【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

成年後見に係る法改正(その4)-成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について

1 成年後見の死後事務と金融機関の扱い

(1)口座名義人がお亡くなりになったときの,金融機関の扱い

 さて,(その3)では,成年被後見人の債務(相続債務)を返済することを始め,さまざまな出捐を伴う死後事務について触れましたが,これらの行為も,その原資となる「お金」がなければ行うことはできません。

 通常、成年後見人が現金をそのまま保管していることはあまりありませんので、成年被後見人名義の預金等からお金をおろす必要があるのですが、金融機関の現在の運用は,口座名義人の相続人間での紛争を避けるために,【預金口座の名義人がお亡くなりになったときには,遺産分割協議等が終了するまで,その金融機関の口座からの引き下ろし等をできないようにする(凍結する)】ことが原則となっています。

そのため,このままであれば,お金をおろすことができないことになり,折角【死後事務】を定めた法改正を行っても『画に書いた餅』となってしまうかもしれません。 

(2)改正法の成立と,金融機関の予想される運用

 では,今回改正法ができたことで,1号から3号までの死後事務の場合には,金融機関は,元成年後見人がお金をおろすことに応じてくれるのでしょうか?。

 個人的には,家庭裁判所の許可がある3号を除いて応じて貰えない】ことになるのではないかと思っています。 

 金融機関は,裁判所が認める法定代理人成年被後見人生存時の成年後見人、相続財産管理人、不在者財産管理人等)にも預金の払い戻しを認めてくれます。

 たしかに,成年被後見人死亡後の成年後見人も、これと同じと考えられそうなのですが従来引き下ろしが認められている者と,【成年被後見人死亡後の成年後見人】との間には明らかな【差】があります。

 それは,【払い戻しが請求された時点で,成年被後見人死亡後の成年後見人が死後事務を行う権限をまだ持っているかを金融機関側で確認するすべがない】ことです。

  改正民法の873条の2を見て頂ければ分かりますが,後見人が同条1号から3号までの死後事務を行うことができるのは,「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」に限られています。

 そうすると,まだ【相続人が相続財産を管理することができていない】ことを,銀行はどう確認すればよいのでしょうか?。払戻に応じてしまった後,後から相続人から「とっくに財産の引き渡しを受けている」「その成年後見人はもう辞めた人間なのに,どうして支払ったんだ」等と言われてしまう可能性はないでしょうか?。ほかの要件である「必要性」や「相続人の意に反していないか」についても、同じ問題が残ります。

 従来金融機関が認めてきた法定代理人の払い戻しについては,必ずその者が【法定代理人】としての権限(払い戻しを受けることのできる権限)を持つことを確認できる書面を提出させてきます。成年後見登記や、審判書といったものがこれに当たります。

 しかし,【成年被後見人死亡後の成年後見人】のケースではこれができません。もちろん,成年被後見人の生前に「成年後見人であったこと」は成年後見登記等で証明できるかもしれませんが,「まだ相続人が財産を引き継げる状態ではないのかどうか」等はわかりません。

 そのため,銀行としては,払戻を拒否するのではないかと思っています。

 ただし,3号の場合は家庭裁判所の許可がありますので,その書面によって「払戻権限がある」と認めてもらえるのではないかと思っています。

2 私見

※ 5/13 従前、「死後事務についての許可申し立て等の件数が多かった場合にどうするか」等を考えた事柄を記載していましたが、現状では、専門職後見人は死後事務についての権限を用いることなく相続人に財産を引き継ぐことを優先するのではないか、それほどの件数はないのではないかということですので、後に「続きを読む」に格納しておこうと思います(読み手を混乱させてしまうかと思いますので、「続き」に持って行くことにしました。他方で、浅はかな考えとはいえ、一度書いてしまったことですので、そこに残しておこうと思います。)。

3 参考文献

 通読してあるものも、一部しか目を通していないものもありますが、とりあえず、一部だけでも目を通したものとして。

(1)後見人の死後事務関係

・井上計雄「死後事務の在り方を巡る再検討」実践成年後見No33p105

 成年後見人を務める際に問題となる一連の死後事務について、法的構成・対応策等について一通り記載されています。

・多田宏治「本人の死亡による後見終了に伴う事務手続と注意点」実践成年後見No38p14

 上記文献と同様、一通りの死後事務について触れられている文献です。上記と比べると、遺体の引き取り等葬祭に関する事項と、行政等への通知等について記載があります。

・藤原正則「死後事務における応急処分義務と事務管理の交錯」実践成年後見No38p22

 死後事務を、委任契約の応急処分義務から基礎づけられないかについて検討した論考で、最後にドイツにおける解決法(ドイツ法)との比較がされています。

・遠藤英嗣「任意後見契約における死後事務委任契約の活用」実践成年後見No38p30

 死後委任事務契約を締結する際の、一般的な注意事項等について触れられた論考です。

・松川正毅「死後の事務に関する委任契約と遺産の管理行為」実践成年後見No58p41

 主に、契約によって死後事務を行うための「死後事務委任契約」の、民法上の問題点について検討されていますが、相続法の関係等、非常に深い考察がされており、勉強になりました。

一般社団法人日本財産管理協会編集「Q&A成年被後見人死亡後の実務と書式」(新日本法規

 購入してはみましたが、マニュアル本なので、応用的な論点等については記載がありませんでした。とりあえず難しいこと抜きにしたいという方にはよいのかもしれません。

(2)財産管理人関係

司法研修所編「財産管理人選任等事件の実務上の諸問題」(司法研究報告書No55-1)

 法曹会HPを見る限り、販売はされていないようですが、日弁連の資料課等に置いてあります。CiNii Articlesを見る限り、大学図書館などにも置いてあるようです。

 少し古いですが、裁判所サイドからの、財産管理人の事件について一通り書かれているので、参考になります。

片岡武・金井繁昌・草部康司・川畑晃一著「第2版 家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務」(日本加除出版株式会社)

 成年後見人のみならず、あまりお目にかかることのない各種の財産管理人についても一通り記載がある本です。裁判官、書記官の方々が書かれた本なので、信頼性もあります。

小圷眞史「相続財産法人をめぐる諸問題」(新日本法規出版株式会社 新家族法実務体系第3巻418頁)

松尾知子「相続財産の管理―相続人による管理と各種相続財産管理人の権限」(新日本法規出版株式会社 新家族法実務大系第3巻29頁)

 少し前の出版物で、いまは入手できないようですが、新日本法規の「新家族法大系全5巻」は、権威ある学者の方々が執筆されている良書ですので、何かしら疑問に思うことがあれば、関連する部分に目を通したりはしています。もっとも、もってはいないので、そのたびに資料課で借りていますが…。

(3)家事事件手続法関係

金子修「一問一答 家事事件手続法」商事法務

 とりあえずまずは手元に置いてみる「一問一答」です。実際、改正内容が端的にまとめられていておすすめです。ただ、今であれば、同じ著者・同じ出版社で「逐条解説」がでていますので、そちらの方がよいかも。

裁判所書記官研修所監修「家事審判法実務講義案(6訂版)」(司法協会)

 廃止された家事審判法についての書籍です。まだ家事事件手続法の改正に対応した版は出ていないのですが、家事事件手続法を解釈する場合も参考にできると思います。

 なお、同じ司法協会から「家事事件手続法執務資料」という書籍も出ていますが、ちょっと目次を見た限り、あまり関心をひかれなかったので、購入見送り中です…。

(4)銀行法務関係

斎藤輝夫・田子真也監修「Q&A家事事件と銀行実務」(日本加除出版)

 銀行等、金融機関側の視点から、成年後見や相続と言った場面にどう対応したらよいかについて書かれています。銀行・金融機関の法務を行う場合の書籍としては不足するでしょうが、成年後見や相続事件を受任したものが、金融機関等とやり取りをする際に、【相手の立ち位置】を知っておくには、良いと思います。

石井眞司・大西武士・木内是壽「相続預金取扱事例集第2版」

 第2版は平成15年に出版されているので、金融機関の取り扱いについて書かれた部分などは、現在の運用と違っていることもあるかもしれません。とはいえ、法的リスクだけではない金融機関として考慮すべき事項が書かれており、参考になります。

(5)葬儀関係

長谷川正浩、石川美明、村千鶴子「葬儀・墓地のトラブル相談Q&A」(民事法研究会)

 この分野は、法律の専門家であっても詳しくは知らないことが多いのですが、その割に問題に直面することも多い分野です。はじめの一冊としてはとっかかりやすくて、よい本だと思います。

・長谷川正浩「葬祭・埋葬をめぐる法律問題」実践成年後見No38p44

 上記の書籍と比べると、後見人の立場から整理された記載となっているため、読みやすくわかりやすいです。全体像をとらえるなら前書、後見人の職務との関連をとらえるならこの論稿でしょうか。

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成年後見にかかる法改正(その3)-成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について

 何度か「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続き法の一部を改正する法律」について書いていますが,疑問を持っていたにもかかわらず、自信がなかったために書くのを避けてきたところがあります。

 それは,以下の条文(民法)に関連する事柄です。

 (成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限)

 第八百七十三条の二 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。

一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為

二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済

三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)

  「財産の保存に必要な行為」と,「【特定の財産】の保存に必要な行為」について、権限や手続きを分けるという構造は,他の制度では見られなかったと思います。

 相続財産管理人(民法951条~)や,不在者財産管理人(民法25条~)等の法定代理人の場合にも,民法103条の「権限の定めのない代理人の権限」を準用する,という形態を取っていたので,【一般的な保存行為】と,【特定の財産のための保存行為】を別途規定するという構造にはなっていませんでした。

