどき,市役所の専門相談(弁護士)などを担当していると,「相続税についてお伺いしたいんですが…」という相談者がお見えになることもあります。
 7つの士業が,一箇所に集まって相談会をする,というのは,「何かの悩み事を持った人に,応えることのできる士業がその会場のどこかにいる(可能性が高い)」ことを意味しますので,実は,通常の弁護士の法律相談などよりも【悩み事】の解決につながる有益なアドバイスを貰える可能性は増えると思います。
 さらに,「士業」は,うまく連携ができれば,お互いに「足りないところ」を補うこともできます。

(2)弁護士×税理士

 税理士は,言わずと知れた【税】の専門家です。
 例えば,弁護士の場合,遺言で遺産を残したいという相談に来られた方に,

  • 「有効な遺言書を作るためにどうしたらいいか」
  • 「遺言書に書いてもできないことはなにか」
  • 「遺言書に書くとかえって紛争になることは何か」

 といったことについて,アドバイスをすることができるでしょう。

 他方で,遺言にした方がいいのか,生前贈与にした方がいいのか,税金はどちらが安いのか,といったことになると,これは税理士の先生の方が詳しいと思います。遺産のうちの,たとえば住宅などをお子さんが取得した方がいいのか,奥さんが取得した方が税金の控除を受けられるのか,といったことについても,(調査等が必要な可能性もありますので,答えまで無料相談で聞けるかは分かりませんが…)税理士の方が詳しいでしょう。
 また,働いていた方が会社を退職された後に,なかなか退職金を払ってくれない会社に対してどうしたらいいか…という相談であれば,弁護士は,

  • 用意した方がいい証拠
  • 会社側が行ってくるかもしれない主張
  • 交渉や労働審判,裁判の手続きについて

アドバイスできるかもしれません。他方で,会社がいざ退職金を払ってくれるという場合に,そのなかから【税金】としていくらくらい控除されてしまうのか,といったことは税理士の先生の方が詳しいでしょう(一度,労働審判の依頼人に,「Q&A 人事・労務専門家のための税務知識 (第3版)」を見てアドバイスしたことがありますが,専門家ではないので,「もし不安があれば税理士に確認して下さい」「税理士ではないので正確かどうかまでは分かりません」という説明も一緒にしています。)。

(3)弁護士×社会保険労務士

 社会保険労務士は,労働・社会保険に関する法律、人事・労務管理の専門家になります。
 社会保険労務士さんの仕事については,実は,私のように「労働法」も一応の得意分野にしている弁護士からすると,「どこに線を引いていいのか」説明しにくいと感じることもあります。いや,裁判であれば原則として弁護士,ということは明確なのですが…。

 たとえば,10人以上の労働者がいる事業所には,「就業規則」の作成が義務づけられていますが(労働基準法89条),そうしたことなどは,社会保険労務士の方ができることの一つです。
 また,労働者に残業をさせなければならないことがある事業所について,「36協定」という,残業をさせるために必要な協定を結ぶ手続き(労働基準法36条)について説明することなども,社会保険労務士の方ができることの一つです。
 他方で,裁判所の裁判では,会社側=経営者側が負けてしまうことも多々ありますが,では,そうした会社に社会保険労務士の方が付いていなかったのか,というとそんなことはないだろうと思います。
 社会保険労務士の先生は,「労働基準法に明確に違反しているかどうか」については,判断を下せますが,

  • 労働基準法・労働契約法の【解釈】【裁判】を踏まえて,裁判で負けるリスクが多少なりともあるか」
  • 「そうしたリスクを減らすために,より手堅い選択肢があるのかどうか」

といったところについては,労働法を得意とする弁護士の方が,的確なアドバイスができることもあるでしょう(もっとも,このアドバイスには調査等が必要なので,1日の無料相談で明確な回答は返せないことも多いと思いますが。)。

 残業についても,たとえば

  • 「定額残業代」「みなし残業制度」などを導入する際に,最高裁判所の判決だけではなく,最近の地方裁判所の判決なども視野に入れて,より【手堅い】決め方を考える

という場合には,上記のような弁護士の方が,社会保険労務士の先生よりも的確な回答ができるかもしれません。

 もっとも,社会保険労務士の先生でも,弁護士でも,【勉強している人は勉強している】という面も事実としてありますので,そうした相談にどれだけ対応できるかは【人】によると思います。

 ただ,大きな企業の人事部の方などだと,社会保険労務士に聞いただけでは後で責任を追及されてしまうこともあるとして,必ず経営法曹等の弁護士に意見を求められる方もいらっしゃるようですね。

