【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

【書評】Q&A DV事件の実務(日本加除出版)

 正月休みのうちに読んでしまおうと思ったのですが、結局1月3日までには読み終わらず、30ページほど残ってしまいましたが、今日読み終わりました。

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 児童虐待のなかには、「児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力」、いわゆるドメスティック・バイオレンスが含まれるとされています(児童虐待の防止等に関する法律第2条)。

 そのためもあって、児童相談所の扱うケースの中には、ドメスティック・バイオレンスも併存しているケースも多くあり、ドメスティック・バイオレンスに対していかなる制度があるかも、児童相談所が支援を行う中で、持っていると良い知識の一つです。

 個人事務所で弁護士をしていたころは、ドメスティック・バイオレンスについては、前の役所に居たときの知識のほか、弁護士会のマニュアルや、法律雑誌等の論稿を中心に知識を補っていましたが(ドメスティック・バイオレンスの被害者は、どちらかといえば同性の弁護士の方が安心できるのか、女性弁護士を選任することの方が多いように感じます。)、最近の知識を補うために購入しておいた一冊です。

 この本では、単に裁判における「保護命令」に留まることなく、警察との関係や、年金や医療保険の関係、児童手当等の関係など、ドメスティック・バイオレンスの相談があったときに、相談者を支援するための幅広い知識について触れられています。また、脚注も充実しており、根拠を調べることができる点でも良い本だと思います。

 前半で知識的な記述がされ、後半でQ&Aが書かれているのですが、正直、同じことの繰り返しのように思われたので、前半部だけでもよかったかもしれません。また、挙げられている裁判例については、必ずしも網羅的あるいは裁判所の結論を予測し得るものかというわけではなく、ある程度著者がドメスティック・バイオレンスの立証に役に立つと考えるものを選考して挙げているようにも感じたので、裁判所の結論を予測するには、また別の文献等も目を通した方が良いかもしれないと感じました。

 しかし、DVの相談を受けるのであれば、眼を通しておいて決して無駄にならない一冊かと思います。

 …今見ると、著者の弁護士は、議員になったんですね…。ちょっとびっくりです。