 (権限の定めのない代理人の権限)

第百三条  権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。

 保存行為

 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為 

 そのため,類似の制度における法解釈や,運用等を参考にし難く,法律が施行された場合の具体的なフローが想定しにくいところがありました。

 とはいえ,疑問に思う点を含めて書いておくだけでも,議論の役くらいには立つかもしれませんので,「法施行前の暫定的な私見・感想」にすぎず,裁判所等から異なる解釈が示された場合には速やかに自説を変更することを前提に,書いてみようと思います。

1 最初に:リスクヘッジからは避けるべき

 まず始めに,各号に当たる【具体的な行為がなんなのか】に関心を持つ前に,気をつけなければならないことが,「この条文を使用すること自体,極力避蹴ることが望ましい」ことを頭に置いておくことが大切です。

 なぜなら,この条文の1号から3号までには,いずれも,

①「必要があるとき」

②「成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き」

③「相続人が相続財産を管理することができるに至るまで」

という【3つの要件】が必要とされています。

 そのことは,この権限行使があくまでこれらの要件を満たす場合の【例外的】な位置づけであることを示していますし,場合によっては,これらの要件を満たしているか否かについて,相続人や相続財産管理人等との間で紛争化するリスクもあることを示しています。

 もっとも,これらの権限行使による財産流出は,多額に及ぶことは考えにくいため,紛争化までするか否かはわかりません。また,3号の「その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)」については【裁判所の許可】が必要とされていますので,許可を取得した場合にまで紛争化することは多くはないと思われます。

 それでも、甲類の審判には既判力はないとする見解も有力ですし(家事事件手続法制定前の文献ですが、「家事審判法実務講義案4訂版」(司法協会)p116)、相続債権者から詐害行為取消の主張をされるリスクもあるかもしれません。相続人に適切かつ速やかに引き継ぐことを第1目標とし、それがどうしてもできない場合に、リスクとはかりにかけて、慎重にこの条文を使うことを検討する方がよいかと思われます。

2 各号への該当性について(私見)

 なお、ほかにも当然、私が思いつかない費用等はあると思います。思いついたものについてとりあえず感じたことを書いてみます。

(1)総論:1号と3号をどう区別すべきか

 1号から3号までの間で,2号の「相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済」については,その内容自体は明らかです(【具体的にどういった場合に行っても問題がないか】という点をひとまず置きますが)。

 これに対し,1号「相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為」と,3号「その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)」の区別は,必ずしも明確ではないところを残しています。

 文言上は,特定の財産の価値の毀損を防止するための行為であることが明らかなものは1号,それ以外で,特定の財産の保存に直結しないが,相続財産全体の価値の保存に役立つ場合は3号,と読めるのですが,はたして単純にそう考えて良いのかは分かりません。

 はじめに改正法の文言を見た際には,弁済順位等も念頭に置いて,「動産保存・不動産保存の先取特権民法320条,326条)」が成立する場合を別扱いしたのかとも思いましたが,「特定の財産」とされている以上,「動産」・「不動産」以外に「債権」も当然に含みますので,文言上の説明がつきませんし、わざわざ一般先取特権委が成立しそうな場合を別扱いする理由もなさそうです。

 現時点では、後見人としては、上記の語義に従って解釈して申請をするほかはありません。ただ、この1号と3号の違いは【家庭裁判所の許可】を要するかどうかですので,裁判所側の運用いかんによっては、家庭裁判所の許可を要する重大な行為かどうか】で区別される運用となってくる可能性もないとは言い切れません。

(2)相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為

・「新聞,電気,水道,ガス,電話等の解約」「家屋の戸締まり」等は可能でしょう。

△「屋根や門扉の応急的な修理」も程度によりますが、可能な場合があると思います。程度による、というのは、急がないのであれば必要性の点で疑問が生じることもあるためです。

△(相続発生後の)「家賃・地代の支払」については、少し悩ましい問題を残す気がしますね。

 「特定債権」の保存に資すると解することはできるのですが、①相続人全員が相続放棄する場合や放棄が予測される場合は、むしろ相続財産管理人に任せるべきかもしれませんし、また、②相続人が当該賃貸借契約の解除を考えるようなケースでは、「意に反しないかどうか」「必要性」等が問題になる気がします。

・「金融機関への本人の死亡の通知」も、口座の保存に必要と言ってよいと思います。

△「建物の内部が汚染等されている場合の清掃」や「明らかに交換価値の認められないもの・腐敗したものの処分」については、悩ましいところを残します。

 相続財産管理人の場合には,これらは権限内の行為とされていますが,相続財産管理人は、一般に「保存行為」さらには「管理・改良行為」の権限を持つことと、相続財産管理人が相続財産の【清算】を本来的には予定しているという点がありますので、成年被後見人死亡後の成年後見人に当然妥当するかは、分からないところを残します。3号に当たる可能性もあると思います。建物を立ち退く際に(相続人が保管できる状況になく)動産をすべて保管するとなると、当然保管費用が掛かることになりますので、そうしたこととの比較考量も必要だとすれば3号になるかもしれません。

 また、残されているものの中には、それ自体に財産的価値はなくても証拠となりうべきものがある可能性もありますので、相続人にその処置を任せられるのであれば、それに越したことはない気もしますし、急いで処分する必要がないこともある気がします。

△「国民健康保険後期高齢者医療保険介護保険,年金(国民年金,厚生年金,共済年金),恩給等の担当部署に,本人の死亡を通知すること」も、これらの金員が預金口座等から差し引かれる(過納付)事態を防ぐため、保存行為としてよい気がします。

(3)相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済

 当然ですが、相続発生前の債務である必要があります。

 公共料金,水光熱費,施設利用料,病院費用,家賃,地代等がこれに当たりえます。

 なお、家賃・地代については、相続人が全員相続を放棄するような場合には、(2)同様の問題があります。また、相続人が今後賃貸借契約を解約する場合であっても、相続を承認するのであれば、いずれにせよ相続までに発生したこれらの債務も相続ことにはなるので、(2)とは問題状況が少し異なりますが、急ぐ必要がないのであれば、会えて元後見人が行う必要もない気もします。

 後見人報酬については、相続時までの行為に対する報酬と考えればここに含まれることになりそうですが、死後事務への報酬も含むと考えると【3号】になるようにも思われます。法的性質が代理か事務管理かにもよるのかもしれませんが…(なお、いずれにせよ、後見人への報酬は、裁判所の決定により支給されますので、重複して3号の許可がいるという趣旨ではないと思います。)。

(4)その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)

・火葬・埋葬

 3号では、「その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結」を冒頭にあげて、「その他…」と続けることで、火葬・埋葬のための契約が3号に当たることを示しています。

 そして、火葬・埋葬については、墓地、埋葬等に関する法律2条1項・2項で定義が定められています。

 第二条 この法律で「埋葬」とは、死体(妊娠四箇月以上の死胎を含む。以下同じ。)を土中に葬ることをいう。

 この法律で「火葬」とは、死体を葬るために、これを焼くことをいう。 

  そして、この定義の中には、祭祀や法事といった、いわゆる【お葬式】そのものは、含まれていないとされていますし(実際、同法9条によって、親族が火葬・埋葬を行わない場合には自治体がこれを行うことになっていますが、お葬式等まで行ってくれるわけではありません。)、相続財産管理人の実務でも、【保存行為に当たらない行為】(すなわち相続財産管理人でも【裁判所の許可を要する行為】)と解されているようです。

・預金の解約

 特定の財産の「保存」と言っていいのかどうかが微妙であること、財産の形態を変じる行為であること等からすると、こちらに分類してもよいのではないかと思います。

 また、実際上、裁判所の許可がないと、金融機関が引き下ろし、解約に応じないと(個人的には)考えていることもあります。

△相続人の確定・調査の費用

 これまでも行為自体は行われてきたことですので、あえてこちらに分類することでもないかもしれません。費用の帰属を明確にすることなどを考え、あえて分類するとすればこちらになりますが…。

 後見開始の審判時の書類だけでは相続人がわからないこともありますし、後見開始からある程度期間が過ぎていると相続人が変わっている可能性もあります。そうした場合、まず戸籍を取り寄せて相続人を調査する必要がありますので、そうした費用の帰属をどうするのかの問題でしょうか。

※ 5/13 この費用は、1号・2号に分類し難かったため、3号に「△」で分類していましたが、さすがに、このために裁判所の許可を取らなければならないというの煩雑に過ぎると思いますので、後記のとおりの考えに改説しようと思います。

△相続財産管理人の申立て

 法改正前でも、成年後見人は「利害関係人」として申し立てできるとされていた事項ですので、あえてここに分類する必要はないかもしれません。とはいえ、申立費用等の帰属が明確になる可能性もありますので、分類するとすればこちらでしょうか…(分類すれば、というものではあっても、相続財産管理人の申立てが認められるかどうか自体、裁判所が判断しますので、申立て前に重複して裁判所の許可が必要と言うことはないと思われます。)。

(5)債務超過あるいはそれに準じる場合の問題点

 債務超過あるいはそれに準じる場合に、相続債務の支払いができるのかどうかは、問題となります。

 この点、債務超過の場合には、直接的には元後見人は相続財産の破産申立て権限を有しないように見えますので(破産法224条の文言解釈。ただし、申し立て権限ありと解釈する余地もあるかもしれません。)、本来、法律で予定されている手続きは「相続財産管理人申立て」のはずです。