(4)弁護士×社会福祉士

 社会福祉士については,なかなか説明しづらいのですが,行政等の行う様々な福祉サービスについての専門家,となるでしょうか。
 私のように弁護士会の「高齢者・障害者の権利に関する委員会」に所属していたり,「子どもの権利に関する委員会」に所属している弁護士は,社会福祉士の先生とお話ししたり,相談したりすることもあります。とはいえ,「裁判」という場でお会いするわけではありませんので,弁護士の中でも,社会福祉士と関わることがある人もいれば,関わることがあまりない人もいるかもしれません。
 例えば,親族が認知症にかかってしまい,自分自身で銀行や保険会社への対応をしたり,有料老人ホームと契約したりすることが難しくなってしまったが,そうした場合どうしたらよいのか,という話であれば,弁護士は,【成年後見制度】を説明し,

  • 「費用としてどのくらいかかるか,それは誰が負担しなければならないことになっているか」
  • 「後見人にはどういった人がなるのか,その場合に報酬はどうなるのか」
  • 「仮に親族が後見人になるよう裁判所から指示があった場合に,どういった作業をすることになり,どういった責任が生じるか」
  • 「信託銀行に財産を預ける【後見制度支援信託】となる可能性があるかどうか」

といったことについて,説明することはできるかもしれません。

 とはいえ,申立をしても,費用を払うことが難しければ,申立が却下されてしまうこともありますし,報酬を払うことが困難であれば専門職の後見人まで付けることが望ましくないこともあります。また,ご高齢の方の経済面に問題があるときには,成年後見人が付くかどうかで問題が解決されるものではなく,結局,福祉サービスを利用してその方の生活が成り立つようにできるかどうかが問題となってきます。
 社会福祉士の先生は,そうした相談に乗って頂ける方,という認識をしています(違っていたら申し訳ありません。)。

3 複数の士業がいる「相談会」

 これまで書いてみたとおり,われわれ「士業」でも,自分の専門外のことは,他の士業の先生に先生に相談することをお客さんに勧めたりしています。
 そうすると,折角これだけの士業が集まっているのに,「一つの士業だけに相談して帰るお客さん」が多い様だと,折角の相談会の「売りどころ」が「売れていない」気もするのですよね。

 そう考えていくと…

  1. 普通の人は「士業」が連携して相談に乗ってくれると,どういう【いいこと】があるのかまでは分かっていないことがあります。そこをもっと伝えるといいのじゃないかという気はしますね。例えば,「相続についての法律と税の相談会」という題名にして,弁護士と税理士が相談に乗る,ということは結構ありますが,これは,一般の方にとって,【どういういいことがあるか】をイメージしやすいのだろうと思います。
  2. 「士業」の使い分けを知っている人と考えると,一般の方よりは【事業等を経営している方】のほうが「士業」を使われた経験やそれぞれの「士業」の違いをご存じかと思いますので,藤沢だけに限らなくても,他の地域の商工会や工業会に声をかけてみてもいいのかな,と思います。確かに藤沢の商工会議所がやるものですが,藤沢のお客さんだけに限るのも,少しもったいない気もしますので…。

 そんなことを考えてしまいますね。

 弁護士の1人に過ぎない私が考えるより,他の専門家の方とも含めてミーティングなどをすれば,もっと【連携したらこんないいことがある】というケースも見つけられるかもしませんし。

4 「相談」というものが持つ限界

 他方で,最近感じるのは,「相談」というものが持つ「限界」でしょうか。
 「相談」というものは,

  1. その後専門家に依頼するのであれば費用が発生します。もちろん,専門家に依頼しなくても,本人が手続きができるものもあるでしょうが,
  2. 本人が手続きをする場合には,当然【時間】や【労力】といった【手間】も掛かりますし,当然専門家が行うことに比べると行政へも申立が認められなかったり,裁判に負けてしまったり,税務署から指摘等されてしまうなどのリスクも高くなります。

 専門家=他人を使うのであれば,【費用がかかる】というのが大原則です。専門家=士業は,国から給料をもらっているわけではありませんので…。

 法テラスの【民事扶助】などを利用できることはありますが,民事扶助には資力や収入の要件がある上に,原則として【貸付】【立替金】ですので,利用された方が返済しなければならないものです。
 とはいえ,最近は,①費用は払えないし,②自分で何かする時間はない,として,相談に来られても問題が解決しないし,相談に行くだけの時間が惜しいという人も,少しずつ増えている気がしますね…。
 そうした【限界】,というものはあるのでしょうね…。そこは,やむを得ないところはあると思っているのですが…。

※ 昔,弁護士会の業務改革委員会:商工部会で,2年ほど,「中小企業シンポジウム」を【裏】で仕切った(=雑用係をやった)経験から,こういうイベントものがあると,つい反応してしまいますね。

 もっとも,やればやるほど雑用が振ってくることが多いので,結局,私自身が関与を減らしていくことになるのですが…。

 ちなみに,商工部会は,企画の提案,チラシの原稿の作成から,印刷所へ依頼するための締め切り管理,工業会への挨拶回りなどの日程調整等を事実上全てやる状態となり,その割に他の先生は問い合わせをしても返事を返してこない,という状態になったため,さすがに持たなくなって辞めています。