【天秤印】春日井弁護士雑記(旧名古屋・横浜弁護士雑記)

現在春日井市に勤めている元裁判官現弁護士が、日々感じたことなどを書いています。

【書評】最新 渉外家事事件の実務(新日本法規)

 少し前から読み始めていた本ですが、この本を読み終わりました。

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 「渉外家事事件」というのは、外国籍を持つ方や、外国にいる方が関係してくる、家族関係についての法律問題のようなものになります(法曹会の「渉外家事・人事訴訟事件の心理に関する研究」には、もう少し正確そうな定義が書いてあるのですが、正直分かりにくいかな、と思いました。)。

 児童相談所の常勤弁護士として、申立に関わる渉外家事事件としては、養子縁組、親権停止、未成年後見あたりに限られるのですが、そのほかの知識も、外国籍を持つ家庭などの抱える問題を理解し、見通しを立てるという意味では、「支援」のために有用だと思います。

 この本を購入したのは、児童相談所に来てからでしたね。平成27年10月27日初版発行の本なので、数年間の時期は経っていますが、「渉外家事事件の全体像を理解するのに、最適の一冊」ではないかと思います。

 正直、渉外家事事件については、国際裁判管轄や、準拠法などの問題があることは一応理解しており、個別にその都度各種文献をあたっていました。

 とはいえ、この分野における自分の知識が十全でないとは思っていたので、折に触れて学んできたつもりではありました。以前通読してこのブログでも取り上げた「外国人の法律相談Q&A」の本に加え、国籍の得喪と戸籍実務の手引きISSJの講座や愛知県弁護士会の講座、ほかにも、在留資格取得について書かれた本などに目を通してきました。

 しかしながら、この本を読んで、渉外家事事件の見方が一変したように感じます。これまでは、「具体的にある問題について裁判になった、裁判を起こす場合の、国際裁判管轄や準拠法」について調べたことくらいしかなかったのですが、渉外家事事件には、個別の事件類型に応じて国際裁判管轄や準拠法を調べるだけでは足りない、複雑かつ立体的な構造があることが理解できます。

 たとえば、親権者の指定の裁判については、離婚と一緒に申し立てる場合と、離婚とは別に申立てる場合で、国際裁判管轄が違うこと、あるいは成年後見か未成年後見かを判断するためには、後見の準拠法ではなく、行為能力の問題として準拠法を考えること、扶養を請求できる親と子の関係については、扶養の準拠法とは別に、親子関係の準拠法を調べなければならないこと、外国で出た裁判を日本で執行するために生じる問題のこと、日本で特別養子縁組が認められたとしても、それが外国において効力を持つのかということなどなど…。

 ハーグ条約についても、この本のおかげで基本的な考え方と、今後見るべき文献を知ることができたのは大きいですね。

 う~ん、読み始めと、読み終わりでは、国際私法に関する自分の理解が大きく異なってきたため、もう一度初めから読み返したい気もしますが、さすがにそれはやりすぎかな…。一度通読したおかげで、個別の問題に遭遇した時に、読むべき箇所を判断することくらいは、ある程度できそうですから…。

 この本を一冊読み終わってみると、「法の適用に関する通則法」と、「渉外戸籍」と、「ハーグ条約」あたりについては(正直に欲を言えば、外国人刑事弁護と、入管法、国籍法についても欲しいのですけれど)、書籍を買いたいかなあ…、と思ってしまいますね。

 …まあ、児童相談所の勤務に必須の知識かというと、そこまでは言えませんし、これらの書籍を読むのにどれだけ時間がかかるか、読んだとしてその知識をどれだけ使うかは、分からないのですが…(笑)。