 相続財産管理人は、請求申出期間満了前においては、原則として、弁済期の到来した相続債権者・受遺者からの弁済の請求を拒絶することができる民法957条2項、928条)とされていますので、一つの考え方は、「この場合には債務の支払い、支出は行ってはいけない。」「仮に行った場合には元後見人の立替えとして、その後の相続財産管理手続きの中で清算する」というものかと思われます。

 もう一つの考え方としてありうるのは、同手続きの中で優先弁済を認められる権利、すなわち「相続開始時までに対抗要件を具備している」「先取特権、質権、抵当権又は留置権を有する債権者」に対しては弁済できる、というものになるでしょうか(なお、この考え方は、神奈川県弁護士会高齢者・障碍者の権利に関する委員会の先生が指摘してくださったことをもとにしています。お名前を出してよいかは、改めて確認していませんので、とりあえず伏せておきます。)。裁判所がこうした考え方をするかどうかまではわかりませんが、黙認される可能性もあるかもしれません。

 また、債務超過で、かつ1号・3号の各行為が出捐を伴う場合に、相続財産から出捐できるかも問題となりえます。この場合にも、「仮に行った場合には元後見人の立替えとして、その後の相続財産管理手続きの中で清算する」考え方もあり得ますし、ほかにありうるとすれば、相続財産管理人自らの相続財産管理費用の償還(民法650条。家事事件手続法208条、125条6項)に準じて扱ってもらえる可能性もあるかもしれません。

 この辺りは、実際に家庭裁判所の運用を見てみるか、あるいは、もう少し議論が煮詰まるのを待ってみないと、分からないかもしれませんね。

 なお、相続財産管理人選任の申立てにも費用の予納が求められることが一般的のようですので、成年後見の申立てにおいて、債務超過が判明し、相続人が全員相続放棄した

場合に、わざわざ相続財産管理人の選任を申し立てるかというと、疑問なしとはしません。

 そうした場合にどうするか、これら相続財産管理人と同じことを、成年後見人が死後事務として行ってよいのかどうか…、この辺りは、裁判所がどのような運用を考えているのかにもよる気はしますね…。

3 訴訟代理

 この法律を見て,もっとも懸念を持ったのがこの点です。

 つまり…

 成年被後見人の死亡後の成年後見人」は,相続財産又は相続人のために,訴訟の【原告】あるいは【被告】となり得るのか,という点です。

 素直に考えた場合,これは「なりうる」ように見えます。たとえば,遺産のうちに「債権」がある場合,その時効中断のために訴訟提起を行うなどは,「特定財産の保存に必要な行為」といえるでしょうし、相続財産管理人などでは典型的な「保存行為」とされているものです。

 しかし,例えば被相続人が借りていた借家の明渡請求訴訟や賃料請求訴訟の被告となれるのか,という点を考えていくと,難しいようにも思われます。

 上にも書いたとおり,共同相続となった場合の不動産賃借権は,継続すれば賃料の支払い義務が生じますし,逆に解除してしまうとその借家・借地等を利用する権限を失うことになります(賃貸借契約の解除は、一般的には処分行為とされています。)ので,まさに共同相続人の意向により【どうしたらよいか】が大きく変わってくることになります。その意味で,「成年被後見人の死亡後の成年後見人」がこれを適切に行使することは非常に困難に思われます

 この点については,「成年被後見人の死亡後の成年後見人」の「権限」が代理権なのか,事務管理なのかによっても変わってくるかもしれません。事務管理である場合には訴訟代理権はない,ということになりそうですが,そうすると「時効中断のための訴訟提起」等もできないと思われるので,それで法の趣旨に合致するのかどうかという問題は残ります。

 また,「成年被後見人の死亡後の成年後見人」の権限が「一種の法定代理」であるという場合にも,訴訟代理ができる場合は限られるのかどうか。ここはまだ自信をもって考えを書くことができませんね…。

※ なかなか、書くことがまとまらなかったのですが、とりあえず書いてみました。そんな状況ですので、また何か思いついて書き直しをすることもあるかもしれません。すみません。

※ 5/13 その後、「相続人の確定・調査の費用」については、法律上、後見終了後に財産を相続人に引き渡さなければならないことに当然必要となる費用として、【873条の2】とは別に支出できると考えてよいのではないかと思うようになりました。ここは改説しておこうと思います。すみません。(もっとも、こうした考えをあまり進めてしまうと、【837条の2】の内容がまたなし崩し的に不明確になる可能性もありますので、あまりこうした873条の2に該当しない費用をたくさん認めてしまうことはよくないのでしょうが…。)。

成年後見に係る法改正(その2)-成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について

 実のところ、前のブログに書いた内容以上のことについては推測できる資料が少なすぎたので、書く気が無かったのですが、他の弁護士の先生と少し話していて、関心ができたこともありましたので、それについて、少しだけ追記します(もう少し続くかも?。☞ひとまず4/26に、「2」以下を追記しました。)。

1 法に基づく死後事務として、専門職後見人が処分行為等を行った場合、【法定単純承認】となるか。

 前のブログの一番最後で、【相続人兼成年後見人となる親族後見人】について

 厳密には「相続人」と「成年後見人」の立場は異なるとはいえ、【相続放棄】をする場合などは、注意がいるかもしれません。支払い等の死後事務が「法定承認」とみられてしまう可能性などもあるかもしれませんし、そうではなくても、一部の債権者だけに返済するような形となれば、紛争化する可能性も全くないとは言えない気もしますね。 

という記載をしたのですが、その後、知り合いの先生の間で【専門職後見人が支払い等した場合に、法定単純承認になりうるか】という話題が少し出てきました。

 これは、【ならない】と思います。まあ、それ(専門職後見人の場合は問題とならない)を前提として、「相続人兼成年後見人となる親族後見人」についての問題として、前のブログで書いたところではあるのですが…。 

(1)基本の確認:「法定単純承認」とは

 成年被後見人がお亡くなりになられた場合、成年後見人の管理していた成年被後見人の財産=【遺産】については,【相続】が開始することになります(民法882条)。

 この相続というのは,原則としては被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」というものになります。

 ここで問題なのが、「権利」だけではなく、「義務」も承継される、ということです。成年被後見人が常に【お金】や【貯金】といった【プラスの財産】(権利)を持っているとは限りません。【借金】のような【マイナスの財産】(義務)を持っていることもあり得ます。

 そのため、お亡くなりになられた方の相続人は、原則として3か月の期間内に、相続を【放棄】するか【承認】(承認には単純承認と限定承認があります)するかを選ぶことができます。

 ただ、【承認】や【放棄】を行う前に、第三者から見て相続人が【相続したのでなければ本来はできないはずの行為】を行った場合等は、それをもって【承認】したものと扱われることになります。これが【法定単純承認】です。

(法定単純承認)

第九百二十一条  次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。

一  相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。

二  相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

三  相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。 

(2)成年後見人は、「法定単純承認」ができるか。

 では、いわゆる成年後見人が「法定単純承認」ができるのか、というと、一般的には「できます。」が、成年被後見人の死後、(専門職の)成年後見人が死後事務として行った処分行為は【法定単純承認】にはならないと思います。

 まず、前半部分について。

 裁判例では、成年後見人と同じ「法定代理人」の一つである、「不在者財産管理人」が法定単純承認にあたる処分行為(家庭裁判所の許可を得て不動産を売却)した場合について、これが【法定単純承認】となるため、その後失踪していた相続人が「相続の開始を知ってから3か月以内」にした相続放棄を【無効】としたものがあります(平成26年9月18日名古屋高裁判決)。

 法定代理人は、本人しか行使しえない権利(一身専属権)は行使できないとされていますが、相続の放棄・承認は一身専属権には当たらないと考えられていますし、こうした場合に承認はもちろん、放棄もできないとなると、不在者財産管理人の意味が失われてしまうからだろうと思います。

 次に、後半部分についてですが、上記の理屈は、【(専門職の)成年後見人が死後事務を行う場合】にそのまま妥当することはありません。

 なぜなら、不在者財産管理人の場合には、裁判所から選任された時点で【誰の】法定代理人になるかが明確になっているのに対し、成年後見人の場合には、成年被後見人がお亡くなりになった以上、【誰の】法定代理人であるかは、各相続人が承認・放棄をするまで分からないからです(なお、この死後事務について、委任・代理とする考え方と、事務管理とする考え方がありうるようです。後者だと、金融機関等の払い戻しに難が生じるでしょうし、報酬請求権にも結び付かないかもしれませんね。)。

 これは、不在者財産管理人と同じ法定代理人である、相続財産管理人の場合を考えればわかることです。相続財産管理人の代理権は、【相続人が相続の承認をしたときに】消滅するとされており(民法956条)、その前に処分行為を行っていたからといって、相続人が承認したことになってしまう(法定単純承認)わけではありません。

 このことは、民法918条2項の「相続の承認または放棄前の相続財産の管理者」について、「相続の承認放棄は、相続人自身が決すべき問題であって、管理者が家庭裁判所の許可を得てなすことはできない」(片岡武/金井繁昌/草部康司/川畑晃一「家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務第2版」(日本加除出版)p257)とされることとも整合性があるのではないかと思います。

 (なお、不在者財産管理人の代理権が、相続の承認と同時に消滅すると規定されていることとの関係からすると、【そうした規定のない=つまり、相続人が相続を承認してもその後も行使しうる】成年後見の死後事務の権限は、【事務管理】ととらえることに親和します。他方で、これまで後見人に認められてきた応急処分義務は、解釈上事務管理ではなく【委任】と解されていることとの統一性も、問題になるかもしれません。)。 

(3)成年後見人の死後事務における考慮要素

 逆にいうと、成年後見人が死後事務を行う場合には、その債務・管理費用を相続する相続人が出てくるかもしれないし、出てこずに相続財産の範囲で対処しなければならない(法律上は相続財産法人が成立することになります)可能性もあることになります。

 そのため、債務超過の場合はもちろん、債務超過に至らなくても処分の難しい資産を除いた流動資産が負債や費用を超えるような場合には、相続財産管理人や破産管財人に求められるような「どの債務を優先的に支払うか」「これ以上負債を負うことはできないか」等の配慮が求められてくる可能性があるでしょう(相続人が全員放棄することが確定したのであれば、相続財産管理人を選任すればよく、さすがにそこまで成年後見人がやらなくてもよいのではないかと思いますが、この辺り、裁判所がどういった運用を望むかはわかりませんね…。)。

 とはいえ,破産管財人や相続財産管理人は,財産の【清算】を念頭に置いていますが,成年後見人の死後事務の場合には,相続人が財産を相続することも当然ある(その方が多い)わけですから,【民事再生】の場合と同じような,【継続】を念頭に置いた考慮も必要になってくることが全くないかは分かりません(事業の再生でもない限り,それほどないと思うのですが。)

(4)相続人兼成年後見人の場合

 しかしながら、専門職後見人ではない、親族後見人の場合には、その成年後見人自身が被後見人の相続人に当たること(立場を【併有】すること)もあるかと思われます。そうした場合に、処分行為をやってしまうと、【法定単純承認】とみなされると思われます(「あくまで後見人としてやったにすぎず、相続人としてやったのではない」と主張することは難しいと思います。)。

 相続の放棄・承認の制度や、法定単純承認の制度は、【相続債権者=お亡くなりになられた成年被後見人に対して債権を持っていたもの】の取引の安全を保護するものでもありますので、上のような主張を認めてしまっては取引の安全が図られないことになりますし、相続債務の中で特定の債務のみの恣意的な返済を認めることに繋がる可能性もあるからです。

 そのため、こうした方の場合には、今回の法律ができる前と同様に、相続放棄を行うかどうかを検討し、相続放棄を行う場合には、それであっても可能な行為(法定単純承認に当たらない行為)の範囲で、死後事務等を行っていただくことになるのだろうと思っています。

2 「死後の事務委任契約」との違い

 なお、いわゆる「死後の事務委任契約」(契約によって委任者が受任者に、自らの死後の事務を委託したもの)について、民事法研究会「実践成年後見」58号44ページでは、「相続人が委任者の地位を承継するのであり、受任者の行為により法定単純承認となってしまう可能性も完全には否定できない」との記載があります。

 こうしたことが今回の民法改正に基づく【成年後見人の死後事務】についても、「たとえ専門職がやった場合でも『法定単純承認』とみなされないか」という懸念の背後にあるのかもしれません。

 しかし、私としては、今回の民法改正に基づく【成年後見人の死後事務】については、いわゆる「死後の事務委任契約」の場合と異なり、(相続人の地位を併有する方がやったような場合でなければ)法定単純承認となってしまう可能性は『ない』のではないかと思っています。

 なぜなら、「死後の事務委任契約」においては、「遺言」ではない「契約」によって、なぜ依頼者の死後に効力を発生させることができるのか、という問題がありました。そのため、「死後の事務委任契約」において書かれた具体的な【事務】が【法定単純承認】にあたるようなものであれば、お亡くなりになられた方の意思として、「相続人に確認の上で行ってほしい」「相続人の代理として行ってほしい」という趣旨と解釈される可能性もありましたし、【事務】の相手方から見た場合にも、「(特定の)相続人に了解を得て行っているのだろう」「(特定の)相続人の代理人として行っているのだろう」と解される可能性がありました。

 つまり、「契約」では、「受任者」と「委任者が亡くなられた後の相続財産あるいは相続人」との関係について説明ができないという問題が残っており、それが【特定の相続人の代理人】という法解釈を入れる余地を残していたのではないかと思います。

 これに対し、今回の成年後見人の死後事務では、たとえ身寄りがなく相続人がいない状態であっても、法律上成年後見人が死後事務を行えることが明確(というか、そうした時こそ最も必要)になっていますので、この死後事務が【特定の相続人の代理人】としての権限を規定したものでないことは明らかです。

 つまり、今回の法改正による成年後見人の死後事務は、未確定な【相続財産あるいは(特定されていない)相続人】との関係での「法定代理」あるいは「法定(?)事務管理」ととらえるしかなく、そのように民法上規定されている以上、成年後見人の死後事務が法定単純承認になることはないと思っています。

 わかりにくい説明かもしれませんし、今後、他の先生の見解もお聞きしてみたいところではありますが…。

 あくまで、法施行前の暫定的な見解として、見ていただけると幸いですね。

 なお、今回の法律は、あくまで任意後見人を含まない「成年後見人」についてのものですし、契約(死後の事務委任契約)がある場合を想定したものではありませんので、「死後の事務委任契約」の場合に、受任者の行為が法定単純承認にあたりうるか、という問題点は残るのだろうと思いますので、その点には注意が必要だと思っています。 

3 「成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き」

 また、死後事務を行う成年後見人は成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き」死後事務を行える、とありますので…。

 「念のために相続人に意思を確認したりした場合、その相続人の代理人として行為したことになり、法定単純承認とならないか」と気にされる方もいらっしゃるかもしれません。

 これも、

専門職の後見人が成年後見人の死後事務として行っている」ことを明確にしている限り、法定単純承認にあたることはないのではないかと個人的には思います(相続人の立場を併有している場合は、上に書いたように法定単純承認とみられてしまうと思います。)

 いかに相続人の意思を確認したとしても、この「成年後見人の死後事務」を行う場合には、あくまで「お亡くなりになった成年被後見人の、成年後見人」という立場・名義で契約を結んだり、行為を行うのではないか、と思います。

 そうすると…。今回の法改正で民法上それが成年後見人には「できる」と書かれているわけですから、契約の相手方や行為の相手方からしても「特定の相続人の代理人として行っている」とみられることはないと思うのですよね。

 もちろん、今後この法改正に従って、「成年後見人」の「死後事務」として行為をするときに、その【名義】は気を付けないといけないと思っています。

 この辺りも、今後議論していっていただけたらな、と思いますね…。

※ 上にも書きましたが、「2」以下は、4/26に追記しました。

※ 5/2 書き足した「2」以下について、「専門職」(相続人ではない)後見人の話であることが分かり辛い記載になっていましたので、多少の修正を行いました。

※ 5/5 民法918条2項の「相続の承認または放棄前の相続財産の管理者」との整合性に気が付き、書き足しました。

成年後見にかかる法改正(成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律)

標記の法律が、可決されたようです。

衆法 第190回国会 20 成年後見制度の利用の促進に関する法律案

以前、「通知カードが転送された時に、成年後見人が開封してよいのか」という問題を書いた際に、触れた法律案すが、このたび正式に成立しました。施行はまだですが、交付より6か月以内となるはずです。

提出時の法律案を読んでみて、思ったところを書いてみました。全くの私見であり、今後違う運用が公表されれば素直に撤回すると思いますので、その程度の内容としてお読みいただければと思います。

1 法律のポイント

 ポイントは以下の3つです。

成年被後見人に宛てた郵便物の配達の嘱託等の審判事件の創設

成年被後見人に宛てた郵便物の開被の権限の明文化

③死後事務の根拠規定の明文化(及び火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為についての許可の申立ての創設)

2 成年被後見人に宛てた郵便物の配達の嘱託等の審判事件の創設

  成年後見人は,被成年後見人を「代理」する権限を持っていますが,そのことと【成年後見人宛】の郵便を受け取ったり,開封する権限があるかとは別の問題でした。

  被成年後見人にも個人的な手紙もあるでしょうし,憲法上も「通信の秘密」がありますので,被成年後見人本人から都度許可を受けていればともかく,そうでなければ他人である成年後見人が当然に郵便を開封することには問題もあるからです(被後見人と同居する親族であれば,場合に寄りますが本人から一定程度許容を受けていると見ることができる余地はあるかと思われます。)。

  もちろん,手紙の送信先に連絡して,自らが成年後見人であることを伝えて,【宛先を成年後見人】として郵便を出して貰えれば問題はないのですが,「どういった手紙が成年被後見人に届いているか」をそもそも把握することは簡単ではありませんでした。

  成年後見人宛の手紙の中には,成年後見人の財産管理にとって重要な郵便があることもありますので,それを成年後見人がきちんと把握出来ることは,被成年後見人本人の財産管理のためにも重要です。

  そこで,成年後見人がその事務を行うに当たり必要がある場合には,裁判所の審判により,六か月以内の期間を定めて,被成年後見人宛の手紙を,成年後見人の元に「回送」することを嘱託できるものとした制度となります。これは、破産法81条に定められた「嘱託回送」とほぼ同じ申立てを、成年後見人にも認めたものとなります。

  過去,以下のように成年後見制度の改正が議論される度に,こうした制度創設の必要性はたびたび求められてきていました。

(1)制度概要

  •  申立人 : 成年後見
  •  実体要件: その事務を行うにあたって必要があると認めるとき
  •  期  間: 6箇月を超えることができない
  •  管  轄: 後見開始審判を行った家庭裁判所
  •    果: 成年被後見人に宛てた郵便物及び民間事業者による信書の送達に関する法律第2条第3項に規定する信書郵便物成年後見人に配達すべき旨を嘱託
  •  手続き : 被後見人の意見の陳述を聴かなければならない (ただし「成年被後見人となるべき者及び成年被後見人については、その物の心身の障害によりその者の陳述を聴くことができないときは、この限りでない。」とされます。実際実務においては、「陳述を聴取することができないことが明らかであり、かつ、親族間にも本人の判断能力について争いがなく、本人の監護状況を把握すべき事情(虐待やその疑いなど)が見られない場合には、陳述聴取の手続きを行わないことがあります(法120条1項ただし書)とされています)
  •  通  知: 決定は被後見人本人に通知されます。 なお、破産法の嘱託回送もそうですが、こうした裁判所から被成年後見人宛の通知は「回送嘱託」から除外されると思います。参照:司法協会「倒産法実務講義案」p39等)
  •  不服申立: 成年被後見人及びその親族は、「嘱託の審判」があった場合にこれに対して即時抗告をすることができます
  •  取消・変更:審判が出た後事情の変更が生じた時は、「成年被後見人成年後見人、成年後見監督人の「請求又は職権」で、裁判所はこの嘱託を取消または変更することができます

(2)「嘱託回送」の効果について

 【破産法81条の嘱託回送】と同じ効果を生じるとすると,【転送不要郵便】や【本人限定受取】も成年後見人に送られることとなると思われます

本人限定受取 - 日本郵便

 とはいえ,現在では様々な制度の中で,代理人と本人の意思が異ならないかを確認するために,【転送不要郵便】【本人限定郵便】で本人に意思確認の書類を送る場面もありますので,こうしたものまで成年後見人のところに送られてしまって良いか,それで「本人の意思確認をした」といいうるかは,少し悩ましい問題を残します。むろん,最長6か月間だけ認められる一時的なものであることを勘案すれば,そうした運用もありうると思われます。

 全ての郵便の回送を嘱託するのではなく,「一定の範囲を定めて」の回送の嘱託ということも可能性としてはあるかもしれませんが,①回送から除く郵便が外観から判断できなければならないと思いますし,②個々の回送嘱託で異なる条件を定めることは,郵便の現場が混乱してしまいますので,基本的には事前に裁判所と郵便局との間で協議して,どういった形で回送を嘱託するかを取り決めておくのではないかと思っています。

 金融機関側でも,被後見人の意思確認を必要とする場合,従来通りの運用で問題がないかを,チェックしておく必要があるかもしれませんね(後見制度支援信託における意思確認等)。

(3)必要な期間が6か月を超える場合,再度の申立てが可能か?。

 私見ですが,再度の申立も「必要性」があれば可能だろうと思っています。ただ,「必要性」が認められるケースは少ないかもしれません。

 破産法と異なり,回送嘱託の審判に最長「6か月」の期間が定められたのは、①成年後見人は自然人であるため、通信の秘密との抵触の観点から期間を区切ったことと,②破産に比べても後見は長期間に及ぶことが多いため,期間を区切ることが望ましいとされたのだろうと思います(推測ですので,違っていたらすみません)。なお,破産法の嘱託回送でも,個人の破産者の場合には,期間を区切ることもあるようです(司法協会「破産事件における書記官事務の研究―法人管財事件を中心として―」p60参照)。

 こうした期間制限があること自体は,回送が必要な期間が6か月を超える場合に,再度の申立をすることを禁じたものではないと思われますので,再申立も可能ではないかと思っています。

 他方で,もし,この「嘱託回送」で【転送不要郵便】や【本人限定受取】にまで及ぶとすると,あくまで一時的な処分と捉えるべきとと思われますので,再申立の場合には相当に説得的な「必要性」がいるのではないかと思っています。

(4)「その事務を行うにあたって必要があると認めるとき」

  もっとも典型的なのは、本人の財産関係が不明な場合―例えば、①実際に被後見人を監護している親族とは異なる親族から後見開始の申し立てがされ、専門職後見人が就いたような場合や、②突然の事故でご本人が後見状態になられてしまったような場合,③裁判所が後見監督の際に,財産関係が不明確だとして専門職後見人を伏した場合など-でしょうか。こうした場合には、嘱託回送により被後見人が実際にどのような財産をお持ちかを調べる必要があります。もっとも,③は審問期日まで時間がないことも多いかとは思われますので、意味は限定的かもしれませんね。

  ほかには、後見制度支援信託を含め,専門職後見人が付される場合に活用する運用も考えられます。こうした場合,専門職後見人は被後見人の財産について財産目録を作成し提出する必要があるためです。後記のように申立人がそのまま親族後見人となるような場合と比較すると当然に違う運用をすべきかは何とも言えませんが,①専門職が付く場合は,被後見人に一定程度の財産があり,他にも財産をお持ちの蓋然性があるケースもあれば,②親族間紛争があるなど,こうした点に気を配っておいた方が良いケースもあると思われるからです。

  これに対し,親族後見人が付くケースでは,この嘱託回送の運用は考えにくい気がします。同居している親族が申し立てた(そしてそのまま後見人となった)ケースであれば,これによって新たな財産が見つかる,ということは考えにくいと思いますし,親族間に紛争がある事案では,そもそも親族後見人が選任されること自体,稀ではないかと思います。自宅で一人暮らしをしていた被成年後見人が施設に入居して,自宅に誰も居住しておらず,かつ,施設が郵便を受け取ってくれない場合には活用の余地はあると思いますが,それでも,嘱託回送が【本人限定受取】や【転送不要郵便】も回送されるという効果を持つ(一時的な制度)とされれば,最初の6か月を超えて嘱託回送を認めることはあまり望ましくはない気がします。

3 成年被後見人に宛てた郵便物の開被の権限の明文化

 これは、成年後見人が【成年被後見人宛】の郵便物を開被することのできる権限を明定したものです。

 なお、改正後の民法860条の3は、開被可能な郵便物を改正後の民法860条の2によって回送されたものに限定していませんので、たとえば、親族から受け取った過去の郵便物等も開被できることになります。

 (現行破産法81条は、旧破産法190条からそのように変更されていますので、同じ文言の改正後の民法860条の3も同様に解釈されると思います。)。

4 死後事務の根拠規定の明文化(及び火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為についての許可の申立ての創設)

(1)被成年後見人がお亡くなりになったときの原則 

 被成年後見人がお亡くなりになった際には,その方の【遺産】について【相続】が開始しますが,相続が単純承認(民法920条)され,かつ相続人が1人であればその方が原則として遺産を相続することになるでしょうし,相続人が複数で遺産分割が終わるまで【遺産の管理】が必要な場合などは,共同相続人が共有(民法898条)で管理することが通常です。そのため、成年後見人は、相続人が明らかになり、かつ、相続人間で財産を引き取ることができるのであれば、相続人代表者等に財産を引き継ぐことになります。

 また、そうした遺産以外の問題として、死亡診断書等の取得や,死亡届(戸籍法86条1項)の提出,火葬(埋葬)許可証(墓地埋葬法5条1項)の取得,葬儀等がありますが、この死亡届の提出義務者も,親族等の同居者等とされており(戸籍法87条2項)、成年後見人としては、死亡届を出すことこそ可能となりましたが(戸籍法87条2項。平成20年の戸籍法改正により設けられたものです。ただし、「義務者」とはされていません。)、 これまでは葬儀を行う権限も義務も明定されていませんでした。 

 この問題も,「1」と同様,成年後見制度の改正が議論される度に指摘されてきた問題でした。

(2)概要

  改正後の民法873条の2は、「成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。」として、以下の3つを挙げています。

  1. 相続財産に属する特定の財産の保護に必要な行為
  2. 相続財産に属する債務の弁済
  3. その死体の火葬又は埋葬に関する契約その他相続財産の保存に必要な行為

 そして、「3」については、「ただし書」において家庭裁判所の許可を得なければならない。」としています。

(3)成年後見人の義務に変化はあるか

 上記のように、成年後見人が「することができる」ことが定められたものの、義務として規定されているわけではありません。

 そして、成年被後見人がお亡くなりになられた場合の、成年後見人の義務について定めた民法874条により準用される民法654条には、今回の改正で変更は加えられませんでした。

 そのため、成年後見人が法的に負う義務としては、従前と大きく変化するものではないと思われます。

(4)「応急処分義務」に当たる「3」にも、家庭裁判所の許可は必要か

 他方で、これまでは、民法874条により準用される民法654条に該当する「応急処分義務」がある場合には、成年後見人は事務を行えるとされてきましたが、今後は、この義務のうちでも、上記「3」の「その死体の火葬又は埋葬に関する契約その他相続財産の保存に必要な行為」に当たる場合には、家庭裁判所の許可を取得する必要があるようにも読めます。

 ①改正民法873条の2が、従前なかった権限を創設したものであり、従前から認められていた権限を制限するものではないと考えれば、不要となりえますが、②そもそも民法654条は義務を定めたもので権利を当然に定めたものではないとすれば、その行使方法についての規定である改正民法873条の2には従わなければならないことになるかもしれませんね。

 (委任の終了後の処分)

第六百五十四条  委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。 

 (5)【相続人兼成年後見人となる親族後見人】の場合

  改正後の民法873条の2は、主体を「成年後見人」としており、専門職や第三者の場合に限っているわけではありませんので、自身が被成年後見人の相続人である親族後見人の場合には、こうした「3」の許可が必要かが問題となりえます。

 財産上の管理行為については、おそらく、法的には不要ではないかと思います。相続人であれば可能な管理行為について、たまたまその親族が後見人だったからと言って制限されることは、違和感を覚えます。

 とはいえ、親族間での紛争等がある場合には、こうした許可も取得しておいた方が「より手厚い」こともあるかもしれません。

 また、厳密には「相続人」と「成年後見人」の立場は異なるとはいえ、【相続放棄】をする場合などは、注意がいるかもしれません。支払い等の死後事務が「法定承認」とみられてしまう可能性などもあるかもしれませんし、そうではなくても、一部の債権者だけに返済するような形となれば、紛争化する可能性も全くないとは言えない気もしますね。

(6)最後に

 もっとも、実際に、これらの制度の具体的な内容は、これから、関係各機関ですり合わせ等が行われるようです。

 ひとまず、法律案だけを見た時点での、「感想」として書いてみたものにすぎませんので、実際に運用される場合には、今後公表されるであろう最新の情報に注意していただければと思います。 

 ※ なお、この論稿で触れた「法定単純承認と死後事務との関係」については、(その2)に、また、この論稿であまり踏み込まなかった死後事務の具体的な内容や金融機関との関係については、(その3)(その4)に記載しました。関心がありましたらどうぞ。

 

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後見人とマイナンバー(その3:マイナンバーが必要な主な事務)

  委員会の関係で、後見とマイナンバーの整理を担当することになりましたので、それに関連した内容を。 

1 後見人の業務の中で、マイナンバーを取り扱うものは?。

 この質問、聞かれることあるんですよね…。

 とはいえ、後見人は、被後見人の持つ権利のうち、一身専属権を除くすべての権利を代理行使できることが原則ですので、まあ、正確にいえば、「マイナンバー法に規定されているほとんどすべての事務を取り扱う可能性があります」となるんじゃないかな…という気がします。

 ですので、実際には役所や施設、会社等から請求された場合に、個々的に確認するしかないのではないか、という気がしますが、主なものを挙げるとしたら、以下のようなものかな?、と思います。

 見落としもあるかもしれませんし、独断での記載となってしまいますが…。

  なお、内閣官房のホームページの「マイナンバーの提供を求められる主なケース」を参照されてもよいと思います。

2 高齢の方の【成年】後見人

 マイナンバーは、「税」「社会保障」番号ですので、

「税」

社会保障」そして

マイナンバー法固有の場面」

「その他」

の4つに分けて書いて見てます。

(1)税金関係

ア 確定申告

 被後見人に収入があり確定申告を行わなければならない場合、後見人が確定申告を行う必要があります。そして、確定申告書には被後見人の個人番号を書かなければなりません。

 なお、老齢年金や退職年金など課税年金の受給者は、その年の公的年金等の収入金額の合計が400万円以下で、かつ、公的年金等以外の所得金額が20万円以下である場合は、確定申告は不要とされています(公的年金等に係る確定申告不要制度)。該当するか疑問があるときには、国税庁の一般相談に問い合わせるなどして確認するとよいと思います。

イ 相続税の申告

 被後見人の親族がお亡くなりになり、被後見人が財産を相続される場合があります。

 その場合、平成27年1月1日以降に相続が発生した場合であれば、遺産の額が基礎控除額である「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を上回れば、確定申告の必要かもしれません。

 そして、平成28年1月1日以降に相続税の申告を行う場合には、その申告書第1表には、被相続人、相続人の個人番号の記載が必要となります。

ウ 法定調書に個人番号を記載する必要がある場合

 「法定調書」とは、税務署が取得税に関わるお金の動きを知るために、法律で定められた特定の取引等について、お金を支払う側が、支払った額やお金を支払った相手の情報を、税務署に報告するためのものです。

 いわゆる源泉徴収票も、こうした法定調書の一つとなります。

 具体的には、以下の法定調書に個人番号の記載が必要とされています。

 https://www.nta.go.jp/mynumberinfo/jizenjyoho/hotei/index.htm

 このうち、後見業務である程度取り扱いそうなものを見ていくと…。 

① 法人から不動産等の使用料の収入がある場合

 年額15万円以上の家賃や地代等を法人や不動産業者が支払う場合には、法人・不動産業者は「不動産の使用料等の支払調書」を国税庁に提出しなければならず、そこには【支払先】である「大家・地主」の個人番号を書かなければなりません。

 そのため、こうした賃貸物件をもつ被後見人の場合には、「店子・借り手」である法人・不動産業者から個人番号の提供を求められると思われます。

② 不動産を売却した場合

 被後見人の所有不動産を、法人や不動産業者である個人に売却し、支払額が100万円を超える場合には、譲り受けた「法人・不動産業者」は「不動産等の譲受けの対価の支払調書」を作成しなければならず、そこには「支払先」の個人番号を書かなければなりません。

 そのため、これらの場合には、「買主」である法人・不動産業者から「売主」である個人番号の提供を求められると思います。

③ 株式・投資信託

 株式等を保有している被後見人に対して、その会社が配当金を支払う場合、会社は原則として(提出省略範囲は、細かく定められていますので、記載を省略します。以下この③について、同様の扱いです。)「配当、剰余金の分配及び基金利息の支払調書」を税務署に提出する必要があり、ここには「支払先」である株主の個人番号を記載する必要があります。また、株式が売買された際の譲渡益についても、それが一般口座で行われたものであれば、対価を支払うものが「株式等の売却の対価等の支払調書」を税務署に提出しなければならず、これにも支払先の個人番号を記載する必要があります。そして、特定口座で取引を行っている場合には、配当・譲渡益ともに「特定口座年間取引報告書」において申告され、これにも支払先の個人番号を記載する必要があります。

 そのため、こうした場合、株主等である被後見人の個人番号について、後見人は、会社(非上場の場合)又は証券会社(上場の場合)から、個人番号の提供を求められると思われます(既存顧客等については制度導入後3年間の猶予期間があります。)。

④ 生命保険関係

 生命保険については、一時金の支払いのうち1回の支払金額が100万円を超えるもの、また、年金の支払額が年20万円を超えるものについては保険会社において法定調書の作成が必要とされ、そこに支払先の個人番号も記載しなければならないこととなります。

 また、被後見人の親族等がお亡くなりになって、その生命保険金を被後見人が受け取る場合にも、生命保険金・共済金受取人別支払調書において、受取人の個人番号の記載が求められます。

 これらの場合は、保険会社等から個人番号の記載を求められると思われます。

⑤ 損害保険関係

 損害保険契約等の満期返戻金等の支払金額が100万円を超える場合、年中の年金の支払額が20万円を超える場合にも、支払う側は支払調書を作成しなければならないため、支払先の個人番号の記載を要します。

 また、損害保険金・共済金のうち、死亡に伴って支払われるもので保険金の支払金額が100万円を超えるものについては、受取人別支払調書に受取人の個人番号の記載を要することになります。

 そのため、これらの場合にも、保険会社等から個人番号の記載を求められると思われます。

(2)社会保障関係  

ア 医療保険(健康保険・国民健康保険後期高齢者医療保険

 被後見人について、これらの資格の取得、喪失が生じたり、高額費用の還付や限度額認定請求等を行う場合に、被後見人の個人番号の記載が必要となります

 なお、「療養費の請求」にも必要ですが、これは【現物としての療養】を受けることなく、後で療養費を請求する場合の話ですので、通常の病院の診察等で必要になるわけではありません。

イ 介護保険

 介護保険資格の取得は、高齢で成年後見となられている方の場合、すでに手続きが済んでいるかと思われます。資格を喪失した場合や、高額費用の還付・限度額認定の請求といった医療保険と同じような場面でも、被後見人の個人番号は必要になってきます。

 さらに、要支援・要介護の認定・更新の際に被後見人の個人番号の記載を求められる点が重要です。

ウ 生活保護

 被後見人について生活保護を申請する場合には、被後見人の個人番号の記載を求められます。

エ 年金

 法施行時期が延長されたこととの関係で、現時点ではどういった場面で個人番号が要求されるかはわかっていません。 

(3)マイナンバー固有の手続き

ア 転居等の届出

 いわゆる(住民基本台帳法の)転入届を提出する際、マイナンバー法では、「通知カード」(7条)、「個人番号カード」(17条)についても同時に地方自治体に提出しなければならないとされています。カードに記載された住所等を書き変えるなどの作業のためです。

 法令上はこの届けを代理人が行ってよいか明らかではありませんが、「通知カードおよび個人番号カードの交付等に関する事務処理要領について」(平成27年9月29日総行住第137号)では、法定代理人等もこれを行うことができるとされています。ただし、「個人番号カード」による手続きの場合には、住民基本台帳アプリケーションについての4桁の暗証番号を記入しなければ住所の書き換えができないことになりますので(上記通知第3-3-(1)-ア)、被後見人等からこれを教えてもらっておくと手続きがスムーズに行えるのでしょう。

 暗証番号を教わらないままに法定代理人が手続きを行おうとする場合は、上記の通知でははっきり書かれていませんが、①自治体からの被後見人に「回答書」を送ってもらい、本人に暗証番号を記載してもらうか(第3-1-ウ―(オ)-C。本来は法定代理人以外の任意代理人についての処理なので、自治体が認めてくれるかどうかはわかりません)、②個人番号カードの暗証番号の変更の手続き(第3‐3-(3))を行うことになるかと思われます。

 法定代理人は、暗証番号を入力できるとされ、暗証番号変更の手続きもできるようですので、法定代理人がいる場合には法定代理人が暗証番号、個人番号カードの管理を行うことを念頭に置いているのかもしれませんね。

 ちなみに、上記で引用した「通知カードおよび個人番号カードの交付等に関する事務処理要領について」は、ぎょうせいの「平成27年版住民基本台帳法令・通知集」を参照しています。

イ 個人番号カードの受領    

 15歳未満の方や被後見人が個人番号カードの申請を行った場合には、法定代理人である後見人が市町村の事務所に出頭して、個人番号カードの受領を行うことになるようです(第3-2-(1)-ウ―(ウ))。また、このときに法定代理人である後見人に暗証番号の入力を求められるのではないかと思われます。

ウ 個人番号の指定の請求

 マイナンバー法では、「個人番号が漏えい」して「不正に用いられる恐れ」がある場合に、従前の個人番号に代わる個人番号の指定を請求できる(法7条2項)とされています。

 法律では、本人しか請求できないように見えますが、法施行令3条6項により本人が個人番号指定請求書を作成すれば、その提出は代理人でも行うことができるとされています。

 さらに、上記通知では、「法定代理人に限」っては「本人に代わって請求することができることとするのが適当である。」としていますので、法定代理人である成年後見人は、みずから請求書を作成し、申請することもできると思われます。

(4)その他:死後事務について

 本来の成年後見人の職務ではありませんが、被後見人がお亡くなりになった後にも、被後見人の個人番号が必要とされる手続きがあります。

 医療保険において葬祭費等を請求する場合には、個人番号の記載が必要とされていますし、生命保険や損害保険(死亡)の保険金を請求する場合、そして、相続税の申告の場合にも、お亡くなりになられた被後見人の個人番号は必要とされます。

 そうした手続きの多くは、成年後見人が行うものではありませんが、親族が被後見人の個人番号を知らず、被後見人と同一世帯ではない場合には、個人番号を伝えてあげる必要が出てくることもあります。

 マイナンバー法で「第三者への提供」が制限されているのは、「特定個人情報」(法19条)であり、「特定個人情報」の中にはお亡くなりになられた方のものは含まれません。そのため、お亡くなりになられた被後見人の個人番号を、その親族にお教えしてもマイナンバー法には触れないことになります。

 Q17-5死亡保険金の支払に伴って提出する支払調書に記載する保険契約者の個人番号について、保険契約者が死亡しているケースが想定されますが、その場合どのような対応が適切ですか。
A17-5保険契約者が死亡している場合であっても、支払調書には保険契約者の個人番号を記載することとなっています。死者の個人番号については番号法上の提供制限は及びませんので、保険契約者の個人番号を知っている者に適宜提供を求めることとなります。 

「特定個人情報の適正な取り扱いに関するガイドライン(事業者編)に関するQ&A」Q17-5

 ただ、親族間で紛争にならないよう、引継ぎを行うときと同様の配慮は必要と思われます。

3 【未成年者】の後見人(未成年後見人)

 上記2の「高齢の方の成年後見」で触れた手続きで、未成年後見人の場合でも問題となる手続きもありますが、それについては重複するので説明を省きます。

 未成年後見人に特に関係してくるものは、以下のようなものでしょうか。

(1)児童手当の新規認定請求

 児童手当法施行規則が改正され、児童手当を新規に認定してもらうための様式である、第1条の4の様式2号【児童手当・特例給付認定請求書】に、当該請求者(つまり、未成年後見人)及び配偶者がいるときには配偶者の個人番号が必要とされます(平成27年12月18日内閣府令第73号)。 

(2)児童扶養手当の認定請求

 児童扶養手当の受給は、未成年者の「養育者」が行うものですので、未成年者の親族等の後見人であればともかく、弁護士のような専門職後見人請求することはあまりないのかもしれませんね。

 児童扶養手当法施行規則が改正されたことにより、1条の様式第1号【児童扶養手当認定請求書】に、当該請求者及びその扶養親族、そして対象となる児童の個人番号が必要とされるようになっています(平成27年9月29日厚生労働省令第150号の、第19条)。

(3)子ども・子育て支援法20条の支給認定(20条1項)

 幼稚園・認定子ども園・保育所・小規模保育への申し込み等に関係してくる、子ども・子育て支援法20条の支給認定を受けるためには、保護者(この場合は未成年後見人)の個人番号の記載が必要とされています(子ども・子育て支援法施行規則第2条)。

(4)奨学金

 奨学金については、まだ制度導入時期となっていないため、現時点では詳細は定まっていません。

 

※ あるいは、間違い、見落としもあるかもしれませんが、メモとして書き残しておくこととしました。

 実際に手続き等を行う場合には、管轄の役所に問い合わせ等を行われてはどうかと思います。 

認知症高齢者の鉄道事故について

1 平成28年3月1日最高裁判決について

 認知症の高齢者が徘徊していて、駅構内の線路に立ち入り鉄道事故となってしまい、鉄道会社が親族に監督責任等を問うていた事件について。

 最高裁判所の判決が出ましたね。

 今は一時的にこちらに掲載されているようです。

 ※ 一時的な公開用のHPが削除されたようです。今はこちらで公開されています。

 この事件について、高等裁判所は、奥さんを民法714条の法定監督義務者に当たるとして、具体的事情の下で損害額を大きく減額(5割)したうえで責任を認めていました。

 七百十四条  前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

 しかしながら、最高裁においては

精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないというべきである。

 とした上で、

もっとも,法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり,このような者については,法定の監督義務者に準ずべき者として,同条1項が類推適用されると解すべきである

としながら、

 具体的事情を検討し、【法定の監督義務者に準ずべき者に当たるということはで
きない】として鉄道会社側の請求を全面的に棄却し、親族に責任はないとしたものでした。 

 すごいな、と思います。

2 弁護士会で検討したときに

 この事件は、地方裁判所の判決が出た時に、弁護士間の勉強会で取り上げられたことがあり(他の方が発表されましたが)、簡単にですが一読していました。

 しかし、高齢者で責任能力がないと思われる方について、民法714条1項の「法定監督義務者」が誰もいないというような判断をすることは難しい事案ではないかと感じざるを得ませんでした。 

 この事件では成年後見人は選任されていませんでしたが、ものの本には714条の「法定監督義務者」に当たる典型例として【後見人】が挙げられていることなどから、「たまたま後見の申し立てをしなかった」から責任を負うものがいない、という結論はさすがに書けないと感じていたからです(つまり、責任無能力と評価できるほどの認知症だとすれば、仮に成年後見を申し立てていれば当然「後見」が認められます。そして、「後見」となると後見人が賠償義務を負うけれど、後見人がいなければ賠償義務を負わない…ということになると、法律に従って高齢者を守るために「成年後見」を申立てた人が不利益を負う結果になり、不公平になってしまいます。そのため、【本来であれば後見人となっていたような親族は、後見を申し立てていなくても、責任を負う(法定監督義務者に当たる・準じる)】ということにならざるを得ないのではないかと考えていました。後見人にならなければ責任を負わないのであれば、成年後見の申立てが避けられるようになり、結果として本来成年後見が目的としていた悪徳商法等からの保護が不十分となくなったり、後見人がいないことを不安に思う相手方からの契約拒否等が起こりえますので…。【わかりにくいかと思い、3/3加筆】)。

 最高裁判所は、その点について以下の通り、【成年後見人であることだけでは直ちに法定の監督義務者に該当するということはできない】として、前提を否定していますね。

後見人の禁治産者に対する療養看護義務は,上記平成11年法律第149号による改正後の民法858条において成年後見人がその事務を行うに当たっては成年被後見人の心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない旨のいわゆる身上配慮義務に改められた。この身上配慮義務は,成年後見人の権限等に照らすと,成年後見人が契約等の法律行為を行う際に成年被後見人の身上について配慮すべきことを求めるものであって,成年後見人に対し事実行為として成年被後見人の現実の介護を行うことや成年被後見人の行動を監督することを求めるものと解することはできない。そうすると,平成19年当時において,保護者や成年後見人であることだけでは直ちに法定の監督義務者に該当するということはできない。 

 勉強会のときは、私も何とかならないかと思い、【精神疾患者に治療を施す際に、開放処遇の選択をすることについて医師の裁量を認めた一連の裁判例の存在などから、義務を軽減することはできないか】、という意見を述べてみました。

 しかし、他の先生から、「精神疾患者の開放処遇についても、その結果無関係の第三者に損害が生じた時には、裁判所は厳しい判断をしている」との指摘を受け、確かにそうだったようにも思い、やはり責任を否定することは難しいのではないかと思っていました。

3 最高裁判所の変化?

 ただ、平成27年に入って、「最高裁判所の判断が変わってきているのかな?」と感じさせられた出来事がありました。

 平成27年4月9日最高裁判所判決の存在に気が付いたときです。

 この事件は、11歳の子どもが蹴ったサッカーボールを避けようとして、自転車に乗っていた他の子どもが転倒し、その後死亡してしまった事件について、亡くなられお子どもの両親が、ボールを蹴った子どもの両親に、監督責任を追及した事件です。

 これまでの法律論からすれば…、【成人がサッカーボールを蹴りそれを避けようとした人が亡くなってしまえば責任を負う可能性が高い】と思いますので、この案件でも、「責任無能力者」であるお子さんの事件について、代わりに親権者である両親が責任を負うとされることは通常であれば避けがたいと感じる事案でした。

 しかしながら、最高裁判所は以下の通り判断して責任を否定しました。

 責任能力のない未成年者の親権者は,その直接的な監視下にない子の行動について,人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると解されるが,本件ゴールに向けたフリーキックの練習は,上記各事実に照らすと,通常は人身に危険が及ぶような行為であるとはいえない。また,親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ないから,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別の事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。 

 また、集めておいた文献もそのうち読んで、考えをまとめてみたいところですが…。

 認知症高齢者をはじめとして、社会には防ぎようのない一定の危険な出来事もあることもあり、それをただ親族・家族というだけで責に帰することはできず、社会に生きている我々全員も受け入れなければならない時期に来ている。

 そのような視点を、最高裁判所から示されているようにも感じますね…。 

 とはいえ、どちらの最高裁判決も、未成年者や認知症高齢者が事件を起こしたときに、親族や後見人が「全く責任を負わなくてよい」としているものではなく、あくまで具体的事情に基づく判断の余地を認めたものとどまりますので、後見人や親族も監護・介護に努力を重ねなければならないことに、変わりはなのだろうと思います。

※ あまりちゃんと検討できていないので、間違っているところもあるかもしれません。とりあえず感動を書き留めておくことに…。

マイナンバーは危険なのか(その3:詐欺・消費者被害を少なくするために)

1 はじめに

 マイナンバーに関して、詐欺等の電話がかかることが続いているようです。

 以前、タウンニュースの取材をいただいた時にもお答えしたことですが、個人的にはこれが一番懸念していたことなのですよね…。

  なぜこういったことが起こるかと言うと、①マイナンバー制度(及びそれに伴く個人番号カードの制度)自体が、まだ実施されていないところ、未確定のところがあること、②そもそも制度が複雑で、なかなかわかりづらいこと、によって、【一般の方々が混乱してしまっている】ことが背景にあります。

 こうしたことが、①犯罪者にとっては付け込む余地になりますし、②こうした方々から相談を受ける立場のものにとっても、なかなか明確な回答がし辛いことに繋がります。

  ②のわかりにくさ、については、内閣官房がホームページで「マイナンバーの提供を求められる主なケース」が掲載されたので、これを見ると、少しわかりやすいかもしれません。ただ、これに挙げられたものがすべてではないことも、悩ましいところです。 

 しかし、付け込まれているのは、「分かり辛い」こともさることながら、そこから生じる「混乱」なのですから、【本人】も【周りの相談者や支援者】も、少しでも本人の「混乱」を収めることで被害の発生をある程度減らすことができると思います。

 そうした意味では、「制度がどうなっているか」を事細かく正確に知らなくても、【間違っていないこと】を把握し、そこから考えて、仮に不当な電話があったときに【おかしい】と思える知識を身に着けて、冷静な対応をするよう心がけるが重要だろうと思います。

 2 どんな混乱に付け込まれやすいか

 これまでに役所に報告された主な手口は、国民生活センター警察庁消費者庁などのサイトで掲載されています。

 最近の特徴としては、お金を要求するだけではなく、まず資産状況等を聞きだすケースもあることや、メールでの事例が増えつつあることなどがあげられるでしょうか。

 ともあれ、犯人の最終目的は「お金」なのですから、「マイナンバーに関わること(漏えい等)で、このまま放置すると、あなたに【強い不利益】が及ぶ可能性がある。それを防ぐためには費用がかかる」等として、【不利益】を告げ、それを避けるためにはお金が必要、と告げることが最も考えられることになります。

 告げられる【強い不利益】の内容としては、

A 犯罪

B 損害賠償の請求

C プライバシー情報の流出

D 「なりすまし」

などが考えられるでしょうか。

 だとすれば、そうした不利益が生じる可能性が【ない】あるいは【低い】ことを理解していれば、少なくとも「何かおかしい」と感じ、混乱を少しでも収めて対応できるのではないかと思います。

 CとDについては、基本的に危険はないことをこれまで触れてきました。

yokohamabalance.hatenablog.com

yokohamabalance.hatenablog.com

3 マイナンバーに関して、【消費者】が犯罪に問われることがあるか

 結論から言えば、まずないです。

 マイナンバー法が定める犯罪は、以下の通りです。

  主体 行為 法定刑
1 情報連携や情報提供ネットワークシステムの運営に従事する者が従事していた者 情報連携や情報提供ネットワークシステムの業務に関して知りえた秘密を洩らし、または盗用 3年以下の懲役、または150万円以下の罰金(併科刑あり)
2 国、地方公共団体地方公共団体情報システム機関などの役職員 職権を乱用して、もっぱら職務以外の目的で個人の秘密に属する特定個人情報が記録された文書などを収集 2年以下の懲役、または100万円以下の罰金
3 特定個人情報保護委員会の委員長、委員、事務局職員 職務上知ることのできた秘密を洩らし、または盗用 2年以下の懲役、または100万円以下の罰金
4 個人番号利用事務、取扱事務などに従事する者や従事していた者 正当な理由なく、業務に関して取り扱う個人の秘密が記録された特定個人情報ファイル等を提供 4年以下の懲役または200万円以下の罰金
5 同上 業務に関して知りえた個人番号を不正な利益を図る目的で提供または盗用 3年以下の懲役、または150万円以下の罰金(併科刑あり)
6 「何人も」 人を欺き、人に暴行を加え、人を脅迫する行為、または財物の奪取、施設への侵入、不正アクセス行為により個人番号を取得 3年以下の懲役、または150万円以下の罰金
7 「何人も」 偽りその他不正の手段により個人番号カードまたは通知カードの交付を受けた 6か月以下の懲役、または50万円以下の罰金
8 特定個人情報の取扱いに関して法令違反のあったとして特定個人情報保護委員会から命令を受けた者 特定個人情報保護委員会の命令に従わなかった 2年以下の懲役、または50万円以下の罰金
9 特定個人情報保護委員会から報告や資料提出の求め、質問、立ち入り検査を受けた者 報告・資料提供をしない 虚偽報告、虚偽の資料の提出 職員の質問に答えない、虚偽の答弁をする 検査を拒否したり、妨げたり、忌避する 1年以下の懲役、または50万円以下の罰金

 このうち、番号1から3は、それらの仕事についている公務員に成立するものですので、公務員でない消費者に成立することはありません。

 番号4と5は、会社の仕事などでマイナンバーを扱う業務についている人に成立するものなので、そうした立場にない通常の消費者に成立することはありません。

 番号8と9は、特定個人情報保護委員会から、命令を受けたり、調査等を求められたときに従わなかった場合の話なので、通常の消費者には関係ありません。

 残された、番号6と7を見てみましょう。

「人を欺き、人に暴行を加え、人を脅迫する行為、または財物の奪取施設への侵入不正アクセス行為により個人番号を取得」

偽りその他不正の手段により個人番号カードまたは通知カードの交付を受けた」

 これ、マイナンバー法があろうがなかろうが、ほとんど犯罪です。

 通常の消費者であれば、「そんなことはしていない」ことがわかるのではないかと思います。

 このように、まず通常の消費者に犯罪が成立すること自体が考え難いことになります。もちろん、誤って情報を漏らしてしまったなどの【過失】の場合は犯罪にはなりません。それでも不安なら、警察やマイナンバーコールセンターに相談をしてはどうかと思います。

4 マイナンバーに関し、消費者が損害賠償を問われることはあるか

 

 これもまずないと思います。

 情報漏えいなどをしたことで損害賠償を負うのは、原則としては「情報漏えいしない義務」=「管理義務」を負っている人になります。

 会社の仕事でそう言う立場に立っている人であればともかく、普通の消費者がこうした義務を負うことはありません。

 それでも心配な時は、マイナンバーコールセンターなどに問い合わせをされてはどうかと思います。

5 他の方法

 

 他には、マイナンバーを取り扱う公務員や、業者だと名乗って、会話ややり取りをするうちに信頼させて、情報やお金を引き出そうとするケースがあるかもしれません。

 こうした場合はなかなか気が付きにくいですが、資産情報や、費用の話になったらおかしいと思いましょう。

 そして、相手が名乗った役所や、マイナンバーコールセンター、国民消費者センターなどを、きちんと自分で電話番号を調べて電話しましょう。そこで聞けば、「そんな話はない」ことがわかるのではないかと思います。

6 最後に

 

 詐欺や消費者被害では、次々と新しい手口が考え出されてきます。

 すべての手口を事前に考え、予測することまではできません。

 世の中の仕組みの基本を押さえることで、「おかしい」と気が付くようになれることが、身を守る方法としては有効でしょう。

 多くの場合、相手は「今ここで話を決めないといけない」という印象を与えるでしょうが、そうしたことは世の中にあまりありません。すぐに、相談すべきところにきちんと相談しましょう。

 そして…。

 政府・警察におかれても、こうした事案の摘発・防止に力を注いでいただけるよう、是非お願いしたいと思っています。